ラブライブ! ~one side memory~   作:燕尾

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どうも、燕尾です。
三十六話目です。





アイドル研究部

 

 

アイドル研究部――まあ一言で言えば、アイドルに関する部活だ。

その部室はその名に相応しいほどグッズやDVD、ポスターで溢れかえっていた。

始めてみるその部屋に皆興味津々だった。

 

「A-RISEのポスター!」

 

「あっちは福岡と大阪のスクールアイドルね」

 

「校内にこんなところがあったなんて、知りませんでした」

 

あちらこちらを見回す穂乃果たち。

 

「勝手に見ないでくれる」

 

頬杖をついてそういう矢澤先輩。正直、どこに目をやってもアイドルのものが視界に入るから仕方がないだろう。だが、

 

「こ、これは……!?」

 

「どうしたの、花陽ちゃん?」

 

物色するのはどうかと思うぞ、花陽よ……

花陽はあるDVDボックスを掲げていた。

 

「これは、伝説のアイドル伝説DVD全巻ボックス!? 持っている人に初めて会いました!」

 

「そ、そう……?」

 

目をキラキラさせて矢澤先輩に詰め寄る花陽。それに対して、矢澤先輩は若干引いていた。

 

「凄いです!!」

 

「ま、まあね?」

 

どんなことでも褒められて嬉しく思わない人はいない。矢澤先輩も花陽から目をそらしてはいたものの、どこか嬉しそうな顔をしていた。

だが、そういうことに疎い俺はどういうDVDなのかさっぱりだし、その価値がどれほどのものかはよく知らなかった。

 

「へぇ~……そんなに凄いの?」

 

ちょっとした興味本位で聞く穂乃果。だが、それが花陽の引き金になった。

 

「知らないんですか!?」

 

「わっ!? びっくりした!」

 

「少しパソコンをお借りします!!」

 

「え、ええ……いいわよ……」

 

花陽の勢いに当てられた矢澤先輩はそのまま頷いて許可を出した。

パソコンに電源を入れて、情報サイトを起動した花陽は、普段のおっとりした様子からは伺えないほど慣れた手つきで検索ワードを入力していく。

 

「いいですか。伝説のアイドル伝説とは、各プロダクションや事務所、学校などが限定生産を条件に、古今東西の素晴らしいと思われる様々なアイドルたちの姿を集めたDVDボックスで、その希少性から伝説の伝説の伝説、略して伝伝伝と呼ばれているアイドル好きなら誰もが知っているDVD全巻ボックスなんです!!」

 

「は、花陽ちゃん、キャラ変わってない?」

 

俺は知っていたからまだしも、穂乃果や真姫は花陽の変化に戸惑っていた。

 

「これを二つも持っているなんて……尊敬……」

 

そこまで言うほどのレア物なのか、本当に輝いた目を矢澤先輩に向ける花陽。そんな花陽に矢澤先輩は自慢するように言った。

 

「ちなみに家にもうワンセットあるわ」

 

「神ですか!?」

 

「神とまでいうのか、花陽よ」

 

そして神である矢澤先輩に花陽はなにやら期待したような目を向ける。持っていない花陽は恐らく見たいのだろう。

 

「じゃあ、皆で見てみようよ」

 

そんな彼女の気持ちを代弁する穂乃果。

 

「駄目よ、それは保存用」

 

が、速攻で持ち主である先輩に却下される。

 

「そんなぁ……伝伝伝……」

 

「かよちんがいつになく落ち込んでいる!?」

 

余程見たかったのだろう、涙を流しながらキーボードに倒れ伏す。そしてそんな親友の姿を初めて見ただろう凛が驚いていた。

 

「……」

 

パソコンの前で花陽を慰めている穂乃果たちとは別に、ことりはある一点を見つめていた。

 

「ことり? なにを見ているんだ」

 

「ふぇ!? それはその……あれ……」

 

指が指されたほうを俺も見てみるとそれは誰かが書いたサインの色紙だった。

 

「ああ、気づいた?」

 

矢澤先輩の声にびくっ、とすることり。

 

「ミナリンスキーさんのサインよ」

 

「ミナリンスキー?」

 

なんか身近な人を想像できてしまうような名前だ。

 

「秋葉のカリスマメイドよ。その色紙はネットで手に入れたものだから本人は見たことないけど」

 

説明を聞いていたことりはボーっとその色紙を見ていた。

 

「ことり、知っているのですか?」

 

「え!? あっ、いや……」

 

海未の問いに上の空だったことりは慌てて返事を返す。その反応は少しおかしかった。明らかに動揺している。

 

「それにしてもミナリンスキー、ね……」

 

「どうかしたの? ゆーくん」

 

「いやな? メイドカフェとかで働いている人はよく自分の苗字や名前を変えて名乗っているらしいけど、ネーミングセンスがあまりないように思えるんだよなぁ」

 

揺さぶりをかけて、ことりのほうをちらりと見る。

 

「そ、そうだね……でも、可愛い子達もいっぱいいると思うよ?」

 

あ、顔が引きつってるよ、ことり。もう確定だろ、ミナリンスキー。というか最初聞いたときちょっと引っかかってたよ。南ことりの南を取ってミナリンスキーってつけたんだな。

 

「まあ、名前のことは置いといて」

 

話題を逸らしたことに隣でホッとすることり。

うん、それはもうバラしていると同じだよ。でもことりの名誉のためにいわないでおく。

 

「この色紙、本物なんですか? ネットで手に入れたとかいってましたけど」

 

「ええ、ちゃんと安心できるルートから手に入れたわ」

 

そんなルートが存在しているのかよく知らないが本物なんだろう。ことりも少し焦っているようだし。

 

「――っていうか、あんたたち、こんな見学するために来たわけじゃないんでしょ? いい加減本題に移りなさいよ」

 

「ああっ!? そうだった、忘れてた!」

 

「忘れてたら駄目だろう、穂乃果……」

 

「うぅ……伝伝伝ぅ……」

 

「ほら、花陽もいつまでも落ち込んでないで」

 

皆を促してとりあえず座らせる。

話が出来る空気になったところで穂乃果が切り出した。

 

「アイドル研究部さん」

 

「……矢澤にこよ」

 

部名でいわれるのが嫌だったのか矢澤先輩は名前を口にする。

 

「にこ先輩。実は私たち、スクールアイドルをやっていまして」

 

「知ってるわよ」

 

まあ、今までつけまわした挙句に解散しろなんて言ってきていたのだから、知らないほうがおかしいだろう。

 

「どうせ希にでも部にしたいなら話をつけて来いって言われたんでしょう?」

 

「おお、話が早い!」

 

穂乃果はしきりに感心しているが、口ぶりからして矢澤先輩と希先輩は知り合いだろう。それならわかっていても不思議ではない。そして恐らく、希先輩の方も矢澤先輩が独りでいる事情も知っているはず。

生徒会のとき絵里先輩のフォローをする前は明らかに俺たちのフォローをするつもりでいたし。いずれは矢澤先輩と話しをさせようとしていたのだろう。

あの似非関西人め、わざとけしかけようとしていたな。それも――結果もわかっていた上で。

 

「まあ、いずれはそうなるんじゃないかって思っていたわ」

 

「なら――」

 

「お断りよ」

 

俺の予想は正しく、穂乃果が言う前に矢澤先輩は切り捨てた。

 

「えっ……?」

 

「お断りって言ってんのよ」

 

「私たちは別に部を廃部にしてほしいといっているわけではないんですが」

 

「言ったでしょ、私はあんたたちを認めないって。あんたたちはアイドルを汚している」

 

随分な物言いの、上から目線な矢澤先輩。思わず噛み付いてしまいそうになるほどだ。

だが、今は穂乃果たちが話をしているので我慢する。

 

「でも、今頑張って練習してます! 確かに未熟なことはあるかもしれないけど――」

 

「そういうことじゃない」

 

じゃあ、一体どういうことなんだとこの場にいる全員が首を傾げる。

そして、矢澤先輩から指摘されたのは今まで誰も考えていなかったことだった。

 

「あんたたち――ちゃんとキャラ作りしてるの?」

 

『えっ……?』

 

「きゃ、キャラ……」

 

予想外すぎて俺も声が裏返ってしまった。だが、矢澤先輩は至って真面目だった。

 

「そう! お客さんがアイドルに求めるもののは、楽しい夢のような時間でしょう? だったら、それに相応しいキャラってものがあるのよ」

 

「ああ、海未がラブアローシュートを打つときのような――ぎゃふん!?」

 

少しでも理解しようと想像していたところで、隣にいた海未によって顔面を机に打ち付けられる。

 

「ゆーうーやぁ?」

 

「イタタタタタ、海未さん痛いです。顔と後頭部がものすごい痛いです。でも間違っては――ぎゃふふん!!」

 

もう一度打ち付けられた俺はそのままピクピク机に伏していた。

 

「ったく、しょうがないわね。いい、しっかり見ておきなさい。例えば――」

 

矢澤先輩は後ろを向く。恐らくステージをイメージしているのだろう。そして、

 

「にっこにっこにー! あなたのハートににこにこにー! 笑顔を届ける矢澤にこにこ! にこにー、って覚えてらぶにこっ!」

 

場が、凍りついた。

 

『…………』

 

まさかの出来事に皆呆然としていた。机に伏せている俺も海未に打ち付けられたこと以上になにも言えなかった。

 

「――どう?」

 

やりきった矢澤先輩は一息つく。

どうもなにも、なにも言えない。だが、何かを言わなければならない。それは穂乃果たちも同じだったようで、

 

「う゛……」

 

穂乃果は言葉に詰まり、

 

「これは……」

 

海未は熟考し、

 

「キャラというか……」

 

ことりは驚愕し、

 

「私無理」

 

真姫は拒否し、

 

「メモメモ……」

 

花陽は熱心に書きとめて、

 

「ちょっと寒くないかにゃ~?」

 

凛が止めを刺した。

確かに空気が凍って、部屋の室温が下がったような気がするけど、それは今言ってはいけないことだぞ、凛。

 

「そこのあんた今、寒いって……?」

 

案の定、矢澤先輩は凛を睨む。

 

「ひっ! い、いや、なんていうか、その……!」

 

「でも、場合によっては可愛いかも……!」

 

何のフォローにもなっていないぞことり。

頑張って他が支えようとするもどこか上辺な言葉ばかり。

仕方が無い、と俺は影で携帯を操作して、海未の腕を突く。画面を見た見た海未は小さく頷いた。

 

「――出てって」

 

それと同時に低い声が聞こえる。

 

「話は終わりよ、さっさと出てって!」

 

矢澤先輩が一人ずつ外へと押し出していく。だが、気絶したフリをした俺は女子一人の力では動かせない。

諦めた矢澤先輩は穂乃果たちだけを追い出してドアを閉めて、鍵を閉める。

 

「えっ? ちょ、にこ先輩!? ゆ、遊くんは!?」

 

「起こしてしっかり追い出すわよ!!」

 

そんな、と聞こえるがさっき伝えておいた海未がいるから大丈夫だろう。

 

「ほら、さっさと起きなさいよ。あんたも早く出て行って!」

 

矢澤先輩は肩を揺すってくる。頬とかを叩いてこない限り、少しの優しさも伺える。

 

「もう、気絶した人間はどうすればいいっていうのよ……」

 

はあ、とため息を吐く矢澤先輩。

 

「まったく――」

 

「まったくはこっちの台詞ですよ、矢澤先輩」

 

「うぎゃあああ!?」

 

気絶したフリのドッキリ大成功。プラカードがあればなおよかったが贅沢は言ってられない。

 

「あんた、気づいていたの!?」

 

驚きで部屋の角まで下がった矢澤先輩が声を上げる。

 

「あんなので気絶するほど柔じゃないんで」

 

「そう、ならさっさと出て行って!」

 

「いえいえ、まだ話があるんですよ」

 

「最初から言ってるでしょ、私には話すことはないって」

 

まったく、絵里先輩にしろ真姫にしろ、矢澤先輩にしろ、どうしてこうお堅くて突っぱねるような人間が多いのだろうか。相手をするのも楽じゃないんだが。

 

「いいんですか、後悔するのは先輩ですよ?」

 

「……っ、どういうことよ」

 

雰囲気が変わったことを察した矢澤先輩は息を飲んだ。

 

「言いましたよね? 意地を張るのは結構ですが、然るべき手段があると」

 

「ふん、どうせ嘘でしょ」

 

虚勢を張る矢澤先輩。この人はまだ自分の置かれている状況がわかっていない。

 

「穂乃果たちが下手に出ているうちに自分で落としどころを見つけるべきだったんですよ。あなたは」

 

「どういうことよ」

 

「この学校では名前を変えても同じような内容の部活は作れない。まあ、必要ないですよね? それなら既存の部に入部すればいいだけの話なんですから。ですが、あなたは穂乃果たちを否定した――さて、ここで質問です。ちゃんと人数がいて活動目的を持って実行している人間と、一人だけでただ毎日趣味を浪費しているような人間、どちらが学校に認められると思います?」

 

そんなのはどう考えても明らかである。矢澤先輩は顔を歪めた。

 

「なにそれ、脅しのつもり?」

 

「さあ、これが脅しに聞こえるのならどこにでも訴えればいいですよ。そのときはちゃんと俺も同行しますから」

 

「くっ……あんたね……!」

 

どちらに理があるかわかっているからこそ矢澤先輩は悔しそうな顔をする。だが、本来そんな顔をすること自体おこがましい。

 

「部活は個人のものじゃない。もう駄々を捏ねるのはやめたらどうだ? そんなことだから、部員たちもいなくなったんだろ」

 

その瞬間、先輩の目はまるで親の敵でも見るようなものに変わった。

 

「――ッ! なにも見てないくせになにをわかった風に!!」

 

「わかるさ。自分の理想を他人に押し付けて、それ以外は認めないって言い張って、強要して――誰だって一緒にやりたくはなくなるってもんだ」

 

目標を高く持つことは決して悪ではない。だが、それが一丸となったものじゃなければただの先走りだ。

集団でいれば価値観の違いというのは必ず出てくる。だからこそ話し合って方針を決めないといけない。だが、この人はそれをせずに、自分の理想を追い求めるためだけに設立して、他人にも自分と同じ理想を求めさせた。そんなの、上手くいくわけがない。

 

「あんた達なんて認めない、さっさと解散しろ、アイドルを汚している……そういうあんたは一体何様だ?」

 

下唇をかみ締めて俯く矢澤先輩。

 

「いい加減、下らないプライドを振りかざすのはやめたらどうだ。嫉妬するほどほしいものがあるなら、醜くても、卑しくても、自分で手を伸ばしていけ」

 

「……」

 

「素直になって、本当に自分がしたいことを思い出せ」

 

言いたいことを言い切った俺はふぅ、と息を吐いて雰囲気を緩める。

 

「俺の言いたいことはこのくらい、どう受け取るかは矢澤先輩次第です」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

出て行こうとする俺を矢澤先輩は立ち上がって引き止めた。

 

「? なにか?」

 

「その、さっきの話、本当に学院にするつもり……?」

 

さっきの話というのは俺が言っていた手段のことだろう。矢澤先輩の顔は先ほどより勢いを失っていた不安そうな表情だった。

自分だけだとしても居場所がなくなることに対する恐怖を感じているのだろう。

 

「それはもう少し後にする予定です。それじゃ、失礼しました」

 

俺は出来るだけ優しい口調で言って、今度こそドアを閉めた。

 

 

 






いかがでしたでしょうか?
別タイトルも更新しているのでそちらもぜひ呼んでみてください。

ではまた次回に。



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