ポケットモンスター 灰色の疾風    作:級長

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 トレーナーカード
 ポケモントレーナー シンジ
 トバリシティ出身のトレーナー。冷静な性格。勝つことへのこだわりは強く、複数のポケモンを捕まえては逃がす『厳選』をしてる場面がよくある。シンオウリーグでサトシと繰り広げた激戦は今も語り草。
 手持ち
 エレキブル
 ドラピオン
 マニューラ
 トリトドン
 ドンカラス
 ドタイトス
 等


5.駆け抜けろ廃人ロード、逆襲のムックル!

 3番道路 保育園

 

 『ハチクマンVSリオルキッドの主演女優が、今を時めく人気女優、カタリンナさんがきm……』

 テレビでニュースが流れていた。しかし女優の名前を聞いた瞬間、ヴァイオラと保育園の子供達が一斉にテレビを消した。リモコンやらテレビ本体の電源やらコンセントにテレビ線など、ありとあらゆる手段だった。

 「……」

 その様子をアッシュは黙って見ていた。何が何だか、わけがわからない。

 「ヴァイオラ、アンテナ外してきたぞ」

 「アンテナすら?」

 ヴァイオラのハッサムが保育園の屋根からアンテナを外してきた。アンテナまで外すとは何事なのだろうか。アッシュはポケモンと話せても、一般的な話題にはついていけないことがある。

 「新聞だね」

 アッシュは部屋の隅にある新聞を手に取る。最近、何とか字を読もうと勉強中である。一面にはカタリンナの記事が載っていた。

 「ハッサム、シザークロス!」

 新聞がハッサムの手でバラバラに切り裂かれた。アッシュの顔から血の気が引く。

 「みんな、このカタリンナって人に恨みがあるの?」

 「チャンネル変えても出て来るんだよなー、この大根役者」

 アッシュが理由を園児に聞いた。園児にすら大根役者と呼ばれるカタリンナとは何者なのか。アッシュは少し気になった。

 「大根役者?」

 「芝居が下手くそな役者だよ。見てみろ」

 ポカブのマインがいつも通り言葉の意味を教える。そして、DVDを起動してアッシュに大根役者のカタリンナを見せる。何かの戦隊物のDVDだ。アッシュがパッケージを手に取ると、『ポケモン戦隊ポケレンジャー』とタイトルが書かれていた。遂にアッシュも子供向け番組のタイトルくらいなら読める様になったのだ。

 「ピンクの役してるのよ。下手でしょー」

 ヴァイオラがカタリンナの役を教えてくれた。一方、アッシュは普通に見入っていた。戦隊物とか好きな辺り、子供らしさが伺えてヴァイオラも安心していた。

 「なんだろ……このピンクで一気に現実に引き戻される感じ。しかも見た目パッとしない」

 しかし、そんなアッシュもピンク役であるカタリンナに呆れていた。他の俳優がバッチリ演じてるのに対し、カタリンナが下手くそ過ぎてこれが芝居であると否応なしに自覚させる。

 「マイン、これは大根役者なんかじゃないよ」

 「え?」

 「大根役者なんて呼び方、大根に失礼だよ! 大根美味しいじゃん!」

 大根の味がわかる10歳、アッシュは大根役者という名称に異議を申し立てた。ヴァイオラは安心しかけた感情を引っ込める。味覚が明らかに大人だ。

 「少食な分味わってるだけよね、きっとそうよ」

 何とか現実逃避するが、この間もアッシュは大根について熱く語る。

 「大根はふろふき大根にブリ大根と色んな料理に使える。煮込まれた汁の味に染まるその姿勢はお話の人に成り切る役者そのもの! 下手な人を大根と呼ぶのは大根に失礼なんだ!」

 「じゃあなんて呼ぼうか……」

 「主張が激しい塩役者とか?」

 なんか色々としょっぱい呼び方に落ち着いた。ヴァイオラは段々、アッシュという人物がわからなくなってきた。

 「おーい、アッシュ。戻ってきたんだってな」

 モノズが玄関から戸を丁寧にノックして入る。ポケモン用の足拭きで足を拭いてから、保育園に上がる。

 「あ、モノズ」

 「ここらで特撮の撮影やってるから子供達に教えようかと。アッシュがいるなら都合いいや」

 早速子供達に囲まれるモノズは撮影の情報をアッシュに教えた。それをアッシュが翻訳して子供達に教える。

 「え? 何の番組?」

 何故かヴァイオラが真っ先に食いついた。アッシュはモノズからさらに情報を聞き出していた。それを同時に翻訳して子供達に伝える。

 「なんだろ……怪人とスーツ着た人が一対一で決闘してるって」

 「間違いない! ペンドライダーね!」

 少ない情報でヴァイオラが番組を特定する。ペンドライダーとは、ペンドラーに乗った改造人間が悪の組織と戦う番組である。彼女もペンドラーが手持ちにいるため、注目していたのだ。

 「とにかく行ってみよう!」

 ヴァイオラが子供達を連れて外に出る。仕方なく、アッシュもついて行くことにした。旅の途中で立ち寄った保育園だったが、こんなことになるとは思わなかった。

 「で、ここが撮影現場と」

 モノズの案内で一行は撮影現場に到着した。地下水脈の穴に近い場所だ。テレビカメラなど、普段見られない機材が多数並ぶ。

 「おい! 女優はまだか! 撮影が始まらんぞ!」

 その中で苛立つ声をアッシュが聞いた。バイク風に飾り付けられたペンドラーがイライラしていた。

 「あ、あれ。シンジじゃない?」

 ヴァイオラがテレビで見覚えのある人物を見つけた。紫色の髪の少年、シンジだ。シンオウリーグでサトシと名勝負を繰り広げた有名なトレーナーだ。

 「ペンドライダーのファンなのかな?」

 「いえ、多分出演者よ。毎回、有名なトレーナーがゲストとして出演することで有名なのよこの番組」

 アッシュとヴァイオラがシンジの立ち位置について話してると、買物袋を手にしたスリーパーが園児に合流した。スリーパーはサンヨウ保育園で仕事することになった。

 「あ、スリーパー」

 「おや、これはアッシュくん。電球が切れてたから買い物してきたんですが、たまたま通りかかりましてね」

 スリーパーは切れた電球を買いに行っていた。そこで偶然、撮影に遭遇したとか。

 「ペンドライダーですか。これ見るためにガラクタのテレビを修理したのはいい思い出です」

 「本当に器用な奴だなお前」

 ポケモンとは思えない器用さを持つスリーパーにマインは感心していた。電球の買い出しを任されるだけはある。

 「でも女優が来ないみたいだよ?」

 「え、女優ですか? 奇妙ですね、ペンドライダーは女優が一切出ないハードボイルドなストーリーが人気のはず……」

 アッシュの言葉にスリーパーが首を傾げる。ペンドラーが苛立ってる理由が女優の遅刻らしいのだが、スリーパー曰く女優は本来、ペンドライダーに出ないらしい。

 「仕方ない、カタリンナの出ないシーンだけ撮影だ!」

 監督の呼びかけで撮影が始まる。ペンドラーを模ったスーツを着た人が、ペンドラーに跨がる。これがペンドライダーだ。

 「撮影に遅れるか。カタリンナ、使えないな」

 シンジも不満を漏らしつつスタンバイする。素人のゲストにすら『使えない』と言われたカタリンナだが、何者なのだろうか。アッシュは嫌な予感がジワジワしていた。

 「ドンカラス、バトルスタンバイ!」

 シンジがドンカラスをボールから出す。ボスの威厳を持つポケモンがペンドラーに立ちはだかる。

 「貴様がポケモンを大事にしない怪人、シンディーか!」

 「ポケモンを大事にしない? それは貴様じゃないのかペンドライダー!」

 演技が始まった。シンジがやたら上手に悪役を演じている。しかもノリノリである。

 「何を? 俺はちゃんと捕まえたポケモンを大事に育ててる! 才能がなければ逃がす貴様とは違う!」

 「戦う才能のないポケモンを無理矢理戦わせることが大事にすることなのか? 向き不向きというのもある。俺は戦いに向いてる奴だけを育てているのだ!」

 アッシュはふと、シンジの台詞で思い当たることがあった。マインとチョロネコのマチルダのことだ。マチルダはマインと比べるとあまり好戦的ではない。マチルダをこのまま、バトルさせていいものなのか。

 「うーむ、主人公が絶対的正義じゃないから面白いよね」

 「そうだとも!」

 番組のファンであるヴァイオラとスリーパーは熱狂している。複雑なことがわからない子供達も応援しているが、ペンドライダー派とシンディー派に別れていた。主人公だけでなく、悪役が魅力的なのも人気の秘密。

 「大事なのはポケモンとの絆だ!」

 「な、なるほど」

 さっきまで悩んでいたアッシュは、ペンドライダーの言葉に頷く。

 「戯れ事を! ドンカラス、ゴッドバード!」

 シンジは両手を広げて、ドンカラスにゴッドバードの指示を出す。ドンカラスは光に包まれながら、ペンドラーに激突する。

 「ペンドラー、ハードローラー!」

 ペンドライダーもペンドラーに指示を出す。しかし、ハードローラーを使う前にゴッドバードが命中した。

 「ぺ、ペンドラー!」

 ペンドラーは倒れた。割とバトルが本気なのも作品の魅力。シンジは幾度ものポケモンリーグを戦ったベテラン、ドンカラスの実力も高い。しかし先程の激突でドンカラスもかなり消耗した。

 「お待たせしました」

 バトルも緊迫感を増してきたところで水がさされる。シンジとペンドライダーの間に一台の車が割って入る。黒いゴテゴテの高級車はブルジョワ財閥の子会社が製造してるものだ。そこから降りてきたパッとしない女性に、アッシュは見覚えがあった。

 「あの人がカタリンナ? 見るとパッとしないけど、あれだけの人の中にいると逆に悪目立ちだから覚えてる!」

 「それをカタリンナ本人に聞こえない様にポケモン語で喋るお前はなかなか陰湿だな」

 マインはポケモン語でアッシュが話した言葉を理解出来た。ドンカラスの鳴き真似だったので、シンジのドンカラスもしみじみと頷いていた。

 「ほら、本人の前で言ったら失礼かなって」

 「そういうのはむしろ、堂々と本人の前で言った方が後腐れ無くていいぞ」

 「じゃあ言ってみるね。カタリンナさんってテレビで見る方が、周りが派手な分パッとしないね」

 アッシュがマインに言われた通り、正直に全部喋ったのでカタリンナは盛大にずっこけた。

 「あーあー図星図星。子供の内は正直な方がいいんだけどね」

 「そ、それは清楚って意味ですか?」

 ヴァイオラはちょっとスカッとした。なかなかそんな本当のこと、子供じゃないと言えない。大人になればお世辞を言わねばならない、せめて子供の時くらい正直でいさせたいのがヴァイオラの思いだ。

 カタリンナは米噛みをヒクヒクさせながらアッシュに聞き直す。チョロネコのマチルダが勝手にボールから出て来て、スリーパーから話の流れを聞いた。

 「なるほどですの。あの様子では自分がパッとしないことを自覚してないから厄介ですわね」

 「そうなの。だからあんな高級車で恥ずかしい登場をしたんだね。遅刻したのに悪びれもせず」

 マチルダによれば、カタリンナは自分がパッとしないのを自覚してないとのこと。自覚がないというのは非常に面倒である。ヴァイオラも自分が毒舌気味であると理解してないからズバズバ切り込んでいる。ちなみにマチルダの言葉はアッシュが人間語に同時翻訳した。

 「いいかですかカタリンナさん! 大人なんですから遅刻はダメだろうなのだ! サブウェイの遅れなら遅延証明書を貰ってくる! 5分前行動厳守です!」

 「ぐっ、パンピーとポケモンの癖に生意気な……!」

 スリーパーの言葉をアッシュが同時翻訳でカタリンナに伝える。アッシュもだんだんと、自分の能力の使い方がわかってきた。

 「さあ、パンピーは放置して撮影を再開しましょう!」

 「遅刻しておいてこの態度か……」

 カタリンナの不遜ぶりにシンジは困惑していた。ペンドラーもドンカラスも、さっきの戦闘で全力を出し切っていた。30分番組という尺の都合上、どうしても短期決戦になってしまう。

 「だがペンドラーが疲れてるんだ」

 「俺は他にポケモンがいるが、ペンドラーに代わりはいないぞ?」

 ペンドライダーとシンジは相談した。この役の代名詞であるペンドラー無しでは撮影続行は困難だ。

 「誰か、ペンドラーを持ってるトレーナーはいないか?」

 「はーい、私持ってまーす」

 シンジは誰かからペンドラーを借りる作戦を思い付く。ちょうど、ヴァイオラがペンドラーを持っていた。

 「よし、撮影続行だ!」

 「頑張ってペンドラー!」

 ヴァイオラがボールからペンドラーを出して撮影続行。カタリンナは人質の役らしい。シンジに捕まっていた。どこにでもいそうなパッとしない外見を最大に活かした配役だ、とアッシュは納得する。一般人の役がお似合いだ。

 「た、助けてー!」

 「カット! 使えないな」

 しかし、カタリンナの第一声で早速シンジがカットする。監督より反応が早い。

 「ぬるいな」

 「何が! 素人は黙ってなさい!」

 カタリンナは抗議した。曲がりなりにもプロである彼女は、ゲストの素人に止められたことに納得できなかった。

 「全然リアリティが足りない! チョイ役だと思って気を抜くな!」

 「ぐぬぬ……」

 遂に素人であるシンジに演技指導されてしまうカタリンナ。プロを越えたゲストの本気ぶりも作品の魅力。

 「これならあそこの子供達を適当に捕まえた方がいい。ドタイトス、お前に任せた」

 シンジはボールからドタイトスを出し、子供を選ばせた。のしのしとドタイトスが歩き、子供達は駆け寄る。

 「全くシンジめ、信頼してくれるのはありがたいけど、こういうのは……ん?」

 ドタイトスの視線に、嫌な予感を察知してコソコソ逃亡するアッシュが映った。

 「そこの君! ぜひ人質をやってみないか!」

 「いやです! なんか嫌な予感がヒシヒシと!」

 逃げるアッシュを、シンジが繰り出したドラピオンが捕まえる。巨体の割に速い。アッシュは光の早さで人質役に抜擢された。

 「い、嫌だ! テレビなんか出たら家出同然で旅に出たからお父さんとお母さんが連れ戻しに来る!」

 「なんか理由が生々しいが、これならいいだろう。よくやった」

 シンジはアッシュの人質ぶりに満足し、ドタイトス達を褒めた。ヴァイオラも理由が理由だけに保育士として顔面蒼白だ。

 「た、大変! アッシュ君は両親に虐待されていたから、連れ戻させるわけには……」

 「な、何ぃ! 虐待を逃れて家出した子供を目立たせるだなんて、貴様は鬼か怪人シンディー!」

 いつの間にか撮影が続行され、ペンドライダーがシンジを睨む。なんか脚本と違う気がしていたが、気にしてはならない。ゲストとペンドライダーのやり取り次第でストーリーが変わるのも作品の魅力。

 「私の出番……」

 「使えない大根女優は黙ってろ。どうだペンドライダー! これならこの回をお蔵入りにするしか、このガキを救う手立てはないだろう!」

 「卑怯だぞシンディー! 世界の根幹を揺るがす気か!」

 そんなこんなで撮影が終わり、カタリンナはマジで何もしないままだった。それにしてもこのシンジ、ノリノリである。

 

 「俺は、実はペンドライダーのファンだったんだ。ペンドライダーの知識なら兄より上だった」

 「お、おう……」

 「それであのノリ……」

 グッタリ倒れるアッシュに、シンジは一方的に話しかける。返答はマインとマチルダがしたのだが、シンジにその声は届いたのだろうか。カタリンナの登場についても思い当たる点がシンジにはあった。

 「どうやら女優はブルジョワ財閥の差し金らしいな。テレビ局に広告料をたくさん出してるから、無理な配役も断れなかったか。財閥配下の芸能プロダクションが大したことないアホをごり押ししたために起きた悲劇だな」

 「終わった……何もかも。ごめんねハハコモリとレントラー」

 「本当にどうすんのよこれ」

 撃沈するアッシュを見て、ヴァイオラがシンジを問い詰めた。アッシュが抱える問題は深刻で、下手をすれば命に関わる。虐待の疑いがある子供を保護せず、死なせてしまった例もある。

 「おいカタリンナ。お前が使えないせいで少年が一人デスマス化だ。責任取れ」

 「なんで私が!」

 シンジは上手い具合に、カタリンナへ責任転嫁した。確かに原因はカタリンナの演技が下手で人質が務まらないことにあった。アッシュの人質ぶりは生々しい背景事情もあり、カタリンナを凌駕してみせた。

 「どうする? この少年の命に関わるならお蔵入りにするしかないぞ、カタリンナのせいで」

 「いや、ヒーローなら使えない大人に屈してはダメだ。あんたはいつまでも俺の憧れでいてくれ。俺に考えがある」

 ペンドライダーの提案を退け、シンジがアッシュに近寄る。何か考えがあると言っていたが、どうせロクなものじゃないに違いない。

 「おい、アッシュとか言ったな。お前の親がお前を連れ戻せなければいいんだな? なら提案がある」

 「え?」

 アッシュは起き上がり、シンジの提案を聞く。最悪の事態をカタリンナのせいで迎えたアッシュは藁にも縋る思いだ。

 「俺がお前の旅に同行する。もしお前の親が連れ戻しにきても、返り討ちにできる」

 「ほ、本当?」

 シンジはアッシュに同行すると言った。彼なりに、その場のテンションに身を任せてアッシュを巻き込んだケジメを付けたいのだろう。

 「そうでもなければ、ペンドライダーは子供を虐待する親に屈したことになる。これは俺の憧れを守るためだ」

 「ツンデレですわね」

 マチルダが呟く。シンジの本心はどちらなのだろうか。

 「で、早速ポケモンと話せるならしてほしいことがある」

 「へ?」

 シンジはヴァイオラからアッシュの事情をおおかた聞いていた。ポケモンと話せることも知っている。シンジは護衛の引き換えとして、アッシュの力を借りたかったのだ。

 「あれを何とかしてくれ」

 「あれは……」

 シンジが空を指差す。空には黒い影が渦巻いている。アッシュが図鑑を出し、情報を探る。

 『ムックル、むくどりポケモン。たくさんの群れで行動する。体は小さいが羽ばたく力は非常に強い』

 「ムックル? なんでこんなところに?」

 ヴァイオラが首を傾げた。3番道路を職場にする彼女はムックルに見覚えがなかった。その時、ライブキャスターの着信音が鳴った。アッシュのリュックからだ。

 「な、何々?」

 「ライブキャスターだ! お前の鞄!」

 アッシュがマインに教えられ、リュックからライブキャスターを取り出した。ライブキャスターはテレビ電話みたいなものである。

 『ハーイ、アッシュ。今大変なことになってない?』

 「アララギ博士? あのムックルは?」

 ライブキャスターで通話してきたのはアララギ博士。ムックルに関わりがあるのだろうか。研究施設にいる。

 「あのムックル。先月から俺の周りを飛び回ってるんだ。ポケモンと話せるなら何とかしてくれ。あと、研究者なら何か知らないか?」

 『あらら、シンジくん。イッシュにいないはずのムックルが群れで大移動してる理由は貴女に関わりがあるのよ』

 「俺だと?」

 シンジには衝撃の真実だった。たった今、アッシュに何とかしてもらおうとしていたムックルの原因が自分にあるとは、想像だにしなかったのだ。

 「どういうことだ!」

 『えっと、そのムックル達はリベレート団が厳選して逃がしたムックルなの。それがたまたま通りかかったあなたから何かの臭いを感じて、追い掛けてきたわけね』

 「まるで意味がわからんぞ!」

 アララギ博士の説明を聞いてもわからないので、アッシュがムックルの声に耳を澄ませる。すると、すぐに原因がわかった。

 「自分達を捨てた人間と同じ臭いがするって」

 「おい、俺は卵から生まれたポケモンを捨てるほど鬼畜じゃないとあいつらに伝えろ。せめて人にやる」

 「ムックルの鳴き声がうるさくて声が通らないよ」

 アッシュの弱点がここに来て判明した。いくらポケモンと話せても、相手が聞く耳を持たなければ意味がない。

 「ムックルの鳴き声は他と比べるとうるさいからな……」

 「卵から生まれたポケモンは初めて見たものを親だと思うから、野生のポケモンを厳選するのとはわけが違うのね」

 シンジとヴァイオラは相談して方法を考えた。相手が話を聞かなければアッシュも説得できない。

 「来るぞ!」

 「ムックルだ!」

 急降下して来たムックル達にスタッフが悲鳴を上げる。シンジはボールを投げ、エレキブルを出した。

 「エレキブル、バトルスタンバイ! ムックルを落とせ!」

 エレキブルが放った10万ボルトによって、複数のムックルが落とされる。

 「話聞く気がないなら倒すまでさ!」

 「仕方ありませんわね!」

 マインとマチルダもムックルに応戦した。ニトロチャージや騙し討ちが炸裂する。しかし、ムックルも数が多い。エレキブルすら疲弊し始めた。

 「参ったな……多勢に無勢だとさすがにエレキブルも持たないか」

 「私の虫ポケモンは相性悪いからね」

 ヴァイオラは虫ポケモンしか持ってないので、飛行タイプのムックルに対抗できるのは鋼タイプ複合のハッサムしかいない。ハッサムもムックルを落とすが、物理技だけだと数的にキツイものがある。

 「マニューラ、バトルスタンバイ! エレキブルを援護しろ!」

 シンジはマニューラを出した。氷タイプなら飛行タイプに強い。スリーパーは子供達を避難させているので戦えない。

 「これじゃキリが無いよ!」

 「エレキブルを回復できれば……だがコイツが退いたらムックルが来る!」

 アッシュの手持ちも乏しいので、マインとマチルダが疲労を感じ始めた時点でボールに戻した。

 「こうなったら…ムックルが話を聞かないなら他のポケモンだ! モノズ、電気タイプのポケモンを呼んで来て!」

 「おうよ!」

 アッシュは撮影のことを教えてくれたモノズに指示を出す。モノズが走り、森へ入る。すると、すぐにたくさんのゼブライカ、パチリス、ライボルトが現れた。

 「みんなお願い! 力を貸して!」

 「あのムックルが騒がしさの原因か……、我々のお昼寝タイムを邪魔した代償は高くつくぞ!」

 ゼブライカが怒り、雷を落とす。パチリスは疲れてるエレキブルに電気を送った。

 「回復はしたが、ムックルは数が多い。あいつら交代で休んでるぞ?」

 「そうです! シッポウシティのゲートには変圧器があります。エレキブルの電気をそれで増幅させれば……」

 シンジが敵の数に辟易としてると、スリーパーが重要なことを思い出す。変圧器を使えば、電気を増幅できる。

 「なら、ゲートまで走るぞ! エレキブル、足が遅いお前は戻れ!」

 シンジとアッシュはゲートまで走った。ムックルも追うが、ゼブライカ達が足止めする。

 「周り込まれたか!」

 「マイン! ニトロチャージ!」

 ムックルが先回りしたので、アッシュはマインをボールから出して蹴散らす。スピードの上がったマインは十分シンジに並走出来る速度になる。

 「マニューラ! 氷のつぶて!」

 シンジのマニューラも氷のつぶてでムックルを倒す。スピードに重きを置いた先制技は威力が低いが、効果抜群ならそうでもない。

 「橋か、もうすぐだな」

 橋に差し掛かり、長い道路も終わりに近付く。自転車が無いと更に長く感じる道路だ。アッシュは体力が尽きかけていた。

 「はあっ、はあっ……もう、ダメ……」

 「ほら、踏ん張んな!」

 マインが励まして、アッシュは何とか橋を渡り切る。ゲートまでは後少し。しかし、遂にアッシュが倒れてしまう。

 「アッシュ!」

 「ボクのことはいいです! 早く行って下さいシンジさん!」

 「同い年のはずなんだがな……」

 一瞬振り向いたシンジだが、アッシュの覚悟を受け取り前進した。同い年のアッシュだが、体格といい体力といい、自分に遠く及んでない。シンジは改めて、アッシュが抱える問題の深刻さに気付く。

 「栄養失調による体力不足か…俺だってポケモンの栄養管理は気を使うのにな」

 サトシから『ポケモンを大事にしていない』といった旨のことを言われた自分すら、ポケモンの栄養管理はしっかり行った。無論、当時は勝利する為の栄養管理に過ぎなかったが、美味しくなければポケモンもしっかり食べないので味にも気を使った。

 彼には腹を痛めて産んだ子供の栄養管理すらロクにできない親がいるとは、到底信じられなかった。

 「使えない親の顔が見てみたいもんだ」

 シンジには長旅で鍛えた体力があり、いともた易くゲートに到達出来た。ゲートの傍には、鉄の柵で覆われた変圧器があった。あれがゲートで使う電気の電圧を調整してるのだ。

 「エレキブル! バトルスタンバイ!」

 シンジは再びエレキブルをボールから出し、柵を破って変圧器を持ち上げさせた。そして、エレキブルは電気を変圧器に流し込む。

 「最大パワーだ!」

 この瞬間もムックルの群れはシンジに向かってくる。エレキブルの電気を最大電圧へ引き上げた変圧器から、電気がほとばしる。

 ムックルの群れが電気で一掃される。ともかく、ムックル達は全滅した。シンジはアッシュを拾って撮影現場に戻った。

 

 「原因はブルジョワ伯爵率いるリベレート団か。カタリンナ、お前の身内のミスだ責任を取れ」

 「いい加減になさい! ギャロップ、あの素人を焼き払っておしまい!」

 カタリンナに責任をなすり付けたシンジは彼女に激怒される。彼は落ち着き放って、ドタイトスに指示を出した。

 「ドタイトス、リーフストーム」

 効果今ひとつなはずのリーフストームを受けたギャロップとカタリンナは吹き飛ばされた。あのギャロップはあまり鍛えられてないに違いない。

 「今回の件は、実力の伴わない女優を無理矢理金で起用させたブルジョワ伯爵が原因だ。前の大会だと金積まれて『わざと負けろ』と言われたし、俺もブルジョワ伯爵には腹が立っている。お前についていけば、いずれブルジョワ伯爵に会えそうだな」

 シンジは独白を続けた。『別にアッシュのことが心配なわけじゃない』と典型的なツンデレをしているのがバレバレだ。

 「うん。行こう、シンジさん」

 「シンジでいい、同い年だ」

 アッシュは新しく旅の仲間にシンジを加え、シッポウシティに向かって進む。アッシュとシンジの旅は、まだまだ続く。




 プレイバック原作 シンジ編

 シンジはアニメ『ポケットモンスター ダイヤモンド&パール』に登場したサトシのライバルキャラ。クールでサトシの根性論を真っ向から否定する、今までに無い斬新なキャラクターであった。
 初登場はムックルを何匹も捕まえ、能力値を確認して逃がすというゲームの『厳選』に似た作業をしているという衝撃的なもの。そのため、動画サイトでこのようなシーンが流れた場合は個体値や性格を示したコメントが流れる。
 兄を引退に追い込んだフロンティアブレーン、ジンダイ戦での敗北、サトシとのバトルを通じて精神的に成長。サトシも他シリーズよりシンジに吊られてか手持ちに進化ポケモンが増えた。御三家が2匹とも最後まで進化したのは快挙。
 果たして彼はジンダイに再挑戦したのか、アニメへの再登場が期待されるキャラである。
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