ポケットモンスター 灰色の疾風    作:級長

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 慈愛の院 パンフレットの一文
 我々、慈愛の院は経済的等どうにもならない事情で医療を受けられない方々に無償で治療を提供します。
 富裕な皆様も、他の病院で治せない病気がございましたらご利用下さい。ただし、少々値が張りますが。


52.暴走! 秘められた力と崩れるヨスガシティ!

 ヨスガシティ 慈愛の院

 

 相当に消耗したアッシュは、ポケモンセンターの設備では治療出来なかった。そこで、ヨスガシティ有数の病院である『慈愛の院』に送られた。

 イヴが母、エディから指定されたフリメルダという騎士の集合場所がここであることもあり、保険証なども持たず、トレーナー登録もしていないアッシュを休ませるにはうってつけだった。

 「母を救って下さい! お金は一生かけてでも払いますから!」

 「その言葉を待っていた」

 金持ちに対しては難しい手術の成功と引き返えに法外な治療費をふんだくり、貧乏人に対しては殆ど無料で治療する。シンタロウ政権の中で福祉がガタガタなヨスガには必要不可欠な存在なのだ。

 「見るでござるイヴ殿! ヒロ先生の回診でござる」

 「大学病院のお偉い先生と違って、一人でにこやかにするのね。好感が持てる」

 ヒサメとイヴはアッシュが休んでいる病室に、院長のヒロ先生が回診に来た。爽やかな風貌の若い先生で、笑顔が似合ってる。

 「どうだい? 調子は?」

 「はい、おかげさまで」

 ベッドにいたアッシュは一日休んだだけで、少し元気を取り戻していた。点滴を打って寝たが、まだ少し顔色が悪い。

 「怪我は大分よくなったみたいだね。これなら数日のうちに退院出来るだろう」

 「よかったでござるな」

 「そうね。どうしたことかと思ったわ」

 イヴは始めてアッシュと出会った時の戦慄を思い出していた。いきなり現れたかと思いきや、暴走していたのだから。

 コイルのラファールにより、アッシュは自分の置かれた状況を理解した。テンガン山に向かうのがアッシュの目的となった。タイムスリップの件は、ヒサメには今も内緒だ。

 アッシュが未来のイヴを知っているらしいが、彼女は敢えて聞かない様にした。

 「はい、ロードさんも元気ですか?」

 「もう元気なのでポケモンの技チェックしていいですか?」

 「自分のモジャンボの締め付けるで肋骨バキバキになったのでダメですよ」

 アッシュの向かいのベッドで寝ていたのは、ワインレッドの髪をした少女だった。歳は15くらいか。ヒロ先生の発言から、自らポケモンの技を確かめて入院しているらしい。

 「あの人の目の前で暴走しちゃダメよ。止める所かサンドバックに成りたがる」

 「よくわかってるじゃないの!」

 この少女、ロゼッタ・ロードとイヴ達は数日の入院で少し仲良くなっていた。変わり者だが、ロゼッタは誰とでも仲良くなれるタイプなのだろう。

 

 なんだかんだでヒロ先生は回診を終え、病室を出て行った。ロゼッタがアッシュのエンブオー、マインに殴られたいと懇願するのでそれを止めるのにイヴ達はしばらく必死だった。

 「あれ? これヒロ先生の聴診器?」

 「あ、本当でござる。忘れ物でござるな」

 なんやかんやしていると、イヴがアッシュのベッドにあった聴診器を見つける。ヒロ先生のものである。

 「届けるでござるか?」

 「そうね」

 「ボクもいくよ。体調がどれくらい戻ったか、歩いて確かめたいし」

 三人はヒロ先生の聴診器を届けるため、ナースセンターまで行くことにした。病院といえば無機質なイメージだが、廊下はロイヤルな空気が流れるデザインになっており、まるでカロス貴族の家だ。

 「いないね」

 ナースセンターには誰もいない。みんな忙しいのだろうか。この病院はその性質から、患者が引っ切りなしにやって来る。誰かが常駐すべきナースセンターでも、一人だけしか残っておらず、その一人がトイレなりで持ち場を離れたら誰もいなくなってしまう。

 「他の人探しましょう」

 イヴの提案で、他の看護師なりを探すことにした。誰かが常にいそうなのは、入院している子供達が遊んでいるプレイルームくらいか。

 「ここかな?」

 プレイルームに辿り着いた三人は、中に入って誰かいないか探す。ちょうど、そこには女性の看護師が一人いた。なので、聴診器は彼女に渡すことにした。

 「すいません、これヒロ先生の忘れ物です」

 「あら、わざわざ届けてくれたの? ありがとうね」

 看護師の名札には、ソラと名前が書かれていた。なかなか、美人な看護師さんだ。ヒロ先生と同い年か年下くらいだろう。

 「ヒロ先生は私のお兄さんなの。私が届けておくね」

 「ありがとうございます」

 とりあえず、これで任務は完了だ。アッシュとヒサメは、プレイルームで流されているビデオに目を向けた。

 「ペンドライダー?」

 「最近、放送が始まった特撮シリーズでござるな」

 「へぇ、そうなんだ」

 イヴは、アッシュのその一言にどんな意味が込められているのか少し考えた。『5年後も続いてるよ』なのか『大コケしたよね』なのか気になるところだ。ハードボイルドな作風が斬新なだけに尚更。

 ソラが去った後、ヒサメが何か落ちているのに気付いた。

 「あ、これ落とし物でござる」

 「え?」

 「さっき、ソラさんが出ていく時に物音がしたでござるが、これだったでござるな」

 ヒサメが拾ったのは手帳だった。名前が書いてあるから間違いない。

 「予定が書き込まれてる。ってことは無いと困るものね」

 三人はプレイルームを出て、ナースセンターに向かう。今度はちゃんと人がいた。

 「あら、ソラさんが? ヒロ先生とソラさん、二人共帰っちゃったの。悪いけど届けてくれる?」

 「はい」

 「ボクもいくよ」

 そこの看護婦さんに気をつけてね、と送りだされ、三人はヒロ先生の自宅へ向かう。ヨスガシティの郊外であるこの病院の、すぐ近くにヒロ先生の家があるんだそうだ。

 慈愛の院は働く医者や看護師が多い。その理由として、歴代院長に脈々と受け継がれる考え方がある。『ゆとりある環境こそミスを減らせる』。患者のことを考えた結果、従業員がしっかり休める労働環境を整えるに至ったのだ。

 「すぐ近くでござるな」

 「入院中のアッシュを行かせるくらいだからね」

 病院を出て、教えられた方向に少し歩いただけで到着。これなら、万が一の時にもすぐ駆け付けられる。

 シンプルな家の標札にはヒロ先生の名前があり、間違いでないとわかる。イヴはインターホンを押して、在宅を確認した。

 

 ヒロの自宅は小さな一軒家だが、妹のソラと住むには十分な家だ。元々、カントーの医大に通っていたヒロだが、血の繋がった妹と恋に落ち、結局想いを捨てられずにシンオウまで来た。

 先住民のロード族は愛を基盤にする民族であり、こうした近親での恋愛も認めている。同じく先住民のフリサ族も比較的寛容で、ニューラニンジャはそもそも人口の少なさからこうしたことを否定する理由が無い。

 カントーやジョウトから入植してきた一部の人間はさておき、寛容な精神を持つ先住民の文化はヒロ達を安心させた。そこで、この土地の人々を救う事に決めたのだ。

 「兄さん……」

 「ソラ……」

 最近は二人共忙しく、こうして家にいるのは久しぶりだった。互いに疼く気持ちを抑えられず、抱き合っていた。着替えて帰って来たソラはシャツの胸元を開け、汗で輝く素肌を晒す。

 「こうするの、随分久しぶりだね」

 「私、もう我慢出来ない……」

 顔を上気させ、上目遣いでヒロを見つめるソラ。彼女の潤んだ唇を奪い、ヒロは甘い唾液を啜った。その味は天上の甘露に等しい。湿った音が家中に響き渡り、息継ぎの為に口を離すと、唇の間には唾液が糸を引いていた。ソラの口から涎が零れ、胸元を濡らす。汗と唾液が絡んだ蜜を、ヒロは堪らず味わった。

 「んん……」

 ソラは舌が鎖骨を撫でる感覚に、もどかしい声を上げる。彼女を玄関の縁に座らせたヒロは、彼女が纏う衣服を脱がしていく。タイトスカートの下に手を伸ばし、黒いタイツをゆっくり剥ぎ取る。快楽への受け身を取るため、ソラの足は爪先までピンと伸びている。

 「こんなところでいいの? ベッドかお風呂まで行かなくて」

 「ここがいい。これ以上焦らされたら、私、張り裂けちゃう。それに、こういうとこでしたことなかったでしょ?」

 シャツのボタンを外しながら、ヒロはソラに尋ねた。ここは玄関である。素肌に夕暮れの暖かな陽射しを反射させ、ソラは恍惚の表情で答えた。この家の防音は相当優れている。

 「んぅ……ふぁっ!」

 快楽に悶えるソラを、ヒロはしっかり抱き留める。足先や手を伸ばし、吐き出された愛に歯を食いしばって耐えた。結ばれた唇から唾液が漏れる。

 二人はひとしきり愛し合い、しばらく休んだ。シャツを羽織っただけのソラを膝に乗せ、ヒロは後ろから抱きしめた。兄からの愛を注がれた妹は、脳の隅まで幸福に満たされてボンヤリした様な、蕩けた表情で荒く息をする。

 二人だけの甘い世界に浸っていたが、ヒロはハッ、と現実に引き戻された。玄関の扉が開いたのである。

 「子供は見ちゃダメです」

 扉を開いたのは、アッシュという入院患者の付き添いをしていた赤い瞳の少女。イヴという少女は後ろにいた忍者ごっこの少女とアッシュの顔を手で隠し、家から追い出して扉を閉めた。そして、頭を抱えながら言った。

 「急な来客に備えて、玄関の鍵は閉めて下さい。あとインターホンには反応して下さい。それとソラさんは早く服着て下さい」

 

 イヴ達はソラの忘れ物をわざわざ届けに来たと言う。彼女が冷静に対応出来たのは、両親の中が睦まじ過ぎてこういうシーンに度々遭遇するからだ。

 「いやー、こんなとこ見せちゃってゴメンね」

 「でも、やっぱり両親は仲良くないとね。例え兄と妹でも、仲の悪い両親が子供持つよりズッといい」

 アッシュはしみじみと呟いた。何故か言葉に重みがある。

 イヴの知るよしはないが、アッシュは不仲の両親に虐待されて育った。故に、玄関で兄妹が致す様な関係でも、不仲よりはずっといいと考えていた。

 シャワーを浴びて汗やらを流したソラは、ピンクのパーカーに着替えていた。イヴ達はヒロの自宅のリビングまで招かれた。

 「で、結局何事だったでござるか?」

 「念入りにマッサージしてたのよ」

 ヒサメだけが状況を飲み込んでいない。アッシュも完全とは言い難いが、状況をある程度察してはいた。イヴはつくづく、ヒサメがニンジャに向いてないと思い知らされていた。

 「そ、そうなんだよ。ねぇ?」

 「え、ええ。とても気持ちよかったわ」

 イヴのフォローに、ヒロとソラは乗っかった。イヴにしてもフリサ族やロード族の風習は知ってるし、アッシュは兄と妹が恋愛しちゃいけないというルールを知らず、ヒサメに至っては近親相姦が当たり前な一族の生き残りである。

 「とにかく、わざわざ忘れ物を届けて貰ってすまないね」

 ヒロは月並みなお礼だけ言って、三人に帰ってもらうことにした。早く、妹と二人きりの時間を楽しみたい。

 「何事でござるか?」

 そんなことを思っていると、ヒサメが爆発音を聞き付けた。

 騒ぎを聞き付けたイヴ達が飛び出すと、慈愛の院が攻撃を受けていた。急いで駆け付けると、シンタロウ率いる軍隊が攻撃を行っていた。軍の中にはポケモロイドや、怪物になったアッシュの様な姿をしたものまでいた。

 「あいつら、アッシュと同じ力を?」

 「いや、制御してるでござる!」

 プテラの様な姿をした男女が、病院を襲っている。アッシュと同じ様な力だが、制御出来ている。

 「来たか。貴様の力なら見当が付いている。大方、バーストという力なのだろうな。それくらい、私にも用意出来る」

 「病院を攻撃して、何が狙い?」

 「それを聞く方が間違いだ。兄と妹で愛し合う人間のいる病院など、潰さない理由がない」

 シンタロウはヒロとソラの関係を理由に、慈愛の院を破壊するつもりなのだ。シンオウの先住民には許容されて来た関係性なのだが、カントーからやって来た彼には理解出来ないらしい。

 シンタロウはゲンガーとフーディンを繰り出し、イヴ達を排除しようとする。

 「アイン、任せた!」

 「待って、ボクが倒す! フィリップ、ネーベル!」

 リーフィアのアインを出そうとしたイヴを遮り、アッシュがキモリのフィリップとバルジーナのネーベルを繰り出した。シンタロウは余裕を持ってポケモンに指示を出す。

 「ゲンガー、シャドーボール。フーディン、サイコキネシス」

 アッシュは指示を出さなかったが、ネーベルがあくのはどうで技を叩き落とした。それにより生じた煙にフィリップが紛れ、避ける隙を与えずゲンガーとフーディンを尻尾で叩く。

 フィリップに意識が回ったゲンガーとフーディンだったが、後ろからネーベルがあくのはどうを浴びせて倒した。

 「プテラ人間は拙者が倒すでござる! エッジ!」

 ヒサメはニューラのエッジを繰り出し、プテラにバーストした男を倒しにかかった。

 「れいとうパンチ!」

 「ニュララララララララララララララララララ!」

 れいとうパンチのラッシュを浴びせた。岩、飛行タイプのプテラに氷は効果抜群だ。しかし、プテラにバーストした男はダメージすら負ってる気配がない。

 「貧弱貧弱ゥ!」

 「効いてないでござる!」

 「はどうのあらし!」

 イヴもルカリオのルカをメガシンカさせ、自らの波導を送信して大技を放った。直撃を受けたプテラにバーストした女だったが、何事もなく立ち上がる。

 「正真正銘の化け物ね」

 一方で、シンタロウは手持ちをフィリップとネーベルに倒されていた。

 「馬鹿な! 暴走するしか能の無い餓鬼に?」

 「思ったより大したことないな。畳み掛けて!」

 アッシュは見た目以上に実力の高いトレーナーだった。ただ、シンタロウが懐に手を入れる。イヴは咄嗟に彼が何をしようとしていたかわかった。

 「危ない!」

 一番早く動いたのはソラだった。銃声が響く。アッシュを庇ったソラが崩れ落ち、急いでヒサメが受け止めた。

 「ソラ殿! し、心臓が止まって……」

 「ソラ!」

 ヒロやイヴが駆け寄る。なんとシンタロウは、アッシュを拳銃で撃とうとしたのだ。

 「と、トレーナーとしてあるまじき行為にござる! 人を撃つだなんて!」

 「そ、ソラさん……?」

 倒れたソラに対し、アッシュは呆然と見ることしか出来なかった。彼の中にはシンタロウへの怒りと、拳銃に気づかなかった自分へのふがいなさが満ちていた。そして、自分がタイムスリップしてしまったが為にソラが死んでしまうという事実。

 「うっ……ウゥグガァッ!」

 アッシュの意識がそこで途切れる。その瞬間、彼の周りから闇が溢れた。

 「待ってアッシュ!」

 イヴが止めたが、アッシュは化け物に変貌してシンタロウに走り寄る。心なしか、以前より身体に赤い部分が増えていた。逆に、紫の部分は減っていた。

 「やれい!」

 「ハッ!」

 シンタロウの命令でプテラ人間コンビがアッシュに向かって走る。イヴとヒサメの全力攻撃を受けてもピンピンしていたプテラ人間に勝ち目はあるのか。

 「ヒサメ、あんた心臓って言ったよね」

 「そうでござるが?」

 手当が出来ないか、ソラを注意深く観察していたイヴはある事に気付いた。血が全然出てないのである。ヒサメが『心臓が止まってる』と言ったので、大量出血しているかもしれないと考えたのだ。

 「どこ押さえてんの?」

 「え?」

 

 ヒサメが押さえていたのはソラの胸ではない。脇腹だ。

 

 「よかった。弾は脚を掠めただけだ」

 「なんだ、よかったでござる」

 「よかったけど、あんたがはやとちりしたせいでアッシュが暴走したんだけど」

 ヒロが診断し、ソラの無事が確認された。しかし、アッシュはソラが死んだと思って暴走したのだ。主にヒサメが変なこと言ったせいで。

 ヒサメはイヴの肩を叩いて言った。

 「イヴ殿。ソラ殿が無事ならいいでござる」

 「よくない。アッシュを止めて来なさい」

 アッシュはプテラ人間相手に大暴れ。シンタロウの軍は既に全滅していた。

 「アッシュ殿! ソラ殿は生きてるでござる!」

 「グルルルル、ガァッ!」

 「こっち来たでござる!」

 ヒサメが呼び掛けたら、アッシュは彼女の方に走って来た。イヴが立ちはだかってみるも、止まる気配が無いため諦めて回避した。

 「どうやら以前より酷くなってるみたいね」

 「お前の相手は私だ!」

 プテラ男がアッシュに飛び掛かるも、軽くいなされてしまう。そして、アッシュはたまたま近くにいた兵士の顔を掴み、生命力を吸い取った。

 「はぼば!」

 干からびた兵士を捨て、口からりゅうのはどうを放ってプテラ男を攻撃した。

 「ぐわぁあ!」

 「なんてや……あぁっ!」

 飛ばされたプテラ男はプテラ女にぶつかり、そのまま爆発して消え失せた。ヒサメやイヴが苦戦した相手を、こうも軽く捻ってしまうのか。

 だが、アッシュの暴走は止まらない。プテラ人間コンビが戦っている間に離脱したシンタロウの軍を追い、アッシュはヨスガの中心街まで走る。

 「このままじゃ町に被害が……」

 「止めるでござる!」

 イヴとヒサメも追い掛けたが、アッシュは逃げ遅れた兵士から生命力を奪っては大技を使っていた。

 「グルォ!」

 ドラゴンテールで装甲車を薙ぎ倒し、ドラゴンクローで貫いて爆発させる。

 「うごぉ!」

 装甲車に隠れていたシンタロウは爆発に飛ばされ、アッシュの目の前に落ちてきた。

 「こうなったら、私もバーストするしかない! バースト!」

 シンタロウはすぐさま、フーディンとバーストを果たす。これでアッシュに対抗出来ると考えていたらしいが、それは間違いだった。

 「ピギャブ!」

 サイコキネシスを使おうとスプーンを構えたが、蹴りで両手を砕かれてしまう。

 シンタロウは首を掴まれ、そのままビルやら建物を砕きながらアッシュに引きずり回された。最後に、ヨスガの役場が見えたアッシュはその王宮みたいな役場にシンタロウを投げて、たたき付ける。

 (止まらねぇか!)

 アッシュがシンタロウにトドメを刺そうとした時、エンブオーのマインが彼を横から殴り付けた。彼女の言葉は、今や誰にもわからない。

 (あの看護婦は生きてる! 冷静になれ!)

 「グルル……」

 アッシュはマインの呼び掛けに応じない。それどころか、マインに攻撃を仕掛けようとするではないか。

 (野郎! 止まらねぇか!)

 マインが両腕でアッシュの腕を食い止めるも、パワーが桁違いで少しずつ後退させられている。そこに、横からエアスラッシュが飛んできてアッシュを薙ぎ倒す。バルジーナのネーベルだ。

 (どうやら仕置きが必要でありんすな、坊ちゃん)

 「グルアアアアアァッ!」

 横槍を入れられたアッシュは翼と尻尾を広げ、ネーベルに向かって飛んだ。ネーベルは仕向けられる攻撃を受け流し、尻尾を同時に切断した。

 (パワーは強いが、動きが単調。それではあちきに触れることすら出来まい)

 ネーベルが仕掛け、アッシュの翼を片方もいだ。上空から落ちるアッシュにもう一撃加えて残る翼を破壊し、抵抗出来ない様にする。

 ネーベルによって地上へ落とされたアッシュは、まだ暴れようとしていた。マインが身構えると、何処からともなく笛の音が聞こえた。

 「ロゼッタさん?」

 イヴもそれを耳にしており、笛を吹いているのがロゼッタであるということに気付いた。竹で出来た横笛を三日月の羽で飾り付けた代物で、演奏を聞くアッシュの動きが止まった。

 そういえば、ロゼッタはロード族の巫女だったとイヴは思い出す。入院中にそんな話を聞いた。

 「暴れるポケモンを沈める演奏。普段はあまり使わないけどね」

 アッシュは倒れ、元の姿に戻る。これで暴走は収まった。

 「みんな、止めてくれたんだ……ありがとう」

 マインに抱き起こされたアッシュは暴走中の記憶が無いものの、状況から事態を察する。イヴは暴走よりも、そのアッシュを軽く捻ったネーベルに戦慄を覚えた。

 ポケモロイドがポケモンに勝てない様に、奇妙な力もポケモン相手には無力なのか。それとも、ネーベルが単にやたらめったら強いのか。その両方か。

 (全く、はやとちりで暴走しやがって)

 「ごめん……」

 マインは小言を言いながら、アッシュを背負った。イヴとヒサメは、アッシュがポケモンと話せることを聞いていた。

 「これは何事?」

 騒ぎを聞いて、ある少女がポッタイシを連れて駆け付けた。太陽を反射して輝く金髪に、陶磁器の様な白い肌はほんのり赤みが差して健康的だ。5年後の成長した姿と異なり青いワンピースを着ているが、アッシュはその少女に見覚えがあった。

 「アリスさん?」

 「何故私の名前を?」

 彼女は5年前のアリスだった。アリスはアッシュの言動を奇妙に思ったが、自分が騎士の一族だし名前くらい知られてるかもしれないと納得した。

 「あ、ほら、騎士って有名じゃん」

 アッシュも咄嗟にそう言ったため、アリスはこれ以上追及しなかった。

 「私はフリメルダさんの指示であなた達と旅をすることとなった。よろしく頼む」

 「わーい、仲間が増えたでござる」

 イヴの旅にアリスが加わった。ヒサメは素直に喜んだが、イヴには懸念があった。

 (アッシュの暴走の謎を、早いところ掴まないと)

 アッシュが何故暴走するのか、それがわからない限りは、イヴ達は巨大な爆弾を抱えて旅をすることになる。アッシュは優秀なトレーナーで戦力として申し分ないが、リスクが高すぎる。

 

 カントー地方 シオンタウン ポケモンの家、地下

 

 エルトはオリジナルイヴを救うため、シオンタウンにいるフジ老人を尋ねた。彼が所有しているクローン用の生命維持装置で、オリジナルイヴは何とか一命を取り留めた。

 「まさか、私の研究がこんなに悪用されてるだなんて……」

 「包丁が殺人の道具になるのと一緒だよ。使う奴次第さ」

 フジ老人とエルトは、昔の論文を元にクローンの再調整を行うための装置を作っていた。オリジナルイヴはフジ老人が作るクローンより格段に質が悪かった。人間では起こり得ない様々な症状が出ている。

 「それよりほれ、何故君は敵対しているこの子を助けようとするんだ?」

 「エリートスクールの被害者だからさ。そうであれば敵味方関係なく助けるぜ、俺は。それに、ポケモンとの絆が鍵となるメガシンカが出来るんだ。悪い奴じゃない」

 エルトはフジ老人の疑問に答えた。エルトにとって、敵はエリートスクールだけであって、それに利用されていたオリジナルイヴは救うべき存在なのだ。

 「君の意思はわかった。私も償いとして手伝おう」

 「よしきた。頼む」

 二人は被害者の少女を助け出すべく、組み立てに勤しんだ。




 次回予告
 アリスとアッシュを加えて賑やかになるイヴとヒサメの旅。
 道中訪れた塔で、彼女達は恐怖体験をするのか?
 次回、『放たれた封印! みたまの塔のミカルゲ!』
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