ラブライブ! ~one side memory~   作:燕尾

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どうも、燕尾です。

とうとうやってきました。
進み具合が遅いといっても30話くらい掛かるとは自分でも思ってはいませんでした(汗)
では、どうぞ~






ファーストライブ、そしてこれから……

 

 

「――これで、新入生歓迎会を終わります。各部活とも、体験入部を行っているので興味があったらどんどん覗いて見てください」

 

絵里先輩の最後の一言で公式的な新入生歓迎会が終わる。一年生を残し、上級生たちが体験入部の準備のため先に行動から退出する。

俺たちもライブステージの準備のために教室に戻ってからすぐに準備し始める。

穂乃果たちは時間までライブのチラシを配りに行き、俺はヒフミトリオと照明、音声の最終チェックと調整に当たっていた。

機材も問題なく、万全の状態でライブに望める形となった。

 

「どうやら、何とか……なりそうだな……」

 

それとは逆に俺の体調はカンスト振り切ってどんどん調子が悪くなっている。

解熱剤が効いていた授業中とかはまだマシだったのだが、効力が切れたのか、また熱があがってきているような気がした。

 

「あと少し、あと少しなんだ……保ってくれよ……」

 

穂乃果たちのライブを見届けるまで、倒れるわけにはいかない。

 

「あいつらのところに行くか……」

 

俺はヒフミたちに後を任せて穂乃果たちのところへ向かう。しかし、

 

「ここは、どこだ……?」

この一ヶ月で学院の構造は理解したはずなのに、いま自分がどこにいるかがわからない。

目の前がぼやけて、グラグラと揺れている。

行かないと……あいつらのところに……

左右に揺れながら歩みを進める俺。幸いなのは周りに人が居なかったことだろう。大半が部活動勧誘や体験入部で外や部室等に行っていた。

だが、ついに俺の身体も限界が来てしまった。

ぐにゃり、と目の前が歪んだ次の瞬間、身体全身が硬くて冷たい感触を感じた。

 

「――っ」

 

そして、声を出すことも起き上がることも出来ずにそのまま視界がブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Eri side――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ――」

 

講堂での新入生歓迎会も終わり、講堂の片付けとある準備を終えた私はようやく一息つけることが出来た。

生徒会長になって半年と少し、学校行事で登壇する場面が多くそれなりに慣れたとは思っていたのだけれど、やはり少しは緊張していたようだ。身体が少しこわばっていた。

軽く伸びをしながら事後処理のために、生徒会室へと向かう。

階段を上がり廊下を歩いていたその最中(さなか)、曲がり角の先のほうで、ドサッ、となにやら倒れる音がした。

何事かと足を速めて角を曲がると、人が倒れていた。私はその人が誰だか一瞬で判断できた。

 

「遊弥君!?」

 

慌てて駆け寄って、身体を抱き起こす。どうやら気を失っているようだ。身体はとても熱く、おそらく風邪を引いていたのだろう。

 

「すごい熱……遊弥君、しっかりして!」

 

呼びかけるも、返ってくるのは荒い吐息だけ。どうにかしないと、と思っても保健室までいくには階段を下りないといけない。保健室まで気を失っている男の子を一人で運べるほどの力が私には無い。

 

「どうしたらいいのかしら……」

 

私は考える。近くにある空き教室はすべて掛かっており、自分の手にあるのは生徒会室の鍵のみ。

 

「――そうだ、生徒会室!」

 

ここからなら生徒会室はすぐだ。そのことに気づいた私は遊弥君の脇に腕を入れて抱える。

 

「ごめんね、遊弥君。ちょっと()()ってしまうけれど我慢して」

 

一言謝って、私はずるずると遊弥君の身体を引っ張っていく。

力の入っていない彼の身体はとても重かったが、なんとか、生徒会室まで運び込んだ。

ひとまず彼を床に寝せて、私は生徒会室の備品を物色する。

 

「たしか、ブルーシートがあったような……それと以前演劇部から毛布を借りたはずだから……あった!」

いつまでも遊弥君を床に寝かせるわけにはいかない。私はブルーシートの上に毛布を乗せて簡易的な布団を作る。

改めて遊弥君を毛布の上に寝かせて、私はバックから飲料水を取り出す。

 

「タオルがあればよかったのだけれど、今はハンカチを代用しましょう」

 

飲み口にハンカチを当てて逆さまにして湿(しめ)らせる。そして遊弥君の頭を自分の太ももに乗せて前髪を分け、そのまま濡れたハンカチをおでこに乗せた。

 

「んっ……」

 

冷たいものに反応したのか遊弥君が小さく声を上げる。

私は別に持ってきていたもう一枚のハンカチで彼の汗を拭く。

依然として呼吸が荒いが、最初の頃よりかは落ち着いたようだ。

 

「それにしても、どうしてこんな状態で学校に……」

 

少しの余裕が出来た私は考える。

遊弥君の体調はおそらく朝から悪かったはずだ。なのに無理をしてまで学校に来たのはどうしてだろうか。

私は直ぐに理由が思いついた。

遊弥君は結成したスクールアイドルの手伝いをしていた。そして今日は彼女たちのライブがある。

もし、風邪で自分が休んだとなれば、あの子たちは"無理をさせていた"と責任を感じてしまう。彼はそれを避けたかったのだろう。となれば当然、彼女たちは遊弥君のことに気づいていない。私に見つかるまで、あの子たちはおろか、誰からも隠し通していたのだ。

遊弥君たちの関係からしてあの子たちが遊弥君を酷使させたという事は無いだろう。彼ができることをしようと一人で抱え込んだ結果、無理が(たた)ったという線が一番濃厚だ。

 

「本当、無茶するんだから……」

 

私はため息をついた。こういうことをするところは前から何一つ変わっていなかったようだ。

私は何度か温くなったハンカチを濡らしておでこに乗せる作業を繰り返しながら、愛でるように優しく遊弥君の頭を撫でた。

 

「んっ……んぅ――ここは……」

 

するとその感触に反応したのか、薄らと彼の目が開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Yuya side――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……んぅ――ここは……?」

 

額にひんやりとしたものの感触と誰かに頭を触れられている感覚で俺は目を覚ました。

 

「大丈夫? 遊弥君」

 

まだしっかりと視界がはっきりとしてなかったが、声で誰だかわかった。

 

「――絵里、先輩?」

 

「あ、んっ……遊弥君、あまり動かないでくれる? くすぐったいわ」

 

状況がわからない俺は顔を横に向けようとしたら、絵里先輩が恥ずかしそうな声をだして俺の頭を指で抑えた。そこでようやく俺は気づいた。自分の頭が絵里先輩の太ももに乗っかっていることに。

 

「す、すみません……すぐに退()きます……」

 

「駄目よ」

 

これ以上は不味いと思い、起き上がろうとする俺だったが、絵里先輩の両手が頭をがっしりホールドした。俺は女の子の柔らかさに戸惑ってしまう。しかし、絵里先輩は少し怒った表情でいった。

 

「貴方すごい熱があるのよ? さっきも倒れたばっかりだし、しばらくおとなしくしてなさい」

 

絵里先輩の指摘に、俺は血の気が引いた。

 

「倒れた……って、今何時ですか!?」

 

焦る俺に絵里先輩は一つため息をついた。俺の考えていることがわかっているようだった。

 

「安心しなさい。三時回ったところよ。ライブの時間は過ぎていないわ――それと、あまり興奮しないの、熱が上がるわ」

 

「す、すみません……」

 

絵里先輩に窘められて、俺は段々と落ち着きを取り戻す。

穂乃果たちの元に向かおうとしたのが三時前だったはずだから、俺が気を失っていたのは約二十分ぐらいということか。視線を回りに移すと、どこか見覚えのある部屋だった。

 

「ここは、生徒会室……?」

 

「そうよ。本当は保健室に運びたかったのだけれど、私一人じゃ無理だったから、一番近かった生徒会室にしたの」

 

「すみません、迷惑を掛けてしまって……」

 

「迷惑ってわけじゃないわ……少し役得でもあったし」

 

「役得?」

 

なんでもないわ、と気を取り直した絵里先輩が問いかけてきた。

 

「それで、熱が出たのはいつから?」

 

「……今日の朝からです」

 

「大体予想はつくけれど、なんで今日学校に来たのよ」

 

「それは……絵里先輩に会いに行くため――って、いふぁいいふぁい、すいはへん!」

 

お茶目なジョークのつもりだったのだが、笑顔の絵里先輩が俺の両頬を(つね)ってきた。

 

「ふふふ……次ふざけたら、本気で怒るわよ?」

 

目が笑っていない絵里先輩の笑顔に、熱で赤かった顔が一瞬で青くなった。

 

「今日は穂乃果たちのファーストライブですから……来ないわけにはいかないじゃないですか」

 

「……まあ、そんなところだろうとは思ったわ」

 

絵里先輩は呆れたようなため息を吐いた。そして、真面目な顔に切り替わった。

 

「でも、こうなった以上見過ごすわけにはいかないわ。帰りなさい、遊弥君」

 

「その言葉は生徒会長としてですか?」

 

「それもあるわ、生徒会長として生徒に無茶させるわけには行かないわ」

 

だけど、と絵里先輩は続けた。

 

「遊弥君の友人として辛そうな君を見たくはないの。だから帰って休んでほしい」

 

諭すような優しい笑みを浮べる絵里先輩に、つい俺は見とれてしまう。

 

「……卑怯ですよ。絵里先輩」

 

「卑怯で結構よ」

 

今度は俺がため息をついた。

 

「そう言ってくれた絵里先輩には悪いですけど、それでも、俺は引けません」

 

膝枕をしてもらっている状態で言ってもあまり説得力はないようには見えるが、俺は本気だった。

 

「どうして、遊弥君はそこまであの子たちのことを……スクールアイドルが上手くいくとは限らないのに」

 

絵里先輩は理解できないという様だった。

 

「上手くいくかどうかじゃないんです。今の穂乃果たちは本気でスクールアイドルをやりたいって思っています。俺は昔なじみとして手伝うって決めたんです」

 

体力トレーニングも、身体作りもダンスや歌の練習も決して()を上げずに今日のために頑張ってきていた穂乃果たちの姿が思い浮かぶ。

 

「絵里先輩の言うように上手くいかないかもしれない。もしかしたらライブに来てくれる人も少ないかもしれない。だけど、それでも彼女たちが折れることはありません。俺は穂乃果たちの直向さを勝手に信じているんです。だったら俺がここで倒れるわけには行かないでしょう」

 

俺は身体を起こす。ぽとりと額から落ちたハンカチを拾った。

 

「ハンカチは洗って返します。看病してくれてありがとうございました」

 

そういってフラフラする身体に喝を入れて、俺は生徒会室から出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倒れたとはいえ、少し眠ったことと、絵里先輩の適切な処置のおかげでほんの少し調子がよくなった感じがした俺は急いで穂乃果たちの控え室に行く。

おそらく今はステージ衣装に着替えているはずだ。

扉の前で立ち止まり、空ける前にノックをする。

はーい、と中から聞こえる声。

 

「遊弥だ。入ってもいいか?」

 

「遊くん! どうぞ入って入って!!」

 

「えっ、遊弥!? 穂乃果、ちょっと待ってください!!」

 

「海未ちゃん、往生際が悪いよ?」

 

穂乃果の許可が下りた俺は扉を開ける。中の光景を見た俺は立ち尽くした。

 

「じゃじゃーん! どうかな? 遊くんっ?」

 

くるり、と回りながら見せびらかしてくる穂乃果。モジモジとスカートの裾を押さえている海未、えへへ、と若干照れていることり。昨日は衣装だけを見せてもらったのだが、それを身に纏った三人はとてもよく似合っていた。

 

「うん、本物のアイドルみたいだ。三人ともよく似合ってる」

 

「……っ」

 

「は、破廉恥です遊弥!」

 

「面と向かっていわれると、照れちゃうね……」

 

感想を求めてきたのは向こうなのに顔を真っ赤にする穂乃果たち。俺はくすり、と優しく笑った。

 

「準備は、良さそうだな」

 

俺が問いかけると三人は笑顔で頷いた。

 

「うん! 遊くんのトレーニングを乗り切った私たちに向かう敵無しだよ!!」

 

「それは頼もしいな、穂乃果」

 

「まだ緊張はしますが。精一杯頑張ります」

 

「ああ、海未ならできる。頑張れ」

 

「わたしたちのこと、しっかり見ててね。ゆーくん」

 

「ああ、しっかり楽しんで来い。ことり」

 

「そうだ! 皆、手を出して!!」

 

穂乃果が片腕を伸ばした。彼女の意図に気づいた海未とことりが同じように伸ばした。

 

「ほら、遊くんも!」

 

「いや、俺は……」

 

「遊くんもメンバーの一人なんだよ!」

 

穂乃果に促されて、俺は重なる三人の手の一番下に自分の手を潜り込ませた。あたかも三人を支えるように。

 

「……?」

 

「どうかしたか、穂乃果」

 

「……ううん、なんでもないよ」

 

穂乃果の手と触れた瞬間、彼女は一瞬キョトンとするが俺が声を掛けると気を取り直したように息を吸った。

 

「それじゃあ、μ'sの初ライブ、頑張るぞ!」

 

「「「おー!!!」」」

 

穂乃果の掛け声に従って俺たちは腕を天へと突き上げた。

穂乃果たちはステージへと向かい、俺は観覧席のほうへと向かう。

フラフラと足取りは重かったが、確実に講堂へ行くように踏ん張った。普段ならものの数分でつくはずだったのだが、開演ギリギリと時間が掛かってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の力を振り絞り、講堂の扉を開けた俺は目を見開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘……だろ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

講堂の中は人一人として誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見に来てくれる人が少ないかもしれない、と絵里先輩に言ったが、まさか一人もいないとは思っていなかった。

いや、心のどこかでは思っていた。下手したら誰も見に来てくれないかもしれない、と。でもそれは可能性の話であり最悪の想定だった。まさかそれが本当に起こるとは思わなかった。

 

「甘くは、ないか……」

 

目の前の光景にそう呟いてしまう。

俺はまだいい。だが、幕の向こう側に居る穂乃果たちがこれを見たらどうなるだろうか。

思考しているうちについに時間がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Honoka side――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『スクールアイドル"μ's"のファーストライブ、まもなくです、ご覧になる方はお急ぎくださーい!!』

 

校内放送での最後の宣伝が終わる。いよいよだ。

いざこうしてステージに立っていると緊張してくる。私は両隣にいる海未ちゃんと、ことりちゃんの手を取り、握り締めた。

 

「穂乃果……」

 

「穂乃果ちゃん……?」

 

私が緊張していたのと同じように海未ちゃんとことりちゃんもまた緊張していた。

 

「私には海未ちゃんとことりちゃんがいる。海未ちゃんには私とことりちゃんがいる。ことりちゃんには海未ちゃんと私がいる。だから、大丈夫」

 

それと、ここにはいないけど、欠かせない人が私たちを支えてきてくれた。

 

「それに、今まで遊くんが支えてきてくれたんだ。だから私たちはそれに応えて精一杯楽しまないと!」

 

「ええ……そうですね!」

 

「遊くんにも楽しんでもらわないとね!」

 

言い聞かせるように言う私に安心したような笑顔を浮べる二人。

 

「頑張るぞ、μ's! ふぁい、おー!!」

 

私は勢いで二人の手を持ち上げると、海未ちゃんが苦笑いした。

 

「それでは、運動部みたいですよ?」

 

海未ちゃんの指摘に私も苦笑いする。こういう時なんていうんだっけ? 確か――

 

「あ、思い出した! こういうときは番号を言うんだよ、皆で」

 

「面白そうだね! わたしたちもやってみよう」

 

「よーし、じゃあいくよー!」

 

私たちは大きく息を吸って、

 

「1!」

 

「2!」

 

「3!」

 

と声高らかに言うも、その後が続かなかった。シーンと静寂がステージを包む。

 

「「「ぷっ……」」」

 

あははは、と緊張感のない笑いが起こる。先ほどまでの緊張が嘘のようになくなった気がした。

そして、開演の時間がやってくる。

 

「μ'sのファーストライブ、最高のライブにしよう!」

 

「うん!」

 

「もちろんです!!」

 

ブザーが鳴り、幕が開き始める。

完全に幕が開き切ったその先は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――一人として誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……」

 

目の前の光景に思わず声が漏れてしまった。

席には誰も居らず、講堂の入り口付近でヒデコとミカ、フミコが慌しくチラシを持って戻ってきただけだった。彼女たちは申し訳なさそうに首を横に振った。

言いようの無い絶望が私の中を支配していく。

 

「穂乃果……」

 

「穂乃果ちゃん……」

 

海未ちゃんとことりちゃんの泣きそうな声が耳に入る。私も目の前が(かす)みそうだった。だけど、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――歌え! 穂乃果、海未、ことり!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちの大切な人の声が、講堂内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Yuya side――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いてもたってもいられなかった俺は三人の目の前まで歩みを進める。

 

「ゆう、くん?」

 

涙声で返す穂乃果に俺は拳を握り締めて叫んだ。

 

「立ち止まるな! これが現実だ! 穂乃果たちはまだ走り始めたばかりだ!! 足を躓いて転ぶのは当たり前だ!!」

 

ガンガンと来る頭の痛みに耐えながら、叫び続ける。

 

「お前らのゴールはどこだ!? 目の前には無かったはずだ、それは、わかっていただろう!!」

 

熱のせいで、何を言っているのか自分でもわからなくなってきたが、俺は叫んだ。

 

「お前たちはスタートを切ったんだ! だったら、前に進め! 走り抜いて見せろ――諦めるな!!」

 

はぁ、はぁ、と息も絶え絶えに言い切った俺に穂乃果たちはおろか、その場にいたヒフミたちも驚いた目を向けてくる。

俺は息を整えて、熱に侵されて歪む視界の中、穂乃果たちの前に足を運び、そして、三人を真っ直ぐ見据える。

 

「遊くん……」

 

「ゆーくん……」

 

「遊弥……」

 

涙で潤んだ三人の瞳が俺を捉える。

 

「穂乃果、海未、ことり。お前たちは今日のこの日、これからスクールアイドルとしてやっていくためにこの一ヶ月頑張ってきたんだろ?」

 

その言葉に三人の目に生気が戻ってくる。そして、一番最初に声をあげたのは穂乃果だった。

 

「そうだね……うん、やろう! 歌おう、全力で!!」

 

「穂乃果……?」

 

「穂乃果ちゃん……?」

 

「だって遊くんの言う通り、今日のために、これからのために頑張ってきたんだもん!! 私は、ここで終わらせたくない!!」

 

穂乃果の願いに海未とことりがハッとする。

 

「そうでしたね……私たちはまだ何もしていません」

 

「うん……まだ、わたしたちはなにもしていない」

 

三人は顔を見合わせて一緒に頷いた。

 

「私たちの今することは一つだ!」

 

先程とは打って変わった笑顔を向けてくる三人に俺も笑みを返した。

すると、バンッ、と大きく講堂の扉が開かれた。

そこには以前掲示板を熱心に見ていた、小泉さんの姿が。

 

「花陽、ちゃん……?」

 

「あれ? ライブは……あれ……?」

 

戸惑ってオロオロしている小泉さんに三人の決意は完全に固まった。

 

「小泉さん! こっちこっち!!」

 

「萩野、先輩?」

 

俺は小泉さんを呼ぶ。首を傾げる小泉さんに俺は着席を促した。

 

「ライブはこれからだよ、な?」

 

「「「はい!!」」」

 

確認するように言った俺に三人が元気よく返して、スタンバイする。そして、メロディが流れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――緊張することなく活き活きと踊る海未。

 

――ステージを精一杯楽しもうとしていることり。

 

――笑顔を絶やさず、全力を出している穂乃果。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽しそうにステージ上にいる三人の顔は俺は決して忘れない。

俺は最後のメロディが終わるまで、ステージで歌って踊る三人をしっかりと目に焼き付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ありがとうございましたー!!!」」」

 

すべてが終わり、手を繋いで一礼する三人にまばらな拍手が送られる。ステージ上の彼女たちは息を切らしながらもやりきったという達成感を感じているような顔をしていた。

そして、拍手が止んできた頃に一つの足音が響いた。

 

――絵里先輩

 

「生徒会長……」

 

「どうするつもり?」

 

上の席からステージを見下ろすように穂乃果に問いかける絵里先輩。もちろんこれからどうするのかを問いかけているのだろう。

だが、穂乃果の答えは決まっていた。

 

「続けます」

 

「何故? これ以上続けても意味があるとは思えないけど」

 

絵里先輩は周りを見渡してそういった。確かに今日は小泉さんや途中から来た彼女の友達らしき人、後は西木野さんを含め、隠れている数人(・・・・・・・)以外、誰も来なかった。だけど、もはやそういう事じゃない。

 

「やりたいからです!!」

 

穂乃果が一歩前に出て言った。

 

「私、今もっともっと歌いたい、踊りたいって思っています。こんな気持ち、初めてなんです。やってよかったって、本気で思えたんです!」

 

それは、穂乃果の気持ち。そして、これからの望み。

 

「私はこの気持ちを信じたい――このまま誰も見向きもしてくれない、応援なんて全然もらえないかもしれない――」

 

この先のことは誰もわからない、だからこそ穂乃果は言う。この先の希望を。

 

「でも! 一生懸命頑張って、とにかく頑張って、ここにいる私たちの想いを届けたい!」

 

そして、彼女は声高らかに宣言する。

 

「いつか、いつか必ず、この場所を満員にしてみせます!!」

 

穂乃果の声が講堂に響く。

一瞬の静寂の後、絵里先輩は小さく、そう、とだけ呟いて踵を返して講堂から出て行こうとする。

 

「絵里先輩――……っ!?」

 

彼女を追いかけようとしたが、膝に力が入らなかった俺は崩れ落ちて倒れる。

 

「ひゃあ!? は、萩野先輩!?」

 

「どうしたのにゃ!?」

 

「先輩!!」

 

慌てた小泉さんとその友達、隠れてきていた西木野さんの声が響く。

今更ながらに風邪引いて熱をだしていたのを思い出す。アドレナリン効果ってすごい。

興奮状態が治まってきた今、寒気やら、頭痛やら、吐き気やらで身体がまったく動かない。

 

「遊弥!!」

 

「ゆーくん!?」

 

慌てて駆け寄ってくる穂乃果たち。倒れ伏している俺に絵里先輩は言った。

 

「お疲れ様、遊弥君。しっかり風邪を治してから学校に来なさい。あ、さっき倒れたときに貸したハンカチ、ちゃんと返して頂戴ね」

 

「「風邪!? 倒れた!?」」

 

「やっぱり、そうだったんだ……!」

 

驚く海未とことりに、驚きながらも納得している穂乃果。やはりさっき手を合わせたときに感づいていたようだ。

 

「それ……を、いま、言いますか……普通……」

 

しょうがないものを見るような呆れた笑みを浮べる絵里先輩に俺は悪態をつきながら意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あ……スカイブルーのパンツ、ご馳走様でした、絵里先輩……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







いかがでしたでしょうか。

ようやく終わりました! ファーストライブ!!
最初は二話に分けようかとも思ったんですけど一つにまとめました。
そのおかげで大分長い話になりましたけど……(苦)

今後としてはライブ直後の話をしてからメンバー加入の話に移っていきたいと思っています。
……全員集まるまでどれくらい掛かるかなぁ~(焦)
もう少しペースよく進めたいなぁ~(願)

ではでは~


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