迷いの森
ゾロアークの幻覚によって多数の遭難者を出す森。珍しいポケモンもいるので、探索する時は必ず誰かに伝えてから行こう。
迷いの森
ライモンシティにおけるボルトエンブレムの試練において、『ポケモン探偵事務所』を開設したことを明かしたアッシュにライモン市長から早速依頼が舞い込んできた。迷いの森に本来なら棲息しないポケモンがいるというのだ。
プラズマ団に唆されたトレーナーが捨てたかもしれないので問題があれば保護してほしいとのこと。ポケモンというのは環境に適応するのが早いため、問題さえなければ無理矢理保護する必要は無い。
「ここだね」
アッシュは迷いの森に入り、辺りを見渡した。この森はライモンの隣にあり、近場で自然が楽しめるためライモンの人々には人気のスポットだ。
服装はファッションショーをしていた時に着ていたものを一式貰ったので、そのネコミミパーカーを着ている。動き易い様にスカートをホットパンツに着替え、森は草が多くて肌寒いので黒いタイツを穿いた。
「ネーベル! ポケモンを探して来て!」
「あいよ」
ここはバルジーナのネーベルに頼ることにした。飛行タイプは何かを探す時に大きな戦力となる。
「普段見ない様なポケモンいないかな?」
アッシュも能力を駆使してポケモン達に話を聞く。ヤナップ達が言うには、森の奥に長老として君臨するポケモンがいるらしい。ネーベルとアッシュは森の奥深くまで進み、長老に話を聞きにいく。長老というからには、何か知ってるはずだ。
迷いの森はまず入ると、小川を越えて広場に辿り着く。そこにある小さな穴があった。洞窟ではなく、密集する木の間といった場所だ。所謂、隠し穴というものである。
そこの奥まで行くと、ヘラクロスとカイロスがいた。さらに奥でもあるのか、彼らは門番の様に立っていた。
「何奴だ」
「人間がここから奥に入ることはならん」
さすがに人間であるアッシュを警戒しているのか、簡単には通してくれない。
「ボクはこういうものです。プラズマ団に捨てさせられたポケモンを保護しに来ました」
アッシュは名刺を差し出し、用件を明かす。だが、カイロスは通すつもりがないらしい。
「そうしたポケモンは我々も保護している。ここは人間が来るところではない」
「や、やった、出口だ!」
アッシュ達が話していると、何かがカイロス達の背後から出てきた。それはやつれた船長と船員だった。アッシュがタチワキに行った時、ヒカリと撃破した『お元気になるキノコ』密輸のタンカーの船長だった。
「あ、あの時の!」
「げぇ、アッシュ!」
「アイエエエエ! アッシュ!? アッシュナンデ!?」
その瞬間、船長と船員の脳裏には、彼ら自身の青春が過ぎっていた。
彼らは始め、豪華客船アルファサファイア号を任されるほど優秀なクルーだった。それが12年ほど前に沈んだ。
最後の航海はホウエン沖のクルージング。突然嵐に襲われ、津波によって船は転覆した。彼らは命が惜しくなって真っ先に逃げた。何とか生き延びたら、今度は周りからバッシングを受ける羽目となった。
ただ、ブルジョワ伯爵は『どんな時でもどんな人間でも、結局は自分の命が大事』と理解を示し、彼らを拾った。ジャスミンの乗るブルジョアジー号を任されなかった辺りで信頼度はお察しだが、それでも仕事を貰えて充実した日々を過ごしていた。
そんな時、アッシュが現れた。彼に吹き飛ばされた船長と船員は迷いの森に墜落する。そこで長老のジュカインに追われ、迷いの森を今までさ迷っていたのだ。
「今度こそ出口だー!」
光を見る度、何度そう思ったことか。空腹を満たすために食べたキノコによる幻覚だった場合が殆どだ。
酷い時には、広場に出れたと思ったらこんな幻覚を見たこともある。
「しまっちゃうよ~」
「しまっちゃうよ~」
「しまっちゃうよ~」
森の影からピンクの生き物が続々と現れ、何か歌っていた。あれは旧世紀にいた豹という生き物に似ている。同じ歌詞は徐々に音が高くなり、彼らの周りをその豹が囲むと、豹は一斉にハモる。
『でゅ~~~わ~~~~♪』
そして、グルグル回って歌い出す。
『らん らん らん らん
あ~~~あ~~~
あーらん♪あーらん♪あーらん♪あーらん♪
あらー♪あらー♪あらー♪あらー♪
らん らん らん らん ら~~~~♪
さぁ、つ か ま え た 』 「うわあああ!」
そんな恐怖から逃れるために必死で走った。そして、ようやくその場を離れた時、船員達がこう言った。
「いやー、暑いですね。これ脱いじゃおうかな?」
「俺もそうしますね」
そう言って、船員達は自らの身体を着ぐるみみたいに脱ぎ捨てる。中から出てきたのはさっきのピンクの豹。
「ふぎゃああ!」
「麻薬を密輸する悪い子はしまっちゃおうね」
そのまま岩倉にしまわれた。そんな幻覚を見たりしてようやく出口に辿り着いたのだ。
そしてそこにいるのはアッシュ。案の定、捕まって警察を呼ばれてしまう。
「あいつらはお前が吹っ飛ばしたのか」
「ち、長老!」
その船長を追い掛けていた長老、ジュカインが後に続いて出て来た。ここに棲息していないはずのポケモン、つまりこのジュカインが今回の保護対象だということだ。
「はい、お元気になるキノコを船で密輸しようとしていたところを捕まえようとしたら間違えて」
「奇妙なこともあるもんだ。ともかく、こいつらは縛り上げて入口に置いておこう。警察でも呼ぼうか」
ジュカインの提案で船長は縛り上げ、隠し穴の入口に放置。警察を呼んで捕まえてもらうことにした。
「なるほど、お前は私を保護しに来たのだな」
「長老って呼ばれるくらい慣れてれば別に問題無いですし、依頼主にはそう伝えますね」
森の奥で、アッシュはジュカインに訳を話した。アッシュは問答無用でポケモンを保護したりしない。ジュカインがここの生活に馴染んでいるので、保護は不要と判断した。
こういう事を言うとポケモンの生態系がどうのと言い出す人がいるが、ポケモンに生態系なんてあってないようなものである。
「そうか。そうだな、君を見ていると奴を思い出す。ブレイド、私のトレーナーだった男だ」
「え? ブレイド?」
アッシュはブレイドという言葉に反応した。45年以上前に行方を眩ませた、大盗賊という話だ。
「お前は奴に顔立ちが似てるな。あいつは男だったが」
「ボクも男です」
「何?」
アッシュがあまりに女の子な格好をしているので、ジュカインはアッシュを女の子だと思っていた模様。
「髪長いしオシャレだし、アッシュって女子力高いよね」
「あちきだって、遊郭ですらこんな綺麗な娘見たことない。将来性高いでありんす。色男よりも美人になる可能性の方が高い」
「ですわねー」
ヨーテリーのソミュアが出て来て、口を挟む。ネーベルも経験からアッシュに秘められたポテンシャルの高さを語る。ボールから出て来たレパルダスのマチルダも同意した。彼の女子力はメスポケモンが認めるほどだ。
「ま、それはさておき、そんな君に頼みたいことがある」
「頼みたいこと、ですか?」
「そうだ。おい、客だぞ」
ジュカインは気をとり直し、森からキモリを呼んだ。キモリ達はたくさんおり、その中でも勇ましい者が前に出る。
「なんだ?」
「どいつか、このトレーナーについて武者修業してみるか?」
「おいおい爺さん、女についていく趣味はないぜ」
キモリにもアッシュは女の子と間違えられていた。ともかく、キモリにはついていくつもりがないらしい。アッシュも無理矢理連れ出すタイプではないので、キモリも武者修業は難しそうだ。
「フ、見掛けに惑わされるなよ。こいつは出来る」
すると、キモリの内一匹が前に出て来た。台詞回しがハードボイルドだ。
「出たよハーフボイルド」
「お前、こいつが強いと思ってるのか?」
キモリ達は前に出たキモリを『ハーフボイルド』と呼んだ。とりあえず、周りとは違った見方をするキモリらしいことは確かだ。
「確認だ、俺をゲットしてみろ。ゲット出来るならお前をトレーナーとして認めよう」
「うん、いいよ。マイン!」
戦闘体勢を取ったキモリに、アッシュはエンブオーのマインを繰り出した。
「じょ、冗談じゃ……」
「かえんほうしゃ!」
「うっしゃあ!」
キモリ相手に本気で立ち向かうアッシュ。マインも久々のバトルで気合いが入っていた。
「話が……違うっすよ……。手持ちはバルジーナとヨーテリーだけだって……」
「モンスターボール!」
キモリはそのままゲットされた。他のキモリもまさかの事態に震え上がっていた。
「キモリ!」
アッシュは捕まえたばかりのキモリをボールから出す。キモリは予想外の展開にガックリうなだれていた。
「クッ、この俺が負けるとは……。あんたについて行っていいか? あんたならいずれ俺をも使い熟すトレーナーになるだろう!」
「いいよ。じゃあ、今日は帰ろうか」
アッシュはキモリを連れて帰る事にした。これで依頼は完了である。アッシュの日常は、こうして流れる。
エリートスクール 予備学科校舎
「今日の授業は終わりだね」
「はい」
その頃、エリートスクールの予備学科ではシルフィが授業を終えていた。教科書を片付け、先輩と帰ろうとする。
一番仲良くなった先輩は、隣に座るヒナである。アチャモの様なオレンジの短髪が特徴で、本人もそれを意識しているのか黄色のヘアピンや髪飾りをしている。
お嬢様には珍しく、面倒見がいいサバサバした性格であるため、女子寮のまとめ役になっている。
「ほら行くよー」
ヒナはアチャモ舎にいるアチャモ達の世話をしており、常に6匹のアチャモを連れている。全員とくせいが『かそく』なので、たまにスピード違反する個体がいるらしい。正式な手持ちであるアチャモには、赤いスカーフを巻いている。
ちなみに、スカーフが無くてもヒナにはどれが自分のアチャモかわかるらしい。さらに、100匹を越えるアチャモ舎のアチャモを見分けられるとか。シルフィも歌に対する反応を使えば出来なくもないが、並大抵の芸当でないのは確かだ。
「シルフィ! 一緒に帰ろう!」
「あんたまだ諦めてなかったの?」
そこへ、先日シルフィに告白して撃沈した男子がやってくる。こっちはこっちでイーブイまみれだ。彼の髪もイーブイみたいな茶髪である。
「あ、エイジ先輩」
「告白されて断られたら諦めなさいよ」
「恋人がダメなら友達からだ!」
「いいですよ。お友達になりましょう」
エイジは恋人になるのを断られても、本気でシルフィに嫌われていないことを分かっていた。エイジは他人の心を察する力が強いらしい。
お陰でシルフィと友達になることが出来た。
「シルフィ。先生が呼んでたよ。職員室に行きなよ」
「え、そうなんですか?」
ただ、これから帰ろうという時にシルフィは先生に呼び出された。仕方なく、シルフィは職員室まで向かった。
職員室に着いたシルフィは、先生に連れられて本学科の理事長室まで来た。理事長室のある研究棟には予備学科の教師は入れないため、理事長室まではシルフィ一人で向かった。
「失礼します」
偉い人の部屋に入るのも慣れたものだ。伊達に『ある人物』の娘ではない。
「フフ、まさかあの金しか取り柄のないブルジョワ伯爵にここまで才能溢れる息女がいたとはね」
「やるじゃない。将来が楽しみ」
無駄に広い理事長室には、ギンとフランがいた。本学科のトップ2が、シルフィを迎える。傲慢な性格のギンであるが、ジキルが認めた才能には寛容なのだ。
「よい知らせだ。我々の技術部がユート博士より先にバーストを強化する道具を開発した」
「当然だ。我々エリートスクールがただの研究員に負けるか」
「これがその一号機。その名も、バーストドライバーだ」
椅子に座るジキルが手にしているのは、一見すると特撮ヒーローの変身ベルトみたいなものに見えるアイテムだ。
「世界を我々が統べる日も近い。シルフィ、心しておけ」
エリートスクールの闇が、シルフィに牙を剥こうとしていた。
次回予告
アッシュも学校に? ソウリュウシティの小学校にアッシュも通うことになってしまう。しかし、その学校はまさに世紀末?
次回、『世紀末小学校』。アッシュは学校生活を生き延びることが出来るのか?