どうも燕尾です。
102話目です。
皆さん熱中症には注意してお過ごしください
ライブ場所が半ば勢いで決まり、問題の種が消えた後はすべてがスムーズだった。
「
つばさたちA-RISEに宣戦布告とも取れる宣言をされ、そして同じように宣言し返してから、μ'sの皆はさらに練習に打ち込むようになった。
――それも鬼気迫るように。
「絶対に渡さない。ゆうくんをつばささんには渡さないんだから」
「ゆーくんとデートなんて絶対させない。ゆーくんは私とデートするんだから」
「遊弥をA-RISEに…いえ、誰にも渡したりなんてしません……」
「あの雰囲気…つばささん絶対本気だった。A-RISEの綺羅つばさが…ゆうやくんを……? どっちも羨ましすぎるよ」
「いいご身分よね、ほんと。私たちをそっちのけだもの」
「全スクールアイドルの憧れの綺羅つばさとデートですって…? ふざけんじゃないわよ。身の程を知りなさいっての」
「……」
休憩中でも並々ならぬオーラを感じて声をかけることもできずに遠目に見守っているが、離れているここまで威圧感を感じる。
「まあしょうがないよね。堂々と遊弥くんとデート宣言なんてされたら」
「かよちんやにこちゃん、つばささんの大ファンだもんねぇ。穂乃果ちゃんたちは言わなくてもだけど――」
「まさか真姫ちゃんまで嫉妬するなんてなぁ」
汗を拭きながら暢気に話す希と凛。
そんな中、唯一皆と違う雰囲気をまとっていたのは――
「………」
水分補給しながら、空を見上げる絵里。
「絵里…おい絵里?」
「えっ…あ、ええ。どうしたのかしら」
「いや、練習は問題なかったけどどこか上の空だったから。何かあったのか?」
「ちょ、遊くん! それを絵里ちゃんに聞いちゃうの!?」
「凛ちゃん、しー!!」
後ろで凛の口をふさぐ希。
「……」
「絵里…?」
じっと見つめてくる絵里に俺は問いかける。
「……つばささんとのデート」
「えっ?」
「このライブが終わったら、遊弥くんはつばささんとデートするの?」
「それは」
一緒に出かけるというのは約束している。
「デートっていうのも、俺をからかうために言っていただけだろうしな。あいつたまに張り合うような態度をとるから」
「そう……」
「?」
相槌だけ打って、皆のところに戻っていく絵里。
「どうしたんだ、一体」
「遊くん…」
「遊弥くん…はぁ……」
凛と希の呆れた視線とため息を向けられるも俺はただただ疑問符を浮かべるだけ。
そんなこともありながら時は過ぎていき、いよいよライブ当日を迎えた。
『――♪』
「前よりさらに磨きが掛かっているな」
場所はUTX高校の屋上特設ステージ。
夕方の帰宅時間頃にライブ配信を行いA-RISE、μ'sの順番でライブ披露としていた。
そして今はA-RISEのパフォーマンスを行っているが、やはり映像で見るのと生で見るのではまるで別物と言っていいほどの臨場感や迫力がある。
「すごいにゃ…これが、A-RISEのライブ……」
「うん。生で見ると全然違う…やっぱりA-RISEのライブには、私たち……」
「敵わない…」
「認めざるを得ません…」
『……』
そんな彼女たちの生ライブを見て、意気消沈しかける皆。
「そんなことないっ!!」
しかしそんな中で違う、と声を張ったのは穂乃果だった。
「A-RISEのパフォーマンスがすごいのは当たり前だよ! でも、せっかくのチャンスを無駄にしないよう、私たちも続こう!!」
穂乃果の鼓舞に、皆の表情が変わる。
A-RISEはA-RISEだ。彼女たちがどれだけすごかろうとなんだろうと、こっちがやることは変わらない。
全力で見てくれている人たちを楽しませて、自分たちも全力で楽しむこと。穂乃果はそれをわかっている。
この先、俺が出るようなことはもうないだろうな。
「ふふ…さあみんな、楽しんで来い!!」
『うんっ!!』
合宿を経て、この日のために作った新曲
――ユメノトビラ
「遊弥」
「お疲れ、三人とも」
パフォーマンスを終えて、舞台袖までやってきたつばさたちに労いの言葉をかける。
「ありがとう。どうだったかしら、私たちのパフォーマンスは?」
「それはいま答えないといけないか?」
「……失礼。不躾だったわね」
今はμ'sのパフォーマンスの最中だ。それがわかっているからつばさも食い下がることなく、ステージ上に目を向けた。
『――♪』
「……やっぱり、配信の動画と目の前で見るとでは全然違うわね」
「ああ。私もここまで変わるとは思ってもいなかった」
「すごい魅力的。思わず引き込まれちゃう」
三人の感想に反応することなく、俺はただただステージで歌い踊る皆を見つめる。
「ん…?」
そんな中、俺は少し違和感を感じた。気のせいかもしれないような些細な違和感。
「どうしたの、遊弥?」
「いや、何でもない」
つばさの問いかけに、俺は首を横に振る。
今は彼女たちのパフォーマンスを純粋に楽しむ時間だ。俺が感じたことは後でいくらでも考えることができるのだから、後に回したってなにも問題ない。
俺は思考を切り替えて、ステージを見守るのだった。
「今回は本当にいい刺激になったわ」
「私たちも、すっごい楽しかったです!」
後片付けと着替えを済ませた俺たちはUTX高校の入り口前で挨拶を交わしていた。
「機会があったらまたライブしましょう。今度はコラボっていうのも楽しそうだし」
「はい。ぜひ!」
握手をする穂乃果とつばさ。スクールアイドルとしては同じ地区のライバルのようなものだが、そこには確かな友好が築かれていた。
「遊弥」
穂乃果の手を取ったまま、つばさは俺に声をかける。
誰もが自分に向けてほしいと思われる綺羅つばさの笑顔は俺にはトラブルの種にしか見えない。
そして彼女が次何を言うのかは、その笑顔を見たら何となく察しはついた。
じとー、と目を細め見つめてくるμ'sの皆。何度も経験したその空気にさすがに慣れた俺は溜息を吐いた。
「わかってるよ。約束は守る。そっちの都合がつく日を連絡してくれ」
「ええ。すぐにスケジュール調整して連絡するわ――ふふっ、楽しみにしてる」
屈託のない笑顔をするつばさに、俺に刺さる視線の鋭さがさらに増した。
それに対して英玲奈とあんじゅはにやにやしながらも慈愛に満ちた目で見守っていた。
お前らはつばさの母親か。
誰かこのカオスな空間をぶち破ってくれ。
――Eri side――
「はぁ……」
私は溜息をつきながら帰路についていた。
UTX高校でのライブ、見ている人には気づかれはしなかったと思うけど私にとってはあまりいいものではなかった。
もちろん全力でライブパフォーマンスはした。だけど、心の奥底では何かが引っ掛かったようなモヤモヤがあり、どこかぎこちなさがあったように思えたのだ。
その原因は自分でもわかっている。
「デート、かぁ……」
遊弥くんとA-RISEのつばささんのデート。遊弥くんにその気があろうとなかろうと、女の子と二人きりで遊びに出かけるのは歴としたデートだ。
それに遊弥くんも口ではぶっきらぼうに言っていたけど、嬉しそうに言うつばささんに満更でもない様子が見て取れた。そのことがなおさら私の心をかき乱す。
「――はぁ。らしくない、らしくない…だけど……」
私はそう言って首を振った。
遊弥くんが人を誑し込むのはいつものこと。そんな彼の交友関係に翻弄されていたらこっちの精神が持たない。だからこそ彼に想いを寄せる人は嫉妬の感情をいつもぶつけてしまうのだけれど、それが行ってしまう感情すら今の私にはなかった。
ただあるのはどうしようもない焦り。もしかしたら、万が一という想像をしてしまう故の不安。
綺羅つばさという人間の魅力を目の当たりにして、その人が恥じらいも何もなく一人の女の子として遊弥くんとの距離を縮めようとしているのを目にして、私は初めて焦っているのだ。
「はぁ…」
「―――絵里」
「――っ!?」
いきなり後ろから声をかけられた私はビクリと肩を上げた。
「遊弥、くん…?」
「ああ。今日のライブはお疲れ様。練習の甲斐もあって、すごくよかった」
「ありがとう…どうしたのかしら? 遊弥くんの家はこっちじゃ――」
「――すごいよかったが、ところどころ絵里の動きがぎこちなかった」
「!!」
遊弥くんは頭を掻きながら続ける。
「まあ気がする程度の誰も気づかないぐらいのものだったけど少し気になってな。確信に変わったのはライブ終わった後にどこか浮かない顔してたから。確認しておくが体調が悪かった、ってことじゃないよな?」
「……ええ。体調が悪かったとかそういうことじゃない。同じ間違いは起こしたくないもの。それより、よく気付いたわね」
「皆のことはよく見ているつもりだから」
つもりどころじゃない。小さな変化を見逃さないのは遊弥くんだからこそだと思う。
「大したことじゃ、ないのよ。ただちょっとした悩みを抱えたまま今日のライブを迎えてしまって」
「それを表に出さないように修正してたけど、ほんの少しの違和感につながったと」
なるほどな、と納得する遊弥くん。
「絵里の言うちょっとした悩みっていうのは、誰かに相談はできないのか?」
この悩みは誰かに頼ったり相談することはできない。それに解決方法はもう大体わかっている。わかっているのだ。
何も行動に移していない私が、つかみ取れるわけがない。
μ'sに入る前と同じ、受け身だけじゃいけない。
人の優しさに甘えているだけではだめなのだ。
「遊弥くんにお願いがあるの」
「ん、なんだ?」
私は決意して、改めて遊弥くんを見る。
「――今度、私と二人で出かけましょう」
いかがでしたでしょうか?
ではまた次回に<m(__)m>