トバリシティに道場を構えるカラブリは自己流の武術、カラブリ流を教える道場。
カラブリ流とは、武術の枠に囚われない新感覚の武術である! ていうかほぼヒールレスラーも真っ青な反則技のオンパレードだけどね。
ヨスガシティ ブライダル会社
アッシュの暴走から数日、ヨスガシティの知事、シンタロウは半ばクーデターの様な形で政権を奪われた。今まではヨスガの人口の大半をシンタロウを指示する人間、富裕層で占めていたため選挙で勝ち目がなかった議員が知事になった。おかげで、ソラとヒロみたいに兄妹で愛し合うことを許容したロード族の文化がシンオウに戻ってきた。
フリサ族も近親相姦を認める風習があるが、それはロード族の影響が大きい。普段は対立なんてしない二つの民族だが、大昔にこれを巡って争い、多くの犠牲を出した。圧倒的不利だったロード族が微塵も退かないため、フリサ族が折れる形になった。
「兄さん、こんなのはどうかな?」
「お色直しの後か。うーん悩む」
ヒロはソラのドレスの試着を見ていた。深紅のドレスを身に纏い、ソラはヒロによく見せるためクルッと一回転してみせる。
シンタロウ政権下では考えられないことだが、今こうして、血が繋がっていようが同性だろうが、愛し合う二人が味わう幸せをみんなが平等に感じられる日が訪れたのだ。まさにロード族の愛文化さまさまであるが、シンタロウと戦った子供達を忘れてはならない。
「ありがとう、イヴ、ヒサメ、アッシュ。町はボロボロだけど、人の心は自由な愛に満ちているよ」
ヒロは兄として、一人の町医者として、愛する妹のウェディングドレスを選べる幸せを、みんなが愛を解放出来る様になったことを感謝していた。
数日前 209番道路
アッシュとアリスを仲間に加えたイヴとヒサメは、トバリシティを目指して旅をしていた。ヨスガ知事のシンタロウを倒し、印鑑も手に入れた。ヨスガシティの崩壊から一日後のことである。
「印鑑はもういらないんじゃないでござるか?」
「キッサキへの交通には必要なの」
イヴは崩れた役場から、シンタロウの印鑑を持ち出していた。今は使用が禁止されているドンファンの牙で作った印鑑だ。
シンオウの北、キッサキへ向かうためにはテンガン山にある関所を越える必要がある。山道故に一人くらいならこっそり抜けられるが、これだけ大所帯だとそうもいかない。
特に、アッシュは元々体が弱く、度重なる暴走で消耗していた。エンブオーのマインに背負われて移動する始末であり、山を越えるのは厳しいだろう。
考えてもみればなかなか美少女揃いな一行だ。イヴは黒いダッフルコートがよく似合う、ヤミカラスの濡れ羽みたいな黒髪を背中まで伸ばし、紅い瞳がルビーの様に輝く美少女。アリスも金髪が太陽を反射して煌めき、青いワンピースが似合っている。ヒサメはニューラカラーのマフラーに腕と脚を大胆に露出した忍者装束と服装こそアレだが、天真爛漫な笑顔は可愛い。アッシュだけが少年だが、灰色のパーカーという少年らしい格好ながらどう見ても少女にしか見えない様な顔立ちをしている。
「あれが『みたまの塔』ね。地下通路で32人と出会うと、あるポケモンが復活するらしい」
「聞き覚えある伝説だな」
イヴ達が長い道路を歩いていたら、石で出来た小さな塔を見つけた。これはシンオウの伝説に残るみたまの塔だ。アリスも伝説は知っており、少し興味を示した。
「なんか声が聞こえない?」
「確かに、ポケモンの鳴き声みたいなのが聞こえるでござるな」
アッシュとヒサメは、何かの声が聞こえていた。アリスは身震いしながら、それを否定する。
「聞こえない。変なこと言わないでよ、ロストタワーがあるんだから」
ロストタワーとはポケモンの墓が並んだ塔である。その影響か、付近にはゴースが出現するのだ。
「で、この自転車軍団はなんだ? 変態か?」
「うわー、なんか懐かしい光景」
そして、アリスは自転車で道路を爆走する集団を見つけた。アッシュが旅立って初めて見た光景と似ており、懐かしさを禁じ得ない。
「あの胴着、八賢老のカラブリの弟子かな?」
「あ、確かにそうでござるな」
イヴは着ている柔道着から、カラブリの弟子達と判断した。自転車の籠には、ポケモンの卵が大量に積まれていた。
「集合!」
「押忍!」
みたまの塔の近くにいる、仙人みたいな老人がカラブリだろう。弟子達を集め、何やら変わった石みたいなものをみたまの塔にはめさせた。石は相当重たいらしく、弟子が数人掛かりで持ち上げた。
「これで完成じゃ。さぁ、最強のポケモン、ミカルゲを復活させるぞ!」
「ミカルゲの封印を解く気か?」
どうやら、カラブリ達はミカルゲというポケモンの封印を解くつもりらしい。アリスは戦慄した。ミカルゲというのは、凶悪な罪人の魂が108つ集まって生まれたポケモン。つまり、下手に起こせば何が起きるかわからないのだ。
「さあ、目覚めよミカルゲ!」
みたまの塔にセットされた石のひび割れから、紫のもやが現れた。それこそ、ミカルゲである。
「ユラーッ!」
『ミカルゲ、ふういんポケモン。108個の魂で出来ている。二度と悪さをしないように、かなめいしに縛り付けられている』
アッシュがポケモン図鑑で確認した。実は今のところ、図鑑を持っているのはアッシュだけである。
「では早速捕まえよう」
カラブリはボールを投げてミカルゲを捕まえた。だが、対して弱らせていないのですぐボールから出て来てしまった。
「仕方ない、弱らせるぞ。かかれ!」
カラブリが弟子に命じて、ミカルゲをたこ殴りにしようとする。しばらくひっちゃかめっちゃかになった後、ミカルゲはヒサメの方に走ってきた。
「わっ、と。大丈夫でござるか?」
ミカルゲはヒサメに飛び付いたが、彼女は難無く受け止める。ミカルゲの体重は軽く100キロを越え、屈曲な男達が数人掛かりで持ち上げたあのかなめいしに繋がれているはずなのだが。さすがニンジャといったところか。
「それ、重くない?」
「え? 全然軽いでござるよ?」
イッシュでは『ニンジャはカラテの力で凄まじい身体能力を発揮する』ということになっており、どんな強力なユニーク・ジツがあってもカラテ無しには強さを語れない『ノーカラテ・ノーニンジャ』という言葉さえある。また、熟練のニンジャは脱げば脱ぐほど耐久力が上がるため全裸という噂もあるのだ。
「よく捕まえた、さあそいつを渡すのだ!」
「嫌がっているでござるよ?」
「知るか! 渡せ!」
カラブリはヒサメにミカルゲを渡す様に言う。だが、ヒサメはミカルゲが嫌がっているため、渡す気になれなかった。
「ヒサメ、逃げるよ! マイン、あの塔まで走って! ボクにいい考えがある」
アッシュはヒサメとマインに、近くにあった塔に走る様に指示する。
アッシュとヒサメはロストタワーに入る。そこで、アッシュはゴース達に声を掛ける。
「みんな、ちょっと手を貸して!」
ゴース達は自転車で爆走するカラブリの弟子達に嫌気がさしていたのか、簡単に手を貸した。追い掛けるカラブリの弟子達をシャドーボールで追い払う。
「よし、私達も」
「後ろから挟撃、少々卑怯な気もするが……」
「相手が複数の大人なら仕方ないんじゃない?」
イヴとアリスは弟子達を追い、挟み撃ちを仕掛けた。アリスは騎士だからかこの戦法を好まなかったが、状況が状況だけに仕方ない。イヴはリーフィアのアイン、アリスはポッタイシを繰り出して戦う。
「な、後ろから!」
「汚いぞ!」
アッシュ達に追い付く頃には、弟子をあらかた片付けていた。
「汚いって言われた……」
「勝てば良かろうなのだ」
弟子に汚いと言われてショックを受けるアリスに対し、イヴはもう勝てばいいという感じだった。
全員で塔を降りると、そこには憤怒に燃えるカラブリがいた。
「き、貴様ら、よくも我が空振り流の弟子を卑怯な戦術で倒してくれたな!」
格闘道場の師範であるカラブリが、弟子が倒されたのを黙って見ているはずもなかった。
「卑怯って……私は仕方なく……」
アリスは度重なる非難にガックリうなだれる。まだメンタルは弱いみたいだ。
「そうでござるぞアリス殿。挟み撃ちまではやり過ぎでござる」
そしてヒサメが追い撃ち。アリスは完全に再起不能になっていた。
「それ明らかにニンジャの台詞じゃないから」
「ニンジャの決闘は一度のアンブッシュの後は挨拶して正々堂々とするでござる。手本を見せるでござる」
イヴにそこを指摘されたヒサメは木の枝を拾い、何処かへ行く。かと思えば、いきなりカラブリの背後に現れて奇襲を仕掛けた。
「甘い!」
カラブリは木の枝を防ぎ、ヒサメは空中で前転しながら元の場所に戻る。
「ドーモ、カラブリ=サン。ヒサメです」
「なんだこれは?」
「挨拶に挨拶を返さないとスゴイ・シツレイに当たるでござるよ。古事記にも書いてあるでござる」
さすがにカラブリも困惑した。イヴとアッシュは何か間違っている様な気がしていたが、面白いので黙っていることにした。
「ドーモ、ヒサメ=さん。カラブリです」
カラブリの挨拶から僅か0.2秒後、ヒサメはカラブリに飛び掛かった。先程より太い木の枝を手にしている。八賢老死すべき、慈悲は無い。
「慈悲だらけじゃない。くないか手裏剣は?」
「数が無いので使えないでござる!」
どうやら補給不能という理由でヒサメは手裏剣を使わないらしい。イヴも、手持ちの手裏剣は里復興の時に資料になるからね、と納得した。
「というかポケモンバトルしなさいよ」
生身で激戦を繰り広げる二人にイヴが呟く。暴走するアッシュといい、どいつもこいつもリアルファイターばかりである。
「そうでござった。ツチカゲ、そこで見ているでござる。行くぞエッジ!」
ヒサメはズガイドスのツチカゲに見学させ、ニューラのエッジとバトルを開始する。
「甘い、我が力見るがよい。ゆけいカビゴン!」
カラブリが繰り出したのはカビゴン。厚い脂肪に覆われたカビゴンが相手では、エッジは不利だろう。
「脂肪に物理技が効くかな!」
「そうとも限らないでござる!」
エッジはカビゴンに普通のパンチを連発する。れいとうパンチではない。
「ニュラララララララララララララララッ!」
「貧弱貧弱ゥ! 無駄無駄ァ!」
ただのパンチではカビゴンにダメージを与えられない。だが、アッシュはパンチの軌道でヒサメの考えを理解した。
エッジのパンチは闇雲に連発している様に見えるが、カビゴンの脂肪を脇に避ける様に手を動かしている。
「そこでござる! れいとうパンチ!」
「ニューラァッ!」
脂肪を退かされ、骨に一撃を受けたカビゴンは大きく揺らいだ。先程の一撃で脂肪がたわみ、まだ脂肪は脇に寄せられたままになっている。
「ニューラララララララララララララララララララララララララララ!」
そのままれいとうパンチのラッシュでフィニッシュ。ヒサメはアホの子だけど普通に戦う限り強いのだ。カビゴンは遂に倒れた。
「わ、私のカビゴンが! こうなったら、逃げる!」
カラブリはカビゴンをボールに戻し、逃走した。テンガン山交通許可捏造の為に印鑑が欲しかったイヴが追い掛けようとするも、この道は自転車が通る道ですら凸凹で波導弾を当てることが困難そうだ。
カラブリは凸凹の中に消えてしまう。だが、イヴは諦めない。
「ガスト!」
フワンテのガストに掴まり、イヴは飛んだ。上空からなら、凸凹は関係ない。空からカラブリを見つけたイヴは波導弾で攻撃した。この前見たヒーロー番組で、ヒーローが緑色になって警官から借りた拳銃をボウガンに変え、空飛ぶカブトムシのメカに掴まって敵を狙撃したシーンからヒントを得た。
「ウゲー!」
カラブリを捕まえることに成功したイヴは、カラブリのいる場所まで降りて印鑑を探したが見当たらなかった。
「印鑑はどこ?」
「そんなもん持ち歩いてない!」
「そう」
持ってないそうなので、イヴはカラブリを解放する。本拠地に攻め込んだ時に手に入れることになるのだろう。
キッサキシティ 大神官の邸宅
八賢老最後の一人は、キッサキ神殿の神官である。その彼の邸宅というのはキッサキ一巨大であり、王宮の様な作りになっている。
その寝室は落ち着いて眠れる様な造りではない。きらびやかな調度品に囲まれたベッドは天蓋付きで、レースに金糸で刺繍されたカーテンが閉ざされていた。
「んっ……」
そこで目を覚ましたのは一人の少女。艶やかな黒髪を伸ばし、シーツだけをその雪の様に白い肌に纏わせる彼女は、ニューラニンジャの里の者だ。
「お目覚めかね、ニューラニンジャの裏切り者」
「私が裏切ったんじゃない、里が裏切ったんだ」
少女の寝姿をベットの外から堪能していたガウンの老人が話し掛ける。奴こそ大神官である。年端もいかぬ少女を寝床に連れ込むなど神職とは思えない生臭さであるが、そうでなければ八賢老の一員にはなっていない。
「私がみすみす裏切ることが出来る里が悪いんだ。だから、里は自分で自分を裏切ったことになる」
「よく言う。あれだけ綿密に密着したコミュニティーを裏切るなど並の人間に出来ることではない。それを自分の欲求の為に成すのは尚更だ。だが、よくぞ正直でいてくれたと感謝しよう。私はお前の様な若く美しい娘を抱けて幸せだよ、ユキメ」
ユキメと呼ばれた少女はシーツを身体に巻き、ベットから降りた。ユキメはエルトやオリジナルイヴくらいの年齢で、肌や髪の他にも、顔立ちやスタイルの整った美少女である。
「正直なのは当然。私はあんな里で枯れる人間ではない」
「そうか。そういえば、里に生き残りが出たらしいな。ニューラを連れた、ヒサメという小娘だ」
大神官から生き残りの情報を聞かされたユキメは少し安心する。ニューラニンジャのあらゆる秘術をいともた易く完成させるユキメには首領や長老でも相手にならないが、苦戦はしたくなかった。里の創始者、マニューラクノイチのフブキ以来の天才と呼ばれたユキメは、里随一の実力者であった。
生き残りがそんな彼女とは正反対に首領と創始者の血統であるサラブレッドながら『生まれる場所を間違えた』と言われるほど落ちこぼれのヒサメでは、どう転んでも心配は無い。ニューラのエッジ共々、ニンジャの素質は低い。
ユキメもニューラニンジャの本家であるフスベ流の血を受け継ぐ人間。ヒサメには血統でも勝ると彼女は考えていた。ヒサメは落ちこぼれだが、素直で健気な性格から周りに好かれた。唯一気に入らないのはそこだ。
オマケに何故か自分に懐いてくるので厄介であった。完璧なクノイチで通っているユキメとしては、アホを間近で見せられても怒れないのは苦痛であった。ポケモンを持てば変わるかと思いきや、ニューラのエッジもアホなので互いのアホに拍車がかかってしまった。
「思い出したら不愉快になってきた。寝汗流したいからシャワー行ってくる。神官様も来る?」
「当然だ」
ユキメは不愉快な気分を変えるため、大神官と浴場に向かった。ここは何もかもが満たされている。二人で入るのがやっとという風呂しか見たことのないユキメには、ここの湯舟は広く感じられた。
花を浮かべた湯舟は二人だけで入るには広く、公衆浴場並の広さがある。石鹸しか使ったことのない彼女の肌を、高級なシャンプーの泡が甘い香りと共に包んでいく。シャワーで泡を流せば、香りはさらに強く際立つ。シャワーもこちらに来て初めて見た。
「フフ、もうこんな幸せ知っちゃったら里には帰れないわね」
湯舟の中で大神官に身を委ね、ユキメは微笑む。身体を大神官に赦すだけで、里には無かったものがいくらでも手に入る。大神官の欲望をその身に注がれさえすれば、不自由は無い。
今まさに、清めたばかりの肉体を欲のまま汚れで貫かれているユキメであるが、まるで気にしていない。代償であるはずの汚れさえ、彼女を絶頂に導いて快楽を与えていた。浴場に響く嬌声こそ、ユキメが汚れを悦んで受け入れている証なのだ。
「ふぐっ……う、んっ!」
大神官の汚れそのもので肉体を何度も貫かれては、ユキメは全身から汗を吹き出しながら身をよじり、悶えた。愉悦が積み重なり、限界を迎えた所でユキメの身体が突如、強く反り返る。
「くぅう、あぁっ……! ぅ、ぁ……ぁ」
それと同時に汚れから熱を注がれると、頭の中が真っ白になって里とかどうでもよくなる。手指や足の爪先が痙攣した様に伸び、全身で吐き出された膨大な熱量を愉しむ。
「はぁっ、はぁっ、ぁあ……」
余韻に浸りながら、冷たい床にユキメは寝そべる。いつからか、代償であり苦痛だったこの行為すら幸福に変わっていた。
湯を出た後も、肌触りのいいタオルが水滴を取ってくれる。火照った身体を包むバスローブも高級なシルクで作られている。
快楽と興奮に苛まれた身体を癒す寝床は常にフカフカで、沈む肉体を受け止めてくれる。口にするものも里では食べられないものばかりだ。
「ヒサメは君の知らない術を持っているかね?」
「無いわ。あの子、忍術は使えないもの」
この幸せを得る為に、ユキメは里を裏切った。後悔は無い。里の場所の情報を売って滅ぼしたが、時代遅れなニンジャの里は滅んで当然とさえ考えていた。
だが、彼女は気付いていなかった。逃がしたヒサメが実は一番恐ろしいクノイチであることに。現に、彼女の周りには単体で敵に回すことすら避けたいトレーナーが3人もいる。
ユキメは、自分の間違いに気付いていない。
次回予告
ズイタウンを訪れたイヴ達。だが、その町にあるズイの遺跡にはアッシュにまつわる謎が隠されていた!
次回、『ズイの遺跡のアンノーン』