燕尾です。眠いです。
これ投稿したら寝ます。
西木野さんが作曲を引き受けてくれた次の日。朝のトレーニング中、俺たちは重大なことを忘れていたことに気づいた。
それは――
「そういえばわたしたち、グループの名前を決めてないよね……」
「あ」
「そういえばそうですね……」
「他の事に気をとられすぎてて完全に忘れてたな……」
ことりの一言に俺たちは声を
これではいけないと、昼休みに
「何か良いの思いつくか?」
「ん~、なかなか思いつかないよね」
「なにか私たちの特徴があれば良いと思うんだけど」
「私たちは性格もバラバラですしね……」
「じゃあ、単純に私たちの名前で"ほのかうみことり"とか?」
「漫才師じゃあるまいし」
「なら、海未ちゃんが"海"、ことりちゃんが"空"、穂乃果が"陸"で"陸・海・空"とか?」
「全然アイドルっぽくないですね」
ことごとく却下される穂乃果の案。穂乃果もそう思っていたようで、だよね、と肩を落とす。
「ゆーくんは良い考えはない?」
「そうだな――"Tokyo 3th sisters"――とか?」
「それはギリギリアウトな気がします……」
俺の案も
「はいはい! いい方法を思いついたよ!!」
「はい、穂乃果さん」
元気よく手を挙げる穂乃果を指名する。すると穂乃果はペンを持って教室の外へと飛び出した。
「おい、どこに行くんだ!?」
慌てて穂乃果の後を追う。穂乃果の向かった先は掲示板だった。
そして彼女は自分で貼ったポスターに何かを書き加えて、どこからか取り出した投票箱のようなものを置いた。
「これでよし!」
一仕事終えたように汗を脱ぐ仕草をする穂乃果。大体わかったが一応確認すると、
「グループ名募集……」
「丸投げですか……」
思ったとおり、グループの名前を募集するという名の他人頼りだった。
「こっちのほうが皆も興味もってくれそうじゃない?」
「そうかもね」
ことりが同意する。まあ、穂乃果のいうことも一理ある。立ち止まって見てもらえれば存在を知ってもらう機会にもなるだろう。
「それじゃあ、後は曲の見通しができるまで体力づくりするか!」
「「「はい!」」」
三人は気合の入った返事をする。
「あ、ちなみに数日の間、放課後は俺顔出せないから。頑張って」
「「「えぇー!?」」」
直後、彼女らの叫び声が響いた。
ガラガラ、と扉を開ける。そこには赤髪の少女がピアノを弾いていた。
俺の姿を確認した彼女は不機嫌そうに言った。
「遅かったじゃない。待ちくたびれたわ」
「しょうがないだろ、連絡先も知らないし。教室に行っても西木野さんいなかったし」
ちなみに穂乃果たちに愚図られて遅くなったのは内緒だ。
「女の子との待ち合わせに遅くなって言い分けするのは男の子らしくないわ」
「はいはい、男らしくなくて結構だ」
俺の適当な返事にムッと顔をしかめる西木野さん。
「まあまあ、そんな顔するなって。可愛い顔が台無しだぞ」
「かわっ……もうあなたのその言葉には惑わされないわ。調子のいいことばかり言わないでもらえるかしら」
冗談じゃないんだけどなぁ――そう呟いた俺に反応して西木野さんはキッ、と睨んでくる。
「とりあえず行くわよ、こんなところでふざけ合っている暇はないわ」
自分の荷物をもって音楽室から出て行く西木野さん。
「ああ――」
そうだな、と言って俺もあとについていこうとした瞬間、
「――ッ!?」
目の前が一瞬暗くなり倒れそうになる。ここ最近の無理が
「ちょっと、大丈夫!?」
そんな俺の状態に気づいたのか、慌てて西木野さんが駆け寄ってきて手を貸してくれる。
「悪い、一瞬
「あなた、昨日はちゃんと休んだの?」
昨日と同じようにどこか責めるような視線を送ってくる西木野さん。俺も昨日と同じように逃げるように目を逸らしてしまった。どうやら俺はあまり嘘をつけるタイプじゃなさそうだ。西木野さんはため息をはいている。
「あまり医者の娘としてはあまり無視できないのだけれど……まぁいいわ。倒れないようにだけはして頂戴よ」
「ああ、善処するよ……」
俺の返事に西木野さんはさっきとは違う呆れたような大きくため息を吐くのだった。
所変わって西木野さん宅――
「久しぶりだな、西木野さんの家も。相変わらずでかい」
俺の呟きが西木野さんに聞こえたのか、驚いたようにこっちを見た。
「あなた、私の家に来たことあったの?」
「ああ、西木野先生と美姫さんに招待されて何度か。だから娘がいるっていうのもしってたよ」
「パパとママが? なんでそんなに先輩は私の親と親密なの?」
まあ、当然そう思うよな。俺も最初は一患者に対して親切すぎると思ったから。
「鞍馬巌って知ってるか」
「鞍馬巌? 確か九重学園の理事長で日本を代表する教育者。何人もの有名人を輩出してきたって有名な人よね。その人がどうかしたのかしら?」
さすが西木野さん、色々と知っている。
「実を言うとその爺さん、俺の義父なんだよ。で、西木野先生と美姫さんは爺さんの教え子だったんだ」
「でも、先輩の苗字って萩野……あ……」
そこで父親のイントネーションに気づいた西木野さんは罰の悪そうな顔をする。
「西木野さんが気にすることじゃない。俺も色々と割り切れてるし。まあ、その爺さんの養子だってんで、先生や美姫さんにはよくしてもらっていたんだ」
「そういうことだったのね……」
「まあ、そういうことだ。それでも何の因果か、西木野さんが家にいることがなかったみたいだけど」
そう、何度か西木野邸へお邪魔したのだが、一度も西木野さんと顔を合わせることはなかった。
「本当に不思議よね。あなたは何度もうちに来ていたっていうのに、初めて出会ったのが学院だなんて」
話をしながら門の鍵を開けた西木野さんは俺を招く。
「さあ、入りましょう」
「ああ、お邪魔します」
ただいま、と入る西木野さんの後に続いて俺は西木野邸へと入る。
「お帰り真姫ちゃん今日は随分早い――って、あら?」
彼女の帰りを出迎えたのは西木野さんの母親の美姫さんだった。じっと見つめてくる美姫さんに俺は一礼した。
「お久しぶりです美姫さん。萩野遊弥です」
「萩野遊弥……まあ! 久しぶりね遊弥君! 大きくなって、見違えたわ!!」
「ありがとうございます。美姫さんは数年前にあったときから変わってないですね。相変わらず綺麗でびっくりしました」
穂乃果、海未、ことりの幼馴染たちを含め、俺の知り合いの母親たちはなぜこうも若いのだろうか? もはや一種の謎だ。
「ちょっと、人の母親を口説かないでくれる?」
西木野さんから冷ややかな視線が送られるが、美姫さんは素直に受け取ってくれたようで喜んでいた。
「ふふ、ありがとう――それで、今日はどうしたの?」
「はい、今日は真姫さんにお願い事とその手伝いがあるんです」
「そうなの? てっきり、真姫ちゃんが遊弥君をボーイフレンドとして連れてきたのかと思っちゃった」
「ちょっ、ママ!?」
「あはは、真姫さんの彼氏になるのは魅力的だろうとは思います」
「先輩もなに言っているの!?」
俺と美姫さんの間で真っ赤になっておろおろしている西木野さん。
「ですけど、まだ知り合って間もないですから。今のところその予定はないですね」
「あら、残念ね。遊弥君なら安心して真姫ちゃんを任せられるのに……」
本気なのか、割とがっかりしている美姫さんに俺は苦笑いしてしまう。
俺たちの会話に耐えられなかったのか西木野さんが、俺の手首を掴んでくる。
「ママ、ちょっと先輩とやらないといけないことがあるから! ほら行くわよ、先輩」
「あ、おい――」
「ヤること? やっぱりあなたたち……」
「それは違いますからね、美姫さん!?」
とんでもない勘違いをしている美姫さんに俺は大声で否定しながら、西木野さんの部屋に引っ張られていった。
「まったく、ママってば……余計なエネルギーを使ったわ」
西木野さんは疲れたような表情をする。
「一つ一つ反応するからだと思うぞ」
「……あなたのせいでもあるのよ」
フォローしたつもりなのだが、逆に睨まれてしまう。わかってはいたが、西木野さんに冗談はあまり通じないみたいだ。
「社交辞令とでも思っておけばよかっただろ。そもそも親御さんの目の前で娘を貶める人間がどこにいるんだよ」
「それはそうだけど、こうもはっきり言われると、なんか納得いかないわね……」
釈然としない顔でそう言う西木野さんに俺は思わず、面倒くさい、と呟いてしまう。
「別に俺は普段、西木野さんのことを嫌ってるわけじゃないんだから、それで良いだろ?」
「……まあいいわ」
西木野さんは不承不承といった感じだが、納得してくれた。そして、いそいそと機材を取り出して、最後にピアノの前に座る。
「それじゃあ作曲、始めましょうか」
ぽん、と自分の隣の空いているスペースに俺を招く。警戒心がなくなったのは嬉しいことだが、いささか無防備すぎやしないだろうか、この子は。
なかなか来ないをれに西木野さんは首をかしげた。
「どうしたのかしら? 早くしてほしいのだけれど」
「ああ……」
これが素なのかどうかはわからない。だけど、西木野さんと距離が近くなったことには違いない。
ちょっとした進歩に表情を緩ませつつ、俺は西木野さんの隣に座った。
いかがでしたでしょうか?
ではまた次回にお会いしましょう。おやすみなさい。