どうもです。燕尾です
うぇーいです。あははです。
では、十二話です。どうぞです。
翌朝、神田明神――
今日からスクールアイドルの活動として朝練がはじまるのだが……
「穂乃果はまだ来ないのですか!?」
海未様がお怒りだった。
「まあまあ、海未ちゃん。まだ約束まで時間があるから落ち着いて?」
いつものようにことりが
時刻は5時55分。約束の五分前だが、十分前行動を当たり前としている海未には遅刻も同然ということらしい。
「まあ、朝早くに起きるのは慣れないと、なぁ」
俺は日課で早朝からランニングをしているため大して苦ではないが、最初のうちはなかなか辛かったのを思い出す。
「おはよー! 何とか間に合ったぁ……」
そんな話をしていると穂乃果が息を切らしながらやってきた。
「もう、遅いですよ穂乃果! もう少し時間に余裕を持って行動したらどうですか」
「うう、時間には間に合ったからいいじゃん……」
「ふふ。おはよう、穂乃果ちゃん」
「おはよう、穂乃果。時間ギリギリだったな」
「ゆう君、おはよう! ちょっと寝過ごしちゃってね~」
お互い挨拶を交わして、あはは、と言う穂乃果に俺はニッコリと言い放った。
「これで遅れてきたらでどうしてやろうかと思ってた」
「……具体的にはどうするつもりだったの?」
一瞬で顔を真っ青にして聞いてくる穂乃果に対して俺は、
「聞きたい?」
笑みを崩さず返すと穂乃果は高速で首を横に振る。
少しは釘を刺しておかないと本当に遅刻しかねないからな。これで少しは余裕を持ってきてくれるだろう。
「それじゃあ始めるか。メニューは俺が考えておいた」
「ゆう君が考えたの? 海未ちゃんじゃなくて?」
海未には歌詞だけじゃなくダンスの振り付けも考えてもらっている。こういうところで負担を分散させないと潰れてしまう。
「昨日も言っただろ? 安心しろ。別にそこまできついものじゃない。それに海未が考えるよりましだぞ」
「それは失礼じゃないですか、遊弥!?」
「じゃあ聞くけど、海未なら今日なにさせるつもりだったか言ってみ?」
ええと、とすこし考え込んで、
「始めですから軽めに考えると、まず準備体操してから階段ダッシュ十往復。そのあと腕立て、腹筋、背筋五十回ずつでしょうか?」
「それはぜんぜん軽くないよ! 鬼だよ! 海未ちゃん!!」
然も当然のように言う海未に穂乃果が叫んだ。
「いきなりそれはことりも無理だよぉ」
さすがのことりもはっきりと無理だという。うん、俺も無理だと思う。
「そんなことありません! 熱いハート、根性があればできます!」
海未よ。熱いハートや根性以前より、おまえが暑苦しいぞ。海未が育てるのはチャレンジじゃないんだから。
「まあ、こうなる気がしたから俺が考えた。っと、もう時間だな」
こうして喋っていたら開始の時間はとっくにすぎていた。
「とりあえず、三人ともランニング程度の速さで階段を一往復して来い。その後準備運動だ」
はい! と元気よく返事をして三人は駆け出す。三人のペースはバラバラで、先頭海未、次いで穂乃果、ことりという順位だ。
神田明神の境内前の階段は結構な段数があり、普段あまり運動していない人は――
「「はぁ、はぁ……」」
「大丈夫ですか、二人とも?」
ご覧の通り一往復でもへばる。穂乃果とことりはひざに手を置いて肩で息してる。海未はさすがというかピンピンしていた。
「穂乃果、ことり。歩きながら息を整えろ。そうじゃないと身体に悪い」
返事はせずとも、素直に俺の言うことを聞いて、二人は歩き始める。
大分、息が落ち着いてきたところで準備体操をやらせる。
「よし、体操はこのくらいで大丈夫だろう。次は体幹トレーニングだ」
「「「体幹トレーニング?」」」
三人が息ピッタリと疑問符を浮べる。ああ、と頷く俺にことりが手を挙げた。
「ゆーくん、体幹ってなに?」
「体幹っていうのは広い意味と狭い意味があって、胴体と胴体の深層にある筋肉って言われている」
イメージしづらいのか首を傾げることりたち。
「肩甲骨に肋骨や背骨、腹部や骨盤・股間周辺の胴体。それらを支えたり内臓を安定させたりする筋肉のことをいうんだ。わかるので言えば横隔膜とか聞いたことないか?」
「あ、それ聞いたことある!!」
穂乃果が得意気に言う。
うん、この年になれば誰でも聞いたことある部分を言ったからな。
「詳しいことを言えば、あとは腹横筋、多裂筋、骨盤底筋群とかだな」
他にも俺自身の身体を指しながら説明されて理解が進んだのか、なるほどというような表情だ。
「つまり身体の基盤になるような部分を鍛えるということですね」
やはり海未は察しがいいな。少しは知識もあるみたいだ。
「そ。これらの部分を鍛えると鍛えないとじゃ、動きや姿勢に大きな違いがでる。持久力も上がるし、バランスも良くなって力が発揮しやすくなる。身体の芯を鍛える、軸っていってもいい、それが体幹トレーニングだ」
「そうなんだ……というか、ゆう君、随分詳しいんだね?」
「まあ、鍛える必要あったからな。それに大まかに知っておいたほうがいいだろ?」
もちろん、全部知っていたわけじゃない。調べたところもある。
する必要があるとはいえ意味もわからずただやれと言われてもやる気が起きないものだ。逆にメリットがわかり、より自分のためになるとわかれば、やる気にもつながる。
「てことで、始めるぞ。まず――」
――??? side――
私は神社の物陰から四人の様子を眺めていた。
「穂乃果、お尻が下がってる、もう少し上げて!」
「ことり、腕と脚はまっすぐ、身体が地面と水平になるように!」
「海未、動きが小さいくて速い、ゆっくり大きく!」
「三人とも、呼吸が乱れてる、どこが鍛えられているか意識して!」
「「「は、はい!」」」
一人の少年の指導の下、辛そうな顔をしながらも必死に頑張っている三人の少女たち。
「28、29、30――はい、そこまで。これで一通り体幹トレーニングは終わりだ」
「「「はあーー」」」
遊弥君の合図で三人は疲れた息を吐き、シートに伏す。まったく動けていないところを見るとあのトレーニングはかなりキツイようだ。
「おつかれ。ちょっと待ってろ――ほら、スポーツドリンク」
バックから冷えたスポーツドリンクを渡す遊弥君。彼女らは同時に蓋を開けて口をつける。そんな三人に遊弥君は釘を刺す。
「このあとはランニングだ。五分後ぐらいに始めるから、あまり飲みすぎるなよ」
遊弥君の言葉に彼女らは顔を引きつらせている。
遊弥君、スパルタ過ぎない……? あの子ら、大丈夫だろうか? いや、でも遊弥君はそこまで考えなしじゃないよね。うん。
私は遊弥君を見つめる。
京都にある日本でも五指、それもその中でも上位に位置する九重学園から来た少年。
どういう経緯で音乃木坂学院に来たかは知らない。だがこうして見ていると、この渦巻いた状況を変えてくれるのではないかと思ってしまった。それはあの三人の少女に対しても同じだった。
学校を守りたい、その思いからスクールアイドルを始めた少女たち。
誰もが荒唐無稽だと思っているだろう。実際、自分の友人は彼女らの活動に難色を示していた。
でも私自身、自分らがこれからするであろう活動より、余程可能性を秘めていると思っている。
でも私にできることは精々裏から彼女らを支えること。表舞台に立つのは彼女らだ。
この先、どう転がるかは誰にもわからない。だけど、もし叶うのなら――
「――なんて、思っててもしょうがないよね」
私はうちに徹しよう。いつか来るその日まで。それが私の最善なのだから。
「よし、身体が冷えないうちにランニング始めるぞコースは――」
遊弥君の説明に彼女たちはやる気に満ち溢れた表情をしていた。そしてそのままスタートを切り、境内の階段を駆ける。
私は一人残った遊弥君に近づくのだった。
――Yuuya side――
タイムを計るために境内に一人残る。そんな俺に誰かが後ろから近づいてきて、いきなり目隠しをされた。
「だーれだ?」
「えーと、誰ですかね?」
もちろん誰なのかはわかりきっている。だけど、このまま言うのは面白くない。
「声から察するとに――俺がいま一番、あらゆる手を持って色々と仕返ししたい人の声ですかね」
「え……?」
彼女の手に緊張の力が入るのがわかる。想像だにしていないことだったろう。
「
「遊弥君、うちに何するきなん!?」
「ふふふふふ、なんでしょうかね? 知りたいですか?」
バッ、と俺から放れる希先輩。その目は軽く怯えていた。
「冗談で言ったつもりなのに、本気にされても困りますよ。希先輩」
「いや、今の冗談のトーンじゃなかったやん。それに遊弥君なら本当にやりかねないと思って」
失礼ですね、そんなこと考えてませんってば。ほんの少ししか。
「で、希先輩は――バイトですか? 巫女服なんて着て」
希先輩は白い小袖に
「そうやよ、高校入ってから始めたんや。遊弥君たちは朝練?」
「ええ。というか、わかってて聞いてますよね?」
「いやいや、遊弥君を見つけたのは偶然やよ?」
責めているわけではないのに希先輩はシラをきろうとする。
「いや、希先輩ずっとこっち見ていたじゃないですか。バイトの掃除をサボって」
「サボりなんて人聞きの悪いこと言わんといて! というか、気づいておったん!?」
「まあ、視線を感じてましたから。あとは気から感知しました」
「気!?」
冗談である。そんなマンガみたいなこと出来るわけがない。本当は希先輩が神社に入るところを見ていたのだ。
「と、希先輩をからかうのはここまでにしておきます。泣かれても困りますし」
「泣かへんもん! うう、遊弥君は意地が悪いね」
やり込まれたのが悔しいのか、軽く睨んでくる希先輩。逆に俺にはこの人に一杯くわせた感じがしてその視線が心地いい。
「まあ、これで生徒会での一件をチャラにしてあげます。次からはちゃんと教えてくださいよ?」
「……本当に意地悪や」
何の事を言われたのかわかっている希先輩は苦い顔をしている。
「もうからかったりしないので機嫌直してください。可愛いのが台無しですよ」
「……遊弥君。そんなお世辞言ってもそうはいかんよ?」
言われ慣れていないのか、希先輩は顔を紅くしている。
「いやいや、お世辞で言っているわけじゃありませんよ? その巫女装束だってすごい希先輩に似合ってますし」
可愛いというのも似合っているのも本心だ。だけど希先輩は信じていない。
「そんなこと言われると本気にしちゃうやん……どうなっても知らんよ? 遊弥君」
「ですから本気ですって。希先輩の姿を見て本気で――」
「本気で……なんですか……遊弥?」
「え……海未?」
後ろから海未の
少しばかり息を切らしているが、三人は笑顔だった。ただその笑顔がとてつもなく怖い。
「ゆう君。穂乃果たちがランニングしている間に……」
「なにしていたのかなぁ?」
「答えてください、遊弥」
少しでも返答に間違えると命はないと思ってしまうほどのとてつもない殺気を向けられている。
「いや、希先輩と世間話をしてただけで」
「世間話……? ことりたちにはぁ、ゆーくんが副会長を口説いていたように見えたけど?」
「口説いてなんかないって。ただ俺は――」
そこまで言って、先ほどの自分の言葉を思い出す。
――あれ? もしかして俺、口説いてた?
「遊弥君、情熱的だったやん。うっかり惚れそうになってしもうたよ」
「何でそんな誤解を受けるような言い方するんですか希先輩!?」
頬に手を添えて、照れたように言う希先輩。しかし、その口元はニヤリと歪んでいた。
「男らしかったで、遊弥君♪」
「まさか、さっきからかった仕返しですか……!?」
「ふふ、うちを上回ろうなんて十年早いで」
人の好意をなんてことに利用するんだ、この人は! 可愛いところもあるんだなと本気で思っていたのに!!
とにかくこの場から離れなければ――
「――ひっ」
走り出そうとした瞬間三人の手が俺の肩をがっしりと掴んだ。
「ふふふふふふ、ゆーうーくーん?」
「少し話をする必要がありますね」
「まだ朝だけど、おやつの時間だよ。ゆーくん♪」
「おい、待て。話せばわかる。だから少し落ち着いて――」
女の子のものとは思えないほどの力で引き摺られていく。そして、
「――ぎゃああああああ!」
俺の悲鳴が木霊するのだった。
「ふふ、遊弥君。ありがとうな♪」
薄れ行く意識の中で希先輩が何を言っていたのかは俺は知らない。
いかがでしたでしょうか?
○○チャレンジって今もまだあるんですかね?
次の更新の目処は立っていませんが、三月中に出来ればいいなあと思っています
ではまた。