ポケットモンスター 灰色の疾風    作:級長

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 なんだかんだもうすぐ連載一年ですね。もう少し続くんじゃよ。


44.イッシュの業火

 ライモンシティ ギアステーション

 

 アッシュとブルジョワ伯爵はカワナタウンに向かうこととなった。キャサリンに捕まったジャスミン達を助けるため、伯爵の家へ向かうことになった。

 「カワナタウンか。サブウェイでしか行けないんだよね」

 「うむ、ならここから行くしかあるまい」

 サブウェイに乗ってカワナに向かうアッシュとブルジョワ伯爵。終点なのでしばらく地下鉄に揺られる必要がある。

 アッシュは地下鉄に乗ってハハコモリとレントラーを探しに行ったことを思い出していた。自分が地下鉄に乗る時は大体喜ばしくない理由だ、とアッシュは思っていた。

 「あれ?」

 「止まった?」

 その時、地下鉄が止まった。それなりに乗客がいたため、少し騒ぎになる。そして地下鉄のモニターにキャサリンが映し出された。

 『イッシュの皆さん、私達はブルジョワ伯爵率いるリベレート団です』

 「人の名前を勝手に!」

 『我々はイッシュ政府に対して大規模なクーデターを起こすことを決定しました。今日から、私達がイッシュの政権を担当します』

 「くーでたー? なにそれ?」

 アッシュはクーデターという言葉を知らなかった。そこで出て来たのはいつもの解説役、コイルのラファールだ。

 「ビビビ、政権を軍事的に、要は力で奪うことだナ。イッシュ政府はホワイトハウスを中心とし、国民の投票で一番偉い人、大統領を決める大統領制ダ」

 「へー」

 解説の最中、サブウェイが振動で揺れた。テレビには空爆を受けるライモンシティの様子が映されている。

 『政府に予告します。この攻撃は警告です。政権を私達に譲らないのなら、本格的な攻撃を開始します』

 「え? くーでたーならだいとーりょーって人を倒せばいいんじゃないの?」

 「ビビ、政府そのものを屈服させる必要があるんダ。大統領だけ暗殺しても、また選挙で変わりが生まれる」

 「難しいなぁ」

 アッシュにはまだ政治の話は難しい。ただ、ライモンが攻撃されたためサブウェイが機能を停止したのは確かだ。電力が供給されず、サブウェイが動けない。

 「仕方ない。歩いて行こう。方向さえ合ってれば迷わないよ」

 「そうだな」

 アッシュとブルジョワ伯爵はサブウェイを降りて歩くことにした。ただ、前後から何かキャタピラの様なものが動く音が聞こえた。

 「なにあれ? ポケモンのコスプレした人?」

 「バーストしたんだ! 禁断の力だ!」

 タンクに乗って移動していたのはドサイドンの様な鎧を着た人間だった。伯爵は即座にバーストのことが頭を過ぎる。キャサリンの姿もただのコスプレではなく、バーストだったのだと気付いた。

 「バースト、ポケモンと合体する禁断の力にお前は手を付けたのか?」

 「バースト? 禁断なの?」

 「何故なら、バーストに使うブレイブハートという宝石に封じられたポケモンは二度と解放されないからな」

 アッシュはバーストを知らないみたいなので伯爵が教える。ポケモンの自由を奪う代わりに人間が力を得る、ポケモンとの共存から掛け離れた力だったのだ。

 「道を塞がれた!」

 「ビビ、突破するまでダ! 水タイプのシャルルなら有利!」

 「そうか、シャルル! アクアテール!」

 アッシュはマリルのシャルルをボールから出し、アクアテールで攻撃させた。

 「ぐおおッ!」

 簡単にドサイドン男は倒れた。ポケモンほど痛みに耐性が無いのだろう。所詮は人間だ。

 「し、死にたくない! ほげー!」

 「うわぁ! 爆発した?」

 ドサイドン男が爆発し、サブウェイのトンネルが歩いて越えられない程度に崩れた。よりによってカワナタウンの方向だ。

 「あ、ドサイドンが倒れてる」

 「そうか、人工のブレイブハートか。それならブレイブハートを壊せばポケモンを解放出来る!」

 ドサイドンとバーストしていた男が倒れていた。ただ、後ろにも敵はいるのだ。

 「けたぐり!」

 「ふげらッ!」

 ただ、後ろの敵は背後から攻撃されて倒された。後ろのドサイドン男を倒したのはヤンチャムのチャムとギタリストのティナだった。

 「先に行け! 止まったサブウェイの乗客は私達が助ける!」

 「はい! でもトンネルが……」

 「出番だよ、トーゴ!」

 ティナは先に行けと言うが、トンネルが崩れて進めないのだ。だが、ティナはここまで徒歩で来たわけではない。そうなら、ここまで早く到着は出来ない。

 ゴーゴートのトーゴに乗って来たのだ。

 「行こう、トーゴ!」

 「おうよ! おら、おデブ伯爵も乗りな!」

 「明日からダイエットするか」

 アッシュとブルジョワ伯爵はトーゴに乗り、地下鉄のトンネルを走り抜ける。崩れたトンネルもトーゴなら踏破出来る。

 

 ライモンシティ

 

 「一匹足りとも逃がすな!」

 ライモンシティではリベレート団への迎撃が始まっていた。大統領がクーデターへの徹底抗戦を宣言、自らライモンに出陣したのだ。

 「大統領からは離れろよ! 巻き込まれるぞ!」

 イッシュ軍は協力するトレーナー達に告げる。大統領はハチャメチャなので近づくと危ない。

 「助けてくれ、被弾した! 被弾したぁ!」

 「遅ぇよ鳥人間コンテスト!」

 鳥ポケモンにバーストしたリベレート団達は爆弾投下による一方的な虐殺を楽しんでいたが、反撃を喰らって焦っていた。エルトのバシャーモ、イチローがジャンプして敵を蹴り落とす。

 「市民の避難を優先する! エンペルト、ルカリオ、道を開け!」

 アリスは服装こそ騎士ではないが、騎士としての責務を忘れない。ハツネとヒュウは市民を護衛していた。

 「殲滅はもっと強い人に任せればいいのよね」

 「そうだな。俺達は避難を手伝おう」

 ヴァイオラのハッサムがポケモロイドを貫き、ロゼッタのドサイドンが対空砲火で敵を落とす。敵はバーストした人間だけでなく、対ポケモン用兵器のポケモロイドまであった。

 ジムリーダー総動員で戦うも、数が多いとそれなりに苦しい。ライモンを守るだけではなく、他の町にも警戒しなければならないのだから人手が足りない。

 「ジムリーダーも、ポケモントレーナーも、俺の邪魔をする奴は皆死ねばいい!」

 次々にリベレート団員が押し寄せ、圧倒的物量で押し切ろうとする。増援部隊を指揮するのはパラセクトにバーストした男だった。

 「ぐわあああ! な、何が……」

 「いやちょっとお手伝いをね」

 そんな中、ポケモン犯罪防止委員会も参戦。リーダーのゲイリーがブーバーンを伴って馳せ参じた。ブーバーンのオーバーヒートがパラセクトにバーストしたリベレート団に直撃した。

 「ルカ! メガシンカ!」

 「行くでござるよ、エッジ!」

 イヴがルカリオのルカをメガシンカさせ、ヒサメはマニューラのエッジと先陣を切る。イッシュ本土の戦いはリベレート団が不利な状況となっていた。

 

 カワナタウン ブルジョワ邸

 

 トーゴに乗ったアッシュとブルジョワ伯爵はカワナタウンに到着。そのまま郊外にあるブルジョワ邸に向かった。出ていたシャルルとラファールはボールに戻らず、邪魔する敵に備えた。

 「広いなぁ。これがおうちなの?」

 「一人で住むには些か大きいかな、これは」

 門をはっぱカッターで破壊し、トーゴは庭を駆けて豪邸の前に到着する。庭は植え込みや花があり、綺麗なものだ。基本的に人を雇って管理しているが、実はたまにセイレンも手入れしている。

 「出てこいキャサリン! 私はここだ!」

 「ジャスミンさんを返してもらうよ!」

 「ようやく来たわね」

 豪邸の入口前には、ムウマージにバーストしたキャサリンと拘束されたジャスミンがいた。

 「アッシュ……来ないで、これは……罠、くっ……う」

 「罠?」

 ジャスミンは息も絶え絶えになりながら、アッシュに危険を伝える。周りには植え込みがあり、そこに隠れていた敵が飛び出したのだ。どれもバーストしたリベレート団員だ。

 「マイン、マチルダ、ソミュア、ネーベル、サンド!」

 アッシュは全てのポケモンを出して反撃する。エンブオーのマイン、レパルダスのマチルダ、ヨーテリーのソミュア、バルジーナのネーベル、そしてサンドを繰り出し、取り囲んだリベレート団を瞬く間に全滅させる。

 「少しはやるようね。でも、ポケモンを6匹以上持ち歩くのは反則じゃない?」

 「人質を取るお前が言うな!」

 「あらあら、では私は屋敷に帰ろうかしらね。追ってらっしゃい」

 キャサリンはジャスミンを連れて、ブルジョワ邸の中に入る。中は恐らく罠だらけだ。だが、入らないわけにはいかない。

 「気をつけてるんだね。中はあの阿婆擦れの仕組んだ罠があるはず」

 「へっ、なら粉砕するまでよ!」

 ネーベルが警戒するのだが、マインは突撃思考の持ち主。どの道、ジャスミンを助けたいならキャサリンを追うしかない。

 「ビビビ、警戒は私に任せるのダ!」

 「旅で鍛えた気配察知スキル、見せてやろうじゃん!」

 「私の鼻も役に立つよ!」

 罠や待ち伏せへの警戒はラファール、シャルル、ソミュアが行う。これなら安心と、アッシュも歩みを進める。

 ブルジョワ邸に入ると、すぐエントランスホールがある。そこには既にリベレート団員がバーストして待ち構えていた。

 「野郎共! 積年の恨み、晴らすは今!」

 「あの人……サンヨウの!」

 真っ先に飛び出して来たのはサンヨウで戦った鉱山の社長。サンヨウを穴だらけにして地盤沈下を引き起こした。ハガネールにバーストしている。ここにいるのは鉱山の社員なのだろうか。

 「ブルジョワ伯爵、死ねぇ!」

 「マイン、アームハンマー!」

 伯爵に恨みのある社長は伯爵に攻撃する。だが、割り込んだマインのアームハンマーでぶん殴られ、他の社員共々吹き飛んだ。

 「ぐげぼッ! か、神はいないのかぁッ!」

 爆発に巻き込まれ、他の社員まで倒された。人工ブレイブハートはダメージが嵩むと爆発するらしい。

 この場にいる敵はあらかた倒し、アッシュ達は次の場所に向かう。次は晩餐会が開けそうな大きな食堂だ。

 「このカイリューの力さえあれば、貴様など!」

 「今度は3番道路の!」

 そこにはカイリューにバーストしたリベレート団員がいた。アッシュが旅立ったばかりの頃、3番道路で倒した相手だ。

 「させるものか!」

 だが、そいつは横から飛び出したポケモンに蹴り飛ばされて敗北した。

 「スリーパー!」

 「お久しぶり。ここは我々に任せてほしい」

 「我々?」

 以前、サンヨウで出会ったスリーパーが戦いに割り込んだのだ。さらに、食堂には次々とポケモン達が入ってきた。

 「ガブリアス、アブソルにケンホロウか……」

 「ソウリュウにいた頃の友達なんです」

 ブルジョワ伯爵はそうそうたるメンバーに驚きを隠せない。他にはハクリューやジヘッド、ガバイトなどがいた。

 「ゴーゴートから連絡を受けてきたんだ。3番道路の連中もいるぞ」

 「ストラート、来てくれたんだ!」

 「黒いガブリアスだと? デルタ種だとでもいうのか?」

 その一団を率いる黒いガブリアスが一番伯爵を驚愕させた。色違いとも色が異なる貴重な個体だ。

 「当然だ、前のトレーナーがろくでなしってのもあるが、お前みたいな最高のダチのピンチは見逃せないな。ケンホロウがトーゴと知り合って、お前の様子を見守ってたんだ」

 「そうだったんだ」

 「さあ行け! コスプレ野郎は俺達が潰す!」

 ストラートが追い掛けてきたリベレート団員にげきりんしながら突撃する。久々の再会ということもあり、アブソルもアッシュに告げる。

 「ポケモントレーナーになったのか。お前にならゲットされるのも悪くない。まずはこの戦いを切り抜けよう」

 「うん。頑張って!」

 アッシュはポケモン達と別れ、キャサリンを追跡する。3番道路の捨てられポケモン達は進化しており、彼らもアッシュについていく。

 「先へは行かせなげぶほッ!」

 道中のリベレート団員は3番道路のポケモン達が倒していたため、アッシュの手持ちは体力を消費せずに済んだ。

 アッシュと伯爵はキャサリンを追い、巨大なガレージまで辿り着いた。そこには、ガレージに相応しく大きな列車があった。巨大さでいえば、ライモンのビックコートを4つ繋げた様なものだ。

 「そこまでだ!」

 「キャサリン! ジャスミンを返してもらうぞ!」

 「チッ! あの団員を全て倒したのか?」

 キャサリンは団員全滅が完全に計算外だったらしく、慌てた。だが、すぐにジャスミンを連れて列車に乗ろうとする。

 「ライモンには今、たくさんのトレーナーがいるのよね? こいつをぶつけてやる! ジャスミンを殺されたくなかったらそこで見てなさい!」

 「な、卑怯な!」

 キャサリンはジャスミンを人質に、この列車に乗り込もうとする。こんなものをぶつけられたらライモンは大惨事になる。市民が避難しているのはライモンの郊外だが、そこも安全とはいえなくなるだろう。ブルジョワ伯爵は歯ぎしりする。

 「さあ、どうする?」

 「ジャスミンを人質にとっているといつから錯覚していた?」

 「え?」

 キャサリンが余裕の表情を浮かべていると、なんとジャスミンがいない。アッシュ達の隣にはトロピウスに乗ったセイレンとメイディ、そしてウインディに助けられたジャスミンがいた。

 セイレン達はキャサリンがいない間にトロピウスが救出したというわけだ。

 「いつの間に?」

 『ウインディ、でんせつポケモン。1万キロの距離を一昼夜で走るといわれている快速のポケモン。体内で燃え盛る炎がパワーとなる』

 キャサリンが動揺する中、アッシュは図鑑でウインディの項目を見た。たしかに、ウインディのスピードならしんそくと合わせて気付かれずにジャスミンを救出可能だ。

 「だったら、こいつをライモンに……」

 「ま、待て!」

 キャサリンは人質を失い、自棄になって列車を起動させる。スピードを上げて発車する列車の先頭車両に、キャサリンは乗り込んだ。ムウマージの力で壁をすり抜けられるため、入口のない車両に乗り込める。

 「これはポケモロイド運搬用車両、『メガトレイン』だ! 最後尾に入口があるぞ! 先頭車両の動力部を破壊すれば止められる!」

 「わかった! みんな戻って、ネーベル!」

 アッシュは出していらラファール、ソミュア、シャルルを戻し、ネーベルをボールから出す。発車した列車の最後尾の扉から内部に入った。

 「中には敵がいるかもしれない。気をつけるんだよ」

 「うん」

 ネーベルの忠告を聞きつつ、アッシュは巨大な列車の中を進む。車両が大き過ぎて、トーゴに乗らないと移動すら困難だ。

 「掛かったな!」

 「やっちまえ!」

 内部にはバーストしていないリベレート団員と大量のポケモロイドがあった。エルトやイヴは軽くあしらっていたが、まだアッシュにとっては強敵の部類。まともに戦う義理はない。

 「数が多過ぎる!」

 「回避するんだよ!」

 「おうよ!」

 ネーベルがエアスラッシュでポケモロイドを転倒させて時間を稼ぐ。桁外れの積載量、これがライモンに到着したら大惨事になる。

 アッシュ達は全速力で最初の車両を切り抜けた。ネーベルは壁にあったスイッチを操作して連結部を切り離し、抜けた車両を置いていく。

 「ビビビ、これなら動力部到着が遅れてライモンに着いてしまっても被害は減らせるナ」

 「残ったポケモロイドはどうするの?」

 「通過してるのが無人地帯だからナ。ライモンに着かれるよりはマシダ。それに、追い掛けられるのも厄介ダ」

 ラファールが出て来て、解説した。ネーベルに壁のスイッチを教えたのも彼だろう。ポケモロイドを倒さずに通過していたアッシュ達は、動力部までいく頃に大量のポケモロイドに追われることとなる。入口が無い先頭車両からの帰りも考えると、これは正しい選択だ。

 「ポケモロイドが飛んで来るよ!」

 「エ?」

 だが、ラファールにも誤算があった。飛行出来るポケモロイドもいたのだ。ラファールが呆然としていると、そのポケモロイドは何者かに撃墜されていた。

 「あれは……あのオノノクスは、チャンピオンアイリス!」

 ネーベルは撃墜したトレーナーとポケモンを知っていた。アイリスとオノノクスが残された車両を横転させ、車両ごとポケモロイドを撃破した。出鱈目な強さに驚きつつ、アッシュはひたすら動力部を目指すことに。

 トーゴの全力疾走で、次の車両へ向かう。ラファールの電磁波で駄目に出来るポケモロイドも多く、少し楽になった。

 「この列車、砲台もついてありんす。あちきら、砲台が機能する前に乗れたのは幸運だったかもねぇ」

 「この衝撃は?」

 ネーベルが冷や汗をかいていると、衝撃が車両を襲う。なんと、相手が自ら車両を切り離したのだ。

 「マズイ! 動力部に逃げられるぞ!」

 「行っけぇ!」

 切り離された部分から次の車両へ飛び乗る。これで半分。アッシュ達は最後の貨物車両も抜け、切り離して動力部に到達した。動力部には部屋を埋め尽くすほどの大型エンジンがあった。

 「キャサリン! ここまでだ!」

 「しつこいガキだこと……。でも、私に勝てるかしら?」

 追い詰められたはずのキャサリンが不敵な笑みを浮かべる。すると、キャサリンが突然分身した。分身は全部で6体。

 「さあ、これで終わりよ」

 「終わるのはそっちだよ! みんな出てこい!」

 アッシュは分身に合わせて、残る全てのポケモンを繰り出した。先陣を切ったのはソミュアだった。

 「そんな弱いポケモンに私が負けるわけない!」

 進化していないソミュアを侮り、キャサリンは一斉にシャドーボールを放つ。だが、ノーマルタイプのヨーテリーであるソミュアにそれは間違った選択だった。

 「効かない?」

 「ノーマルタイプにゴーストタイプは効かないんだ!」

 「馬鹿な、バーストならそんな相性くらい!」

 キャサリンはバーストの力を過信していた。さしものバーストだって相性は覆せない。

 「だが、ノーマルタイプもゴーストタイプにダメージは……」

 「ソミュア、かみつくだ!」

 だが、ノーマルタイプもゴーストタイプにダメージを与えられないとすっかり安心していたキャサリンは不意を付かれた。ノーマルタイプが使えるのは何も、ノーマルタイプの技だけではない。

 「うぐっ……」

 分身が一つ消え、他の分身の動きも鈍る。これは自身を分離させているだけのものなので、ようするに全部本体なのだ。

 「ネーベル!」

 「あいよ!」

 反撃を試みるキャサリンに、ネーベルが飛び掛かる。いきなり目の前に現れたネーベルを反射的に叩くキャサリンだったが、それは誤りだった。羽が散らばり、ネーベルのスピードが上昇する。とくせい『くだけるよろい』だ。

 「あくのはどう!」

 「うあああっ!」

 ネーベルがあくのはどうで分身を一つ倒す。効果抜群な分、全身に走る痛みも激しかった。ゴーストタイプは悪タイプに弱いのだ。

 「くっ……よくも!」

 キャサリンは体勢を立て直そうとする。この分身の弱点、『全部本体である』を真っ先に見抜かれたのが痛手であった。

 「マチルダ、ねこだまし!」

 「小癪な!」

 そこにマチルダがねこだましを使い、怯ませた。その隙にソミュアが次々と分身に噛み付く。咄嗟に出る攻撃はどれもゴーストタイプ。ソミュアにダメージを与えられない。

 「がぁっ……この、んぐ!」

 分身はダメージの蓄積で全て消えた。この手の能力は分身して相手と直接戦うのではなく、自分は本拠地にいて遠くにいる相手を分身で攻撃、反撃を受けたら分身を消して撤退という運用が最適な気もした。

 キャサリンはムウマージのバーストを使い熟せていない。

 「こうなったら、お前を眠らせて夢で倒す! さいみんじゅつ!」

 「ボクには効かない」

 キャサリンが今更正しい能力の使い方に気付いたが、アッシュにはさいみんじゅつは元よりエスパー技が効かない。紫の瞳が強く光る以外何の影響も無かったりする。

 「な、なんで?」

 「これで最後だ。ボクの旅も、一旦区切りだ」

 アッシュはエンブオーのマインを繰り出し、強くキャサリンを睨んだ。思えば、旅の始まりこそリベレート団に原因があった。

 両親がプラズマ団を信奉し、それをサポートするためのリベレート団に入った。そして、アッシュが親代わりにしてきたハハコモリとレントラーは逃がされてしまう。

 「ボクの目を治してくれたイベルタルが、ボクに残した力。今ならハッキリと感じられる」

 「な、なんだ? 何をする?」

 アッシュの周りに闇が集まり、渦巻いた。キャサリンは怯えつつも、その様子を見ていた。

 「受け取って! マイン!」

 「よし!」

 アッシュがその闇をマインに飛ばすと、マインの両腕に闇が集まった。

 「ポケモンの方を眠らせれば!」

 キャサリンはアッシュが駄目ならマインを眠らせる作戦に出る。だが、さいみんじゅつはマインにも効かなくなっていた。

 「そんな……悪タイプでもないのに。いやそもそも悪タイプだからってさいみんじゅつが効かなくなるはずが……」

 キャサリンは動揺していたが、最後の切り札を使う時と決意を固める。これはなるべくとっておきたかった。アッシュの様な新米トレーナーに消費する予定などなかったのだ。

 「ブレイブハートよ! 私に力を!」

 キャサリンが取り出したのは複数のブレイブハート。そこにはメガゲンガー、ヨノワール、メガジュペッタ、シャンデラと彼女が思い付く限り強力なゴーストポケモンが封印されていた。

 「バースト!」

 キャサリンは全てのブレイブハートでバーストし、姿を変える。なんか封印したポケモンをまぜこぜにしたデザインであったが、パワーが増したことだけはわかった。

 「マイン! ぶちかませ!」

 「よっしゃあ!」

 アッシュの指示でキャサリンに殴りかかるマインだったが、壁らしきものに阻まれて失敗に終わる。

 「なんだ?」

 「壁を張らせてもらったよ。まともに攻撃を受ける気は無いからね」

 キャサリンはバリアを張って攻撃を防いだ。マインが連続攻撃を仕掛けるも、なかなか壊れない。

 「だが私は攻撃出来る!」

 「チッ、インチキめ!」

 キャサリンはバリアを貫通して攻撃が可能だった。一方、アッシュは息を切らしている。闇の力は体力を消耗するのだった。

 「相手の攻撃を打ち返せ!」

 「おう!」

 アッシュがもしやと思って相手の攻撃を打ち返すも、バリアで防がれる。特定のエネルギーを貫通するというより、内部からなら貫通するということか。

 このまま時間を稼がれるとアッシュの体力が持たない。万事休すか。相手は倒し切れなくても、時間さえ稼げば勝てる。ライモンに列車をぶつけるという目標を達成出来る。

 「あなをほるだべ!」

 「何?」

 その時突然、列車の床からサンドが飛び出して攻撃した。バリアの中にある床からだ。バーストの際に毒と炎タイプが混じったキャサリンは、思わぬ大ダメージを受けてしまう。

 「きゃああぁぁっ! ネズミめ!」

 「あうち!」

 サンドはバリアの中から追い出された。列車にはもう一つ穴が空いており、そこからあなをほるでバリア内部に侵入したようだ。

 「こ、小癪なネズミに……」

 4倍弱点による攻撃を受けたキャサリンは痛みに膝を付く。少しバリアが弱まったのを見たアッシュの脳裏に、ある手段が過ぎった。

 「マイン、下がって! ダークウイング!」

 「なんだそりゃ?」

 アッシュの手の平からビームみたいなものが出てバリアにぶつかる。すると、中にいるキャサリンのバーストが徐々に解けていった。

 「ば、バーストが……」

 ついに、キャサリンは元のムウマージバーストの姿に戻る。ブレイブハートが消滅し、中にいたポケモン達も解放された。

 「潰れろ!」

 「終わりだ!」

 「「ヒート、スタンプ!」」

 マインとアッシュの声が重なり、最後の技を繰り出す。ヒートスタンプでバリアが砕け、その勢いのままキャサリンに直撃する。

 「ぐがぁぁっ!」

 吹き飛ばされたキャサリンはエンジンに激突した。エンジンは火を噴き、動きを止める。キャサリンのブレイブハートは壊れ、ムウマージも解放された。

 『緊急ブレーキ作動。停止します』

 「爆発するかも。逃げよう」

 アッシュはポケモン達をボールに戻し、解放したゴーストポケモン達も連れて列車から脱出した。

 

 脱出と同時に列車が小規模な爆発を起こし、機能を停止する。爆発も列車が壊れる程度で、被害も小さかった。

 「アッシュ!」

 「ここにいたの?」

 列車から出て来たアッシュに、ヒュウとハツネが駆け寄る。力を使ったはずなのだが、アッシュに疲労は無かった。

 「あれ? 疲れない?」

 「なんだよこれ」

 アッシュはいつの間にか、ライモンまで移動していたのだ。列車はライモンに到着しこそすれ、キャサリンの目的は頓挫した。

 「ふ、ふふ。まさか私が負けるなんてね……」

 「キャサリン!」

 キャサリンの声が聞こえたので、アッシュが身構える。バーストは解除され、彼女はボロ布を纏うだけになった。

 「アッシュ……シラコから話を聞いた時はまさかこうなるなんて、夢にも思わなかった」

 キャサリンはその辺にあったボロ布を体に巻き付け、フラフラと立ち上がる。髪もボサボサで、ダメージの激しさを物語る。

 「私は昔から嘘をつけば得するって環境で育ったけど、もう限界だったの。自分にも、他人にも嘘をつき、自分がなんだったかもわからなくなる。こんな世界なら、私が頂点に立って支配してやるってね……」

 「どういう意味?」

 アッシュにはキャサリンの言ってる意味が解らなかった。丸っきりだ。そこへ、フードを被ったエルトが歩いてきた。キャサリンは構わず喋り続ける。

 「きっかけはヤマブキのデパート、そこでの火災。私は助けてくれた男の子を犯人に仕立て上げることで多くの報酬を得た……その時から私の世界は変わった。嘘をつけばそれだけ得する世界。その男の子の顔は、覚えてるけどね」

 「ほう、こんな顔だったかな?」

 エルトはそう言うと、キャサリンに向けてフードを脱いでみせた。それを見たキャサリンは息を止めた。

 成長こそしており、左半分に火傷、右目の周りに炎の刺青がある。だが、その顔はかつて自分を火災現場から救ってくれた男の子のものだ。

 「よう、久しぶりぃ。元気だったかぁ?」

 「あ……あぁ……」

 「安心しろ、もうお前を怨んでなんかいない。ただな、俺は過去を清算しに来ただけなんだ」

 「う……あ」

 キャサリンは既に声が出ない状態だった。エルトは余裕の表情で彼女を見下した。

 「アッシュ! げ、あん時のコーディネーター! と、キャサリン?」

 「え? お母さん?」

 エルトとキャサリンがあれこれやっていると、シラコがスクーターに乗ってやって来た。ヒュウとハツネが、アッシュとシラコの間に割って入る。

 「あんたらが私をどう思ってるかはどうでもいい。それより早く逃げなさい! 私がリベレート団の幹部だから知ってるんだけど、バーストでヤバいこと思い出してさ。とにかく逃げるんだよ! ハリー! ハリーアップ!」

 「どうしたの?」

 慌てるシラコに、アッシュが戸惑う。なんか急に人が変わったのだ。よく見ると、スクーターのサイドカーにはクロスケが縛りつけられていた。

 「し、シラコ、早くここを出よう! お前も人工ブレイブハートがどうして量産出来るか知ってるはずだ!」

 「ハイハイ、逃げますよー! アッシュを逃がしたらね」

 必死に訴えるクロスケ。その反応を見たキャサリンが落ち着きを取り戻す。

 「ふふ、なんだ。切り札ならあるじゃない。あなた達がライモンで破壊したブレイブハートはいくつかしらね?」

 キャサリンはブレイブハートを掲げ、光を放った。これは壊れていない。つまり、キャサリンが持っているのは新しいものだ。すると、辺りに散らばったブレイブハートの破片が次々と成長していく。

 「な、なんだ? 何が起きてる?」

 「人工ブレイブハートは本物のブレイブハートからの強い力で培養されるんだ!」

 「じゃあ、あれは本物かよ!」

 エルトはキャサリンの手にあるブレイブハートが人工ではなく本物ということに一番驚いた。小さなカケラが巨大な塊に成長し、町を覆い尽くす。

 「ふふふ……さあ、終わりよ」

 キャサリンの体にも人工ブレイブハートが発生し、遂にはブレイブハートに覆われた。ブレイブハートの塊は、ギアステーションを中心に広がっていた。

 「これがブレイブハートの真の力。さあ、私が世界を統べる時だ!」

 キャサリンを覆ったブレイブハートが砕け散り、中から姿の変わったキャサリンが現れた。紫のドレスはムウマージバーストの時に似ているが、異様な力の流れを感じる。溢れんばかりの力は、風となってアッシュ達に吹き付けた。

 「追って来なさい。私が直々に倒してあげる」

 風に顔を覆ったアッシュ達が再びキャサリンを見ると、彼女の姿は変化していた。青いボディスーツを身に纏い、背中から翼を生やしていた。手足は鳥ポケモンの様に鋭くなっている。

 「特定のポケモンではなく、全てのタイプへバースト出来るのか」

 「さようなら、エルト。これでおしまいね」

 町を覆うブレイブハートは止まらない。イッシュを未曾有の危機が襲っていた。




 次回予告
 イッシュを危機に陥れたキャサリンの行為は止まらない。このままでは世界はブレイブハートに覆い尽くされてしまう。
 アッシュはキャサリンを倒すため、ギアステーションへ向かった。
 次回、『終焉の戦い、アッシュの声!』。
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