ラブライブ! ~one side memory~   作:燕尾

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一ヶ月以上あけてしまいました。すみませんでした。





お泊りは許しません

 

 

ファーストライブから一日が経った次の日。萩野宅――

自室のベッドで横になっていた俺は溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ……風邪、移るぞ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遊くんに断る権利はないよ」

 

「ゆーくん。今のゆーくんがことりたちに指示できるとおもっているのかなぁ……?」

 

「遊弥はおとなしく看病されていなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人は口それぞれにピシャリと言って俺を黙らせる。

当然、俺が何か文句を言える立場ではないのだが、それでも三人が俺の家に居るこの状況は良くはないだろう――あと、ことりさん怖いっす。笑顔なのに超怖いっす。

風邪の有無なく、こうなった三人に俺が何か言って意思を曲げることなどできやしない。

俺の看病や世話よりもやることだってあるはずだ。練習やトレーニング、他にも今後のスクールアイドルの活動についての話等々。

そういうのをひっくるめてこれから大変になるのは穂乃果たちなのに、今は俺の家で俺の世話を焼いてくれている。

 

「というより、なんで俺の家を知っているんだ……?」

 

愚問ではあるが俺は言わずにはいられなかった。

三人に俺の家を教えたことはない。ということは答えは一つだ。

 

「ゆーくんのお家の場所はお母さんから聞いたの」

 

予想通りの返事が返ってくる。俺は小さな溜め息を洩らしながら昨日のことを思いだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブ直後に倒れた俺が目を覚まして最初に視界に入ったのは自宅の自室の天井だった。

すぐ視線を横に逸らすと雛さんがすぐ傍にいた。

 

「ようやく目覚めたのね、遊弥君。調子はどうかしら?」

 

「大分調子は良いです……もしかしなくても理事長が送ってくれた……んですよね?」

 

俺の部屋で目の前に居るという事はそういうことだろう。随分と迷惑をかけてしまったと、申し訳ない気持ちになる。

 

「ええ。ことりから連絡を受けてね。それと、今は雛でいいわよ。仕事じゃなくて完全にプライベートなんだから」

 

それより、と雛さんは呆れたような口調で続きを口にする。

 

「嘘を吐くのはやめなさい。いまこのときに、それも私相手に見栄張っても意味のないことでしょう」

 

「……すみません、雛さん」

 

完全に見透かされていた俺は素直に謝る。

正直に言うと身体がまったく動かない。首から上と利き手の右腕一本は動くが、それ以外はさっぱりだった。

自分の身体の状態を伝えると雛さんはそうでしょうね、と頷いた。

 

「過度な疲労の蓄積と睡眠不足。後は軽い栄養失調ね。西木野先生も驚いていたわ。よくこんな状態で動けたものだ、って」

 

「西木野先生が……でも時間的にはもう……」

 

気を失っていたので、いつ病院に連れて行かれたのかはわからないが、あの時間ではもう検診はやってないはずなのだが、

 

「そこは西木野さんにちゃんとお礼を言っておくこと。彼女が申し出てくれたから時間外でも診てもらうことが出来たのよ」

 

そう言われて西木野さんもあの場にいたことを思い出す。おそらく入り口付近でバレないようにこっそりとライブを見ていたんだろう。俺が倒れた後に、慌てた様子で駆け寄ってくる姿が脳裏に再生される。

 

「西木野さんには助けられてばかりだな」

 

作曲してくれたり、身体を支えてくれてたり、西木野先生に掛け合って融通聞かせてくれたり――本当に西木野さんには頭が上がらない。

 

「そう思うなら今度菓子折りでも持ってお礼しに行きなさい。西木野先生とも面識あるのでしょう?」

 

「ええ、それはもちろん」

 

治ったからってそのままいつもどおり過ごすほど俺はふてぶてしくはない。

 

「とりあえず、今日の含めて三日間は絶対安静。そのあと二日間は様子見すること。いいわね?」

 

俺は素直に頷く。今はそれを断るほど切羽詰った状況ではないし、散々迷惑かけているのだから言うことを聞かない選択肢はない。

 

「今日のところは私が泊まっていくわ」

 

「えっ……?」

 

短い声を洩らした俺に雛さんは当たり前でしょう、と呆れて言った。

 

「身体、動かないんでしょう? 一人なのにこのあとどうするの」

 

「いや、動けるようになるまで寝てれば……」

 

「私の話聞いてた? 栄養失調もあるのになにも食べなかったらそれこそ悪化するわよ。そうなれば余計にあの子たちにも心配させるわね、それでもいいの?」

 

そこでそんなこと言われたら俺は従うしかない。いや、そもそもこんな状態を(さら)している時点で俺が何か言えるわけがない。

 

「……本当に迷惑をかけます」

 

「迷惑じゃないわ――とりあえずお粥かうどんでも作ってくるわ」

 

「すみません、お願いします。材料は好きに使っていいんで、雛さんも何か作って食べてください」

 

「ええ、そうさせてもらうわ」

 

そういって雛さんは夜ご飯を作りに降りていく。

雛さんが部屋から離れてから時間が経つにつれて、いい匂いが部屋まで漂ってくる。

作りに行ってから二十分くらい経った頃、雛さんが土鍋をトレーに載せて戻ってきた。

 

「お待たせ、簡単なものだけど鍋焼きうどんを作ってきたわ」

 

「それだけでも十分ありがたいです」

 

蓋が開いた土鍋からはかつおだしと味噌のいい香りがふわりとした。これだけで食欲がそそられる。

具は葱に扶にしいたけと卵。そして申し訳程度に散りばめられたえびの天カス。

唯一動く右腕と雛さんの手を借りて、何とか起き上がる。

後は土鍋を受け取って右手で食べるだけ――なのだが、

 

「それじゃあ遊弥君――あーん」

 

ふーふーっ、と息を吹きかけて冷ましたうどんを俺の口元まで運んでくる。

 

「あの……雛さん?」

 

「ほら早く、うどんが落ちるわよ?」

 

催促されて観念した俺の口にうどんが入る。

 

「どうかしら?」

 

「ええ、とっても美味しい、ですけど……自分で食べますよ?」

 

俺の言葉に雛さんは、何を言っているのよ、と突き返す。

 

「右手しか動かない状況なのにまともに食べられるわけないでしょう、こぼしたらどうするのよ。いいからおとなしく食べさせられなさい」

 

雛さんのいう事は正論だ。だが、さすがにこれは恥ずかしい。

そう思っていても抵抗できるわけもなく、親鳥から与えられるひな鳥のように俺は雛さんに食べさせてもらうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご馳走様です」

 

「はい、お粗末さま」

 

空になった土鍋を持っていく雛さん。結局うどんの汁まで全部食べきってしまった。もちろん雛さんに食べさせてもらって。

 

「でも、本当に美味しかったな」

 

今振り返ればまともな食事を取ったのは随分と久しぶりだ。ライブまでは明け方まで作業していたのもあって夜もほとんど食べていなかったし、朝も十秒で食事ができるような流動食や、カロリーメイツのような栄養調整食品くらいしか食べていなかった。

栄養失調になるのも当たり前だ。今度から気をつけようと心に誓う。

 

「今日はあと薬飲んで寝るだけ――あー雛さんに寝具がどこにあるか言っておかないと。泊り込むって言ってたし、それと――」

 

色々と今後のことについて考えている途中で、俺は重大な問題に行き着いた。

 

「ん……」

 

下腹部のほうから股間のほうへと迫ってくるようなくすぐったい感覚。

うどんを汁まで全部食べたせいか急に尿意がやってきたのだ。だが、今の俺は動くことが出来ない。このままだと、赤ん坊顔負けの染みをベッドに作ることになるだろう。

年をとった人間として、そんな尊厳を失うような事態は避けたいところなのだが、いかんせんまったく身体が動かないし、力も入らないせいで我慢が出来ない。

 

「やばい……やばいぞ……!!」

 

「何がやばいのかしら?」

 

片づけが終わった雛さんが部屋へと戻ってきた。その片手には空のペットボトル。

わざとか? わざと見せ付けているのか雛さん!?

 

「その……トイレに行きたいんですけど、ほら……身体が動かなくてやばいんです」

 

「ああ、なるほど……」

 

納得した雛さんはニヤリと微笑んだ。俺はその笑みに嫌な予感がする。

 

「ちょ……雛さん……何を考えているんです?」

 

動揺する俺を尻目に、彼女は掛け布団を剥いで、俺のズボンに手をかけ始めた。

 

「ほんとに何してんのあんた!?」

 

思わず敬語もすっ飛ぶほどに雛さんの行動には驚いた。辛うじて動く右手で俺はズボンを抑える。

 

「なにって、花を摘みたいんでしょう? ほら、ちょうど空のペットボトルがあるんだから、シちゃいなさい」

 

雛さんは当たり前とでも言わんばかりの真面目な表情で俺のズボンを再び下げようとする。俺は慌てて雛さんを止めた。

 

「シちゃいなさい、って冗談もほどほどにしてください……! 普通にト、トイレに連れてってくださいよ!!」

 

ボトラーになるつもりなど毛頭ない。人としての尊厳がなくなってしまう。

 

「私が冗談を言うと思うかしら?」

 

「時には冗談も必要です……お願いです……力が入らないから、け、結構辛いんです……!」

 

右手で股間を押さえて苦悶している俺を見た雛さんは頬を染めて、恍惚とした表情を浮べる。

 

「あぁ~、苦しそうな表情をしている遊弥君、可愛いわぁ~……」

 

驚愕の事実! 雛さんは実はドSだった!! いや、ことりからその片鱗は見えていたからおかしくないのだが、今はそんな事言っている場合じゃない。

 

「おね……がい、します……ふざけてないで……連れてって……!!」

 

「はぁん、いい、いいわぁ~遊弥君。もっと……もっと必死に懇願しなさい……!!」

 

「なんでいきなりSっ気が出してんだあんた!? 頼むから……頼むから……早く連れて行けェェェェェェ!!」

 

俺の叫びが夜空に木霊した――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで色々トラブルもあったのだが、今朝雛さんが帰ってからようやく平穏が訪れたと思いきや今度は幼馴染たちの襲来である。

帰るときの雛さんの言葉を思い出す。

 

――本当はちょっとお説教もしたかったのだけれど、それはまた今度。とりあえず遊弥君、ちゃんと生き残りなさいね?

 

お大事に、じゃない意味深な言葉を残して出て行った雛さん。最初こそは何のことだかわからなかったのだが、昼ごろに大きな声でお邪魔しまーす、と穂乃果の声が聞こえたときは頭を抱えたくなった。

 

「――雛さん、アンタ鬼畜やで……わざわざ鍵をことりに預けるなんて……!!」

 

学校に来たときに合鍵を返す、ていう話だったのに……やられた。

脳裏にテヘペロしている雛さんの顔が思い浮かぶ。俺は思わず、息を洩らした。

その音が聞こえたのか、三人はムッ、と顔を顰める。

 

「遊くん、随分と不満そうだけど……そんなに穂乃果たちが迷惑なの?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだけど……ほら……」

 

「なんですか、はっきり言ってください。遊弥」

 

「なら聞くけど、お前たち。そこの大荷物はなんだ?」

 

俺が指を指した先には色々詰め込まれたようなパンパンのバッグが三つ。明らかに今日一日で使うような量ではない。

 

「もちろん、お泊りの道具だけど?」

 

「ゆーくんの風邪が治るまでわたしたちが泊りがけでお世話をします」

 

「ちょうど今日、明日と休日ですから問題もありませんし、よろしくお願いしますね。遊弥」

 

「当たり前のように答えるな穂乃果。ことり、気持ちは嬉しいけど風邪をうつしたら悪いからお家に帰りなさい。海未、休日、平日、祝日関係なく問題だからな?」

 

それに男の部屋に何日も泊まりこむなんて非常識すぎる。

 

「それにお前ら、ちゃんと親に言って出てきてないだろう。特に海未」

 

「「うっ……」」

 

「なんで私だけ名指しなんですか!?」

 

図星だったようで穂乃果とことりは黙り込む。一人だけ決め付けられた海未は抗議の声を上げるが、ちゃんと根拠はある。

 

「なんでって、親父殿が許す訳がないだろうが」

 

そういうと、海未も黙り込む。俺は俯く三人に溜め息を吐いた。

 

「気持ちは有り難いが、人を騙して心配させるようなことをするのは感心しない」

 

「「「……っ」」」

 

「だから、今日のところは――」

 

「……ないで」

 

帰ってくれ、と言おうとしたのだが、穂乃果が俯いたまま、何かを小さく呟いた。

 

「……穂乃果?」

 

「ふざけないでっ!」

 

大声で叫んだ穂乃果は剣幕な様子で詰め寄ってきた。

 

「一番心配かけた遊くんがなに言ってるのさ!」

 

普段の彼女からは想像できないような声に今度は俺が黙った。

 

「体調悪いのにずっと言わないで、一人でずっと我慢して……遊くんが倒れたとき、私たちすっごい心配したんだよ!?」

 

「穂乃果……」

 

「ずっと心配だった。病院でも意識が戻らないから、もしかしたらこのまま目を覚まさないんじゃないかって、不安だった」

 

なにを大袈裟な――とは思わなかった。いや、目じりに涙をためている穂乃果に俺はそんなことを思えなかった。

重苦しい空気の中、海未が口を開いた。

 

「遊弥が、私たちに気を使ってくれたのはわかります。ライブ前の私たちに責任を感じさせないようにと。ですが、やはり言ってほしかったです。辛いときは辛いと」

 

「ゆーくんに頼りきりだったわたしたちが言うのもおかしいけど。わたしたちは信用なかったのかな……?」

 

三人の言葉に俺は何も言えなくなる。

結局、ライブ前だろうが、後だろうが、俺は間違った。心配をかけたくない気持ちが余計に穂乃果たちを心配させた。ちゃんと穂乃果たちに伝えるべきだった。その上で"頑張れ"と応援するべきだったのだ。

だが、今となっては過ぎたことだ。

 

「穂乃果、海未、ことり」

 

三人の視線が集中する。

間違った俺がいまするべきこと、それは――

 

「すまなかった」

 

俺は三人に向かってしっかりと頭を下げた。

 

「反省してる?」

 

「ああ、心配させて悪かった」

 

涙目で問いかけてくる穂乃果の目をしっかり見て俺は答える。

穂乃果は腕でごしごしと涙を拭いて、笑顔でうん、と頷いた。そして、気を取り直したように言った。

 

「それじゃあ、これから遊くんの風邪が治るまでお泊りでお世話――」

 

「あ、それは駄目」

 

「ええっ、なんで!?」

 

それとこれとは別問題です。






いかがでしたでしょうか

次回更新も頑張りたいと思います。


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