魔導王の試練場   作:とし3

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風よ。骨に届いているか

 

  「あれは…ヤバイな…」

 

 出現した怪物を見た冒険者達は一様にそう呟く。

 冒険者の勘が、今まで戦ってきた経験が『戦ってはいけない』と冒険者達に激しく囁きかける。

 絶望的な雰囲気の中、オレガは自分の顔を殴り覚悟を決める。

 

 「こ、ここは俺が時間を稼ぐから、皆は先に…迷宮を走破してくれ」

 

 オレガの無謀な提案に全員が息を飲み、絶望しかけていた自分を恥じる。

 この場面で恥じずに笑顔だったのは、オレガに付き合う気だった〝シードリーフ〟の他3人。

 

 「俺がじゃなくて、私たち〝シードリーフ〟がです、言葉は正しく使いましょう」

 「はぁ、今回俺は荷物持ちとして参加したんだが…しゃあねぇ2度目の命もくれてやる」

 「…不要、勝って全員で帰る、全員で打ち上げ会する」

 

 こうして〝シードリーフ〟の4人は迷宮攻略の殿を務める事となる。

 

 「フローライト、貴方は〝黒壺〟に同行し〝鉱石〟として迷宮を走破しなさい

  アマルガムとベリルは私と共に後輩ちゃんたちに協力するわ、異論は?」

 

 「「「ありません、了解ですリーダー」」」

 

 魔術師のフローライトを〝黒壺〟に預け、僧侶のアマルガムと野伏のベリルと共に、

〝鉱石〟のリーダーアデライトは〝シードリーフ〟の無謀な提案に付き合おうとする。

 

 「宜しいんですか?」とオレガが問いかけると、「先輩にもカッコつけさせなさい」と

笑顔で答えられた…アマルガムとベリルの2人にも無言で鎧を後ろから叩かれた。

 

 「俺たちの背中を任せる…死ぬなよ」と〝黒壺〟のモナークが言葉をかける。

 「死にたくないので全力で頑張りますよ、万が一の時は蘇生お願いしますね」

 

 オレガがそう答えると、皆から苦笑いが零れた。

 

  「さて…と」「お客様の相手をしなくちゃね」

 

 〝シードリーフ〟と〝鉱石〟の冒険者達は時間を稼ぐため、迫りくる巨大な悪魔と戦闘に入る。

 

 

 壁の標識には、“死者の大魔法使いの事務所” 営業時間はAM9時からPM3時 

 現在、死者の大魔法使いは *在室中*

 

 「ホントふざけやがって!」

 

 〝黒壺〟のギーゴは扉を蹴飛ばし部屋の中に押し込む。後輩たちが時間を稼いでる今、自分達ができる事は、速攻で迷宮の主を攻略することのみだ。終着地点と思われる場所で待機していたのは死者の大魔法使い(エルダーリッチ)と吸血鬼(ヴァンパイア)、それに下位の吸血鬼が3匹。

 

 「いんやぁ、初冒険者だべ!おらぁ…ここで手柄さたててナザリックさいくだ!」

 

 「んだんだ、頑張ってアインズ様に正式に仕えるだぁ…1回だけご尊顔を拝見した機会が

  あったんだが、すんげぇオーラ(漆黒の後光)だっただよ」

 

 このエルダーリッチと吸血鬼は、迷宮産の魔物でもナザリック産の魔物でも無い。

 カッツェ平野において捕獲して来た天然ものモンスターである、よってアインズ様のアンデッド強化の恩恵は無い。それでもエルダーリッチは単体でもレベル22相当の化け物であり、白金級では少々厳しく、ミスリル級でなら勝算十分という存在だ。その護衛に白金級の難易度の吸血鬼とその配下が付いている事から、ミスリル級への昇進の難易度としては十二分だろう。

 

 迷宮の主と思われるエルダーリッチと吸血鬼が何か喋っているが聞いている余裕は無い。

 シィルとフローライトが先制で放った【火球】が炸裂し、吸血鬼と眷属を巻き込んで派手に燃える。

 

 「なんだべや!」

 

 エルダーリッチは初手から大きなミスを犯す、所詮は人間の冒険者が相手であり、死者の大魔法使いである自分の敵ではないと甘く見ていたのだ。

 魔法使いの有利な間合いは遠距離なのに、距離と言う盾が有効に働かない一室での戦闘…これは彼らに非が無いとしても、盾となる下位吸血鬼共を先制攻撃で大きく削られたのは大きい。

 

 突撃してくる重戦士に対し、エルダーリッチは絶対の自信を持った【火球】を投げかける、彼の知っている人間が相手ならこれで消し炭になっていたはずだ。

 重戦士は盾を構えて踏ん張り【耐魔】の武技を使う、魔法に対する抵抗力を強化する武技だ。

 エルダーリッチの放つ【火球】を盾を掲げ首を下げ、全身を踏ん張るようなスタイルで被弾面を減らし迎え撃つ。派手に魔法が炸裂するが魔法の装備と武技と肉体の力で怪我を最小限に抑えた。

 

 炎が消える寸前を狙い距離を詰めていた〝黒壺〟の火神神官のフサーが【焼けつく光】を放ち、聖なる光で5m範囲内の瀕死の下位吸血鬼を焼き尽くした。

 敵前衛が消滅した所へ盾を捨てて身軽になった重戦士のモナークが突撃し【斬撃】の武技を使い、エルダーリッチを両断する。…同時に飛び出していたギーゴも吸血鬼を細切れにしていた。

 白金級では苦戦する魔物が2匹、しかしそれは半年以上この地下迷宮に潜り、幾度も死を乗り越え戦いに明け暮れていたベテラン冒険者の敵ではなかった。

 

 ただ問題なのは。

 

 「前座は終わったぞ!管理者はどこだ、責任者出て来い!」

 

 …圧勝すぎてこの地獄のような地下迷宮のボスだと認識されなかった事だ。

 アインズ様のアンデッド強化がかかり、レベル30相当の強さを得られた、死者の大魔法使いのイクヴァ41みたいな存在であれば話は違ったのだろうが。

 

 

 暴虐を振るっていた黄土色の巨大な悪魔は突然姿を消した…

 悪魔が再び現れない事から、これは迷宮が攻略されたからではないのか?と居残り組は結論付けた。突然飛び出した〝ドラちゃん〟の後を追い、迷宮の最深部に向かっていった〝シードリーフ〟と〝鉱石〟が最深部の部屋で見た光景は、とても信じられない物だった。

 〝黒壺〟のリーダーであるモナークは膝を付き頭を抱え、勇敢なギーゴはガチガチと歯を鳴らしながら立ち尽くし、冷静なシィルやフローライトは恐怖心からか四つん這いになって嘔吐を繰り返している。火神に仕える神官のフサーに至っては膝を付き、目の焦点が合わない状態でブツブツと神に祈りを捧げていた…1瞬、誰もが何が起きたのかと思ったがその答えは目の前にあった。

 

 彼らの心が折れるのも仕方がないであろう、部屋の中には信じられないほど強大な力を感じる、四枚の羽根を持つ獅子の頭を持った天使が6体存在していた。その1体1体が竜や神々を思わせるような存在感と威圧感、そして圧倒的な畏怖を感じさせていた。

 

 「あは‥あははは、ありえないありえない‥なにアレ」

 

 〝鉱石〟のリーダー・アデライトも腰を抜かし座り込んでしまった。

 人間あまりにも強大な存在を目撃すると戦う意思もわかず、全員が武器を手放し茫然となる。

そんな情けない人間達を嘲笑うがの如く、天使の後方からパチパチと拍手が鳴り響く。

 全員が意識をそちらに向けると、天使たちとは真逆の邪悪なオーラ、それも天使たちとは比較にならないほどの強大な魔力を持った存在がこちらに向かってきてこう呟やく。

 

 「えーとだな、改めて迷宮走破おめでとう、君たちはミスリル級の実力を…あれ?」

 

 テンションが上がった状態で急いで駆けつけ、魔力を隠す指輪を付け忘れたアインズ様を見た冒険者達は、全員が意識を失い、気絶した。

 

 

「ふぅ…」

 

 アインズは自室に戻り、一仕事やり遂げたと安堵する。最後の最後で色々問題はあったけども、

一応は一段落だ。あの失敗は忘れよう、…そんなに怖かったか、天使も外見は異形だしな?

 魔力を隠す指輪を忘れ、慌てて出て来たアインズ様が原因なのだが、それは棚に置いておく。

 

 冒険者達が迷宮を攻略するまで予想以上に時間はかかってしまったが、まあ成果は十分だろう。バランス調整は失敗した自覚はあったが、冒険者学校での成果、迷宮で鍛えた冒険者の練度、蟲を使った人間の操作、どれもが概ね合格点と言える成績だ。

 

 ただ、ルプスレギナに管理人としての仕事を細かく説明していなかったために、コキュートスの時と同じような配下を使って防衛する試練だと思われ、無駄に迷宮の難易度を上げてしまっていたのは予想外だったが。…細かく言わずとも伝わるだろうと言う気持ちは駄目だと反省する。

 

 まあ、ルプスレギナも冒険者の救助を含め迷宮の管理を頑張ってたから良しとしておこう。

 

 

 その後、魔導王の試練場を走破した〝シードリーフ〟の一行は自分たちの未熟さを理由に昇進を辞退する。金級冒険者として先輩冒険者達の探索に協力し、1歩1歩地道に成果を稼いでいった。

 先にミスリル級に昇進した〝黒壺〟や〝鉱石〟のメンバーとも合同調査の勧誘を受けたり、情報を交換したり、先輩達に飯をたかったりと色々仲良く関係を築けている。

 (打ち上げで黄金の輝き亭で喰い漁ったせいか、そこへは二度と誘ってもらえなかったが)

 十分な経験を積んだ後、白金級冒険者に昇格し、最終的にはミスリル級の冒険者まで昇格する。

 彼らの残した功績は、マシュー・マロウが効能を見つけた魔力回復効果のある薬草〝マロウ草〟の発見及び、飲みやすくお茶にした〝まろ茶〟の普及。獣人集落との交易路の設立などがあるが。

 一番有名な功績は、アベリオン丘陵でのヤルダバオトの拠点、通称〝人間牧場〟の発見だ。

 この報告は魔導国を動かし、後に世界中の吟遊詩人達を熱中させる、英雄たちの大規模作戦。

大悪魔の手からローブル聖王国を解放する、叙事詩に名高い〝オーバーロード作戦〟に繋がる。

 

 

 〝人間牧場〟へ漆黒の英雄モモンを案内した後に、〝シードリーフ〟は冒険者を引退し、カッツェ平野を開拓すると言う魔導国の募集に参加する。地道な努力と魔導国の全面的な支援もあり、開拓村は徐々に大きくなり、後に街と言っていいほどに発展していったが、それはまた、別の物語。

 

 ――〝シードリーフ〟は大地に根を下ろし、村と共に成長して人々を支える樹になっていった。

 

【個人戦績】

 

 ・オレガ・オレガノ

 元エ・ランテルの衛兵、漆黒の英雄に憧れ冒険者の道を目指す。

 戦士としての才能は凡才であったが、どんな時も逃げず踏み込む勇気を持っていた。

 引退後は開拓村の村長として補佐役のエルダーリッチに色々教わり村を発展させる。

 

 ・ニゲラ・サティバ

 元は王国のスラム出身の盗賊、冒険者の存在に輝きを見て冒険者の道を目指す。

 そこそこ優秀なのだが仲間が傷つくのが嫌で無理をして、その後も数回死ぬ事となる。

 引退後は村の自警団の長となる、村を防衛する死の騎士は、武力としては優秀ではあったが、

 悪党の考えを読んで悪事を事前に防ぐ行為には向いていなかった。

 

 ・ソレル・リトルヴィ

 帝国生まれのハーフエルフ、魔導王の差別の無い国作りに賛同して冒険者となる。

 その後、第三位階の魔法を数点覚えたが、それほど魔法への適性は無かったようだ…

 引退後は村の子供達へ勉強を教える私塾の教師となる。

 

 ・マシュー・マロウ

 本名はサングン・ベンチ・ウォーマーと言い、法国の密偵として魔導国の冒険者となる。

 偉大なる魔導王の存在に触れ、かの御方こそは死の神スルシャーナだと認識し密偵の仕事を放棄

 引退後は村の司祭を務め、死の神を中心とした六大神信仰を広める。

 

 ・ドラちゃん

 種族はスードゥドラゴンで超小型のドラゴン、その実態はアインズ様の使い魔。

 魔導王の試練場をクリアした後は使い魔から解放され、冒険者ギルドのマスコットとなる。

 迷宮走破の時にも同行していたことから、幸運の竜として冒険者に愛される。

 

 

                  Fin            

 




色々話をカットしたり、途中から展開を修正したりしたので
上手くまとまらず御見苦しい結果となってしまいました…

魔導王の試練場を読んでいただいた皆様、申し訳ありませんでした
そして本当にありがとうございました。
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