どうもです。燕尾です。
久しぶりですね、文がおかしかったらすみません。
では22話です。どうぞ
「……」
西木野さんは集中するように瞳を閉じてヘッドホンから流れてくる音楽を聴いている。
少し手持ち無沙汰に感じるが、しょうがない。俺が作ったものがどの程度なのかを確認しなければ、この後の方針が立たないからだ。だけど――
――眠い。
穂乃果たちの体力トレーニングに付き合いながら、夜遅くまで――というか夜更けまで作曲の勉強をしながら曲を作っていたのだ。ここ数日満足に寝た日はないに等しい。
先ほども
「――ふう」
そんなことを考えているうちに西木野さんがヘッドホンを外す。髪を整えるために首を軽く横に振るしぐさはさまになっていた。そして俄かに女の子特有のシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
「どうだった?」
彼女の香りに少しドキドキしながらもそれを感じさせないように俺は問いかける。西木野さんははぁ、と一息吐く。
「貴方、どれだけ根を詰めてたのよ……」
西木野さんからの返事は褒めるでもなく、
思いもよらない返事に少し戸惑ってしまう。
「えっと……四、五日ぐらいで一通りの知識を叩き込んで、それからはいろんな曲を聴きいて思考錯誤しながら作ってたぐらいだけど?」
俺の返答に西木野さんはまた大きくため息をついた。
「呆れたものね……」
次は声に出された。
「やっぱり良くなかったか?」
「そうじゃない。やったこと無いのによく数日でここまで作れたものだわ」
遠まわしだが、認めてくれたことに少し安堵する。
「完成までどのくらいかかりそうだ?」
「明日にはできるわ」
「はっ……?」
少しでも見通しができればいいと思って聞いてみたのだが、西木野さんから返ってきた答えは俺の予想を超えてきた。
唖然としている俺に西木野さんはもう一回言った。
「だから、明日には完成するわ。私の予想以上に先輩が頑張っていたみたいだから」
「そ、そうなのか……早く終わるのはいいことだな。うん」
「あら、照れているのかしら?」
言葉に詰まった俺をからかうような西木野さん。完全にここぞとばかりに仕返しをしてきてる。
「そんなことはない。俺が照れるなんて気持ち悪いだろ」
「そんなことないわよ? とっても可愛いわ」
口元をニヤニヤさせながら、頬に手を添えてくる。
この子、こんなに距離感が近い子だったっけ? なんかえらい上機嫌な上にスキンシップが過激だ。
「どうしたんだ、西木野さん? ちょっと前とだいぶん態度が違うけど?」
「そう? まあ、私も思うことがあったということよ」
その思うことを聞きたかったのだが、教えてはくれないようだ。
「まあ、話したくないのならいい。それで、どこから手をつけるんだ?」
「そうね、まずは――」
作曲の作業を始めてから約二時間、これまでの無理もあったせいか、俺の体は限界を
頭が休みを取れと仕切り無しに信号を送っているような感じだ。
「で、ここは――」
西木野さんの声がやけに遠く感じる。
意識が薄れてくる。さっき自分に喝を入れたはずなのに、襲ってくる睡魔に負けてしまいそうだ。
そして、意識が持っていかれそうになった瞬間、
「ちょっと、聞いてるっ?」
「うえあ!?」
耳元で叫ばれた大きな声で意識が引き上げられる。
びっくりして音源を確認すると西木野さんの不機嫌そうな顔が映った。
「ちょっと……あなたたちのためにやっていることなのに、寝るなんてどうかと思うのだけれど?」
「わ、悪い。気をつける……」
彼女の言う通りだ。これは穂乃果たちのために西木野さんに頼んだ作業。その当事者がこの有様では示しもつかない。
素直に謝る俺だが、実際はまだ頭がボーっとしている。そんな俺の状態を見透かしているのか西木野さんはため息をはいた。
「……いまのあなたにそれを言うのも酷な話よね」
そういって西木野さんは壁際においてあるベッドを指差した。
「少し寝てもいいわよ。その間に進めておくから」
「いや、西木野さんの言ったとおり、これは俺や穂乃果たちのことでもあるから休むわけには……」
「キリのいいところで私も休憩挟むわ。それに、ここ数日まともに寝ていなかったのでしょう? だったら少しはここで休んでおきなさい。これは命令よ」
今の主導権は明らかに西木野さんにある。ここで意地を張っても
だけれど、ベッドというのはまずくないか? ソファがあればいいんだけど。
あまりじろじろ見ないように部屋を見渡すとちょうど寝転がれそうなソファがあった。しかし、
「ソファは駄目よ、しっかり休めないもの。ちゃんとベッドで寝ること。いいわね?」
俺の気持ちを読みきった西木野さんが
「……わかった」
もう抵抗する気も失せて、俺はベッドに横になる。
最初こそ彼女の香りがふんわり漂って寝られないと思っていたのだが、体は正直だったようで、すぐに眠りに堕ちるのだった。
――Maki side――
「こんなところかしらね……」
私は背伸びをして凝り固まった身体をほぐす。先輩に休憩を
「――」
先輩はベッドに横になってから数分もしないうちに眠りについていた。余程辛かったらしい。
今はすうすうと穏やかな
「ふふ……可愛い寝顔。子供みたいね」
私は先輩の頬を
先輩は私の指から逃げるように顔を背けた。そのことにちょっとした寂しさを感じる。
「あなたは……わたしのことを覚えていないのね。まあ、無理も無いわ……」
寂しさからか自然とそんな言葉が漏れてしまう。
先輩の前では何も知らない振りをしていたが、私は彼が両親と知り合っていたのは知っていた。
鞍馬巌にうちの病院に連れられて病室で両親と顔合わせたとき、私もその場にいたのだから。
初めて彼を見たとき、私は子供ながらに理解してしまった。生きる気力の無い人というのがどんなものかということを。それほどまでに先輩の見た目は酷かった。
――こんにちは
――(コクリ)
――わたし、西木野真姫。あなたは?
――……
――ちょっと、無視しないでよ
――萩野遊弥
――そう、よろしくね
――……
感情の無い人形――先輩と言葉を交わして最初に思ったのがそれだった。そして同時に面白くないとも思った。
――すまないな、真姫の嬢ちゃん。こやつ、真姫ちゃんが可愛いから照れておるだけなんじゃよ
不機嫌そうな顔をする私に鞍馬さんが苦笑いしながらそういっていた。でも、そうじゃないのは幼心でもわかった。
パパから話を聞けば先輩は小学校に入ってからずっと辛い思いをしてきたせいで、心を閉ざしたのだ。
優しさを否定して、好意を疑い、誰も信用しない。何度も病院から抜け出そうとしていたのがいい証拠だった。
毎日のように看護師たちの目を盗んでどこかへ向かおうとする先輩を目にしたことがある。目は虚ろだったが、誰かのもとへと帰る、帰らないといけないという意志を感じた。
あるとき、抜け出していたことに我慢の限界が来た医師や看護師達は珍しく寝ていた先輩の手足をベッドにくくりつけた。
――外せ! やっぱりお前らは俺に何かするつもりなんだろう!! あのジジイの手先なんだろうっ!!
――愛華を一人にさせておけないんだ! いまあいつは俺がついてやらないといけないんだ! だから、出せっ! ここから出せェェェ!!
起きて気づいた先輩は朝から晩まで、精神安定剤を打ち込まれて力尽きるまで毎日のように叫び暴れた。日によっては夜中まで叫び続けたこともあったという。
次第に落ち着くまで最低限の看護をする以外、先輩の部屋には誰も近づかなくなった。
そんなある日、病院に来ていた私は意を決して先輩に話しかけに行った。
叫び声は聞こえなかったが、じゃらじゃらと鎖の
――ちょっと、毎日毎日うるさいんだけど? 少しはおとなしくしたら?
――だせ……ここから、だせ……だしてくれ……
――なんでそんなに出たいの? あなた、怪我しているのよ?
――まなかを……あいつがいま、ひとりなんだ。はやく……まなかの、もとにいかないと……
――まなか? あなたの家族なの?
――だせ……だしてくれ。お願いします……だしてください……
声が枯れて、叫ぶ元気が無くなっていた先輩は涙を流して懇願し始めた。
パパにそれを聞くと先輩には愛華という血の繋がらない妹がいて、鞍馬さんに保護されるまで二人で生きてきたというのだ。
保護されたから大丈夫なのだが、そのときの先輩は精神が壊れかけていてそれが理解できていないのだと。
――大丈夫よ。あなたの家族は保護されたのよ?
――おねがいします。だしてください……ここから……だして……!
もはや会話も成立しなくなり、だして、としか言わなくなった先輩になにを血迷ったのか私はベッドに登り、彼に跨った。
涙を流している先輩がどんな顔なのか見たかったのかもしれない。私の話を聞かない苛立ちかもしれない。そのときの私の気持ちは私自身わかっていなかった。
――まなか? 愛華なのか……?
そのとき私と愛華という家族を間違った先輩の顔は今でも忘れない。
感情の無い人形ではなかった。私はとんだ勘違いをしていたのだ。そもそも感情が無ければあんなに怒って暴れたり、涙を流したりなんかしない。
この少年は常に愛華という少女のために必死で生きていただけだった。他に心を閉ざしていたのだって自分を守るための自衛手段。おそらく今まで何一つ不自由なく過ごしてきた私なんかじゃ思いつかないほどの酷い目にあってきたのだろう。
それがわかった私は少年を助けてあげたいと思った。
――お兄ちゃん。いまはおとなしくしておこう? 怪我が治ったら出してくれるって。
――でも……愛華が……
――私なら大丈夫だよ、あのお爺ちゃんに優しくしてもらってるから。だからお兄ちゃんはちゃんと元気になって、ね?
――ああ……わかった、早く元気になるよ……
そして少年は眠りについた。
ようやくおとなしくなった先輩は心から安心したような顔をしていた。その安らかな顔につられて私は先輩に抱きつきながら眠ってしまった。
私を探していたママが言うには本当の兄妹みたいだったという。私がいいようの無い恥ずかしさに襲われたのは自分だけの秘密だ。
それから先輩は三日三晩眠り続けたらしい。そして、その後からは暴れることも無くおとなしくなったのだという。
その後、学校の行事で忙しかった私は先輩と会うことはなかった。
「あの頃のうちの従業員はみんなあなたに
失礼なことを言われているのに寝ている先輩は反応しない。
穏やかな顔を見ているとこっちまで眠くなってくる。
「なんでかしら、あなたの顔を見ていると私まで眠くなるのよね」
ふわあ、と軽いあくびをして、私は先輩の
「まったく……今も昔も迷惑ばかりかけてくるわね」
言葉とは裏腹に私は微笑んでいたに違いない。
「おやすみ、お兄ちゃん」
そして昔のように抱きついて瞳を閉じるのだった。
いかがでしたでしょうか?
早くファーストライブ終わらせないとなぁ……
ではまた次回に