ポケットモンスター 灰色の疾風    作:級長

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 イッシュ七不思議
 ストレンジャーハウス
 ヤマジタウンの外れにある古びた空き家、それがストレンジャーハウス。誰が建てたのか、誰が住んでいたのかはわからない。
 入った人によると、とある橋に現れる幽霊に関係があるらしいが……?


49.ストレンジャーハウスの謎!

 アッシュの家

 

 「お暇を頂きたいのです」

 「どうしたのソミュア?」

 ある朝、アッシュにヨーテリーのソミュアがそう言ったのだという。アッシュはいつも通り、仕事に行く準備をしていた。小学校は復旧作業でしばらくお休みだ。

 「最近、エリートスクールが世界中の牧場を狙ってて、シャルルもいないザンギ牧場が心配で……」

 「そうだよね。シャルルもあそこの出身だったね」

 アッシュがアーシェに渡したマリルのシャルルもザンギ牧場のポケモン。エリートスクールが牧場を買収しているという話は、新聞にも取り上げられている。買収された牧場は巨大兵器『ポケモロイド』の製造工場にされていた。

 「でもね、少しだけ君の力を借りたいんだ。これからヤマジタウンの隣にあるストレンジャーハウスっていう場所を調べないといけないんだ」

 アッシュとしてはソミュアを行かせてあげたいが、ストレンジャーハウスの調査にはソミュアの『かぎわける』が必要なのだ。

 依頼はこうだ。エリートスクールがストレンジャーハウスを取り壊してポケモロイド工場にするとのことで、祟りを恐れた近隣住民が反対しているのだ。そこで、ストレンジャーハウスの祟りを実証してほしいとのこと。

 要はゴーストタイプのポケモンに交渉して、祟りを作ってもらえばいいのだ。そのゴーストポケモンを探すのにソミュアの鼻が必要なのだ。

 「エリートスクール相手ならやってやるさ。さあ行こう」

 ソミュアは納得し、アッシュについてストレンジャーハウスに向かった。

 ストレンジャーハウスへは、アブソルに乗せてもらって移動する。ソウリュウシティの町をアブソルに乗って駆け抜ける。ついでにチンピラを蹴散らした。

 「お、アッシュじゃないか?」

 「ソウキチ先生、こんにちは」

 ソウリュウシティを出るゲートの前で、アッシュは担任のソウキチ先生に出会った。子供達の安全を見守るため、交通指導をしていた。

 「何処に行くんだ?」

 「これからヤマジに。探偵の仕事なんです」

 「無茶すんなよ」

 「はーい」

 ソウキチ先生はアッシュが保護者を持たず、探偵業で生計を立てている事を知っている。貧富の差が激しいイッシュでは孤児院も無く、ポケモンセンターを泊まり歩くストリートチルドレンが少なからずいる。

 アッシュもその一人だったが、今は何とか宿くらいはある。大統領も対策は考えているが、議会が馬鹿ではあらゆる政策が突っぱねられてしまうのだ。

 このイッシュには、イッシュドリームなど存在しない。

 

 ヤマジタウンの近くにある、古びた家なのだ。エリートスクールのメンバーが勝手に張ったと思われる立入禁止のロープを潜り、アッシュとソミュアはストレンジャーハウスに入る。

 「ごめんください」

 「誰かいるよ」

 扉を開けると、ストレンジャーハウスの中は忙しさに包まれていた。

 「ほらほらどいたどいた」

 「25番の塗料は何処だ?」

 「新しいセルまわしてくれ!」

 「なにこれ?」

 ゴーストポケモン達が忙しく何かの作業をしていた。テーブルを並べて絵を描き、その上に薄い紙を乗せて少し違う絵を描いている。ある程度それを終えると、パラパラめくって何かを確かめた。

 「ビビビ、これはアニメの制作現場だな」

 ボールからコイルのラファールが出て来て解説する。このゴーストポケモン達はアニメを作っていたのだ。

 「ケケ、何だ新入り希望者か? 俺は原画担当のコウヨウだ、よろしく」

 呆然とするアッシュ達に、あるゲンガーが寄って来て話し掛けた。コウヨウと名乗るゲンガーは、パンフレットを手に説明を始めた。コウヨウは監督みたいなハンチングを被っていた。

 「我々、ストレンジャースタジオは現在、劇場版アニメ『学園軍記スクールブラッド』を製作中だ。動画枚数がハンパないから忙しいんだ。オイ新入り! お客さんにお茶出しな!」

 アッシュがパンフレットを読むと、彼らが学校を舞台にしたバトル物のアニメを作っていることがわかった。公開は半年後だ。それなら当然忙しい。

 「はいただいま……ハッ」

 「元々このスタジオは12年前、ホウエンの『おくりびやま』から始まったんだ。5年前にシンオウの『もりのようかん』で第二スタジオが始まり、今年になってここを第三スタジオにすることになった。インターネットでデータをやり取りするから、こんだけ離れてても作業に支障はない……どうしたんだ新入り?」

 お茶をいそいそと持ってきたムウマージはアッシュを見て固まる。その理由がアッシュにもわかった。

 「君は、キャサリンのムウマージ!」

 「アイエエエエ!? アッシュ? アッシュナンデ?」

 「いや仕事だよ。よかった、新しい居場所が見つかったんだ。」

 キャサリンのムウマージは野生に帰ったのだが、こうして元気に暮らしている。アッシュはとりあえず安心した。

 「私のかぎわける必要だった?」

 「いらなかったね」

 ゴーストタイプらしからぬオープンぶりにソミュアは自分の存在意義がわからなくなっていた。アッシュもここまで歓迎されると思って無かったようだ。

 「何だ知り合いなのか。ていうか、お前何者だ?」

 「知らないで説明してたんだ……。ボクはこういうものです」

 アッシュはコウヨウに名刺を差し出した。ポケモン探偵と聞いて、コウヨウはアッシュに提案する。

 「ケケ、なるほど、ポケモン探偵か。なら依頼がある、俺達の作業の邪魔をするエリートスクールを追っ払ってほしいんだ」

 「いいよ。ボクも元々そのつもりだったし」

 「ああ、ここにいる奴らは追っ払ったんだ。俺を連れて他の場所にいるエリートスクールを手痛く追っ払って、ストレンジャースタジオに手出し出来ない様にしたい」

 コウヨウの依頼は複雑なもの。コウヨウとアッシュが強力して他の場所を占拠するエリートスクールの奴らを倒し、ストレンジャースタジオの恐ろしさを思い知らせるという作戦だ。

 確かに、戦力を示せば安々と攻め込めなくなるかもしれない。問題は今、何処にエリートスクールがいるかという話なのだが。

 「アッシュ! 情報によると、エリートスクールがザンギタウンに向かっているらしいぞ!」

 「何だって?」

 外で待機していたアブソルが、アッシュ達に情報をもたらす。エリートスクールが狙っているのはザンギ牧場なのだろうか。

 「ケケ、よしきた、行こうじゃねぇか。うちの用心棒も連れていくか」

 コウヨウは外に出て、その用心棒を呼んだ。すると、家の影からあるポケモンが姿を現した。

 「あれは……ダークライ?」

 「この辺りに住んでてな。用心棒してもらってんだ」

 そのポケモンは幻のポケモンと呼ばれるダークライだった。これなら、さしものエリートスクールにだって負けない。

 「よし、行こう!」

 アッシュはソミュアとラファールをボールに戻し、アブソルに乗ってザンギへ向かおうとした。そこをダークライが止める。

 「それよりいい方法がある。出てこい、ヒードラン」

 ダークライが呼ぶと、土の中からこれまた伝説と呼ばれるヒードランが姿を現した。

 「ヒードランの掘ったトンネルを使うぞ」

 「俺っちに任せな!」

 一行はヒードランのトンネルでザンギに向かう。これはただのトンネルではない。熔岩の流れを利用した高速移動手段なのだ。

 「熔岩なのにあまり熱くないね」

 「熔岩は結構下を流れとるからな」

 熔岩で微妙に動く地面に合わせて歩けば、コンベアみたいにどんどん進む。そして一行の乗ってるヒードランが意外と速い。

 

 ザンギ牧場

 

 ヒードランに乗り、アッシュ達はザンギ牧場に到着した。地下なら地形を無視出来るため、やっぱり速い。

 「エリートスクールは?」

 アッシュ達が地面から顔を出すと、まだザンギ牧場は無事だった。ヒードランのトンネルはちょうど、ザンギ牧場の入口近くに繋がっていた。

 「やあ久しぶり、アッシュくん」

 「あ、久しぶりです。エリートスクール見ませんでした?」

 牧場の経営者夫婦と再会したアッシュとソミュアは、エリートスクールの所在を聞く。ザンギ牧場が狙われているというなら、まずは買収の話があるはずだ。

 「そうそう、エリートスクールって人達がザンギ牧場の敷地を寄越せってうるさくて……」

 「やっぱり、というか始めから買収する気もないんだ」

 どうやらエリートスクールは、土地を買い取るという発想も無いらしい。エリートスクールに無償で何でも提供して当たり前、というスタンスなのだろうか。

 アッシュが空を見上げると、プテラみたいな骨格をしたメカが飛んでいた。

 「あれは……ポケモロイド?」

 「ザンギ牧場を監視してるらしいよ」

 経営者曰く、あれはザンギ牧場を監視するためのものらしい。武器らしきものは確認出来ないが、身体に格納されているのだろうか。飛行音が静かなのは、ポケモロイドの基礎設計をしたのがイヴの両親、ユートとエディだからというのもある。

 「よーし、あれを潰せばエリートスクールが来るかな?」

 アッシュはプテラ型のポケモロイドを破壊し、エリートスクールを呼び出すことにした。今まで会ったエリートスクールの弱さからして、今の戦力なら十分倒せると考えたのだ。

 「それなら私に任せろ。セイハーッ!」

 アブソルがそこで、かまいたちを放ってポケモロイドを攻撃する。一撃では装甲に亀裂を入れることしか出来ないが、それで十分だ。

 「あまごい! にほんばれ! あられ! すなあらし!」

 天候を操り、ポケモロイドに負荷を与えていく。亀裂から水や砂が入り込んだポケモロイドは、遂に墜落した。爆発しなかったため、後でスリーパーにお土産で持っていこうとアッシュは考えた。

 「攻撃か!」

 「我らに反逆者だ!」

 ポケモロイド撃墜を受け、エリートスクールがぞろぞろと現れた。アッシュはボールを取り出して応戦しようとする。

 「待て、ここはこいつらに任せよう」

 だが、コウヨウはダークライとヒードランに任せるべく、アッシュを止めた。

 「で、伝説のポケモンだ!」

 「うろたえるんじゃないッ! うろたえないッ、エリートスクールはうろたえないッ!」

 ザンギ牧場に想定外のポケモンがいたため、思い切りうろたえるエリートスクール達。こういうエセエリートというのは教科書に沿ったお勉強は得意だが、想定外の事態には滅法弱い。

 本当のエリートは、常に最悪の事態を考える。まあこればかりは斜め上に最悪の事態ではあるが。

 「だが、いくら伝説のポケモンでもこいつには勝てまい! ポケモロイドだ!」

 何とか平静を持ち直したエリートスクールのリーダーは、新たなポケモロイドを呼ぶ。ティラノサウルス型と、トリケラトプス型のものだ。どの生物も、ポケモン出現以前のものだ。

 「あくのはどう!」

 「マグマストーム!」

 だが、ポケモロイドは実力を発揮する前に潰された。元々は重機のつもりで開発したものだから仕方ないね。

 技や爆発に巻き込まれ、エリートスクールも半分以上が倒された。

 「馬鹿な、ポケモロイドがやられた! しかし!」

 リーダーはポケモロイドが倒されたことを意外に思っていたが、切り札を残していたのだ。リーダーの身体がガチャガチャと変形し、何かの光を放つ。

 「名付けて、さかさマシン! 付近の空間限定でタイプ相性を逆さまにするぞ! このマシンはトリックルームなどの技以上に莫大なエネルギーを使うッ! 故に、進化の石からエネルギーを集めるのだッ!」

 「身体が変形した!」

 アッシュはさかさマシンより、身体が変形したことの方を驚いていた。

 「我が身体は、我がエリートスクールの最高知能の結晶であり!! 誇りであるゥゥゥ!!」

 「マズイ! タイプ相性が逆さまになるってことは、普段弱点の少ないダークライとヒードランが弱点だらけに!」

 アッシュはすぐさま、相性逆さまの真価に気付いた。いくら伝説のポケモンでも、弱点だらけでは何ともならない。伝説のポケモンが強いのは、一般のポケモンが持たないタイプの組み合わせで弱点が少ないからでもある。

 「待てよ……ノーマルタイプなら弱点は少ない! ソミュア!」

 「おうよ!」

 アッシュはそこで、ヨーテリーのソミュアを繰り出した。ノーマルタイプは今、ゴーストタイプだけが弱点だ。

 「ブァアアカメッ! その程度は想定済みだ!」

 しかし、エリートスクールは大量のゴーストタイプを用意していた。これはさすがにピンチか。そう思われた瞬間、リーダーの後ろでパソコンを見ていた生徒が冷や汗をかきながら言った。

 「少佐! 今すぐさかさマシンを止めて下さい!」

 「何故だ? 一気に奴らを片付けるチャンス! さかさマシンをフルパワーだ!」

 「奴が進化しそうです!」

 生徒が冷や汗をかく理由は、ソミュアにあった。ソミュアの身体が微妙に光っている。

 

 ジョウト地方のキキョウシティ付近では、本来ならまだ進化に到達出来ないレベルのポッポがピジョンに進化する現象が報告されている。時たま、進化出来ないレベルのポケモンが進化する例があるッ!

 そのエリアに進化の石の鉱脈がある場合など、進化のエネルギーが満ちた場所はポケモンの進化を促進する。ロケット団がいかりのいずみでコイキングを強制的に進化させたマシンは、この理論の応用であるッ!

 それに気付いた一部のトレーナーは、進化のエネルギーが満ちた場所で修業し、ポケモンの進化を促すのだ! さかさマシンのエネルギーは進化のエネルギー。タイプ相性を逆さまにするエネルギーを空間に放つというのは、進化のエネルギーを放つことッ!

 進化の直前まで力の高まったソミュアは進化のエネルギーを受け、爆発的に進化するッ!

 

 「しィィイィまッたァァアアアァッ!」

 ソミュアの身体が光り、ヨーテリーからハーデリアへ進化を遂げた。これで形勢逆転だ。

 「き、気づかなかったんだ……進化のエネルギーを放ってるなんて……あの犬ッコロが進化する直前だったなんてッ!」

 リーダーは大袈裟に驚きながら、後退りする。逆に、ソミュアは相手のポケモンに飛び掛かった。

 「やられたらやり返す。ソミュア、おんがえしだ!」

 ノーマルタイプのおんがえしを受けたゴーストポケモン達はバタバタと薙ぎ倒されていく。その数、約100匹。トレーナー達が唖然として、まともに指示出来ない状況も手伝って100人斬り達成だ。

 「セイヤーッ!」

 エリートスクールは瞬く間に全滅した。ゴーストタイプをやられたら、ノーマルタイプをさかさバトルで止められる者はいない。

 「一昨日来やがれ!」

 エリートスクールは泣き叫びながら逃げていく。これでザンギ牧場に平和が戻った。

 

 「ここに残るんだね」

 「エリートスクールが倒されて、ここの安全が確保されるまでだけどね」

 ソミュアはしばらくザンギ牧場に残るという。エリートスクールはまだ、この牧場を狙っているかもしれない。アッシュは経営者夫婦にソミュアのモンスターボールを渡す。

 「早く帰って来れる様に、ボクもエリートスクールを倒すよ」

 アッシュは打倒エリートスクールを誓った。旅の途中に見た彼らの暴虐は見過ごせない。

 アッシュはソミュアを置いて、ザンギ牧場を去る。早くソミュアが帰れる様に、エリートスクールを倒す。タチワキで会ったギンみたいなトレーナーが世界を支配したら、ポケモンの未来は闇だ。それは自分が放つ、夜の様な静かな闇ではない。月明かりもない本当の闇だ。

 アッシュの新たな敵はエリートスクール。壮大な冒険が幕を開けようとしていた。




 エリートスクールの現在
 今、エリートスクールはポケモロイドの開発工場や駐機スペースを求めて牧場を狙っている。
 世界中の科学者から盗んだ技術で製造されたポケモロイドで何をしようというのか、その詳細は未だわからない。
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