ポケットモンスター 灰色の疾風    作:級長

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 ニューラニンジャ
 雪山に暮らすニンジャで、キッサキ流やフスベ流など流派が存在する。映画『フルメタルコップ』に出て来るニューラニンジャは映画チックに弄られてる感があるらしい。
 キッサキ流は現在、ヒサメとユキメのみしかいない。


56.忍者の激突! 継承者ヒサメVS抜け忍ユキメ!

 カンナギタウン

 

 カンナギタウンにはシンオウの伝説にまつわる遺跡がある。アッシュに隠された謎を解くため、イヴ達はそこでシロナと合流することにしたのだ。

 「霧が濃かったね」

 「ヒサメがいなかったらどうなっていたことか」

 アッシュとイヴは道中のことを思い出す。ヒサメの先導でどうにかなったが、霧が濃いので前が見えなかったのだ。ヒサメは霧の中でも見えていたらしい。

 「ニンジャって何者なんだろう……」

 アリスは意外なヒサメの活躍にただ驚くしかなかった。霧の中で見えるというのは、夜目が効くのとはまた違う。光の有無ではなく、物理的に見えないのだから。

 「ここがカンナギタウンにござるな」

 「あ、イヴ久しぶり」

 カンナギタウンに着くと、ポケモンセンターの前でシロナが待っていた。イヴ以外はシロナと面識が無い。

 「……メンバー増えた?」

 「はい」

 旅のパーティーはエルトとイヴから、イヴとヒサメ、アッシュにアリスと大きく変わっていた。シロナは大体の面子をエルトから聞いてはいたが、伝聞以上に個性的なメンバーである。

 「とにかく、問題のアッシュって子はその子ね」

 「はい。何やら妙な力がありまして」

 「どれどれ」

 シロナはアッシュを見て、イヴの紹介を受けつつ持って来た資料をめくる。何かの書類らしい。

 「その力は間違いなく、『サザンドラの瞳』がもたらす物よ。変身はさておき、エスパー技の無効化なら間違いない。変身にしても、一部を除いてズイの遺跡にあった壁画に酷似しているみたいだし」

 「私もエルトから聞いた時、それを疑いました。でも、それだけじゃ説明出来ない能力があるんです。サザンドラの物とは違う翼があったり、他人の力を吸い取る能力があったり……」

 シロナはアッシュの力をサザンドラの瞳の能力と仮定した。ただ、イヴはそれだけではない力を知っている。

 「よくわからないでござる」

 「『サザンドラの瞳』って宝石ですよね。ボク、持ってませんよ?」

 ヒサメとアッシュは話の内容がよくわかっていないらしい。シロナとイヴが共有している仮説を、アリスが噛み砕いて説明する。

 「アッシュ、壁画に描かれた化け物の力と、あなたの力はよく似ているらしい。そしてその化け物が倒された跡に『サザンドラの瞳』が落ちていた。これって、則ちエスパー技の無効化や化け物への変身が『サザンドラの瞳』の力とは考えられない?」

 「そうだとしても、ボクが宝石を持ってないんじゃ……」

 アッシュは理解したが、肝心の『サザンドラの瞳』を持っていない。そうなると、どうやって『サザンドラの瞳』の力を使っているのかわからない。

 「『サザンドラの瞳』は宝石じゃないわ。『ガブリアスの牙』に関する文献があるけど、もしこの二つが同質のものだとしたら……」

 シロナは『ガブリアスの牙』に関係した文献の翻訳を持っていた。そこには、驚くべき事実が記載されている。

 「前に『ガブリアスの牙』に選ばれてイッシュから来た化け物を討伐した勇者が死んだ時、彼の犬歯が琥珀状に光り輝いた。勇者の妻があまりにそれが綺麗だからと、形見にして持っていたらしいの。その妻が死んだ時、その犬歯は彼女が肌身離さず持っていて死の直前まで手にしていたのに、妻が死ぬと同時に彼女の体に入り込んだらしいわ」

 「体に、でござるか?」

 「胸の中にひとりでに飛んで入ったって、看取りに来た人々が目撃している。妻を火葬した跡、その犬歯はカケラも見つからなかった」

 その話を聞いたイヴは、エルトの話を思い出す。

 「エルトが言ってた。『サザンドラの瞳』と『ガブリアスの牙』は同系の秘宝で、普通には所持出来ないって。手に入れた来世で、体の一部になる……」

 その話が本当なら、アッシュが『サザンドラの瞳』らしき宝石を持っていなくても力が使える理由がわかる。『サザンドラの瞳』は、アッシュの目になっているのだから。

 「ということは、アッシュの前世って……」

 イヴが重大な事に気付きそうになった時、村の何処かから爆発音が聞こえた。

 「た、大変じゃ! 変なニンジャが攻めてきたぞ!」

 村の老人が慌てて襲撃を伝えた。村に押し寄せているのは、ヒサメと似た様な服装をしたクノイチ達だった。

 「アイエエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

 「同じ顔のニンジャがいっぱいでござる!」

 アリスがニンジャリアリティショックを引き起こし、ヒサメは同じニンジャにも関わらず混乱していた。明らかにこれは影分身である。

 「アリスさん! しっかりして!」

 「マズイ……カロス人のアリスには遺伝子レベルでニンジャへの恐怖心がある。今まではヒサメが『ニンジャごっこ』程度にしか見えてなかったけど、あっちは明らかなガチニンジャ……」

 アリスは目を回して気絶してしまった。カロス人なので、どうしても逆らえない体質なのだ。

 「ガブリアス! げきりん!」

 シロナのガブリアスがげきりんでニンジャ達を薙ぎ払った。影分身はあっという間に消えさった。

 「ポケモンと違って、実体があるのね」

 「よく出来ました。さすがはチャンピオン」

 げきりんの後に、土埃の中から一人のクノイチが現れた。ヒサメより5歳は年上の少女である。

 「ゆ、ユキメ殿?」

 「久しぶりね、ヒサメ。最後の生き残りが影分身に気付かないなんて、もうニューラニンジャはおしまいの様ね」

 「知り合い?」

 分身を作っていたクノイチ、ユキメとヒサメは知り合いらしい。同じ里のニンジャというわけだ。

 「よかった! ユキメさんも生きてたんだ!」

 「ござるが無くなった……」

 「キャラ付けだったのね」

 同郷のクノイチが生きていた事にヒサメは喜んだ。素の部分が出てござるが無くなったが、そもそもこの口調は里にいた時に使っていなかった。

 里が壊滅した時、最後の生き残りとしての自覚を強めるため、そして家族や仲間を失った悲しみと寂しさを紛らわせて明るく振る舞うための方便だったのだ。

 「えへへ……本当によかった……」

 涙を滲ませて喜ぶヒサメに対し、ユキメは冷たく言い放った。

 「何を勘違いしているの? あの里を壊滅させたのは私よ?」

 「……え?」

 ヒサメは驚いて声が出なかった。もう一人の生き残りだと思っていた相手が里を壊滅させたというのだ。

 「何を言っているんですか?」

 「そのままの意味よ。里にポケモロイドを呼んで破壊したのは私なの」

 「う、嘘だっ!」

 「残念、本当なのよ」

 衝撃的な事実を聞かされ、ヒサメは一瞬気が遠退いた。だが、寸前で踏ん張って走り出す。

 「だったら……一族の仇! 覚悟!」

 「ひ、ヒサメ!」

 イヴがヒサメを止めようとしたが、それをアッシュが逆に止める。

 ユキメも走り出し、印を結んで分身する。本物のユキメから次々と分身が出現していった。

 ヒサメも印を結ぶが、両手を合わせる度に莫大なエネルギーがぶつかって太鼓の様な音が辺りに響いた。そして、それと同時に青い光も発生する。ヒサメから分身が出現し、その分身がまた分身を作る。分身が出来るペースもユキメより早い。

 「凄い! 明らかに強そう!」

 「隠密行動は無理みたいね」

 アッシュはヒサメの術に感嘆していたが、イヴは派手過ぎる術に危機感を抱いた。印を結ぶ度に音が鳴っていては、隠れて術は使えない。

 分身の出現ペースは衰えず、遂に分身と分身の隙間に分身が現れる様になった。走る集団の隙間に分身が出たせいで、分身ヒサメ軍団は全員見事にすっ転んでしまった。

 「ああ!」

 「マズイ、本物のヒサメが下敷きに!」

 最前列にいたヒサメは分身に押し潰されているだろう。ユキメの分身達は、それも構わず押し寄せた。

 「皆! 分身を止めて!」

 「アイン、ルカ、ガスト!」

 アッシュとイヴはポケモンを繰り出し、分身を食い止めさせた。その間にヒサメを救出する。しかし、分身とはいえ実体があるものだからなかなか上のヒサメを退かせない。そもそも、どれが本物かわからない。

 「忍術がサイキッカーの延長ならば!」

 忍術の原理がサイキッカーに近いものだとすれば、とアッシュは能力を発動して分身を消した。何故か先にユキメの分身が消えたが、ヒサメの分身も徐々に消えていく。

 「ヒサメ!」

 「大丈夫?」

 イヴとアリスが倒れているヒサメを何とか起こそうとする。ヒサメは分身の重みで潰されてしまった。だが、どういうわけか異様にヒサメが重くて起こせない。

 「重い!」

 「手裏剣とかのせいね」

 「ルカ、お願い!」

 イヴはルカリオのルカにヒサメを預けた。子供二人の力では無理だったのだ。

 「いえ、忍者装束の下に着ている鎖かたびらと修業用の重りのせいよ」

 「防具付けるなら手足隠しなさい!」

 イヴが重量の原因を訂正する。アリスは不満があったが、袖は手足の動きを阻害するし、鎖かたびらも重り代わりだ。それに、普段なら絶対付けない防具を付けるのはヒサメが最後の生き残りで死ぬわけにはいかないという事情がある。

 「フッ、今ね。死になさい!」

 「危ない! ネーベル!」

 ユキメがルカを攻撃しようとしたため、アッシュはバルジーナのネーベルを繰り出して止めた。

 「小癪なガキね。これならどう?」

 ユキメは明らかに6個以上のモンスターボールを投げ、ハッサム軍団を繰り出した。

 「みんな出て来て!」

 「マズイ、何が何でもヒサメを殺す気だ!」

 アッシュはエンブオーのマイン、コイルのラファール、キモリのフィリップを繰り出して応戦した。イヴもリーフィアのアイン、フワンテのガスト、ゴローニャのダクダ、タテトプスのフォートを出して対応する。

 「守ることは騎士の本分、いくぞ!」

 アリスもポッタイシと共にルカを援護した。だが、ユキメはハッサム軍団だけではなく自分も戦いに混ざる。

 「不本意とはいえニューラニンジャなのよね、私って!」

 「だったら、ボクに力を!」

 アッシュがユキメに向かって走り出す。その姿が、イヴ達が以前見た怪人の姿に変わる。ただ、その時は赤かった部分が紫になっている。

 「アッシュ!」

 「大丈夫!」

 イヴが暴走を懸念したが、どうやら大丈夫そうだ。そのままユキメとの戦闘に入る。

 「フン、ポケモントレーナーならポケモンにやらせなさいよ」

 「人間の相手は人間で十分だ!」

 「生意気!」

 ポケモンで対抗しようとして、ボールを投げる隙を突かれたレイとは違う。初めからポケモンに頼るつもりはない。

 「情報はある。サザンドラがベースなら、氷に弱い!」

 ユキメは氷で出来た手裏剣を投げ付け、アッシュを攻撃する。だが、アッシュはそれを高速で移動して避ける。

 「何っ?」

 「当たらなければ弱点だろうと!」

 当たらないなら弱点でも効き目は無い。分身し始めたユキメに対し、アッシュは吠えてそれを掻き消す。

 「うわぁっ!」

 咆哮があまりにも大音量なため、ユキメは思わず耳を塞ぐ。その隙にアッシュが彼女を殴り飛ばした。

 「ぐっ!」

 「手加減はしたから!」

 ユキメを思い切り岩壁にぶつけて気絶させると、アッシュは変身を解く。息が上がっており、しばらく動けそうにない。

 「アイン、リーフブレード! ガスト、シャドーボール! フォート、とっしん! ダクダ、ロックブラスト!」

 「ポッタイシ! ハイドロポンプ!」

 ポケモン達の一斉攻撃を受け、ハッサム軍団も壊滅した。これでユキメの手持ちは全滅だ。

 

 「……」

 「ヒサメ、本当にやる気なの?」

 気を失ったユキメを前にして、ヒサメはクナイを手に立ち尽くしていた。パートナーであるニューラのエッジも一緒だ。

 イヴはヒサメがユキメを殺すんじゃないかとヒヤヒヤしていた。普段のヒサメがアホなのに、こういうところだけニンジャらしく割り切られても困る。

 「ヒサメに出来るのか? 身内を始末するなど」

 「ニューラニンジャはこれから復興しなきゃいけない。そうなると一掃、敵への警戒を強める必要がある。やりたくなくても、やらなきゃダメなんじゃないかな?」

 アリスとアッシュも懸念があった。アッシュだって口ではこう言っても、5年後のヒサメからして人を殺した様には見えないのだ。あれで人を殺していたとしたら、恐ろしい。タイムパラドックスが起きようと、ヒサメがユキメを殺すのは止めるつもりだ。

 「里の裏切りは罪……だから」

 ヒサメはユキメの前に屈み、クナイを振り上げた。全員が息を呑む中、クナイはユキメに向かって振り下ろされる。

 「ヒサメさん!」

 アッシュが駆け出した時、ヒサメはクナイの刃を握った。クナイの刃がすっぽ抜け、柄がマジックになった。

 「よいしょ」

 「え?」

 ヒサメはそのマジックでユキメの顔に落書きをし始めた。全員の緊張が解けて、見事にずっこける。コガネの新喜劇ばりのこけ具合だった。

 「な、なんだマジックだったのね」

 「なんでニンジャが忍者のジョークグッズを持ってんのよ」

 イヴとアリスは一先ず安心した。だが、アッシュは気付いていた。落書きされているユキメの顔に、涙が落ちていることに。

 「私には……出来ない! こんなに憎いのに、殺せない!」

 「ヒサメさん……」

 この落書きは、ヒサメの精一杯の復讐だった。書いた『ばか』の文字が震えていて、悲痛な心の叫びを滲ませる。

 「うぅ……お父さん、お母さん、ごめんなさい、仇、討てません……」

 ヒサメの啜り泣く声が、カンナギタウンにこだました。実はユキメは少しだけ目を覚ましており、黙って落書きされていたのだ。

 (ヒサメか……アホだけど、泣いてるところは見たことないな)

 こうして、小さなクノイチの仇討ち物語は終わった。

 

 ユキメはシロナが呼んだ警察に連行された。ヒサメはまだふさぎ込んでいるのか、近くの池に潜って竹筒で息をしている。

 「水とんって……」

 「あのふて腐れ方はヒサメらしいわ」

 シロナもヒサメを慰めようとしたが、相手が水の中ではどうしようもない。イヴは逆に、普段のヒサメらしくなりつつあって安心した。

 全員で水面を見ていると、テンガン山の山頂辺りから爆発的なエネルギーの流れが発生した。カンナギ付近の霧が吹き飛ばされ、家が振動で揺れる。池も水が溢れてしまった。

 「な、何?」

 「なんでござるか?」

 イヴが山頂を確認する。ヒサメもヘイガニやシザリガー達と共に水面から顔を出した。

 「あの山に何かが起きたんじゃ……」

 「八賢老はテンガン山を封鎖して何かしていたのね」

 アリスが山を見上げ、シロナはこの現象の原因を探る。アッシュはというと、山から何かを感じていた。

 「ディアルガ……パルキア……?」




 次回予告
 八賢老の野望が達成され、脅威の力が解き放たれる。その時、オリジナルイヴは……。テンガン山での、最後の戦いが始まる!
 次回、『オリジナルイヴ散華』。事件の元凶は、終幕を見られない。
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