出番が久しぶり過ぎる様なオリジナルイヴについて復習。
オリジナルイヴはフジ博士が確立したクローン技術で生み出された、イヴのクローンである。
しかし、正確にいえばイヴの両親、ユートとエディのDNAデータを基に作られた細胞から生み出したため、DNA塩基配列は厳密にイヴと同じではない。さらに、この様な不正確な人造細胞から生み出されたためクローンとも言い難い。そして寿命も通常のクローンより短く様々な病気も併発している。
クローンながらオリジナルイヴがイヴより年上なのもそういう理由からである。
手持ちのリザードン、カメックス、フシギバナがメガシンカ出来ることから、ポケモンとの絆は強い。エルトが彼女を認めて命を救おうとした理由がこれ。ちなみに革製品を好む理由は不明。
テンガン山 麓
異変を察知したイヴ達はシロナと共に、テンガン山を目指した。
「遅かったじゃないか」
アカギが先に麓の洞窟入口まで来ていた。アッシュとアリスはアカギの初対面である。
「君達は?」
「始めまして、こういうものです」
「私は騎士見習いのアリスです。……名刺持ってるんだ」
アッシュは探偵としての名刺を渡して自己紹介。そんなものを持っていたのか。
「ポケモン探偵……? まぁいい、とにかくテンガン山に登るぞ」
メンバーも揃い、テンガン山登頂を目指す。テンガン山の中腹からは雪が積もり、過酷な環境だ。
「しかし道に迷いそうね。登山道が無いから」
「ポケモン達が頂上に行くわけでも無し、獣道もそこには繋がらんだろう」
シロナとアカギが危惧した様に、山頂までの道がわからないのだ。八賢老に封鎖されている上、元々登山に選ばれる道ではない。
「あ、もしかしたら数年前に調査隊が通ったルートなら……。機材を運ぶから比較的平坦な道を辿れば……」
シロナはそこで、テンガン山の遺跡を大規模な調査隊が訪れたことを思い出す。考古学者的な発想で道を探す。
「道案内見つけたよ!」
一方アッシュはユキカブリに道を聞いていた。当然、その土地に住むポケモンの方が詳しいに決まっている。
「ほう、この名刺に書かれている『ポケモンと話せる探偵』というのは本当みたいだな」
アカギはアッシュの力に興味を示していた。前世についても気になるところだったりするのだろうか。
「ポケモンと話せる能力大活躍ね」
「それより皆は寒くないでござるか? 皆見てると寒そうでござるよ?」
「あんたには言われたくない」
イヴはそんな方法で道を見つけたアッシュに感心していた。代わりにヒサメには呆れていたが。それはこちらの台詞だ。豪雪地帯を大胆に手足を露出した忍者装束で歩くなど、正気の沙汰ではない。
あとヒサメはさっきまで池に潜っていたからびしょ濡れのはずだ。その証拠に、忍者装束が凍っている。
「ニューラクノイチとは凄いのだな。全く普段通りだ。普通、寒いと身体は温めようとして血行を増やすから、肌が赤くなるはず。なのに白いままだ」
アカギはヒサメに興味津々だった。幼い少女をあちこちから見渡す様子は完全に不審者。シロナもこれにはドン引き。
「あ、そうだ。シロナ、この戦いが終わったら伝えたいことが……」
「あのシーンの後に言う台詞じゃありませんね」
天才と馬鹿はなんとやら。イヴはアカギのペースに呑まれていた。
「今だ、当て身!」
緊張感の無い登山の最中、アカギは突然イヴ、ヒサメ、アッシュ、アリスに当て身をする。全員がバッタリ気絶した。
「な、何を?」
「この先は危険だ。子供達はこの洞窟に置いていく。ゴルバット、子供達を頼む」
アカギは4人の子供達を危険に巻き込まない様、置いていくことにしたのだ。ちゃんとポケモンに見張らせている。
「いたた」
「う……いきなり何を……」
「えっ?」
しかし、普通にイヴとアリスが起き上がる。少し遅れてアッシュも目を覚ました。
「普通気絶すると思うが……」
「騎士はこれくらいで気絶できないので」
アカギの困惑にアリスが答える。そういえばさっきもニンジャリアリティショックからいつの間にか立ち直っていたな、とイヴは思い出す。
「波導防御、役に立ちそうね」
「うーん……。やっぱり波導と似た様な使い方は無理かな?」
イヴとアッシュは自分の力で防御していた。アッシュは波導を参考に力の制御を試していたのだ。
ただ、ニンジャのヒサメだけが普通に気絶していた。なんでお前だけ。
「ほら、ヒサメ起きなさい」
「むにゃ……母上、分身出来たでござる……ハッ、夢か……」
イヴがヒサメを叩き起こす。寝言の内容に全員が目頭を押さえる事案が発生した。
一行は八賢老絶許の気持ちを一層高め、山を登る。もうすぐ頂上だ。
「ちょっと待って! 何か気配を……」
「誰もいないでござるよ?」
イヴが途中で気配を感じた。相変わらずニンジャは気付かない。目の前には山頂の遺跡が広がっている。後ろは隠れる場所もない山道だ。
「待ち伏せなら今来るでござるよ」
「ある程度進んだところで顔を出すつもりね。そうすれば囲めるから撤退はできない」
待ち伏せであるならばタイミングは今だとヒサメは考える。だが、シロナは包囲される危険性を考慮している。
「そんな悪いこと考えなかった……!」
「本当にニンジャ?」
ヒサメは本気でその考えに至らなかったらしく、心底驚いていた。アリスはヒサメがニンジャなのか疑わしくなっていた。
「バレたら仕方ないな」
姿を現したのは、八賢老の大神官であった。何故八賢老自ら待ち伏せなどしたのか。さすがに大神官直属の部下もいたが。
「この神聖なる山には我々以外入れたくないのでな。オマケに八賢老は全滅だ。最後の決戦といこうか」
「何が目的だ!」
イヴは大神官に食ってかかる。奥の遺跡では、何かが胎動していた。そして、膨大なエネルギーの流れと共にそれが目覚める。
「な、なんでござるか?」
「あれは……ポケモン?」
「多分違う!」
ヒサメの視力がその姿を捉える。人間の様に見える。アリスからは超常的な力を持つポケモンに見えたが、アッシュは本能でポケモンではないと感じる。
「ディアルガとパルキアの装飾?」
「バーストしたのか?」
シロナはそれの肩はパルキアのよう、胸部はディアルガの様に見えた。アカギは文献に乗っているバーストではないかと想像する。だが、バーストにはある人間の面影が無い。アッシュの暴走体に近い雰囲気だ。
「あの神は我々に永遠の命をくれるそうだ。だから力が戻るまでここを守っていたのだ!」
「テンガン山封鎖はそれが目的だったのね!」
大神官の言葉でイヴは理由不明のテンガン山封鎖にも納得がいった。エルトは封鎖をすり抜けたらしいが、本命が山頂なら通路の警備は手薄なのだろう。
「神の復活には莫大なエネルギーが必要だった。そこで電力や石炭に目を付けたが、邪魔されて時間がかかってしまった!」
「では、こうてつ島のアレは……」
ヒサメはそこでこうてつ島などを思い出す。クロガネの鉱山やソオノの発電所を狙ったのは、エネルギーを得るためだったのだ。
「さぁ、まずは貴様らを神の供物にしてくれるわ! 行けい! レジギガス!」
「神殿からレジギガスを?」
大神官が命令すると、レジギガスが山を登ってきた。頭にはレジアイス、レジスチル、レジロックまでいる。
さすがのチャンピオン、シロナでも伝説級4体はキツイ。特にレジギガスは様子がおかしい。つまり大陸を引っ張ったとされる伝説中の全力を出して来る可能性がある。
「なんてことを!」
「フハハハッ! 死ね若造共!」
レジギガスが腕を振り上げ、イヴ達のいる場所を叩き割ろうとした。その時、上空からかえんほうしゃで援護射撃があった。直撃を受けたレジギガスの動きが止まる。
「親より先に死ぬのは親不孝、ってな!」
「イヴ! 遅れた!」
援護したのはメガリザードンYに乗るエルトとオリジナルイヴだった。オリジナルイヴは完全防寒というくらい着込んでいるが、エルトは普段通りの格好。寒くないのか。
「早く神をぶちのめせ! それで全部終わる!」
「ここは私達に任せて!」
レジギガスをエルトとオリジナルイヴ、シロナとアカギが引き受ける。イヴ達は神に向かって走る。
「させるか!」
「お前の相手は私だ!」
イヴ達を止めようとした大神官に立ち塞がったのはオリジナルイヴ。メガリザードンYに加え、メガカメックス、メガフシギバナまで出してきている。
「ゲホッ……さすがに3匹同時メガシンカはキツイか……でもね、イヴ。あんたを巻き込んだことは償わせて」
オリジナルイヴは口元を押さえる。その手は赤く染まっていた。
「馬鹿め、私の強さがあればこそ神官になれたのだ。その私に刃向かうか! いけ、王の配下よ! 小娘を捻り潰せ!」
「どうせ短い命だ、子供なんて残せる身体でもない。だったら、あの子達を助けて命を繋ぐ!」
レジスチル、レジアイス、レジロックを操り、大神官はオリジナルイヴに立ち向かう。メガシンカしたポケモンと伝説のポケモン。力は互角。トレーナーの腕がすべてを決める。
「メガシンカ!」
エルトもバシャーモのイチローをメガシンカさせる。レジギガスはシロナ、アカギ、エルトが食い止めている。
「まずはリザードンがレジスチルを! カメックスとフシギバナはレジロックを倒して!」
オリジナルイヴの指示でメガリザードンはレジスチルに、残りがレジロックに向かう。
「かえんほうしゃか、レジロック! レジスチルを庇え!」
大神官はオリジナルイヴの戦術を予想し、対策を立てた。だが、リザードンは尻尾でレジロックをフシギバナのいるところまで吹き飛ばし、そのままレジスチルを持って空を飛んだ。
「あれは!」
「リザードン、ちきゅうなげ!」
空を回転しながら勢いを付け、リザードンはレジスチルを叩き付ける。レジスチルは戦闘不能だ。
フシギバナは飛んで来たレジロックをつるのムチで更に上空へ打ち上げる。そこをメガカメックスが巨大な大砲から出すハイドロポンプで撃ち抜いた。
「一瞬で2体を……」
残るはレジアイス。だが、逆に1体に絞られたことで大神官は命令しやすくなった。
「みずのはどう!」
「防げ!」
みずのはどうが飛んできたため、大神官は防御の命令をした。しかし、みずのはどうのすぐ後ろをだいもんじが飛んでいた事に気付かなかった。
「しまった! 避けろ!」
しかし、みずのはどうを浴びて目隠しされたレジアイスは間に合わなかった。遂に王の配下は全滅する。
「なんということだ!」
「フフ、ご苦労だったな」
大神官が慌てていると、声が聞こえた。なんと、神が力を取り戻したのだ。
「神よ!」
「忠義者よ、まずは貴様に永遠の命を与えようぞ!」
「ありがたき幸せ!」
神は炎の様なものを大神官に飛ばす。すると、燃え上がった大神官が若返った。そして、炎の翼を広げて飛んでいるではないか。
「なんという力! まずはあのガキ共を始末しましょう!」
そのまま大神官はイヴ達に炎の鳥を飛ばす。その鳥が速いので、イヴは反応出来なかった。
「しまっ……」
「イヴ!」
イヴの目の前で火の鳥は爆発する。彼女の目の前には、直撃を受けて傷付いたオリジナルイヴがいた。まだ少し、服が燃えている。
「オリジナル!」
「これで……いいんだ。行きなさい、イヴ!」
オリジナルイヴは地面に崩れ落ちる。イヴはオリジナルイヴに複雑な感情があったが、目の前で仲間を傷付けられて何も感じないわけではない。
「大神官っ!」
イヴは無意識に特大の波導弾を放った。それは大神官に当たったが、まるで効いてない。いや、ダメージはあったが再生しているのだ。
「無駄無駄ァ! 私は不死身なのだよ!」
「ほう? なら試すか」
余裕を見せる大神官の目の前にバシャーモのイチローが姿を現す。
「イチロー! 高級ブランドのサンドバックだ、遠慮なく叩け!」
「アバーッ!」
イチローはかそくが乗ったほのおのパンチを大神官に叩き込む。凄まじいラッシュで、不死身とはいえ大神官の顔は腫れ上がる。
「オーバーヒート! もうか! 重ね掛けの大サービスだ!」
人間の身でイチローの全力を受け、大神官は不死身なのに死にそうだった。
「貴様!」
「トレーナーの仇だ、ケーケー!」
イチローに反撃しようと大神官が翼を広げた。その後ろからエスパー技が次々に飛来した。ユンゲラーのケーケーだ。
ふと大神官が見た真下に、謎の亀裂があった。どうやら、何かが地面に潜ったらしい。
「永遠にさ迷え」
大神官がエルトに気を取られていると、その亀裂からメガバシャーモが噴火と共に吹き出した。
「ボルケーノブレイズキック!」
「ヌオォォッ!」
大神官はキックで空へ飛ばされた。燃えたまま自由も利かず、雲を越えて空高く打ち上げられていく。最早、シンオウ地方は若返った視力でさえ見えない。不死身とはいえ痛いものは痛い。ダメージで意識が飛び、挽回ができない。
これが不死身に慣れ、痛覚が無くなっていれば結果も変わったはずだ。
大神官は遂に大気圏を突き破って宇宙に出た。宇宙は寒いと聞いていたが、逆に太陽が当たっていると焼ける様に熱い。
「馬鹿め、この程度翼で……」
大神官は何とか炎の翼を出そうとしたが、自分の後ろを見て驚愕する。
「馬鹿な……彗星だと?」
なんと彗星が飛んでいた。目立つようなサイズではなく、尻尾も小さいが、近くで見れば間違いなく彗星だ。その驚きで一瞬気を取られ、彗星に激突してしまう。
「うげぶ! 待て! うご……息が……」
彗星の尻尾は猛毒のガス。大気には弾かれるが、宇宙は大気が無いから宇宙なのだ。彗星は誰にも見付かることなく、そのまま何処かへ行ってしまった。
「喜べよ、世界初の外宇宙旅行だ」
エルトは彗星での楽々移動プランまで組んではなかったが、噴火のエネルギーで大神官を宇宙に吹っ飛ばす気満々だった様だ。
「オリジナル、大丈夫か! あ、お前らは早く神倒せ!」
「う……エルト?」
エルトが倒れたオリジナルイヴに駆け寄り、同じく駆け寄ろうとしたイヴ達を神の場所に急がせた。
「げきりん!」
後ろでシロナにより、レジギガスが倒れた。オリジナルイヴに着ていたコートをかけ、エルトは彼女を抱き起こす。
「夢……みたい、誰かの腕の中で死ねる……なんて」
「お前……」
「ポケモン達、お願いね」
ポケモンのことをエルトに托すと、オリジナルイヴは目を閉じた。まだ息はしているが、今から下山しても麓までは持たないだろう。
元々生い先短い命だ。満足げな寝顔が見れただけでも、エルトは安心出来た。
「頼むぞ、お前ら」
そしてエルトは、4人の後ろ姿を見送る。神の居場所まで4人は走る。そして、遂に対峙する。
「ふん、貴様五年後から来たアッシュだな? 私にはわかるぞ、神だからな。貴様が帰るのに力を借りたいディアルガは私が取り込んだ! パルキアもだ!」
「だったら倒して解放する!」
アッシュがテンガン山を目指した目的であるディアルガは神が取り込んだらしい。だが、アッシュは意にも介さない。
シンオウの未来を賭けた決戦が始まる。
次回予告
遂に神との対決が始まる。だがこれは、アッシュにとっての決戦の始まりに過ぎなかった。イヴは、ヒサメは、エルトは、そしてオリジナルイヴは、5年後に向けて何をするのか。それはアッシュが一番知っている。
次回、『さよなら、そして久しぶり』。アッシュ、再び時を渡る!