ラブライブ! ~one side memory~   作:燕尾

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お久しぶりです。燕尾です。
第二十九話です。





看病

 

 

「押し切られてしまった……」

 

俺は諦めに近い深いため息をついた。

あの後、泊まって世話すると言い張って聞かない穂乃果たちと口論していたのだが、

 

「これは心配させた罰だよ! じゃないと許さないから!!」

 

と言われて、俺は折れてしまった。

そもそも雛さんのときと同じように、動くことができなくなるまで無理した俺が、穂乃果たちの言い分を聞かないことなんてできるわけがなかった。勝敗は最初から決まっていたのだ。

そのことについてはもう何も文句も言えないし、しょうがないと割り切った。しかし、

 

「さあ、ゆーくん。服を脱ぎ脱ぎしましょうね♪」

 

「――どうしてこうなった!?」

 

ことりが怖い笑みを浮べて手をワキワキさせて迫ってくる。ことりの脇にはお湯の入った桶とタオル。

いまは穂乃果も海未も買出しに行っていているらしく、この家には体が動かない俺とことりしかいない。ということは怪しく瞳を光らせていることりを止めることができる人物はいない。

 

「ふふふ……ゆーくん、脱がすね……」

 

興奮したような艶かしい声で俺の服に手をかけることり。その表情は昨日の雛さんそっくりだった。

 

「ちょ、脱がすな! 自分でやるから! やめろぉ!!」

 

「身体の自由がないのにどうやって自分でやるのかな? ほら、おとなしくことりに脱がされようね」

 

いやあああ! と普段だしたことのない甲高い声が家に響く。俺は心の中でもう一度自分に問い質した。

 

 

 

 

 

――本当にどうしてこうなった!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Kotori side――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海未ちゃん、ことりちゃん。準備はいいかな?」

 

穂乃果ちゃんの言葉にわたしと海未ちゃんは頷く。わたしたち三人はいま、居間で対峙している。

ライブ直前のとき以上の緊張感が場を支配している。負けられない戦いがここにあった。

 

「それじゃあ、行くよ!!」

 

穂乃果ちゃんの合図で、わたしたちは大きく腕を振りかぶった。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「最初はグー、ジャンケンポン!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勢いよく宙に振り出された手の形は三人ともグーの形。あいこである。

わたしたちはお互いの顔を見て笑い合う。だけど、全員目が笑っていなかった。

 

「……これは、もう一度ですね」

 

「ふふふ、負けないよ。勝つのはわたし、だよ♪」

 

「勝った一人が遊くんのお世話。負けた二人が買出しだよ」

 

「ええ、わかっていますよ穂乃果。それでは――」

 

 

「「「最初はグー、ジャンケンポン!!」」」

 

 

わたし達はゆーくんのお世話をかけた真剣勝負をしていた。

体が動かないゆーくんのために泊りがけでお世話をすることが決まった。だけど、三人が一斉にお世話しようとしたら、かえってゆーくんが休めない。そこで誰か一人がゆーくんのお世話をして他の二人が家事をしようということになった。だけど――

 

「ここは私に任せてよ!!」

 

「ゆーくんのお世話はことりにお任せっ!」

 

「遊弥の世話は私が引き受けましょう」

 

 

 

 

 

「「「………………」」」

 

 

 

 

 

わたし達は無言で見つめあう。静かながらも背後からは他の二人を威圧するようなオーラが三つ巴で衝突している。

 

「あはははは――海未ちゃんとことりちゃんは買い物上手だからお願いしたいなー」

 

「わたしは体力のある穂乃果ちゃんと海未ちゃんが適役だと思うかなー」

 

「私としては穂乃果とことりが行くのが一番バランスが取れているかと思いますけど」

 

 

 

 

 

「「「………………」」」

 

 

 

 

 

「どうやら――決着をつけなければいけないようだね」

 

「手加減はしないよ?」

 

「二人まとめて、私が負かしてあげます」

 

 

バチバチと散る火花。この場にいる全員、誰も譲る気はなかった。それからは、

 

 

 

 

 

「「「ジャンケンポン、あいこでしょ、あいこでしょ!!!」」」

 

 

 

 

 

試合を始めてから何分経ったのだろうか。

勝利を掴み取るべく、わたし達は死力を尽くしていた。

しかし、勝敗は一向に決まらない。

 

「海未ちゃん、ことりちゃん……しつこすぎ……」

 

「そういう穂乃果ちゃんこそ、早く負けてくれないかな……?」

 

「次で決めて見せます……!」

 

手を後ろに振りかぶり――

 

「「「――ジャンケン、ポン!」」」

 

それぞれ出した手は穂乃果ちゃんがパー、海未ちゃんがグー、わたしがチョキ。またあいこだ。

 

「「「むむむむむ……!!」」」

 

睨み合う。お互いに引くつもりはないけど、なんの偶然なのかもう何度目かわからないあいこ。このままだとずっと終わらない気がしてきた。あいこの渦から抜け出すために、わたしは仕掛ける。

 

「次、わたしはチョキを出すね」

 

「!?」

 

「……っ!」

 

わたしからの揺さぶりが穂乃果ちゃん、海未ちゃんを動揺させる。これで流れがわたしに来たものの、油断は絶対にできない。

二人は今、わたしの性格を考えて本当にチョキを出してくるのかこないのか迷っている。

でも、わたしは考える時間を与えなかった。

 

「それじゃあ、いくよー! ジャンケン――」

 

わたしの合図に慌てて構えた二人。ポン、の声と共に投げ出される手。

 

「「あ……」」

 

二人の手の形がグー。それに対してわたしはパーを出していた。

 

「それじゃあ、穂乃果ちゃん、海未ちゃん。お買い物よろしくね♪」

 

唖然としている穂乃果ちゃんと海未ちゃんにわたしはニッコリと笑って言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Yuya side――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そういうわけで、二人に勝ったことりが、ゆーくんのお世話をすることになったんだ」

 

「うん、もう何もツッコミたくないわ」

 

呆れたように言う俺にことりは再び服に手を伸ばしてきた。

 

「それじゃあ、脱ぎ脱ぎしましょうね~」

 

「抵抗しないって意味で言ったんじゃない!!」

 

ループするやり取りに頭の痛みが風邪のせいなのかそうじゃないのかがわからなくなってきた。

 

「もう! わがまま言っちゃだめだよ。ゆーくん、昨日からお風呂に入れていないよね? お風呂は無理でも身体を拭くとかしとかないと不衛生だし、リラックスして寝られないよ?」

 

「大丈夫! 昨日雛さんにちゃんと身体拭いてもらったから!」

 

「でもそれから大分時間経ってるよね? お風呂に入れない以上こまめに拭かないと遊くんだって気持ち悪いでしょ?」

 

「それは、そうだけど……」

 

実際ことりの言う通り、雛さんに拭いてもらってから半日以上は経っている。そして寝ている間、汗もかいていた。

 

「これは罰なんだから、ゆーくんに文句を言う権利はありません! ことりに脱がされなさい!」

 

「だから、待てって!!」

 

伸ばしてくることりの手首を強く掴んだ。

どんなに話しても結局最初のやり取りに戻る。

世話を焼いてもらえるのは有り難い。だけど、何の気なしに俺の身体を見たらきっと後悔してしまう。それだけは避けたかった。

 

「わかった! 身体を拭いてもらうから、その前に一つ俺の頼みを聞いてくれ!!」

 

俺の叫びが届いたのか、ことりは手の力を抜いてくれる。しかしその顔は不満そうだ。

 

「頼みって何かな?」

 

しかめ面には納得できないものがあるけど話が進まないのでここはスルーする。

 

「今から見るものは誰にも言うなよ――穂乃果にも、海未にもだ」

 

「どういうこと?」

 

「これからことりが見るのは人が知らなくてもいいものだから、だ。いいから、約束してくれ」

 

「……うん、わかった……」

 

雰囲気を察したことりは頷く。三人の中で一番空気を読むことに長けていることりは状況を理解するのが早い。

 

「ありがとな」

 

そういいながら、俺は片手でシャツを脱いだ。露になった肌を見てことりが息を呑んだのがわかった。

 

「ゆーくん、それ……!?」

 

驚きで掠れた声が耳に入る。ショックすぎてあまり声が出ないようだった。

ことりが目にしているのは小さいものから大きいものまで、俺の身体に刻まれた無数の傷跡。そして今まで誰にも見せてこなかった俺の過去。

 

「まあ、驚くよな」

 

ことりの表情を見て思った俺は、困ったような笑顔を浮べた。

 

「昔の名残ってやつだよ。ことりたちと出会う前からこっちに戻ってくるまでのな」

 

極めてなんでもないような声色で言うが、ことりは口に両手を当てたまま絶句している。まあ、こんな姿を見れば当然か。今のことりにはどんな言葉をかけても意味はないだろう。

 

「……どうして、ゆーくんが……こんな……なんで……」

 

しばしの沈黙のあと、言葉がことりから出る。その声は震えていた。途切れ途切れの言葉は要領を得ず、ことり自身、頭の中で整理がついていないようだった。

 

「ことり? 大丈――って、うおっ!?」

 

心配になって問いかけようとするが、それはできなかった。ことりがいきなり飛び込んできたのだ。

胸元に顔をうずめることり。顔は見えないが、震えが伝わってくる。

 

「ゆーくん、ごめんね……」

 

「お、おい……ことり……!?」

 

謝ってくることりに戸惑うよりも上半身裸のせいで彼女の柔らかさがダイレクトに伝わってくることに戸惑う。それに加えて汗臭い俺とは対称に女の子のいいにおいが鼻腔をくすぐってくるのも精神的にまずい。

 

「ごめんね……わたし、知らなくて……罰なんていって……」

 

だが、そんな邪念はことりの言葉ですぐさま吹き飛んだ。

 

「ゆーくん、嫌だったよね……? こんなつもり、わたし……本当に、ごめんね……!」

 

力強くギュッと抱きついて、ごめん、を繰り返すことり。彼女の顔から俺の身体へと雫が伝わってくる。こんなことになるとは思わなかった俺は動く片手でことりの頭を包み込んだ。

 

「ことり」

 

さらさらの柔らかい髪を撫でながら、俺は彼女の名前を呼んだ。

 

「ゆーくん……」

 

俺を見上げる瞳は後悔の涙で潤んでいる。俺はことりをあやすように言った。

 

「安心しろ、怒ってないから」

 

「でも、ことりが無理矢理脱がそうとしたから……ゆーくん、見せたくなさそうにしてたし」

 

「今まで隠してきてたのは見られるのが嫌だったわけじゃないんだ。昨日も雛さんに見せたし。ほら、こんなの見ても誰もいい気がしないだろう?」

 

誰にも見せないようにしてきり、ひとこと言って約束してもらったのはそういうことだ。

 

「三人が看病するって言いだしてからこうなることはわかってたんだ。ただ、いきなり見たら驚くだろう?」

 

「……今もビックリしてるよ」

 

ぐすっ、と鼻を啜りながらもようやくことりからでてきた軽口に俺は軽く笑って、頭をポンポンっと叩いた。

 

「それは仕方ないだろう?」

 

「……そうだね」

 

ことりも瞳に涙をためながらも小さく笑う。

俺は脇に落ちていた布を拾い上げてことりに差し出した。

 

「それじゃあ身体、拭いてくれるか?」

 

「うん……」

 

小さく頷いて、ことりは布を受け取って濡らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Kotori side――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、拭くね」

 

「ああ、よろしく」

 

うつ伏せでさらけ出されたゆーくんの背中を濡らした布で拭き始める。

 

「加減はどうかな?」

 

「丁度いい。気持ちいいよことり」

 

「そっか、じゃあ続けるね?」

 

再度手を動かし始める。だが、わたしの意識は別のところに向いていた。

 

「……」

 

背中に広がる傷の跡。さっきは身体の正面だけを見ていて背中は見ていなかったけど、やっぱり傷だらけだった。

これだけの傷を負ったゆーくんは今まで一体何をされたのだろうか。少なくとも普通の生活とはかけ離れていたのは間違いない。

ゆーくんはわたしたちと出会う前から、って言っていた。もし虐待の傷だとしても跡に残るような傷なら誰も気づかない、なんてことはないはずだ。それなのにわたしたちはゆーくんが傷ついていることにすら気づかなかった。

でも、ひとつだけ心当たりがあるとすれば――

 

「……ことり?」

 

「ふぇ!? な、なにかな、ゆーくん!?」

 

「いや、なんか急に拭く力が強くなったから」

 

そう言われてわたしはハッ、とする。いつの間にか布を握り締めて遊くんの身体を沈めるように押し当てていた。

 

「え? あ――ご、ごめんね。痛かった?」

 

わたしは謝りながら力を抜いてゆーくんの身体を拭く。

 

「痛くはないけど、何か考え事か?」

 

「え、えーと……それは……」

 

見事に当てられて、口篭ってしまう。でも、これもいいチャンスだった。わたしは意を決して口を開いた。

 

「ねえ、ゆーくん」

 

「んー、どうした?」

 

気持ちよさそうな間延びした声。リラックスしているときにこんなことを聞くのはどうかと思うけど、それでも聞かずにはいられなかった。

 

「どうして、誰にも助けを求めなかったの?」

 

ゆーくんは我慢する節がある。しかもその我慢は少しのことでは崩れないほど強いのは知っていた。だけどこれはその限度を超えている。小学生や中学生が耐えられるようなものではないと思う。

わたしはジッとゆーくんの答えを待つ。

 

「そうだな……」

 

言葉を発したゆーくんは困ったような表情を浮べた。

 

「いま考えれば自分でも思うよ。どうして誰にも救いを求めなかったのか。穂乃果にことりや海未、雛さんみたいな信頼できる人がいたはずなのに……」

 

後悔なのか、なんなのか、外を見て遠い目をして語るゆーくんの気持ちはわたしにはわからない。

 

「ただ、あの頃の俺は愛華以外は信じていなかったんだろうな。ことりたちは眉をひそめたくなるだろうけど」

 

信じていなかったと言われても怒ることはできなかった。多分ゆーくんと同じ境遇だったらわたしも他の人たちを信じられなかったと思う。

 

「……」

 

わたしはゆーくんに掛ける言葉を探していた。いま彼に必要なのは同情でも慰めなんかでもない。

逡巡したあと、わたしはそっとゆーくんの手に自分の手を重ねた。

 

「ことり……?」

 

「よく頑張ったね」

 

存在を確かめるようにキュッと優しく力を込める。

 

「これからはわたしたちもいるよ。だからゆーくんは一人じゃないからね」

 

そういうわたしにゆーくんは驚いた表情を見せるもすぐに顔を綻ばせた。

 

「ありがとな、ことり」

 

「うん……」

 

"わたしがいるよ"と言えなかったのは自分の中に罪悪感と穂乃果ちゃんや海未ちゃんに申し訳ないという気持ちがあったからかもしれない。

でも、いつか必ず、言えたらいいなと、そう思った。

 

 

 

 

 






いかがでしたでしょうか?

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