就職か進学か決まらないまま小説の更新をしている私は大丈夫なのでしょうか?
なんていってるぐらいならさっさと就活でもしとけという話でしょうねぇ。
「おまたせー! ようやく終わったよ~」
店番をしていた穂乃果があがり、部屋にやってくる。
「穂乃果も来たことですし、始めましょうか」
全員揃ったところで、話をしようとする海未。その前に俺は待ったをかける。
「ちょっと確認したいんだけど、結局海未もことりもスクールアイドルをやるってことでいいのか?」
「うん、そうだよゆーくん」
「穂乃果一人だけでは心配ですから」
素直に頷くことりとしょうがないという風に言う海未。
穂乃果が突飛な提案をし、ことりが乗っかり、海未が付き添う。昔からこの三人はこんな関係だった。全員納得しているなら言うことはなにもない。
「それで、スクールアイドルをするのはいいが、やることは山ほどある。そこらへんは理解しているか、穂乃果?」
「ふぇ?」
問いかける俺に首を傾げて答える穂乃果。ただそれは、わからない、というより、やることは決まってるよね? というような確認のような表情だった。
こいつ、まさか……!?
いやいや、落ち着け萩野遊弥16歳。さすがの穂乃果でもそこまで馬鹿じゃ――
「ライブをするんじゃないの?」
開いた口が塞がらない。海未も頭に手を当てて、ことりは若干苦笑いしている。
「穂乃果、本気で言っているのか?」
やっぱり穂乃果は穂乃果だった。考えていることは単純だ。
「うん! 次の新入生歓迎会のときにライブをするつもりだよ。掲示板にも広告張ったし、何とか生徒会の許可ももらったよ!」
穂乃果は屈託のない笑みを浮べる。これには俺だけじゃなく海未もことりも驚いていた。
おいおいおいおい、まじかよ……!! 行動力には賞賛に値するけど思考力が残念すぎる!!
いつの間に? いや、それよりもよく絵里先輩が認めたな? てか、なんでそれを俺に言ってくれなかったんだ?
「希先輩か」
すぐにあのスピリチュアルなニヤケ面をしている先輩が思い浮かぶ。おそらく絵里先輩を宥めすかしたのも俺に黙っているようにしたのも希先輩だろう。今度絶対仕返ししてやる。
「なあ、穂乃果。ライブやるのはいいが曲はどうするんだ? 既存の曲でやるのか?」
「え? いやオリジナルの曲だけど……」
「オリジナルでやるのなら、誰が曲を作る? 歌詞は? 振り付けは? 衣装は? そもそもライブできるほどの体力はあるのか? そういうことを話し合うと思って来たんだが」
畳み掛けるように言う俺に穂乃果の顔が焦るように歪みだした。
「あ、あはははは~……ライブをやることしか考えてなかったよ~」
「考えてなかった、じゃないです! どうするんですかこの状況!!」
「う、海未ちゃんちょっと落ち着いて、ね?」
穂乃果に詰め寄る海未を宥めることり。俺も大きくため息を吐いてしまった。
「新歓まで約一ヶ月。それまでに体力づくりと曲と歌詞と振り付けと衣装とその他諸々……」
うん、不可能に近いな。どうしよ、俺スクールアイドルの手伝い降りたくなってきた。
「だいたい、穂乃果は――」
海未は穂乃果を正座させて説教モードだ。
「まったく、穂乃果は――」
別人格になりそうなレベルで捲し立てる海未。
「だから、穂乃果は――」
「しょぼ~ん……」
さすがの穂乃果も若干涙目だ。
「海未ちゃん、その辺にしておこうよ。これ以上は穂乃果ちゃんがかわいそうだよ~」
「いいえ、今日という今日は幼馴染として全部言わせてもらいます! だいたい、ことりも穂乃果に甘くしすぎです! もっとちゃんと言ってやってください!!」
「え、ええ~……?!」
矛先を向けられて困惑することり。
このままでは何も進まなさそうなので俺も止めに入る。
「そこまでにしとけ、海未」
「あなたもですか。遊弥まで穂乃果にあま――」
「――海未」
最後まで言い切る前にまっすぐと見つめてもう一度海未の名前を呼ぶ。俺の雰囲気を感じ取った海未は口を閉じる。
「海未の言いたいことはわかる。けどな、いま穂乃果に長々と説教して時間を潰すわけにはいかないのはわかるだろ?」
でも、とまだ食い下がろうとする海未。彼女の苦労もわからないでもない。だが、
「もうやってしまったんだ。だったら目の前の課題を一つずつ消化して本番までにそれなりの形に整えるのが今俺たちがすべきことだ。違うか?」
「……そうですね。ここで穂乃果を責め立てても仕方ありませんね」
海未は納得して引き下がってくれた。穂乃果やことりは胸を撫で下ろしている。
「ということで、だ。本当に急だけど最初のライブは約一ヶ月後の新入生歓迎会。放課後の時間だな。場所は体育館であってるか、穂乃果?」
「うん、間違いないよ。場所も時間もゆう君の言う通り」
自分の作り出した状況をきちんと理解した穂乃果は真面目に答える。
「アイドルのライブをするなら当然"曲"が必要になる。オリジナルからだから作詞、作曲を自分たちでやらないといけないんだけど。まず作曲できるやつ、いるか?」
「ことりは曲作りなんてしたことないから無理だよ~。あ、でも衣装は作れるよ」
「私もことりと同じで音楽に触れたことありませんから……遊弥はどうですか?」
「多少の知識はあるが、初めから曲を作れるほどじゃない」
俺は楽器を趣味でやっている。だけどやはり趣味の範囲内だ。何より一ヶ月という時間を考えると無理がある。
「穂乃果も出来ないけど、作曲できそうな子知ってるよ!」
「はっ?」
「ほ、本当ですか、穂乃果!?」
思ってもいないところからのカミングアウトに驚きを隠せない。
そんな俺たちを余所に、穂乃果はいつも通りの口調で言った。
「うん。昨日会ったんだ、ピアノと歌がすごい上手だった!」
本当に、知らぬ間に色々なことを呼び寄せる穂乃果に改めて俺は感嘆する。
だけどその子が引き受けてくれる可能性はゼロに等しい。
当たり前だ。会ったばかりの人から"作曲して"とお願いされて誰が頷くのだろうか。
「ですが、引き受けてくれるとは思いません」
「うん……ちょっと難しいんじゃないかな」
同じ考えだったようで海未とことりも難しい顔をする。だけどそんなのお構い無しに穂乃果は、
「それは頼んでみないとわからないじゃん! 早速明日聞いてみるよ!」
行動するのに迷いがない。いつでも目標に向かって突き進む。
確かに現状、それしか方法はない。もう
「そうだな。でも無理強いはするなよ?」
「うん、任せておいて!」
ぐっと拳を握り締めて穂乃果は気合をいれる。
「それじゃ次だな。さっきことり衣装作れるって言ってたよな?」
「うん、お裁縫得意なんだ。服を作るのも好きだから。一応アイディアもあるよ」
ほら、とことりはどこからか出してきたかわいらしい絵が描かれたスケッチブックを見せてくる。
「いいデザインじゃないか、うん。似合いそうだ」
「あ、ありがと……ゆーくんにそう言ってもらえて嬉しいな」
イラストとことりを交互に見て言う俺にことりは顔を染め、照れたように笑った。
「というわけで衣装はことりに任せる。手伝ってほしいことがあれば言ってくれ。俺もそれなりに裁縫は出来るから」
「え!? ゆう君、お裁縫できるの!?」
俺の申し出に穂乃果がびっくりした様子を見せる。海未も意外そうな顔でこっちを見る。
「なんだよ、そこまで驚くことか?」
不服そうに言う俺に穂乃果は恐る恐る確認してくる。
「もしかしてゆう君って、お料理とかも出来る?」
「ああ。京都にいたときは俺や妹が毎日飯の用意していたし、家事全般、人並みには出来るぞ」
爺さんは仕事、咲姉は大学とバイトで帰ってくるのは完全に日が暮れた後だった。妹の愛華にはせっかくの高校生の放課後の時間を潰させたくなくて家事は一人でやろうとしていたのだが、愛華は意地を張って、
「兄さんばかりに家のことさせるわけには行きません! 私もやります!!」
とか言って、頑なに俺の言うことを聞かなかったので愛華にも手伝ってもらっていた。
でも何故か分担するのを嫌って、掃除から料理まで一緒にやっていたのは懐かしい思い出だ。
「家事スキルが高い……」
「うぅ、ゆーくんに手伝ってもらうとき緊張しちゃうよ……」
「やはり、もっと頑張らないと駄目みたいですね」
思い出に軽く耽ている俺を余所に穂乃果たちは三人かまって小声で何か喋っていた。
最近俺が知らないほうがいい事が増えていくなあ、少し寂しい感じがする。
おっと、話が逸れてしまった。あとは……
「最後に作詞だな。これも誰が――って、穂乃果、ことり?」
「作詞は……」
「問題ないんじゃないかなぁ?」
二人揃ってニヤニヤしながらそう言う。そのにやけた視線の先には海未がいる。
「わ、私ですか!? 無理ですよ!!」
「そんなことないよ。ねっ、穂乃果ちゃん?」
「うん! 海未ちゃんならばっちりだよ!!」
「えーっと、どういうことだ?」
よくわかっていない俺に穂乃果とことりがお互いにアイコンタクトを取り、穂乃果が棚から一冊のノートを取り出した。
それを見た海未は顔を真っ青にしていた。
「ほ、穂乃果……? それは、まさか――」
「海未ちゃん、ちょっと動かないでね♪」
「ことり!? 放してください――って、力強くないですかことり!?」
穂乃果に飛びかかろうとした海未を後ろからがっちりホールドすることり。
「こ、これは!?」
穂乃果から受け取ったノートを見た俺は目を見張った。
そこに書かれているのはなんと見られたら恥ずかしいものランキング上位に位置するポエムだった。
うん。話の流れからわかってはいたよ。海未にも若いときがあったということか。まあ、まだ高校生だけどさ。でも、これ――
パラパラといくつかの詩を見た俺は、海未に向く。
「なあ海未。この詩を書いたのはいつだ?」
「遊弥まで私を馬鹿にするのですか!?」
いや、そうじゃなくてな。恥ずかしいのはわかるけど落ち着け海未。
「これ書いたの恐らく中学生の頃だろ? むしろ逆だよ。中学生でここまで書けていたのに驚いてんだ」
言葉の使い回しや選び方、情景を想像させるような多彩な表現。同じ年代でもここまで綺麗に書ける人はいなかっただろう。
「うん、やっぱり作詞は海未が一番適任だと思う。これは冗談でも馬鹿にして言っている訳でもない。海未が作詞をしていることを大っぴらにすることはないから、やってくれないか? もちろん、俺だって手伝う」
「私には、無理ですよ……」
俺の視線から逃げるように目を逸らす海未。しかし、
「海未ちゃん……」
逸らした視線の先には最強がいた。彼女は海未の手を両手で包み込み、瞳を潤ませ、見上げるように見つめて、
「おねがぁい!」
超絶甘ったるいボイスでお願いの言葉を口にした。
「はぅ!?」
「ぐはぁ!」
なんだこれは、ことりのお願いを聞いた瞬間身体がふやけたぞ!? いや、脳が蕩けているのか!?
恐るべし、ことりのお願い。これはまともに喰らったらひとたまりもないぞ。海未は大丈夫なのか?
「くっ……卑怯ですよ、ことり……」
顔を歪めて必死に抵抗している海未。だが、もはや陥落寸前だ。
「ゆーくんの言う通り、海未ちゃんしかいないの。だから……おねがぁい」
「ぐはぁ!!」
いますぐその超甘ボイスを止めるんだ、ことり! 俺が溶けて天に召されてしまう!!
「どうしたの? 大丈夫、ゆう君?」
穂乃果が、怪訝そうに声をかけてくる。
なん……だと……? 穂乃果はあの声を聞いてなんともないというのか!?
「穂乃果こそ、大丈夫なのか?」
「?」
俺に聞かれた意味がわからないという風に穂乃果は首を傾げる。
「いや、なんでもない。俺がどうかしていたんだ」
精神の鍛錬を怠ったせいだ、うん。もともと鍛錬なんてしてないけど。座禅でも始めようかなー?
「海未ちゃん、駄目かな……?」
「う……わ、わかりました! やります、やりますよ、作詞!!」
アホなこと考えている間にどうやらまとまったみたいだ。半ば
ことりのほうに視線を向けるとウィンクをして、にっこりと笑った――なにあの子怖い。
でもまあ、海未のことだ。一度やると決めたらしっかりやってくれるだろう。数年間離れていても、そこらへんの信用はお互い失ってはいない。
「大方決まったな。これ以上遅い時間だとことりや海未が危ないから、今日はここまでにするか」
「すみません遊弥。後もう一つだけよろしいでしょうか」
「ん、どうした海未?」
「明日から朝練を始めたいのですが一緒にトレーニングメニューを考えてくれませんか?」
「ああ、曲作りでそっちのほうをすっかり忘れてた。朝練のメニューは俺に任せておいてくれ」
いいのですか、という海未に俺は頷く。主な作業は彼女たちが中心に頑張るのだ。なら、サポート関係は俺が引き受けるのが妥当だろう。
こうして、今日という一日が終わった。
誰かと何かをするというのは思いのほか大変だが、どこか充実するものがある。
これから先どうなるかはわからないけど、きっと今の俺にとっていい経験になるのは間違いないだろう。
いかがでしたでしょうか。
色々詰め込みすぎて最後駆け抜けたかんじがするのは申し訳ないです。