転移と思い出と超神モモンガ様   作:毒々鰻

12 / 14
 とんでもなく間を空けてしまい、申し訳ありません。無理に鬱っぽい展開を入れようとして、全く文章を綴れなくなる阿呆をやらかしてました。
 結局、挑戦した部分を削除。とある原作キャラ達の出番も削除……。
 
 今回の主な捏造成分は、ギルドメンバーの食事に対する考え方(?)と、グリーンシークレットハウスを外装と内装の変更可能に。


5分以上も費やして

 

 万事を計画通りに進められたなら、焦燥とは無縁でいられましょう。大木を薙ぎ倒す風にも揺るがず、身の丈を越す積雪にも阻まれず、計画を推し進められたなら、天の摂理を呪う必要はありますまい。

 然れど諸行は無常であり、変化する状況に全計画の破棄を余儀なくされる事態も、しばしば有るものでございます。不要になった計画書を丸め、心の汗と共にゴミ箱へ投げ込むのが人の常。嘆いてばかりもいられないのであります。

 もっとも、計画遂行者の自制心不足こそが、当該計画の破棄原因である場合には、先ずは大いに反省するべきでございましょう。例えば、押入の整理に取り掛かったものの奥から出てきた漫画を読み耽ってしまい、せっかくの休日を潰してしまった等という場合には。

 計画は現実的に、そして、臨機応変に。

 

 ーー拙速こそを尊ぶべきなのに、60秒以上かけて飲食を楽しむなんて、俺らしくもない。この過ちはブリタ・バニアラのせいだ……と言ったら、酷い責任転嫁になるのかな。

 労働意欲に欠ける太陽が漸く全身を覗かせた頃、城塞都市エ・ランテルから冒険者の足なら小半刻ほどで辿り着ける丘の上に突如出現したピラミッド内に於いて。

 因みに当該ピラミッド(高さ57メートル)は、防御能力を向上させた上で外装を弄ったグリーンシークレットハウスであり、ユグドラシル終了直前に贈られたアイテムの一つでございます。

 ノーマルなグリーンシークレットハウスならば、モモンガ様も所有なさっておいででした。しかし、ユグドラシルの終了によって、それは失われています。

 ーー食料とは名ばかりだった疲労回復系アイテムを、飲食の禁じられたユグドラシルゆえにビジュアルだけだったグルメバーガーを、まさか口にする日が来ようとは! しかも、アツアツの出来立て状態で!

 人間態のモモンガ様……もとい、モモンガ・モモン氏は、多層構造な食品に齧り付いておいでです。肌色粘体な女史の幻影が、背後から羨ましそうに眺めていますけれど、気にしない方が精神衛生上よろしいかと。

 ーー名前にグルメを冠しようともハンバーガーはジャンクフードと、たっちさんは断言したけれど……。すいません。今なら俺は子細無用に、ぶくぶく茶釜さんへ加勢します!

 純銀の聖騎士殿は、幻影なのに悪寒を覚えているようです。肌色粘体な女史閣下様との舌戦で大惨敗した記憶は、ワールドチャンピオンをも苛むのでしょう。

 ーー茶釜さん曰く「カロリー的に悔しいっ! でも、食べちゃう!」だったよな……。

 噛み締めるたび口内に溢れる肉の旨味は、二段重ねの肉厚バーガーパテが牛肉100%だからこそ。

 格調高い甘味と酸味は、新鮮な輪切りトマトゆえ。

 みじん切りになった玉葱は食感を歌い上げ、特製ソースとスライスチーズは相克しながら高みを目指しています。

 そして、こだわりのバンズが、個性豊かな面々を包み込み調和させ、悟りの境地へと誘うのであります。

 ーーよもやこれほどとは。ギルドメンバーの……《料理人》だったあの人は、本当に美味しいグルメバーガーは味のオーケストラなんだと語っていたが……。

 

 最盛期のアインズ・ウール・ゴウンでは、ギルドメンバー達が個性豊か過ぎましたから、怒鳴り合いも日常茶飯事でした。

 それでも険悪な雰囲気が度を越す前に収まっていたのは、モモンガ様という優れた調停役が存在したからに他なりません。御方自身が斯くあろうと努めていたこともあり、モモンガ様が諍いの当事者になったのは稀でした。

 稀とは即ち、皆無ではありません。

 苛立ちのアイコンを連打するギルドメンバー達から、刺のある口調の集中砲火を浴びた思い出が、モモンガ様にもあります。一度だけですが。

 あの時、口火を切ったのは誰だったでしょうか。

「モモンガさん。俺達が、リアルで普通の社会人が、容易く旨い飯にありつけるとは言わないよ。俺だって、リアルじゃ泥みたいな栄養剤を啜るのが殆どだし」

 電脳法によって味覚の再現が禁じられたユグドラシルでしたが、己のキャラクターを《料理人》としてビルドするプレイヤーも居ました。彼等の作る料理は各種のバフや回復を目的にしたアイテムであり、食べるのではなく“使用”するのみだったのですが。

 リアルの劣悪な食料事情にあって尚、美味への憧憬を抱くプレイヤーが多かったのは、生物としての本能だったかも知れません。

「それでもさ。少しでも美味しい物を食べたいって考えを否定しちゃうのは、人間として歪じゃない?」

 結構ストレートな言葉を吐いたのは、ギルドメンバーの誰だったでしょう。

 ーー言い合いしたのは、ギルドのみんなで空腹状態からの回復アイテムを……このグルメバーガーとかカルビ丼とかラーメンとか高級羊羮とかを、大量入手した直後だったっけ。その手のアイテム所持が必須なダンジョン攻略前に、他ギルドの攻略を妨害するために……。

 絵に描いた餅は食えません。旨そうなのは見掛けだけ。食品サンプルのようなアイテム類を、意地になって取り返そうとした人間種PC達。

 モモンガ様におかれましては、嘲笑せずにはいられない出来事だったのです。しかし……。

「冒涜的に不味くても、栄養補給に問題なければ、コストを掛けないほど素晴らしいなんて。食費に回せる金銭を、全てゲームに注ぎ込むべきだなんて。モモンガさん……大丈夫ですか? 美味しい食事は、心を癒してくれるんですよ。味わい楽しむ時間は、人間らしい感性を取り戻させてくれるんですよ!」

 いつもなら如才なく受け流すモモンガ様でしたが、その時ばかりは、後からログインしてきた死獣天朱雀氏に仲裁される事態に陥りました。

 ーー今にして思えば、あの人達は俺を心配してくれてたんだよな。いくらロールプレイの為でも、心までアンデッドにならないで、か……。

「……ワイングラスがあれば、良かったのにな」

 グルメバーガーを食べ終えたモモン氏は、コップを手にしました。マジックアイテム《無限の水差し》に付属する品ですが、今は水ではなく、先ほど底から5センチだけ注いだ液体が中で揺れています。

「…………フゥ……」

 贈られたワイン《シャンピニオン・スペチアーレ》を飲めば、果実香と程好い酸味が舌と喉を爽やかに清め、思い出に纏わり付いていた苦味までも洗い流して行きます。

「再会できたら酌み交わしませんか? このワイン、信じられないくらい旨いですよ。今の俺なら“美味しい食事”について、あなた方と熱く語り合えそうです」

 掲げたコップの向こうに、旧友達の苦笑を見た気がしました。

 

 ーーやれやれ。1秒だって無駄に出来ないのに、舌と腹を楽しませる為に5分以上も費やしてしまった。勿体無いくらいに旨いワインだが、折を見て一杯、ブリタには罰杯を飲ませてくれようぞ。

 綺麗にしたコップやワインボトルをアイテムボックスに収納しながら、モモン氏はブリタ・バニアラに与える罰を決定したのです。本当に罰たり得るか、甚だ怪しゅうございますが。

 ーーまあこれで、約束を破った事にはならないからな。

 モモン氏らしくもない早朝の食事は、ブリタの言葉が一因でありました。

 先刻。

 共同墓地の門前から飛び去ろうとするモモン氏を、ブリタは引き止めようとしたのでした。エ・ランテル到着までに長時間移動をしたならば疲労しているに違いないと、空腹も覚えていて当然と、彼女なりに危惧したようです。

 ーーそう言えば、疲労無効や睡眠不要のスキルはアイテムで発動しているが、この身体には空腹になる人間臭さを残したんだった。

 指摘されれば、気になるのが人情。意識してしまうと、腹の虫が発声練習を始めそうです。しかし、この後ちょっとした“仕込み”を行う予定のモモン氏は、都市から一度出る事を優先なさいました。

 ウォー・ウィザードの自分には、屋外で休息を取るための充分な準備があり、もちろん食料も用意してある。そうブリタに説明した上で、モモン氏は、空中移動中に言い含めた内容を再び口にしました。

「それに私は、まだ一度たりともエ・ランテルの地面には降り立っていない。そうだね?」

「ぁ、はい……!?」

 モモン氏はブリタの肩を抱き寄せ、彼女の耳朶に御自身の唇を触れんばかりにして囁きました。衛兵達や野伏に話の内容を聞き取られないための行為だったのですが、睦言を囁いているように見えてしまったのは御愛嬌と言うことで。

「ブリタ・バニアラ。キミに嘘の片棒を担がせるのは心苦しいのだがね。私は、とても我儘なのだよ。手順を無視して都市内へ侵入した不逞の輩とは、思われたくないんだ。ついうっかり城壁の上空を通過してしまっただけ。そして、地に足を着いていないから、都市への侵入もしていない。……我ながら幼子じみた言い訳だと思うが、我儘な私なりの筋を通したいのだよ。解ってくれるね?」

 痙攣するように頷くブリタに、モモン氏は苦笑混じりの言葉を重ねました。

「先ほどキミに献上した短杖。不出来な自作のあれが、私がどれだけ粗忽者かを説明する役に立てば良いのだが……。あまり期待すべきではないかな」

 冒険者組合の上位者が、ブリタの報告をどう捉えるか。短杖が魔法の《上位道具創造》で作成された物だと気付く者がいるか否か。過剰な期待は禁物であります。

「食事は取るし疲労も抜いておくと、約束しよう。昼頃には冒険者組合を訪ねるつもりだ。余所者が都市で暫く過ごすには、冒険者になるのが手っ取り早いだろうからね。宜しく御願いするよ、バニアラ先輩」

 名残惜し気なブリタを地に降ろしたモモン氏は、その場から飛び去り、エ・ランテルを視認できる丘の上にグリーンシークレットハウスを設置なされたので御座います。

 

 ーーエ・ランテルでは、切り換えを目撃されないように……。自前のが無いから貰い物を設置したけどさ、緑豊かな丘の上に砂漠タイプのピラミッドって変だよな……。そりゃまあ、贈り主の彼はファラオになってたけど。でも内装はヴィクトリアン様式なんだよね。ダイニングの椅子が上品過ぎるから、テーブルしか使えなかった……。

 食堂でアイテムの使用検証とばかりに取り出したのが、ユグドラシルでは食べられなかったグルメバーガーや、《シャンピニオン・スペチアーレ》でありました。

 必要な行為とは言い難くとも、約束を守って食事を済ませたモモン氏。実のところ、もう少し飲み食いしたいなと思っておいでです。疲労無効のアイテムを外し、寝室に置かれたキングサイズのベッドで休眠する欲求を覚えておいでです。

 然れど、時間が足りません。

 ーー人間態に付きまとう三大欲求の充足は、暇な時にゆっくりとだ。さてっ!

 モモン氏はダイニングからダンスホールヘ移動しました。そこが、この建物内で最も開けた空間ですので。一時的措置として《翡翠輝石の大駒》三個も、そこに置いていらっしゃいます。

 ーー他人には……見られたくないよ……本当に……。

 ホール中央に立ったモモン氏は、左拳を腰だめに構え、右拳を胸の前に構えました。

「アインズ!」

 勢い良く右腕を、左斜め上へ真っ直ぐ伸ばします。

「ウール!」

 伸ばした右腕を右斜め下へ、空を切って振り下ろし完成です。

「ゴウン!」

 深紅の閃光が奔流となってダンスホールを染めた後、悠然と佇むのは神々しくも恐ろしいオーバーロードの姿に戻ったモモンガ様でした。

 ーーメインとサブの切り換えに、ポーズと掛け声を必要とする理由なんて無いはずだ!

 一瞬ながら視界を青緑色に染めた至高なる御方の傍らで、聖騎士様の幻影が不本意そうにしておいでです。様式美なのにと。

「ハァ……、仕方がないのか。幸い《翡翠輝石の大駒》に問題は無いようだし」

 三個の巨大駒は消えていません。操作を試みになられましたが、残念ながら至高のオーバーロードに戻ったモモンガ様では、動かせないと判明しました。人間態のモモンガ・モモン氏のみが操作可能なのでした。

「行くとしよう」

 ともあれ先ずは仕込みを済ませるべきと、モモンガ様は、ユグドラシルで最も一般的な移動手段だった《異界門》を御使用なさいました。行き先は、勝手知ったる地下神殿で御座います。

「カジットの遺産、有り難く使わせて貰おうぞ」




 できたてのグルメバーガー&舌に合う銘柄のワイン。
 本文中のような特殊な保存手段があるか、バーガーを自作しないと、実現が恐ろしく困難な気がします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。