これからのことを考えると溜息しか出ない今日この頃です
――Eri side――
――今の絵里先輩じゃ、何も思いつきませんよ。
「なによ……」
さっき遊弥君に言われた言葉が頭の中で反芻する。
――絵里先輩がいまやっていることはどこか薄っぺらい。
「何も知らないくせに……」
自分でも無意識のうちにそんな言葉が出てしまう。
遊弥君が何の意味もなく相手を貶めるようなことは言わない。それはわかっている。だが、彼に対する苛立ちが抑えられない。
だけど腹を立ててたのは遊弥君だけにではない。碌な反論ができなかった自分にもだ。
廃校させたくない一心でこの二日間考えてきていた。生徒が集まるような企画を挙げ続けて精査して、自分なりに出来るようなことをやってきたはずなのだ。
でも遊弥君の言ったことに言い返せなかったということは、自分でも今やっていることに納得できていなかったということだ。要するに図星だったのだ。
「だからといって、ちょっと言い過ぎじゃないかしら! 私だって必死なのに……!」
イライラする心を落ち着けるためにカップに口をつける。しかし、カップの中はすでに空だった。
はあ、と顔が俯いてしまう。そんな私の前にコーヒーが入ったカップが置かれた。
「えっ……?」
驚いて顔を上げたらそこにはマスターがいた。
さっきの話を聞いていたはずのマスターは何もなかったかのように、
「さっきのティラミスは遊弥への招待ボーナス。このコーヒーは俺から絵里ちゃんへの初回特典サービスだ」
「は……? えーっと、あり――」
「んじゃ、ごゆっくり。絵里ちゃん」
私が礼を言う前にマスターはカウンターへと戻っていった。
「……がとうございます」
一応最後まで言い切った私は今度こそコーヒーの入ったカップに口をつける。
「美味しい……」
先ほどとは違う香りが口の中を漂う。どうやら、豆の種類を変えたブレンドのようだ。だが、今の私にはぴったりのコーヒーだと思う。心なしか落ち着く。
そこで去り際に遊弥君が言った言葉を思い出す。
「本当に成し遂げたいなら一度整理すること、ね。確かに、その通りだわ。焦っても仕方がないものね」
こうして私はコーヒーに舌鼓を打ちながら、数日ぶりにゆっくりとした時間をすごすのだった。
――Yuya side――
prrrrrrrrrrrrrr―――――!!
店を出て家路に着くこと数分。ポケットの中にあるスマホが音を鳴らして振動する。
取り出して確認すると画面には穂乃果の三文字。
「前と同じだな、ということは……ポチッとな」
俺はスマホを耳に当てるどころかスマホを遠ざけながら通話ボタンを押した。すると、
『出るのが遅いよ、遊くん!』
案の定、穂乃果の大きな声がスピーカーから流れた。
「だから、うるさいぞ穂乃馬鹿。声を抑えることを覚えろよ」
『そんなことより遊くん、今から穂乃果の家に来て!』
「いや、これから飯の用――」
『じゃあ、待ってるから!』
ツーツー、と通話が終了した音が聞こえる。
俺はスマホを戻し、茜色に染まった空を仰ぎ、そして――
「人の話くらい聞けェェェェェ!」
人目を憚らず出した大声が響くのだった。
「こんにちはー」
またも進路を変えてから十数分。俺は「穂むら」のドアを開ける。
「いらっしゃ――あ、遊くん!!」
今日の店番は穂乃果だったらしい。パァ、と笑顔を咲かせて寄ってくる。
「待ってたよ! いま店番中だから先に穂乃果の部屋に行ってて。私の店番ももう少しだし後でことりちゃんも来るから!」
「ああ、わかったよ。でもな穂乃果、その前に――」
そういって、俺は穂乃果の顔に手を添える。
「ふぇ!? なに? どうしたの、遊くん? いきなりそんな……」
突然のことに戸惑い始める穂乃果。若干頬を赤らめて俺から目を逸らしている穂乃果の頭に狙いを定めて腕を上げる。
「ていっ」
「あいたぁ! な、なんで頭叩くのぉ!?」
「おまえは人の話を聞けない人間なのか、ん? 前もそうだけど一方的に電話を切るのはマナー違反にもほどがあるぞ」
「うぅ~」
頭を抑え涙目になりながらうずくまっている穂乃果を見下ろす。
「それにこっちにも都合ってもんがあるんだ。少しは考えろよ」
「う……ごめんなさい。迷惑だったよね、遊くんのことも考えないでこんな……」
あからさまに落ち込んでいる穂乃果。俺はため息をついてしまう。
そんな表情されたら怒るに怒れないだろ。まあ、そこまでキレているわけでもないんだが。ちょっと釘刺すだけでそこまで落ち込まれたらこっちが悪いことをしているような気がしてしまう。
「別に迷惑になんて思ってないし、そこまで怒ってないからそんな顔すんな。ただ、早めに連絡してくれたら余裕持って付き合うことだってできるんだから、今度から、な?」
慰めるように頭を撫でてやる。サラサラの橙色の毛の感触がダイレクトに伝わってくる。
「……ん」
穂乃果は気持ちよさそうに目を細める。
――なんで反省を促した俺が慰めているのだろうか。
相変わらず身内に甘い。なんて思いながら撫でる手を離す。
「それじゃあ、穂乃果の部屋で待たせてもらうな?」
「あ……」
「ん? どうした?」
「い、いや! なんでもないよ! うん、部屋で待ってて!」
何か誤魔化しているが、特に気にはせず穂乃果の部屋に向かう。
誰もいない、無意識のうちでそう思い、何も考えなかったのがいけなかったのだろう。
ドアを開けて目の前に広がる光景に俺は声を失った。
「チャララ~ン、みんなのハートを打ち抜くぞ♪ ラブアローシュート!!」
自作であろう決め台詞を言って、姿見の前でポーズをとっていたのはなんと――海未だった。
絶句する俺に気づかず、みんな、ありがとー! と叫んで
決して馬鹿にしているわけではない。見世物をする際にイメージトレーニングというものは必要だ。だから海未がこんなことしていてもなんらおかしくはない、のだが……
「――――っ!!!!」
ようやく立ち尽くしている俺に気づいた海未が声にならない悲鳴を上げる。
「あー。そういえば穂乃果にまだ用事があったんだ、一回下に戻るわ」
この後の展開が容易に想像出来てしまった俺は扉を閉め、この場から退散しようとする。
階段に差し掛かったときスパーンという音と共に思い切りドアが開けられた。
「……見ましたね?」
ゆらりと揺れている海未からは恐怖しか感じられなかった。
命の危険を感じた俺が取る行動はただ一つ――
「――さらばっ!!」
「まぁぁちぃぃなぁぁさぁぁいぃぃ!!!!」
脱兎のごとく逃げ出した俺を鬼の形相でおいかけてくる海未。
「絶対待たねぇぇ!」
捕まった俺に待ち受ける未来は確実な死! こんなところで人生終わらせたくねぇよ!!
「穂乃果、ちょっと急用を思い出したから俺は失礼する!!」
「ええ!? ちょ、遊くん!?」
「悪い! 俺はまだ死ねないんだ!!」
穂乃果の制止も振り切り、穂むらから飛び出した瞬間、
「きゃあ!!」
「うおっ!?」
誰かと勢いよく衝突してしまった。俺は大丈夫だったが、背中から倒れそうになっているその人の手をを引っ張り、背に腕を回して間一髪支える。
「すみません、大丈夫ですか――って、ことり?」
「ゆ、ゆーくん……」
驚きと羞恥が入り混じった声で言ったのはことりだった。
「ごめんな、焦ってたばかりに周りが見えてなかった。怪我とかないか?」
「う、うん……大丈夫だよ。それよりもゆーくん……近い、かな?」
そういわれてハッとした。唇が触れそうなほど俺の顔とことりの顔が近いのだ。
「――っ! わ、悪い!!」
慌ててことりから顔を背ける。
な、なんだこれ!? すっごい、心臓バクバクしてるんだけど!! 落ち着け、素数だ素数、2、3、5、7、11、13、17……
ことりの顔どころか現実から背けていると、ポン、と肩に手を置かれた。普段は柔らかいはずのその手は肩に食い込んですごく痛い。
「ふふふふふ、遊弥ぁ?」
「あ、アハハハハハ……」
乾いた笑いしか出てこない。
とても可愛らしい笑顔のはずなのに後ろに般若が見えますよ、海未さん。よくわからないけどなんで穂乃果も膨れっ面なんですか?
「覚悟は……できていますヨネ?」
「はい……」
その後、穂乃果が来るまで海未にどんなことをされたか言うまでもないだろう。
いかがでしたでしょうか?
思ったことやおかしなところがあれば言ってください。
今年大学四年になるのに
まだ院進か就職か決められていないっていう……ホントどうしたらいいんだろ