どうも燕尾です
26話目です
「……やばい」
朝、起きたばかりの俺はそう呟いた。
目の前にある体温計が表示しているのは三十八度五分。完全に風邪を引いた。
「なんで今日に限ってなんだ……神は俺に恨みでもあるのか……?」
思わず恨み言を言ってしまう。八つ当たりもいいところだ。
原因はわかっている。このスクールアイドルの手伝いを始めてからここ一ヶ月の無理が祟ったのだろう。
だが、絶対に休めない。今日はあいつらのファーストライブなのだから。俺はそれを見届けなければいけない。
現在午前五時。幸い、まだ登校するまでにはまだ時間に余裕がある。
時間までジェルシートを張りながら、おかゆを作り、薬を飲んでおとなしく横になっておく。
午前六時半、まだ時間は残ってる。後は着替えて学校に向かうだけだ。目覚ましをセットして俺は目を瞑る。
「少しでもよくなってくれるといいんだけどな……」
余程身体に来ているのか俺はすぐに眠りについた。
「まじ……か……」
目覚ましに起こされた俺は現状の不味さに声を洩らした。
もう体温を計るまでもなかった。確実にさっきより体温が上がっている。
ちょっと前に張ったばかりのジェルシートがもう温くなっていた。
「もう少し休むか……。さっき風邪薬飲んだばかりだけど解熱剤飲んで学校行こう。穂乃果たちには悪いけど先に行ってもらうか」
そして、俺はスマホを取り出してLaneを起動する。
遊弥
悪い、今日は先に行っててくれ
俺のメッセージにすぐに三つの既読がつく。
穂乃果
どうしたの?
遊弥
ちょっと家のことでやり残した事があって、遅れそうなんだ。遅刻はしないから安心してくれ。
穂乃果
わかったよ! それじゃあ、穂乃果たちは先に行ってるね!
海未
遅れないようにしてくださいね
ことり
学校で待ってるね
どうやら、違和感無く三人とも誤魔化せたようだ。
俺は学校に間に合う時間ギリギリまで休んで、家を出たのだった。
――Maki side――
「はぁ、やってしまったわ……」
私は一人愚痴を零しながら早足で学校へと向かっている。
朝起きて時計を見たときに私は冷や汗が垂れた。寝坊したのだ。
いつもならそういう場合ママが起こしてくれるのだが、今日はパパの仕事のサポートで朝早くから居なかった。
それを知っていながら昨日は遅くまで勉強してしまって寝る時間が遅くなり、今日盛大にやってしまったのだ。
「間に合うかしら――って、あれは……」
曲がり角を曲がって私の先に居たのは最近よく見る姿。私の通う学院の唯一の男子学生。そして、
「なんか足元がおぼついていないような気がするんだけど……」
本当に些細な違いでしかないが、私の見間違えでなければ前を歩いている先輩はフラフラと歩いているように見えた。
そこで、嫌な予感が頭を過ぎる。
「まさか……いえでも――ああっ、もうっ! だからあれほど気をつけなさいって言ってきたのに!!」
私は急いで彼の元へと駆け寄る。
「先輩!」
急に後ろから大声で声を掛けたのがいけなかったのか、思い切りびくりと身体が反応する先輩。
「西木野、さん? おはよう……」
極めてなんでもないように振る舞おうとしている先輩。だが、その顔色は悪い。
私はグイッ、と先輩のネクタイを引っ張って彼のデコに手を当てる――もの凄い熱かった。
「――あなた、なんで学校に行こうとしてるのよ!」
私はすごい剣幕で怒った。さすがにこればかりは医者の娘として看過できなかった。
「悪い、頭に響くから少し声抑えてくれるか」
「ご、ごめんなさい……」
私の怒りは疲弊している先輩の言葉に吹き飛ばされてしまう。
だが、どういうことか説明しろ、と睨む私に先輩は相も変わらず気まずそうに目を逸らした。
「西木野さんが怒るのもわかる。それについては、なにも言い分けすることはできないけど……今日だけは、行かないといけないんだ」
「今日だけはって、なんで――」
そこで私ははっとする。
そういえば今日の放課後は上級生による新入生歓迎会。ということはあの先輩方のステージがある。
もし、先輩が熱で休んだとなれば彼女たちはどう思うだろう。自分たちが負担を掛けてしまったと、責任を感じてしまうのではないだろうか。そうなればパフォーマンスにも影響でかねない。
私はため息をついた。よりにもよって今日風邪を引いてしまうなんて、タイミングが悪すぎる。
「先輩、何かに呪われているんじゃないの?」
「たまにそうじゃないかって本気で思うときあるからやめてくれ」
私の呟きに先輩が苦い顔をする。いや、今回は呪われている以前に、先輩の自業自得なのだろうけれど。
「それより、どうするのよ。私としてはこのまま回れ右して帰ってくれると安心なのだけれど」
「それは無理、だ」
それだけは譲れない、と先輩は苦しそうに首を横に振った。
「……風邪薬は?」
「お粥食べてからすぐに飲んだ、その後一眠りして学校行く直前に解熱剤も飲んだよだから最初の頃より調子はいい」
あんな熱で調子がいいとか、もうそういう思考している時点で大丈夫じゃないのだけれど――
そんな私のツッコミも今は意味がない。私はもう一度深くため息をついた。
「はぁ……もういいわ、好きにしたら。考えるだけ馬鹿らしくなってきたわ」
そして、私は先輩の身体を支えるようにして懐に潜り込んだ。私の行動の意図がつかめていない先輩は焦っている。
「に、西木野さん……?」
「ほら、学校行くのでしょう?」
戸惑う先輩に私はぶっきらぼうに言うのだった。
――Yuya side――
西木野さんに肩を貸してもらいながら俺は何とか時間内に学校へと来ることが出来た。
簡単なやり取りをした後に西木野さんと別れる。
西木野さんは教室まで送ると言い張ったが、時間も時間だし、あんな状態をクラスメイトに見られたらそれこそ帰宅コースまっしぐらだ。
というか、西木野さんはそれを狙っていたんじゃないだろうか。末恐ろしい子だ。
一歩一歩教室へと歩みを進めていると、誰かから後ろから声を掛けられた。
「あれ、遊弥君? 今日は遅いんだね」
振り向くと、そこにはヒフミトリオの姿。どうやら声を掛けたのはヒデコのようだ。
「ああ、ちょっと家のことでやらないといけないことがあってギリギリになった。三人はどうしたんだ?」
「私たちは穂乃果ちゃんたちのライブのために機材チェックしてたんだよ」
「本番当日にトラブルがあると困るから昨日もやってたんだけど、念には念を入れて、ね?」
「ありがとうな、三人とも。ほんと、助かってる」
ライブの告知をしてから、その日のうちに手助けを名乗り出てくれたのがヒフミトリオだった。彼女たちは音声や照明の機材チェックの技術的支援を手伝ってくれている。
「いやぁ、私たちも学院のために何かしたいなとは思ってたから」
「穂乃果ちゃんたちは私たちにとっても渡りに船だったんだよ」
フミコとミカは笑顔で返してくれる。だが、その笑顔はどこが無理しているような気がした。その理由をヒデコが語る。
「まあ、それでもこれは私たちのエゴだよ。誰かのやることに乗っかって救った気持ちになりたいだけ」
自虐的に言うヒデコに俺は首を振った。
「それで、いいんだ。きっかけはどうであれ、今こうして支えてくれている。ヒデコたちがいなかったら、穂乃果たちはもっと苦しかった」
「遊弥君……」
「穂乃果たちの目的は廃校を止めること。ならそれを願って支持してくれた人は、仲間で同志だ。そうだろ?」
「「「……」」」
ポカンとして俺を見つめる三人。俺は身体がさらに熱くなった。
「悪い、なんかおかしなこと言った」
頭が働かないせいで言葉が選べてない。これで夕方まで保つのか心配になってきた。
「これは……穂乃果ちゃんやことりちゃん、海未ちゃんが惚れちゃうのもわかる気がする」
「うん……私も少しキュン、と来ちゃった」
「天然ジゴロだねこれは」
ゴニョゴニョと円を描いてなにやら話している。が、気にするほどの余裕が今の俺には無かった。
「さて……気合を入れないとな」
なんだかんだで教室の前まで来た俺は一つ大きく息を吸う。
今日が終わるまで、穂乃果や海未、ことりを筆頭にそのほか学院の人達にに体調が悪いことをバレるわけには行かない。
ぼんやりしている頭に気合を入れて、俺は教室の戸を開くのだった。
いかがでしたでしょうか?
ではまた次回にお会いしましょう