笑わない天使   作:FARADON

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第6話

「やめておけ。復讐なんて」

何度目の言葉だろう。俺は奴にそう語りかけた。

クラピカはじっとオレを見据えて言い返す。

「私からその言葉を取ったら、他には何も残りはしない」

「…………」

平気な顔をして、奴はそう言う。何も残りはしない。

何故だ。何故、そんなことが言える。

お前の中には復讐しかないのか。

それ以外の悲しみも喜びも何もないというのか。

「……復讐、復讐って、それってつまりは人殺しじゃねえのかよ」

つい、そう言ってしまってから、俺は慌てて口を閉じた。

さすがに、この言い方は奴の逆鱗に触れたこと、間違いないだろう。

「貴様に何が分かる」

思った通り、いつもの決まり文句が奴の口から発せられる。

「こんな場面でありきたりな正義論を唱えようとでもいうつもりか。私相手に。私には許される殺人と許されない殺人の定義などわからない。だが、やつらは殺さなきゃならないんだ。始末しなければ……」

「…………」

「お前に分かるか。一人生き残ってしまった者の罪の重さが」

「罪……だと?」

「皆、死んでしまった。生き残った私が同胞の無念を晴らすのは当たり前の義務だ。私がやらなければ、誰がやるんだ。このままでは誰一人浮かばれない。私は……」

「…………」

こいつは何を言ってるんだ。

罪とはなんだ。

一人生き残ってしまったことは罪なことなのか。

生きることが罪なのか。

生き残ることに、生き延びることの何処に罪がある。

何故生きてはいけない。何故同胞が死んだからって共に死ななければ罪になるんだ。

そんな理屈、俺は分からない。分かりたくもない。

「お前、どっかおかしい。狂ってる」

「……なっ……なんだと」

クラピカの顔にサッと怒りの炎が見えた。

「お前は、罪という言葉をはき違えている。間違ってる。勘違いも甚だしい」

「貴様……」

「お前から復讐という言葉を取ったら、何も残らない。そう言ったな」

「ああ」

「じゃあ聞くが、お前は、この世に未練も執着も何もないっていうんだな。復讐さえ遂げられたら、それ以外の事には全て無関心でいられるというんだな。お前には、それ以外何もないって言うんだな」

「ああ、その通りだ。それの何処が悪い!」

「多いに悪い!!」

俺はおもむろにクラピカの腕を取り、そのまま地面に引きずり倒した。

無性に腹が立った。腹が立って腹が立って仕方なかった。

そして、こいつをめちゃくちゃにしてやりたくなった。

「…………!?」

「そんなに自分自身に執着がないっていうなら、俺がお前を奪ってやるよ」

「なっ……!?」

「言ったろう。復讐以外のことには無関心だと。だったら何をされても平気なわけだ」

掴んだ腕を捻りあげたまま、俺はクラピカの首筋に唇を押しつけた。

「なっ……何をするつもりだ!?」

「うるさい。黙ってろ」

言いつつ、俺はクラピカの服の裾をたくし上げた。真っ白なサラシを巻いた胸が露わになる。

やはりな。

性別を隠したがる理由。実際に男であったら隠す必要はないことだ。

女であるが故の不利。こいつはそれが許せなかった。そんな自分を認めたくなかった。

力が足りないことも、戦闘能力が男より劣ることも、何もかも。それが自分が女である所為だなどと認めたくなかった。

だから。

サラシで胸を覆い隠して。

心まで覆い隠して。

それで隠せるとでも思っていたのか。それで女である自分を隠せるとでも思っていたのか。

きつく巻き付けたサラシに手をかけると、クラピカが真っ青になって身体をよじった。

「よせ!何をする!やめろ!!」

思った通り、この細腕では実際の力比べで俺に勝てるはずはない。油断していたとはいえ、ここまで見事に押さえ込まれてしまっていたら、身体の自由は完全に利かない。掴まれた腕を振りほどこうともがいても無駄な抵抗だと思い知るだけだろう。

クラピカの顔からさっと血の気が引く。

きつく縛ってあった結び目をほどくと、やけにあっさりとサラシが緩み、白い肌が見えた。

日の当たらない白い肌は本来のこいつの肌の色。きめ細かく滑らかで。

「……き……貴様……」

クラピカが更に身をよじる。その行動は完全な逆効果だろう。緩んだ白い布の隙間から、成長途中のほんのり膨らんだ胸が覗いた。

「…………!!」

恐らく今まで誰も触れたことのない部分だろう。

クラピカは顔面蒼白のまま、俺の行為をどうすることも出来ずに額に汗を浮かべる。

瞳に宿っているのは、拒否と嫌悪と驚愕。

俺がちらりと見えた胸の突起に手を伸ばした瞬間、とうとうクラピカが叫び声をあげた。

「やめろ!嫌だ!……レ……レオリオ……!!助け……」

悲鳴のような叫び。

「レオリオ……!!」

オレはそれを引き出してようやく掴んでいた手をゆるめた。

束縛から解放され、クラピカは胸を隠しながら俺の手を逃れて壁際に身を寄せる。

乱れた呼吸。上気した頬。微かに震える肩。

女の顔。

俺はほっと安堵の吐息をもらし、床に胡座をかいて座り直した。

「何だ、ちゃんとあるじゃないか。未練も執着も」

クラピカが驚いたように目を見開く。

「…………」

「レオリオ……か。なるほどね」

「…………」

「そいつに逢いたいんだろう」

「…………」

「ちゃんと、あるじゃないか。未練が」

皮肉な顔で笑って見せると、案の定クラピカは怒り心頭に達したという表情になった。

「貴様……私を試したのか!?」

緋色の目がちらりと覗く。

ああ、これが緋の目なんだ。

世界7大美色のひとつと言われる緋の目なんだ。

やけに冷静な目で、俺はじっと、その見事な緋色を見つめていた。

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