ラブライブ! ~one side memory~   作:燕尾

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どうも~燕尾です。

十九話目ですね。楽しんでもらえるといいですね。





萩野遊弥の手伝い ~ことりの場合~

 

 

秋葉原――戦後の日本において闇市として発展し、高度経済成長時期に電子機器やハードウェア、ソフトウェアを取り扱う店が建ち並び世界有数の電気街として発展してきた街。今では電化製品のみならず、アニメや漫画などのサブカルチャーにおいては日本屈指――いや、世界屈指の場所でもある。

その秋葉原の駅前で俺は人を待っていた。

 

「遅いな……」

 

時計を見ながらつぶやく。

約束の時間からもう三十分以上過ぎていた。連絡も来ておらず、少し心配だ。

周りを見渡していると件の待ち合わせの約束をした人の姿が見える。しかし、

 

「なあなあ、いいでしょ? 俺らとお茶しようよ」

 

「お金もあるし、奢っちゃうよ~」

 

「ごめんなさい、約束している人がいるので……」

 

彼女は二人組みの男に付きまとわれていた。いわゆるナンパというやつだ。定番の軽い行動をしている男たちに溜息が出る。

 

「約束してるのはお友達? ならその子も一緒に誘おう。それなら大丈夫だよね?」

 

「いえ、わたしは男の子と約束しているので……」

 

「君の男より、俺らと一緒に遊んだほうが絶対楽しいって! だから、一緒にいこう?」

 

なにを言っているのかは聞こえないが、渋っている彼女に段々と雲行きが怪しくなっている。早く行かないと大変なことになりそうな雰囲気だった。

 

「いいからこっちに来いって!」

 

「そんな男なんか忘れるくらい俺たちが気持ちいい(いい)ことしてやるからさ!」

 

「や、やめてください! わたしはあなたたちなんかとは行きません!!」

 

予感したとおり、男たちは無理やり彼女を連れて行こうとしていた。

俺は彼女と彼女の手を取ろうとした男の腕を掴む。

 

「はいはい、そこまで。ことりから離れろ」

 

「ゆーくん!」

 

ことりは驚きながらも安心したような顔をして俺の後ろに隠れる。それとは対照的に男たちはあからさまに顔を(しか)める。

 

「なんだお前は」

 

「いまその子とお茶しようとしていたんだ。邪魔するなよ」

 

見た感じ大学生と見られる男たちは、自分たちより年下の俺にでかい顔をして威圧してくる。だが、まったく怖くもなんとも無い。むしろ、また溜息が出てしまう。

 

「雰囲気で察しろ。邪魔なのはあんたたちだ。(さか)るならそこらへんの頭の悪い女でも捕まえてろよ」

 

「お前ッ……!」

 

「ガキの癖に調子に乗るなよ……」

 

俺の悪態に逆上する男たち。運が悪くこの男たちは引き下がらないタイプだった。

もう一芝居打つために、俺はことりの肩を抱いて自分に引き寄せる。

 

「わっ……!?」

 

驚きながらもすっぽり収まっていることりの頭を男たちに見せ付けるように撫でる。

 

「いくら盛りたい年頃だからって、人の女に手を出すなよ。餓鬼(ガキ)じゃないならそこらへんは(わきま)えているだろ」

 

言い放つ俺に男たちはたじろぐ。ここで手を出せばこいつらは俺より下だという証明になる。それに、少ないが、野次馬たちによる周りの目もあるのだ。警察沙汰になれば間違いなく男たちの非が問われることになる。

 

「ちっ……おい、行くぞ」

 

「ああ……」

 

そこまで考えられないほどの馬鹿じゃないのか、苦虫を噛み潰したように去っていく。念には念を入れて、見えなくなるまでことりを離さない。

 

「ふぅ――」

 

その背が完全に消えたのを確認した俺は息を吐く。大丈夫か、とことりに確認しようとした直後、周りが沸いた。

 

「キャー! カッコイイ!!」

 

「やるじゃないか、兄ちゃん! ま、俺には敵わないけどな!!」

 

「なに言っているのさ、あんたより百倍かっこよかったじゃないの!」

 

「嬢ちゃんを大切にな!!」

 

「末永くお幸せにー!!」

 

昔のノリから現代のノリまで入り混じった様々な歓声。ナンパを撃退するだけのはずが随分と大事になってしまった。ことりも恥ずかしいのか顔を真っ赤にしている。

 

――早くここから離れないとな。

 

「ことり、行くぞ」

 

「……うん」

 

俺は周りの人達に一礼して、ことりの手を取り、転ばないようにその場から走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駅前から離れた俺たちはそのまま今日の目的の店前にまで来ていた。その店は衣料や服飾の材料が売っている専門店だ。

 

「大丈夫か、ことり?」

 

「うん……」

 

駅前の一件から、うん、としか返してこないことり。

 

「それにしてもナンパとは災難だったな。もしかして、今日遅れたのはあれ以外のナンパに()っていたとか?」

 

「うん。あの人達以外にも声かけられちゃって……」

 

ごめんね? と謝ることりに俺は首を横に振った。

 

「ことりが謝ることじゃないだろ? まあ、しょうがないよな。今日のことり、いつも以上に可愛いし」

 

「ふぇ!?」

 

ことりがまた真っ赤になった。恥ずかしいのか握っていた手から彼女の熱が伝わってくる。

学院の制服しか見たことがない俺には彼女の私服は新鮮に見えた。そして、服飾関係に詳しいと言っていた辺りさすがの一言だ。ことりのための服としか思えない。

 

「うん、私服姿は初めてだけど。よく似合ってる」

 

「あ、ありがと……」

 

頬を染めて俯くことり。俺もちょっとナンパから救うために気取ったのをまだ引き摺っていたのに気づいてなんだか恥ずかしくなってきた。

 

「ご、ごめん、いつまでも手を握ってて。嫌だったろ」

 

パッと握っていた手を離す。彼女のぬくもりがなくなるのに少しの物寂しさを感じるけど仕方がない。

 

「あ……」

 

「それと、ナンパを追い払うためとはいえ、いきなり抱きしめて彼女呼びして悪かったな」

 

正直、彼氏でもないのに抱きしめて頭撫でるとかいくらなんでもやり過ぎてしまった気がする。

 

「……」

 

「ことりの彼氏が俺だなんてありえないよな」

 

第一、もっと良い方法でナンパを撃退すればよかったんだ。なんだよ、人の女って、どれだけ上から目線なんだよ俺。

 

「……」

 

「だからあのことは忘れて――って、ことり?」

 

さっきから無言のことりに違和感を感じる。そして異変は無言だけではなかった。

 

なんだかすっごい無表情なんだけど。何の感情も映していない顔なんだけど!?

 

「ゆーくん」

 

「は、はい!」

 

虚ろな目から一転、ことりはニッコリと笑う。

 

「早くお店に入ろっか?」

 

ことりの笑顔の後ろに何かドス黒いオーラが(ただよ)っていた。

 

何も聞くことは出来ず、俺は頷いて、店の中に入る。

 

「色々な布があるな」

 

専門店というだけあって、様々な種類、色の布が並んでいた。

 

うわ……これカシミアだし、値段は――高ッ!? それにこっちにはビキューナもあるのか……

 

普段見るようなことのない貴重な布地を置いているこの店は、ことりが普段贔屓にしている店だった。

彼女はいま、衣装に使う布地や装飾品を選んでいる。今日俺が呼ばれたのは衣装についての相談と、衣装作りの手伝いだ。なのだが、

 

「なあ、ことり――」 

 

「ゆーくん、ちょっと静かにしててね?」

 

「は、はい……」

 

ピシャリ、とことりに捻じ伏せられる。どうやら未だに発言権は俺にはないようだ。衣装の布地を選んでいることりの背後にはまだドス黒いオーラが漂っている。

何か俺がいけないことをしたのは間違いない。だが、なにがことりを不機嫌にしたのかが、見えてこない。そして、わからないまま謝ろうとすれば、もっと酷いことになるのが目に見えて明らかだ。

そんなこんなでどうしたらいいのかわからないのが現状だ。とりあえず、ことりの言う通りにして、彼女の邪魔をしないように見守ってはいるが、すごい気まずい。

 

「「……」」

 

結局店の中ではほとんど言葉を交わさず、買い物を終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Side Kotori――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

私は衣装に使う布を選びながらため息をついていた。店に入ってから、ゆーくんと一言も話していなかった。いや、

 

「なあ、ことり――」

 

「ゆーくん、ちょっと静かにしててね?」

 

「は、はい……」

 

ゆーくんはわたし会話しようとしてくれている。だけどわたしがゆーくんと話をしようとしていないのだ。

ナンパに遭って連れて行かれそうになったわたしを助けてくれたゆーくんはかっこよかった。

演技だとわかっていても、わたしを抱きしめて、ゆーくんの彼女だって言ってもらえてとき、恥ずかしかったけどわたしは凄く嬉しかった。それに、ゆーくんが手を握ってきたときも、わたしがゆーくんの彼女になったような気がして、ドキドキしていた。なのに、

 

――ことりの彼氏が俺だなんてありえないよな

 

ゆーくんのその一言が、悲しくて、辛くて、どうしようもない感情が溢れてくる。

 

「なんで……なんでそんなこと言うの……ゆーくん……」

 

自分の気持ちがゆーくんに届いていないのは別にいい、直接言ったわけでもないのだから。だけど、伝えてもいない気持ちを否定されるのは我慢できなかった。

 

「「……」」

 

何もしゃべらない時間が辛い。

今日はこんなはずじゃなかった。もっとお喋りしながら、楽しく過ごす。そのはずだった。それなのに、

 

「「……」」

 

結局お店でゆーくんと話すことは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店で買った布を持ち、わたしたちは家へと向かっていた。

衣装の材料を買ってわたしの家で衣装を作るのが今日の予定だ。だけど、相変わらず気まずい雰囲気のまま。このままだったらここで別れたほうがお互いのためじゃないのだろうかと、そう思えてくる。

もうわたしもどうしたらいいのかわからない。

なんでこんなことになったんだろう。ぐるぐるといろんなことが頭の中を掻き混ぜる。

 

「ことり」

 

すると、不意にゆーくんが声をかけてきた。

 

「なにかな、ゆーくん?」

 

わたしはきわめて平静を装う。でもそれがかえって不自然だった。そしてそれに気づかないゆーくんではない。

 

「この後はことりの家で衣装作りだよな?」

 

「うん、そうだよ」

 

「その前にちょっと寄り道しないか?」

 

ゆーくんが手を差し伸べてくる。その手にわたしはしばらく固まったまま答えが出なかった。

そんなわたしに痺れを切らしたのか、ゆーくんはわたしの手をとった。

 

「ゆ、ゆーくん?」

 

「寄り道していこう。ことり」

 

わたしは半ば無理やり引かれて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Side Yuya――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再びことりの手を取って俺が来た場所は秋葉原でも有名なスイーツ店。

時間もちょうど昼を越えたところだし、軽く腹に入れるには持って来いの場所だ。

ことりはスイーツに目を輝かせている。

 

「好きなの選んでいいぞ、ことり」

 

「いいの、ゆーくん!?」

 

先ほどの不機嫌はどこへやら、やった~、とはしゃぐことり。それを見ただけで来た甲斐があったというものだ。

俺はフルーツタルトとチョコレートケーキにエスプレッソを、ことりはチーズケーキとベイクドチーズタルト、それとアップルパイにアールグレイを選んだ。

会計を済ませて、オープンテラスのテーブルに移る。

いただきます、と二人揃って手を合わせて、俺はフルーツタルトをことりはチーズタルトに手をつける。

 

「んー、おいしい~!!」

 

「うん、美味い」

 

二人揃って破顔する。やはり甘いものは人を笑顔にするんだな。そして俺はタイミングを見計らって口を開いた。

 

「俺が言うのもおかしいけど、少しは気分が晴れたか?」

 

「あ……」

 

デザートに夢中になっていたことりの手が止まる。

 

「悪かったな、ことり」

 

「どうして、ゆーくんが謝るの……?」

 

「そうだな、ことりが不機嫌になるようなことをしたからか……こんなことを言ったらまた怒るかもしれないけど、俺はまだ、ことりが怒っている原因がわからないんだ」

 

「……ゆーくんらしいね」

 

苦笑いすることり。その顔にどんな感情を抱いているのかは俺には当然わからない。

 

「だからそれを含めて、悪かった」

 

俺はしっかりと頭を下げる。しばらく無言の時間が続いたが、さっきまでのような悪い空気ではなかった。

 

「……ひとつ、お願いを聞いてほしいな」

 

「俺に出来ることなら、なんでも」

 

ことりは視線をフルーツタルトとチョコレートケーキに移す。

 

「そのフルーツタルトと、チョコレートケーキ。食べさせてほしいな」

 

そんなのでいいのか? と聞く俺にことりは頷いた。

 

「それじゃあ――」

 

皿をことりに寄せようとすると、ことりは目を瞑ってかわいらしい口を小さく開けた。まるで餌を求める小さな雛鳥のように。

 

食べさせてほしいって、そういうことかよ!? 

 

でもこれは俺に出来ることだ。ならやるしかない。

 

適当な大きさに切り、フルーツタルトを口へと運ぶ。

 

「ほら、ことり、あーん……」

 

「あーん……んっ……」

 

もきゅもきゅとタルトを味わうことり。その顔はほんのり赤い。

 

「どうだ?」

 

「うん、おいしい……」

 

「それじゃあ、次はチョコレートケーキな」

 

同じようにケーキを切り分ける。ことりは準備が出来ていたのか、もう口をあけて待っていた。

 

「あーん……うん、こっちのケーキもおいしいね」

 

「それはよかった――ってことり、口にチョコが付いてるぞ」

 

「えっ!?」

 

口元を押さえることり。俺はウェットティッシュでことりの口周りを優しく拭いてやる。それと同時に、二人して小さく笑い合った。

ひとしきり笑った後、ことりは小さく呟いた。

 

「……なんか、恋人みたいだね、ゆーくん」

 

からかうのとはまた違う、確認するような言い方をすることり。俺はどう返答するか悩む。だが、ことりの目からはからかいや誤魔化しといったものは許さない、正直に答えろとそういう雰囲気を感じた。そして俺は、

 

「――そうだな。ことりと恋人になったらこんな感じで楽しそうに過ごすんだろうな」

 

期待と羨望を込めた素直な気持ちを言った。俺の言葉の感情を感じ取ったのかことりは顔を綻ばせる。

 

「ふふ……ありがと、ゆーくん」

 

先ほどまでの不機嫌さは完全になくなったようで、俺も一安心する。

 

「あ、そうだ!」

 

ことりは思いついたように自分のチーズケーキを切り分けた。そして、

 

「はい、ゆーくん。あーん♪」

 

「えっ、ちょっとまて。ことり――」

 

切り分けたケーキを俺の目の前まで持ってくる。笑顔で構えることりに俺は戸惑う。

 

だってこれ、間接――

 

「えいっ♪」

 

「んん゛!?」

 

有無を言わせずことりは俺の口の中にフォークをつっこんだ。

 

「どう? おいしい?」

 

もぐもぐと口を動かしながら頷く俺。するとことりはチーズタルトを食べて、おいしいことを確認したように頷いて、一口サイズに切り、またもや俺の口元まで運んできた。

 

「はい、ゆーくん。これもおいしいよ」

 

「だから、ちょっとま――んん!」

 

最後まで言い切る前にことりに口を塞がれる。

 

「ふふ、おいしい? ゆーくん♪」

 

これじゃあバカップルだと思うが嬉しそうにすることりを見て俺は抵抗するのをやめる。

この後、お互い自分のケーキを食べることはなく、ケーキがなくなるまでお互いに食べさせあうのだった。

 

 






はい、ということで第十九話、夢見る童貞・処女の燕尾が午前二時ごろをお知らせすると共にお送りいたしました。
誤字脱字、評価・感想などあれば遠慮せずに書いてください。

ではまた次回に。


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