ポケットモンスター 灰色の疾風    作:級長

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 イッシュラリー予選についてのお知らせ
 先日の事件により壊滅的被害を受けたライモンシティで行われる試練の内、以下のものは施設破壊に伴い一時的に中止します。
 サブウェイエンブレム、ベースボールエンブレム、サッカーエンブレム、テニスエンブレム、バスケットエンブレム、ミュージカルエンブレム。
 ただし、ボルトエンブレムの試練は現在も行われます。


46.輝け、スターへの階段!

 エリートスクール 予備学科中等部

 

 「結婚を前提にお付き合いして下さい!」

 「ごめんなさい」

 シルフィはその日、ある男子生徒に体育館裏に呼び出された。エリートスクールの予備学科は校舎などが本学科より小さく、ホントにエリートスクールのおこぼれにあずかる様な状態なのだ。

 「ガーン!」

 「撃沈だ!」

 「轟沈だ!」

 物陰で見物していた男子達が騒ぎ始める。シルフィは母親から『告白された時はごめんなさいと言うのが礼儀』と教えられていたため、奇妙に思って首を傾げる。

 「やっぱりね」

 「あんた達じゃ釣り合わないよ」

 物陰から、今度は女子達が現れる。予備学科は女子全員と一部の男子が大変良好な関係である。ただ、男子の中には本学科への編入を狙う者もおり、そうした生徒は彼らを見下している。

 エリートスクール予備学科の男子は二つのタイプに分けられる。親が箔を付ける為に通わせるのは共通として、自分が本当は本学科に入れると自惚れる者と、親の都合に振り回されてやれやれと思う者だ。

 シルフィに告白したり、それを覗いたりするメンバーは後者である。前者のメンバーは将来的に本学科に入るシルフィに取り入ろうと考えているが、この女子と男子はそれを認めるはずもない。

 シルフィのエリートスクール生活は、未だ穏やかに過ぎていくのみである。

 

 ライモンシティ

 

 「戻って来ました」

 「早いな」

 アッシュは地下鉄でライモンシティに戻ってきた。ここに用事があり、ヒュウと再び合流したのだ。

 「最後のエンブレムを集めないとね」

 「そうだな、ライモンのボルトエンブレムは町がめちゃくちゃになっても試練を受け付けてくれるんだとよ」

 アッシュとヒュウはライモンの遊園地に向かった。町が復興で忙しい中、カミツレはイッシュラリーの予選であるエンブレムの試練を受け付けてくれるのだという。遊園地は被害が比較的小さいのだ。

 そんなありがたい話を聞き、アッシュは最後のエンブレムを手に入れるためにライモンへ来たわけだ。探偵業をする前に、イッシュラリーの予選を突破しておきたいからだ。

 「ここだね。ファッションショーの会場みたいだけど」

 「そうだな。ファッションショーかぁ……俺はパスかな」

 「初めはボクが受けるから、見てればいいんじゃない?」

 ファッションショーと聞いて苦手意識を出すヒュウだが、まずアッシュが受けて偵察させる作戦を提案する。

 「そうだな、よし」

 ヒュウとアッシュはファッションショーの会場に入る。受付でアッシュが名前を書き、エンブレムの試練に参加する。ヒュウは観客席で見ることにした。

 「まず、フィッティングルームで服を選んでください」

 アッシュは受付の人に、服がたくさん用意された楽屋まで通された。この試練はポケモンとのファッションショー。ポケモンと服のチョイスが重要だ。

 「ファッションショーかぁ、どうしよう?」

 渡された紙にはだいたいのルールが書かれていた。ここでコーディネートを決め、ポケモンとオシャレしてファッションショーを行うのだ。

 「ファッションならワタクシの出番ですわね!」

 「オラも出たいだよ!」

 レパルダスのマチルダが出て来て、参加を表明した。サンドもボールから出てやる気十分だ。

 「じゃあ、くじ引きで」

 アッシュはくじ引きを用意して、2匹に引かせる。割り箸の先端が赤く塗られているので、それが当たりだ。2匹がクジを引くと、サンドが当たりを引いた。

 「あ、やった!」

 「ぐぬぬ……」

 そういうわけで出場するポケモンはサンドに決定した。後はアッシュが服を選ぶだけだ。

 「何がいいかなー」

 とりあえずメンズ服のコーナーを漁るも、似合いそうな服はない。いろいろ着てみたが、男物はどうしても『ボーイッシュ』止まりになってしまう。アッシュの外見は非常に中性的で、それを活かした方がまだ良さそうだった。

 「やっぱりこっちかー」

 アッシュはレディースのコーナーから服を探してみる。様々な服があり、こっちは何を着ても似合いそうであった。アッシュって一体……。とりあえずいろいろ試してみる。

 「これじゃ同じかな?」

 オーバーオールみたいなボーイッシュ系の服を着たら、メンズ服と同じ結果なので諦めた。

 「地味かも」

 ブラウンのニットワンピースに同色のストールを巻いたもの。これはサンドと合わせるにも地味。

 「派手過ぎ?」

 今度は金色で派手目のプリントが入ったパーカー。今度はサンドが浮く。

 「あんまり肌を出すのは恥ずかしいかも……」

 つなぎにに黒いタンクトップ。つなぎの上半身を脱いで腰に巻くことで細身の体を強調しており、似合っているが本人の好みで却下。何故かモデルガンを入れるホルスターがあったり、ゴーグルや髪をポニーテールにするヘアゴムが一緒に付いていたが気にしない。

 「これはきっと違う」

 白い胴着に藤色の袴。もうファッションとかそんな話じゃない。

 「こういうのはジャスミンさんみたいな大人のお姉さんが似合うよね」

 次は赤いチャイナドレス。『綺麗』より『カワイイ』寄りのアッシュには似合わなかった。成長すればアリかもしれないが。

 「これは出るファッションショーが違うんじゃ……」

 白黒のゴスロリ衣装は似合ってるけどカミツレのショーであることを考えるとなんか違う。

 「これかな?」

 アッシュが選んだのはこの衣装。黒いブレザーの様な衣服で、赤いリボンが映える。プリーツスカートも彼は着こなしていた。これがカントーの制服を模した、制服が無いイッシュの学生に人気な『なんちゃって制服』であることを彼は知らない。

 刀が三本ついてるせいで、なんかアニメのキャラみたいだ。

 「これも違う……これだ!」

 最終的にアッシュが選んだのはこれ。ネコミミフード付きの黒いパーカーに、赤いチェックのプリーツスカート。黒いニーソックスやブーツもあった。

 身長が伸びたせいか、一番小さいのを着てもブカブカにはならない。ちょうどよく手が少し隠れる『萌え袖』状態になってくれた。

 「よし、行こう!」

 とりあえず、オシャレにヘアピンも付けてアッシュはステージに向かう。

 

 ステージではファッションショーを行うとのことで、観客が集まっていた。その女性客が多い中にヒュウは場違いな空気を感じながら収まっていた。

 「誰あのモデル?」

 「超カワイイ!」

 「あれ……アッシュか?」

 ステージに出て来たアッシュを見て、ヒュウは驚かなかった。なんかいつも通りだったからだ。

 「あいつ男だよな?」

 ナチュラルにあんな格好をしてるため、ヒュウはついついそんなことを思ってしまう。アッシュは男の子だ。

 「さあ、来たね。チャレンジャー」

 カミツレがステージに現れた途端、会場のボルテージが急上昇する。やはりカリスマモデルは違った。

 「ルールは簡単。その道を私達がポケモンと歩いて帰ってくるだけ。その後、観客による投票を行い、君が一定の票を得れば試練はクリアよ」

 「簡単ですね」

 カミツレはルールを手短に説明する。見た目、ルールは確かに簡単だ。カミツレに勝たなくてもいいのならさらに簡単に見える。だが、票の奪い合いをする相手がカミツレなのだ。

 見た目以上に、この試練は難しい。カミツレ相手にある程度票をもぎ取らねばならないからだ。

 「では、お手本がてら私が行こう」

 カミツレはゼブライカと共に見事なモデルウォークで道を歩いていく。ファッションショーをテレビで見るとあんな感じの道を歩くものだが、やはりカミツレは違う。カリスマ故に、歩き方も何かが違った。

 「凄いなぁ」

 「次はオラ達の番だべ」

 アッシュとサンドも意気揚々と歩き出す。ただ、アッシュはブーツのヒールが高いため歩き難そうだった。

 「わっ……と」

 「大丈夫か?」

 観客席でヒュウは転びそうなアッシュを心配していた。何とか歩き切り、ステージに戻って来れた。

 「さあ、早速投票を始めましょう!」

 「なんか自信無いな……」

 カミツレの指示でスクリーンに投票の結果が出る。観客は手元のボタンで投票する仕組み。ヒュウは当然アッシュに票を入れた。

 『投票の結果は……! 引き分け!』

 「え?」

 「ほぅ……」

 白と黒で円グラフが描かれ、色がなんとちょうど二等分に別れた。つまり引き分けである。

 『意外な結果ですね。アッシュさんに入れた人の感想を聞いてみましょう』

 スタッフが結果を意外に思い、早速インタビューしてみる。もしかしたら期待の新人発掘か? そんな予感がスタッフはしていたという。

 『なんか可愛かったからつい』

 『初々しいよね!』

 『垢抜けない感じがあざとい!』

 要するにカミツレと外見のベクトルが異なったため観客の好みが別れ、それがちょうど半々だったというわけだ。

 『ちなみにアッシュさんは男の子だそうです』

 『逆にアリかも!』

 「何この業界」

 アッシュが男の子だと伝えられて、ファンのテンションが上がる。ヒュウはファッション業界がよくわからなくなっていた。

 「では、バトルで決着を付けよう」

 「そうですね」

 結局、バトルで決着をつける必要が出てしまった。まだ実力のわからないサンドで戦うが、ポケモンと言葉を交わすことでどんなポケモンとも連携を取れるのがアッシュの強みだ。

 「行け! ゼブライカ!」

 「サンド!」

 アッシュはサンド、カミツレはゼブライカでバトルを開始する。電気が効かない地面タイプ相手にも、ジムリーダーであるカミツレは戦える。

 「ニトロチャージ!」

 「かわしてスピードスター!」

 ゼブライカのニトロチャージを回避し、サンドは牽制のスピードスターを放つ。ただ、ニトロチャージは素早さを上げる技。撃たれ続けるのはマズイ。

 「じならし!」

 「跳びはねて避けて!」

 じならしで短期決戦に持ち込んだアッシュの攻撃を、ゼブライカは飛んで避ける。地面タイプへの対策は万全だ。

 ジムリーダーが相手なだけに、流石のアッシュでもジリ貧にならざるを得ない。このままだとゼブライカのスピードがニトロチャージで上がる一方だ。

 「オイラはもっと、輝くんだ!」

 地面タイプの技が効かないとわかったサンドは、思い切り跳びはねてゼブライカを追う。その時、サンドの体が光に包まれた。

 「あれは……進化!」

 土壇場でサンドはサンドパンへの進化を遂げた。放たれたスピードスターはミサイルの様にゼブライカを追尾していく。

 ゼブライカはニトロチャージで空中を走り回るが、ミサイルの量が多過ぎる。回避し切れずに直撃を喰らい、追尾弾も受ける。

 「行っけぇ! きりさく!」

 スピードスターの爆煙に紛れ、サンドパンはきりさくでゼブライカを攻撃。ゼブライカにトドメを刺した。

 「フッ!」

 サンドパンはかっこよく着地。バトルが終了した。

 「まさかな、いくらモデルの仕事を集中して教えたゼブライカとはいえ、私のポケモンをここまですぐ倒すとは」

 「やったねサンドパン!」

 カミツレはまさかの展開に感嘆し、アッシュはサンドパンを褒めた。そして、彼女はアッシュに語りかける。

 「君は『灰色の疾風』という盗賊を知っているか? その異名は火山災害から取られたのだが……」

 「んー、何処かで聞いた様な……」

 カミツレの語った内容に、アッシュは聞き覚えがなかった。

 「君の地元であるソウリュウの付近、そこに『竜の里』にある秘宝『サザンドラの瞳』。噂によると紫色のそれは美しい宝石だったそうだ」

 「だった?」

 「それは盗賊『灰色の疾風』ブレイドに盗まれたため見ることは出来ないが、恐らく君の瞳の様に綺麗だったのかもしれないな。私は生きてきた時間こそ短いが、君の様な澄んだ瞳の持ち主には会ったことがない」

 カミツレは長々と語った後、ようやくアッシュに本題を語る。

 「君ほどの逸材はそういない。だからだ、君とそのサンドパン、うちでモデルをしないかい?」

 「モデル?」

 アッシュは少し考えた。あのカミツレにスカウトされるなど、これほど栄誉なことはないのだろう、多分。だが、彼にはやることがあった。

 「すみません、ボクには探偵事務所が……」

 「えー? この町で輝くチャンスだべ?」

 アッシュの答えにサンドパンが反論する。サンドパンの目的にはカミツレの提案が都合よかったからだ。

 「宣伝を兼ねて、たまにでいいさ」

 「せめてこの子だけでも……」

 「いいだろう。君は探偵業に専念してくれ。そのサンドパンは確かにモデルを輝かせる才能があるかもしれないしな。時折、仕事も紹介しよう」

 結局、サンドパンがここで働くことになった。アッシュはポケモンのことを第一に考えるのだ。

 「じゃあ、あちきがあんたの末路でも伝えようかね」

 「ネーベル」

 バルジーナのネーベルが出て来て、サンドパンに話しかける。この2匹は出身地が同じだった。

 「それじゃ、サンドパン頑張ってね!」

 「おうよ!」

 アッシュはサンドパンに別れを告げた。ともかく、アッシュのエンブレムはこれで8つ。一年後の本戦に駒を進めることが出来た。

 ヒュウがここのエンブレムを諦めることにしたのは言うまでもない。




 次回予告

 迷いの森を訪れたアッシュ達は、トレーナーの帰りを待つジュカインに出会う。森の長老となった彼がアッシュに託したのは、若いキモリだった。
 まだアッシュは、シルフィに迫る過酷な運命に気付いていない。
 次回、『迷いの森、ジュカインの試練!』。アッシュに自身のトレーナーの陰を見たジュカインは、何を語るのか。
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