ひとりひとりと、女神と人と。   作:sigma

4 / 7
 遅くなりましてすみません。最高に難産でした。

 ユニゾンリーグ超面白い。


 ※5月6日追記

 三笠さんのシーン全カットしました。




2話

 「ったく…なんかもう理事長に慣れたぜ…出会ってから、まだ1時間も経ってないのになぁ」

 

 自分の席に無事到着―――する直前で呼び出しを食らった神城柊哉(かみしろしゅうや)は、有無を言わせぬ迫力で、早速この学園のイロハを叩きこまれた。やれどう振る舞えだの、やれ女子に手当たり次第に手を出すなだの。もとより柊哉にそんな獣のような甲斐性はないので、柊哉は相槌を打ちながら聞き流すだけにとどめた。

 そして同時に、この学院の歴史も教えられた。どうやらここは、最強のスクールアイドル・μ'sによって廃校の危機を免れた、いわゆるドラマティックな生い立ちの高校らしい。9人の女神に救われた女子高。そりゃあ倍率も4倍超えるわ、と柊哉は頷いた。

 

 「―――この学校の生徒と仲良くなりたいのなら、まずは生徒会かμ'sと仲良くなりなさい」

 

 とは理事長の弁だ。随分と現実味にあふれたアドバイスである。柊哉はそれに、「最初からそのつもりですよ」と薄く微笑(わら)うことで返した。それは彼女流の勇気づけだったのかもしれない、と今になって思う。

 

 (…ってもよぉ…俺、元男子校住まいだからなぁ…女子との話し方なんて、もう覚えちゃいねぇよ…)

 

 その後柊哉が教室に帰還したとき、4時間目終了のチャイムがちょうど鳴った。昼休憩。麗しき美少女の皆様が、席を立ってグループを作り出す。各々弁当を持ち寄り、テーブルを囲んで食べると見た。

 

 (あはー、見事に俺氏ハブられるの巻ー)

 

 しかしその輪の中に柊哉は入れない。理由としては3つ。

 1つ、柊哉はまだ女子高転入初日であり、女子に自分のキャラを分かってもらえず、避けられているから。

 2つ、前に通っていた学校が男子校だったため、女子への接し方がイマイチよく分かっていないから。

 そして3つ、そもそも今日の朝の騒動の途中、ダンディなオジサマ(意味深(ホームレス))に弁当を奪われて、そもそも食べるものがないからである。

 

 「うひー、美味そうな弁当ばっかし…あぁもう、腹減った…なんであいつ、俺の弁当箱奪ってどっか行きやがった…?」

 

 …今の呟きで完全にクラスメイトにドン引きされたので、柊哉は逃げるように席を立った。あんな「うわぁ…」みたいな空気の中には1秒たりとていられない。それも今日は初日。女子高で過ごすうえでこれ以上評価を落とすわけにはいかない。

 廊下に躍り出る。外に見える太陽は既に7月の暑さではなかった。エアコンのない廊下に、ジリジリと地面が焦げる音が聞こえる。道に陽炎すら見えるほど、7月1日という日は記録的な猛暑だった。未だ7月初めだというのに、この状況では8月が思いやられる。地球温暖化は一刻も早く解決すべきだ、俺溶けちゃうじゃねぇかと、柊哉は独りごちた。

 

 (…あー…急に女子と仲良くなれる気がしなくなってきた…なんやろ、俺の何が悪いのかな…)

 

 暑さでやられそうな頭で、ぼーっと考える。その答えは恐らく出ない。

 

 「―――だー、くそっ」

 

 頭をガシガシとかきむしって、小さく声を漏らした柊哉に目線を向ける者はいない。キャッキャッという、女子特有のハイトーンヴォイスの会話が空気を染めるだけだ。柊哉はここで、廊下に誰も人がいないことに初めて気が付いた。昼休憩にしては珍しい、と周囲に目をやってみる。

 

 (う~わ、やっぱ安津(やすづ)とは全然違うな。昼の過ごし方が圧倒的にお上品だわ)

 

 中庭で談笑する美少女に目を奪われながら、歩くこと10分。

 気づくと校舎をぐるっと一周して、隣の2年1組の教室の前まで来ていた。同学年の教室だ。見た感じも柊哉と同い年か、プラスマイナス1歳差くらい。確認した柊哉は、本能的に視線をくるりと巡らせる。

 それに別に深い意味はない。ただ、好みの子はいないかな、どんな感じの女子がいるのかな、と知りたくなっただけの話。ゆえに(やま)しい気持ちなんてみじんもない、健全な男子高校生故の行動。

 

 ―――しかし。

 このタイミングで、柊哉にとっての『女神』に相見(あいまみ)えるなど、誰が予想しただろうか。

 

 窓際の一番端の列、2年2組で自分が座る席のひとつ後ろ。つまり後ろから2番目の席。

 視線をそちらへ向けたとき、柊哉は文字通り―――(ふる)えた。

 

 「―――あっ、転校生だ!…こ、こんにちは!」

 

 ―――オレンジの女神。音の女神(ミューズ)の一柱。

 名を、高坂穂乃果(こうさかほのか)。ひと時も忘れることのない名前。

 点呼番号は1番で、サイリウムの色は山吹色かオレンジ、トレードマークは「ほ」の文字…。

 μ'sファンになってから得た知識が、頭をぐるぐる回って、回って。

 

 「神城柊哉くん、だよね?…はじめまして!!私、高坂穂乃果って言うんだ!よろしくね!」

 

 ずっとテレビを通して憧れていた存在が、今、目の前で、柊哉に話しかけてくれている。それも、テレビよりも数段美しく可愛い、本物の高坂穂乃果が、同じ学年として、隣のクラスとして、ただひとりの女の子として!

 自分を認識して、会話してくれている。

 これが嬉しくないμ'sファンなんて、世界中どこを探してもいないと断言できる。

 否、それ以前に、『本物のμ'sとお話しする』という、些細で偉大な夢を持たぬファンなど、いない。

 

 そして、μ'sファンであり、美少女を愛する者でもあり。

 ―――それがたとえようもなく「幸せ」で、かけがえのない「経験」だった柊哉は。

 

 「―――………ぁ…あぁ、よろしくな、高坂さん」

 

 気づけば、一筋、涙を流していた。

 嬉し泣きなのは自分で分かる。叶うはずのない、薄く現実味のなかった夢が、今、奇跡的に叶ったこともわかる。事実は不変だ。その事実に、柊哉は泣いたのだから。

 涙をぬぐい、目の前で小首をかしげる美少女に、「高坂さん」と呼びかける。

 それは柊哉なりの現実の受け入れで、単なる呼びかけ以上の気持ちが入ってしまった。だが幸いにも声は震えていなかったようで、オレンジの女神は向日葵(ひまわり)のように笑った。

 

 「…うんっ、よろしくね、神城くん!」

 「………………」

 

 生憎ここで「柊哉でいいよ」ってニヒルに言うには、柊哉は動転しすぎていた。彼女の笑顔の破壊力に、全神経がマヒしているのだ。それほど彼女のスマイルは可愛かったのである。

 何も言えずにパクパクと口を動かす柊哉から目線を逸らした彼女は、口に手を当てて、メガホンの形を作っていた。そして後ろに向かって声を張り上げる。歌っている時とはまた違う、彼女本来の声で。

 

 「―――おーい、ことりちゃーん!海未(うみ)ちゃーん!隣のクラスの転校生だよー!」

 

 そして柊哉は、わが耳を疑い、次にわが目を疑った。

 

 「…えっ、どこどこ、穂乃果ちゃん!?」

 「転校生…?もしや、転校生って、まさか…」

 「うん、隣のクラスに来た男子だよ!」

 「わ、ちょ、おい、なっ、んだ!?」

 

 よもや女神が増える、とは。

 純白の女神、(みなみ)ことりと、蒼海の女神、園田(そのだ)海未。

 神々しいオーラを振りまく2人の美少女(アイドル)が、柊哉の前に姿を現した。南ことりは見る者全てを癒す笑顔で、園田海未はモナ・リザのごとき美しい微笑で、ゆっくりとこちらに近寄って来る。柊哉にはそれがスローモーションになって見えた。永遠のような一瞬、と表現できるほど、彼女らの歩み、手の振り方、髪のなびき方、一挙一動が目に焼き付いてしょうがない。

 そしてお互いにストップ・モーション。

 

 「初めまして、神城柊哉くん!私は南ことり。よろしくね、神城くん♪」

 「初めまして。園田海未といいます。神城さん、どうぞよろしくお願いします」

 

 柊哉はあまりの嬉しさ、興奮、信じがたい事実に。

 

 「…ぁ…あぁ…」

 

 (―――おぉ、ゼウスよ…やはり貴方様は、我の味方であったのか…)

 

 色々オーバーヒートして、ついに失神した。

 

 

 

                         ★

 

 

 

 「―――…んっ…」

 

 目を覚ますと、見たことがあるようなこげ茶色の天井とシャンデリアが目についた。

 見る限り保健室の類ではないだろう。薬剤のにおいが一切して来ない。香るのは仄かなアロマの香りだ。気持ちよさが異常値を超えている。…やはり、保健室ではない。

 それにもし、こんな豪勢な保健室が実際にあったら、柊哉は「金の使い道間違ってるだろ!?」とキレる自信がある。いくらμ'sが超高額なお金を稼ぎまくっていたとしても。

 さらに柊哉が今寝ているのは、あの真っ白けで無骨なよくあるベッドではない。感触的にソファーだ。

 

 「り?…ここはどこだ?」

 

 しかしここまで条件を揃えてみると、ここがどこかが余計に分からなくなってしまった。保健室ではないとすれば、自分はいったいどこに寝ていたというのか。しかもそれ以前に、気を失う直前の記憶が、酷く曖昧だ。何度頭に問い(ただ)してみても、返ってくる答えは、「女神の神々しさにあてられた」のみ。自分はいったい何をしていたというのか。

 体をゆっくりと起こす。腕時計を薄眼で睨むと、「13:37」の文字が見えた。

 

 「あー、腰痛い………ん?」

 

 そして柊哉は、薄くもやがかかった寝ぼけ眼で、くるりと辺りを見渡す。

 ―――直後柊哉は、自分が今いるそこに、何故か見覚えがあることに気づいた。

 

 (…あれ、ここ…)

 

 机の上に無造作に飾られた花瓶、やたら重厚なワークデスクと、黒くふかふかそうなイス、そして対面でにこやかに微笑むアッシュグレーの髪をした美女、そのすべてを見たような感じが―――。

 

 

 「―――神城くん?転校早々、2回もトラブルを引き起こすのは、いかがなものでしょうか、ね?」

 「うおわああぁぁぁぁぁぁぁ!!…り、理事ちょおぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 

 寝起き直後とはとても思えない大声を出して柊哉は飛びすさる。

 理事長が柊哉のほうを向いて、とてもいい笑顔でこちらを見ていらっしゃった。笑顔自体は、それはもう大変美しいのだが、その後ろに阿修羅のようなオーラが覗いているので、美しさが物騒さに完全相殺されている。ヘビに睨まれたカエルの心境って、こういうもんなんだろーな、と柊哉は勝手に解釈。…いよいよ自分に身の危険が迫っていることを察した。

 

 「い、いや、別に引き起こしたくて起こしてるわけじゃないんですよ!!というか俺にそんな意図あったら、俺いよいよテロリストですし!!」

 「しかしですね?先程の行動は、そんじょそこらのテロリストより余程酷いテロですよ?」

 「先程の行動!?まさか、俺の脳が『女神に出会った(ボーイ・ミーツ・ゴッデス)』って超主張してる、俺が気絶する寸前辺りの話ですか!?」

 「貴方の言う『女神(ゴッデス)』が、私の思い描く人物と同じなら」

 「―――ちなみにその人物って…」

 「2年1組19番、園田海未。そして11番、高坂穂乃果と、24番、南ことり」

 「うっほぉぉぉぉぉぉぉぉい!!おんなじだったぜぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 戦犯確定。いろんなテンションをひっくるめて、柊哉はぶっ壊れた。

 

 「何でしょうかね!?そろそろ、自分のトラブルメーカーっぷりが加減の利かないレベルに来てる気しかしないっすわ!!俺パッネェ!!もうアレですよね、俺幸運の女神に愛されてますよね、理事長!?」

 「分かったからまずはそのテンションを静めなさい。…それにしても、μ'sに出会ったというだけで失神とは…この学校でこれから先、生活していけるのですか?」

 「失礼な!!誰しも夢見る生μ'sとの会話、これで失神しない奴がいたらそいつはμ'sファンじゃない!!」

 「その謎のファン意識も今すぐ捨ててしまいなさい。貴方はμ'sと一緒の学校で、今日から生活するのです。毎回毎回失神されると保健室の先生がかわいそうでしょう」

 「心配するポイントがひん曲がってますよ理事長!」

 「それに、貴方は、特別な生徒なのです。これではほかの生徒に示しがつかないでしょう」

 「お、おっしゃる通りで…」

 

 相変わらず容赦のない理事長だ。穏やかな声音でナチュラルに傷をえぐって来る。

 だが、傷をえぐって来るということは、それは正論であるということだ。つまりは何も言えない。反論できない。弱っているところに、理事長はさらに畳みかけるように正論を並べる。

 

 「…貴方は音ノ木坂学院『共学化試験生』第1号なのですよ?自覚はあるんですか?」

 「ぐふ」

 「さらに貴方は、貴方の大好きなμ's、それも同学年の海未ちゃん、穂乃果ちゃん、ことりの前で、倒れたんですよ?それも、海未ちゃん、ことりの顔を見て倒れたかのようなタイミングで」

 「ごはっ」

 「彼女たちは、初対面の男子に、唐突に嫌われたと勘違いするかもしれませんよ?」

 「うごへっ」

 「…可愛い子が大好きな、神城くん的に、そうなってしまった場合は…?」

 「物理的に死にまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁす!!!!」

 

 critical!!

 そんな表示が柊哉の脳裏に映って、柊哉はパタリとその場に倒れ伏した。

 鬼かと思うほどのド正論だ。それと同時に盲点だった。精神的ダメージが半端じゃない。大好きなμ's2年生組に嫌われてしまったかもしれないという、最悪の想像が、鎌首をもたげて柊哉を狙っている。それはもう虎視眈々と、獲物を見る目で。首の皮一枚すらも残さないような感じで。

 柊哉の背を、いろんな意味での怖気が這い回った。

 

 (…もしかして俺、人生詰んだ?)

 

 体の端から、真っ白い灰になって燃え尽きそうな柊哉に、理事長は優しく問いかける。

 

 「―――神城くん?…本当は、何で気絶したのかしら?」

 

 そして柊哉は、うつろに、正直に、質問に答えた。

 

 「…大好きなμ'sに出会えたのがあまりにも嬉しくて、気絶しちゃったんです」

 「そう…」

 

 そこで急に言葉を切った理事長は、柊哉にいわくありげな目線を向ける。柊哉はそれを睨み返すことも、不思議そうに見つめ返すことすらもできなかった。ただ軽く一瞥し、また自身に幻滅して、ため息を零すだけだった。辛うじて立っているのが精いっぱい、うつ病にかかったかのごときネガティヴな妄想が、柊哉の頭に渦を巻いた。

 そんな惨状をじっと見つめていた理事長は、おもむろに、視線を外す。

 

 「―――だ、そうよ」

 

 一言ののち、柊哉の真後ろにあった分厚い木のドアが、開いた。

 

 

 ―――柊哉は、その時の情景を、一生忘れはしないだろう。

 

 

 まるで勇者の目の前で門が開くかの如く、ギイッという音を立てて、ゆっくりと開くドア。

 時間が経つにつれて出来る隙間から、部屋一面に光が降り注ぐような錯覚。

 光が消えた直後、目に映る―――。

 

 

 「…っ、はぁ~。良かった、神城くん、無事だったぁ~」

 「いきなり倒れたりして心配したけど…元気、だったね、海未ちゃん♪」

 「―――そうですね。見た感じ、傷は無さそうですし…」

 

 

 ―――聖なる女神が、慈愛に満ちた瞳で微笑む様。

 

 

 (…ジー、ザス…)

 

 

 理事長室のドアが開いた刹那、理事長室に、μ'sのメンバー、高坂穂乃果、南ことり、園田海未の3人が、姿を現した。

 

 

 

 

 

 

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