ハンター世界の復讐者   作:慧春

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最悪な出会い

 

 少女は絶望していた……何でこんな事になってしまったのか――と……

 

「すぅ~~ハァ~~! 良い臭いだなぁ……やっぱり、女の子は10歳までが至高だねぇ~~」

 

 気持ち悪い……それが、己の手足を拘束し、彼女の今の年齢(・・・・・・・)に相応しい微かな胸に顔を埋めるように押し付けながら、そんなことを宣う男に関する彼女の偽りのない本音だ。

 

 因みに彼女は、男が言うような年齢を少し越えた12歳だ。因みに前世(・・・・・)も合わせたら精神的には35歳だと彼女は思っている。だから彼女は『オレは12歳だ!』と叫び、目の前にいる自分に覆い被さる男を殴りたかった……

 

 しかし、それは叶わない――それは、体を拘束されて動けないだとか、口を塞がれているから声が出せないという理由ではない。

 確かに、彼女は目の前の男に拘束されており、手足の自由は効かない。

 だが、別に口を防がれているわけではないのだ……だから、彼女は『変態』『ロリコン野郎』『強姦魔』――他にも思い付く限りの罵詈雑言を頭に浮かべ、口汚く罵ってやりたかった……

 体は拘束されても、心までは屈しない……それを証明するためだ……それは、前世での二十年間以上の人生を男性として生きた彼の…彼女の最後のプライドを示す為に――

 

「どうしたのぉ~? 抵抗してくれないと詰まんないなぁ~~」

 

 だが、口は歯をカチカチ鳴らし、喉はカサカサに乾き、胸は過呼吸で上下するばかり……

 ただ、彼女は自分に覆い被さり、嗜虐を宿した瞳で見下ろす男の、醜悪な欲望にまみれた顔を涙を流しながら見上げているだけだ……

 

 そう、彼女の心境はある当たり前(・・・・・・・・・・・・)の『感情』で満たされていた――

 

「怖いのかい? お嬢ちゃぁあん?」

 

 そう――それは『恐怖』。

 自らが、強姦されると認識し、それに抵抗も出来ない……その様な状況に陥った少女の心境は、その感情で満たされており、それには目の前の男に対する『嫌悪』『怒り』『憎悪』――それらを簡単に上回り彼女を『絶望』させてしまう……

 

 それは、彼女が弱いからではない……当たり前のことなのだ。

 女としては当たり前の心境……その恐怖は、男としての精神を持つ彼女をして、絶望させてしまう……

 

「……まぁ、良いか……君みたいな綺麗な女の子が壊れる様子を見るのも愉しいしねぇ~~大丈夫だよぉ……僕は君が『人形』みたいになっちゃっても、一杯いっぱ~い愛してあげるからねぇ~~」

 

 そして、男はその醜悪な顔を更に歪ませながら、醜く嘲笑(わら)いながら『あの子達みたいにねぇ……』と、そんな事を呟いた。

 少女は悟った――否、明確に認識してしまった……自身がどの様な目に遭うのかを――

 

 そして、男は彼女の服の中に手を侵入させていく……彼女の恐怖を煽る為か、ゆっくり、ゆっくり……彼女にも解るようにゆっくりとその腕は彼女の女としての大切な部分に近付いていき――

 

 

「邪魔だ――」

 

 

 ――彼女の服の一部ごと、男の体は『何者か』に蹴り飛ばされて、宙を舞い……壁にその勢いのままに衝突し、血の華を咲かせた――

 

 

「……へ?」

 

 余りにも呆気なかった……彼女をあれほどの絶望に追い込んだ元凶は……恐怖を抱かせていた存在は、余りも容易く、この世から消え去った。

 恐らくは男すらも、何が起こったのかを認識するよりも早くこの世を去った筈だ……

 

 何も、何が起こったのか理解する間もなく――簡単に彼女の中の絶望は払われた――

 

「お、おれ……」

 

「どうやら、生きているようだな――」

 

 『――助かったのか?』という言葉が出るよりも前に、恐らくは自分を救ったのであろう男が、発した言葉を聞いて少女はようやく、その男が、自分の恐怖を抱かせていた男を殺した人物であると思い至る……そう思った瞬間に少女は、一瞬――ほんの一瞬だけ緩んだ警戒の糸が更に張りつめた。

 

 簡単な話だ……目の前の『この男』は、自分に覆い被さっていた強姦魔(おとこ)を一撃で殺して見せたのだ。

 その圧倒的な暴力の矛先が自分に向かないと何故、思わないというのか………

 

「あ、あんた……」

 

「金髪に翠の瞳……見た目の年齢も一致するな――お前がこの国の至宝と評されるペンドラ家の才女『アルト・ペンドラ』……で、あっちの下半身を露出させた変態が『例の連続少女失踪事件の犯人』か?」

 

「え、あ…うん」

 

 自分の姿を、上から下まで一瞥すると、壁の染みとなった汚物(したい)を指差しながらこちらに尋ねてきた男に、彼女――『アルト』は、思わず素直にコクンと首を縦に動かし、返事を返した……その後で『しまったッ!?』と不必要な情報を渡してしまった――後悔するも、既に遅い。

 

 幾ら事実とは言え、このような得たいの知れない男に対して、自分の情報を与えるなど……と、顔を青ざめさせる少女から目を離さないままに、男は、未だに地面に仰向けに倒れて、自分に向けて顔を向けている少女に対して、視線を合わせるように地面に片膝を付き、次の言葉を発する――

 

「オレは『氷上(ひかみ)炎下(えんか)』……お前の救出、及び『そこのソレ』の始末を依頼された『ブラックリストハンター』だ……」

 

 彼女にも解るように、簡単に自己紹介しつつ、懐から『黒いカード』……ハンターライセンスを取り出して、彼女に見せる……

 

「(ハンターライセンス……それも、二つ星――本物か?)」

 

 

 アルトは、ライセンスの真偽を疑いつつも、高位のハンターの証を自分に見せている男を見やる――そして、男が『氷上炎下』と名乗ったこと…それに黒髪黒目、彼女の前世でそうであったように、毎日のように見ていた日本人の特徴を持った顔……前世の彼女である彼に比べたら、悔しいが、数段は美形だが……

 

「(日本人? いや、考えてみたらこの状況でオレをどうにかしない時点でオレに対して危害を加える気はないのか?)」

 

 日本人的な名前に、彼女が久しく見なかった日本人のような特徴のその男――彼女が見る限りでは、十代の後半から、二十代の中間辺りであろう年齢に見えるが……

 主にブラックリストにのる犯罪者を狩る『ブラックリストハンター』ならば、それも凄腕のハンターであるならば、彼女を心配するこの世界での家族が依頼したという可能性が高い。

 

「国の至宝にして、貴族の才女……それに、その外見――単刀直入に聞くぞ――」

 

 それは、ちょうど今、彼女が思い至ったたる可能性を肯定する言葉であった――

 

 

「――お前、転生者か?」

 

 

 アルト・ペンドラは忘れない――この日、彼女は二度目人生においての『希望』――そして、その二度目の生涯を懸けて全力で追い続けた『恩人』に出会った『欠けがえの無い日』を――

 

 自分を導き、護り続けてくれた…支えになり続けてくれた『狩人(ハンター)』――否、『英雄(ヒーロー)』に出会った二度目の人生の始まりを――

 

 

「――悪いが転生者であるなら、始末させてもらうぞ――」

 

 

 その最悪な始まりを――

 

 

 

 

 

 

 

 

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