ラブライブ! ~one side memory~   作:燕尾

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どうも、燕尾です!
第三十七話めです。






にっこにっこにー!

 

「こんなところにいたか」

 

「あ、遊くん!」

 

アイドル研究部から離れてから穂乃果たちを探していたのた俺は、玄関先で彼女たちを見つける。

一年生たちはもう帰っているらしく、いま居るのはいつもの三人と希先輩だ。

 

「お疲れ様、遊弥君。どうやった、にこっちは?」

 

「分かってはいましたけど一筋縄ではいきませんよね。まあ俺も、色々と文句は言いましたけど」

 

だが、今は矢澤先輩より重要な目的が目の前に居る。俺は親指と中指で輪を作り、希先輩の額の前に持っていく。

 

「へっ? 遊弥君……なにするん?」

 

冷や汗を流して苦笑いしている希先輩に俺はニッコリと笑う。

 

「お仕置きです」

 

「――あいたぁ!?」

 

そして思い切り中指を振り抜く。ばちんっ、と俺の指と希先輩のでこがいい音を鳴らした。

 

「ええっ、ゆーくん!?」

 

「遊弥、一体なにをしているのですか!?」

 

「だからお仕置きです」

 

あわ食った様子のことりと海未に俺はもう一度言う。

 

「ちょ、遊弥君! 女の子に凸ピンってちょっと酷いと思わへんの!?」

 

涙目で抗議を入れる希先輩。だが、俺は一切笑みを崩さなかった。

 

「希先輩、あなたは自分が文句を言える立場にいるとお考えか?」

 

「ゆ、遊弥君。口調がおかしいで? まるで不正を問いただす議員さんのようやで……?」

 

「だまらっしゃい。希先輩。あなた、最初から穂乃果たちを矢澤先輩にけしかけるつもりでいたでしょう?」

 

「だって……部にするにはそのほかに方法がないわけやし……」

 

「それはそうですけど、失敗するの分かってましたよね? 今だってどうせ、穂乃果たちが追い出されるタイミングを見計らって、矢澤先輩の身の上話をしに来てたんでしょうが」

 

「うっ……それは……」

 

言葉を詰まらせて目を逸らす希先輩。それは図星だと自分でいっているようなことだ。

なんだかこうして事実を確認していったらムカついてきた。

 

「とりあえず――もう一発、いっときますか」

 

「えっ、なんでなん!?」

 

「いや、希先輩が手のひらで転がそうとしているのが不愉快なので?」

 

後ずさる希先輩の肩をがっしりつかむ。逃げられない希先輩は顔面蒼白にしていた。

 

「うちはそんなつもりない! 無実やぁ!」

 

はっはっは、そんなつもりはない? ここまでしておいて笑わせてくれおるわ。それにそれが本当だとしても関係ない。なぜなら、

 

「疑わしきは罰せよ、がこの世の常です」

 

「逆や! 罰さないのが普通や! 間違って覚えとるで遊弥君!!」

 

「そんなのどちらでもいいです。俺が凸ピンすることに違いはありませんから」

 

「理不尽!!」

 

やめて! と騒ぐ希先輩。そう抵抗されるとなんとしてでももう一発入れたくなる。

 

「ふふふ……さあもう一発しますよ……その白くて綺麗な面を汚してさしあげますよ……フフフフフ……」

 

「遊弥君? 様子がおかしいよ……? えっ、本当にちょっと待って!?」

 

慌てふためく希先輩の額にもう一回、俺の指が迫った。そのとき、

 

「――ぎゃふん!?」

 

頭に強い衝撃が奔る。そして指が食い込んでいるのかと思うほどの力で両肩を掴まれ、希先輩から引き剥がされる。

 

「なにをしているのですか、あなたは」

 

呆れた海未の声が耳に入る。その声で俺も現実に引き戻された。

それと同時に肩の痛みがはっきりとしていく。

 

「遊くん、おいたはよくないよ?」

 

「そうだね。ことりも穂乃果ちゃんの言うとおりだと思うな、ゆーくん?」

 

「……はい、すみませんでした」

 

笑みを浮かべる穂乃果とことりに今度は俺が顔面を青くさせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どうするつもりだ?」

 

希先輩と別れ、俺たちは雨が降りしきる中、傘を差して並んで帰る。

大方、矢澤先輩のことは希先輩から聞いたらしく、ことりと海未は難しい顔をしていた。

 

「うーん、なかなか難しいよね。にこ先輩」

 

「そうですね……先輩はなかなか理想が高いですから、私たちのパフォーマンスで納得してくれませんし、説得に耳を貸してくれる様子ではありませんから」

 

「穂乃果はどう思っているんだ?」

 

浮かない表情の二人に対して、穂乃果は何か思案しているようだった。

 

「そんなに難しいことかな?」

 

「「えっ?」」

 

「だって、にこ先輩はアイドルが好きなんでしょ? それでアイドルに憧れてて、私たちにもちょっと興味がある」

 

あまり考えられているように思えない穂乃果の言葉。だが、俺はわかる。

矢澤先輩の問題の本質はあの人の理想をクリアすることや説得を成功させることじゃない。

 

「ってことは、ほんのちょっと何かがあれば上手くいきそうな気がするんだよ」

 

「具体性に欠けていますね」

 

海未の言う通り、直感的な考えが多い穂乃果。

 

「ふむ、いい線をついていると思うぞ穂乃果」

 

しかし、俺は誰よりも的を得た答えを得ていると思っていた。

 

「矢澤先輩は希先輩の言葉で言うと、羨ましい、と思っているんだ。スクールアイドルの活動をしている穂乃果たちのことを。それで、そういう人間が次にとる行動はいくつかある。妬んで邪魔してきたり、陰ながら応援したり、あとは――」

 

バレないように顎をくいっ、とある方向を指し示す。

 

「あ……」

 

そこには慌てて身を隠そうと、階段を駆け下りていく矢澤先輩の姿。

 

「今のは……」

 

「にこ先輩、ですね」

 

「――ああやって遠巻きから見ていて仲間に入りたそうにする、とかな」

 

俺は苦笑いしながらそういった。

 

「矢澤先輩はその典型的な人種だ。仲間に入りたくても素直に言うのは恥ずかしい。だから反発したり、ちょっかいをかけたりする。要するに意地を張っているんだよ」

 

しかし、そんな意地なんて"ほんのちょっとの何か"があればすぐに堕ちる。まあ、それが先輩の妥協点になればの話だが。

でも、無意識ながらに人の感情を汲み取ることに長けている穂乃果ならもうわかっただろう。

 

「そうだ! ふふっ……」

 

「その様子だと何か思いついたみたいだな」

 

「うん。これって、海未ちゃんとまんま一緒だなって!」

 

「わ、私ですか!?」

 

「ほら、ことりちゃんも覚えてない? 小さいころ、海未ちゃんと出会ったときの」

 

そう問われて、ことりも少し考えた後、ああ! となにかを思い出していた。

 

「穂乃果、ことりと海未の出会いか。なかなか興味あるな」

 

当然そのときに居なかった俺は知らないことだ。

 

「海未ちゃん、いっつも公園で私たちが遊んでいるところを木の陰から見てたんだよ。気づかれそうになったら隠れていたんだけど、どう頑張っても隠れるのが遅くてバレバレだったんだ~」

 

「そ、そんなこと、ありましたっけ……?」

 

「あったよ。海未ちゃん、相当恥ずかしがり屋さんだったから」

 

「ふむ、小さい海未が恥ずかしがりながら木に隠れているのか。しかもバレているとくるか……なかなか可愛いじゃないか」

 

「――っ、ニヤニヤしないでください遊弥!! 穂乃果も今その話をして、なんの関係があるというのですか!?」

 

「関係あるよ。ほらさっきも言ったけどこの状況、その小さいころの海未ちゃんと同じでしょ?」

 

そのときは穂乃果が遊びに巻き込んで、海未を皆の輪の中に入れたという。

 

「つまり、矢澤先輩にも同じことをしようということか」

 

「うん! 同じようにはいかないと思うけど、まあ、そこはアドリブで」

 

「その裁量は穂乃果たちに任せる。俺は居ないほうがいいと思うしな」

 

「ええっ、どうして!?」

 

「大分脅しをかけたからな。あと説教もしたし。俺が居ると矢澤先輩も気まずいだろうから俺はパス」

 

「なにをしているんですか、あなたは……」

 

そんなこといわれても必要なことだったと言わざるを得ない。とりあえず呆れた海未の視線はスルーする。

 

「何より明日は試験生としての報告を理事長に報告しないといけないからな」

 

「そっか、もうゆーくんが音ノ木坂に来てから二ヶ月くらいたったもんね」

 

「そういうことだ」

 

女子高に編入してからもう二ヶ月が経っていた。最初こそ戸惑うことが多かったがなんだかんだで馴染めたような気はする。

まあ、教師の地味な嫌がらせとか、生徒からの侮蔑するような視線はなくなってはいないが、穂乃果たちに言うことではない。

 

「だから、あとは穂乃果たちに任せるよ」

 

まあここまでやっているの素直にならなかったらもう救いようがない。そのときは潰すだけだ。

だがまあ、彼女たちならきっと上手くやれると俺は確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の放課後、俺は理事長室へと来ていた。

理事長の手には一枚の紙。俺が出した報告書だ。読み終わったのか、理事長は面を上げてため息を吐いた。

 

「色々と苦労をかけてるみたいね……ごめんなさい」

 

「謝られるほどの苦労とは思ってないですよ」

 

ただ自分に課される宿題が一学年上や大学で習うようなものだったり、自分のものがなくなったりしているだけだ。

 

「それで苦労と思わないのはあなただけよ。本来なら問題になるレベルなのだけれど」

 

「一応高校卒業できるまでの学力はありますし、大学の問題なんて基本高校からの応用ですから、専門的なことじゃなければ解けますよ」

 

それにどうしてもわからないときは、最終手段として咲姉に教えてもらっている。問題というほどの問題なんてないのが現状だ。

 

「それに、提出するたびに教師の悔しそうな顔を見るのは何気に楽しいんで、まあバランスのいい関係だと思っています。物がなくなったのは困ったんですが、まあ、捨てたりするほどの度胸はなかったみたいですぐに見つけられましたし」

 

「遊弥君ってポジティブなのか、それとも無関心なだけなのか、よくわからなくなるわ」

 

「どちらかというと無関心寄りだと思います。実害もこれといってないんで。基本的に真面目なんでしょうね、ここの子たちは」

 

「真面目ならそういうことすらしないと思うのだけれど」

 

そこは触れないでやってくださいよ、せっかくフォローしてあげているのに。

 

「まあ、大抵のことなら俺は自分で何とかできるので、あまり気にしなくていいですよ。どうしようもないときにはちゃんと言いますので、それまでは理事の仕事とかに専念していただければ――」

 

「遊弥君、それは違うわ」

 

途中で理事長が遮る。

 

「あなたが楽しく過ごせるように、学院生活を支援するのも理事の仕事の一つよ。決してそこを履き違えてはいけないわ」

 

諭すような声。それはうちの爺さんのような貫禄があった。

流石は爺さんの意志を継いでいる人だ。廃校の瀬戸際だというのに生徒にもしっかりと目を張っている。雛さんのような人が増えれば教育界も安泰だろう。

 

「現状はわかったわ、とりあえず私も共学化に同意している先生方と対策を講じるわ」

 

「お願いします、もう気にするなとは言いません。ですが、あまり気負わないようにしてくださいね。一つ一つ対応してもキリがないですし、やるなら一網打尽にするほうがいいと思います」

 

「ええ、ありがとう。それも含めて考えるわ」

 

「それじゃあ、失礼します」

 

理事長室から出ようとしたところで、俺はあるものを渡すのを忘れていたことを思い出して振り返る。

 

「っと、その前に――雛さんに渡すものがありました」

 

場所は理事長室だが、立場としてはプライベートということを主張するために俺は雛さんの名前を呼ぶ。

俺は懐から一つの封筒を取り出して、雛さんに渡した。

 

「これは――巌さんから?」

 

そう、差出人は俺の養父。爺さんからのものだ。

 

「一応、俺やこっちの状況は向こうにも報告しないといけないですからね。その話を聞いた爺さんが少しでも参考になればってアドバイスを手紙に書いて寄越したものです」

 

「有り難いわ、今度お礼しないとね」

 

「爺さんも喜ぶと思います。では、今度こそ失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、穂乃果たちは上手くいっただろうか」

 

一礼してから理事長室を後にした俺はそのままアイドル研究部の部室に向かう――が、部室の電気は消えており、鍵も締まっていた。

懐から携帯を出して確認しても、通知は一つもない。

 

「穂乃果たちからの連絡はなしか。進展あったら連絡をしろって言っていたんだけどな」

 

となると、それが出来ない状態か、単に忘れているだけなのか。どちらにしろ、どこにいったのやら。

ふと横を見ると、外は雲の隙間から陽光が差し込んでいた。理事長室にいたときはまだ雨が降っていたのだが、いつの間にか止んで、晴れてきたのだろう。

となると彼女たちが行くとしたらただ一つ――

 

「ふむ、いってみるか――屋上に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『にっこにっこにー!』

 

階段を上っているところで外の屋上から大きな声が聞こえる。

 

「声が小さいわ。もう一回――にっこにっこにー!」

 

『にっこにっこにー!』

 

「……どうやら上手くいったみたいだな」

 

俺はドアノブに手をかけてガチャリと、屋上へと出る。

そこには、練習着の穂乃果、海未、ことり、花陽、凛、真姫――そしてジャージ姿の矢澤先輩。

 

「あっ、遊くん! お疲れ様!」

 

「お疲れ様、穂乃果、みんな」

 

「紹介するよ、遊くん。七人目のメンバーでアイドル研究部部長の矢澤にこ先輩!」

 

みんなに押されて俺の前に立つ矢澤先輩。その顔はどこか気まずそうだった。

 

「……」

 

今までの経緯から、突然俺を目の前にして普通ではいられないのだろう。

まあ、ここは俺からいくべきか。

俺は矢澤先輩に向かって手を差し出した。

 

「改めて……μ'sの手伝いをしている萩野遊弥です。よろしく、矢澤先輩」

 

「よ、よろしく……」

 

おずおずと、交わされる握手。矢澤先輩の手はふにふにとして柔らかかった。

 

「にこ先輩、恥ずかしがってるにゃ!」

 

「なっ!? そ、そんなことないわよ!」

 

「そうかしら? それにしては顔が真っ赤なのだけれど?」

 

「――そ、そんなことより! あんたたち、さっきの続きをしなさいよ!! まだまだ程遠いんだから!!」

 

『は、はい!?』

 

矢澤先輩は恥ずかしさを誤魔化すように追い払う。

 

「ほら、にっこにっこにー!!」

 

『にっこにっこにー!!』

 

「いいわ、その調子よ。それをそのまま三十回!」

 

『えぇ!?』

 

「なんか文句ある?」

 

『ありませーん!』

 

鬼の形相をする矢澤先輩に穂乃果たちは苦笑いしながら離れていく。

それがおかしくてつい俺は軽く噴き出してしまった。

 

「……何よ」

 

「いえ、別になんでもありませんよ?」

 

「アンタ、なにを考えているのかわからないから不気味だわ」

 

「不気味って、酷い言い方をしますね。せめてミステリアスと言って下さいよ」

 

離れたところで、矢澤先輩の決めポーズを繰り返している穂乃果たちには聞こえない程度に応酬する俺と先輩。すると、

 

 

「ありがとう」

 

 

唐突に矢澤先輩の口から出た感謝の言葉に俺は少なからず驚く。

 

「あのとき、最初に私が断ったときアンタが生徒会や学院に言わなかったのはこうするためだったんでしょ?」

 

「さあ、何のことでしょう? スクールアイドルの手伝いのほかに試験生として俺にもやることがいっぱいあるんで。もちろん、俺は潰すつもりでいましたよ」

 

「……そう、そういうことにしてあげるわ」

 

そっぽを向いて上から目線で喋る矢澤先輩の口元は緩んでいた。

 

「ほら、アンタも練習しなさい!」

 

「はっ? いや、でも俺は……」

 

男の俺がにっこにっこにー、とかありえない、見せられるものじゃない。

 

「いいからやるの! 早く!」

 

背中をぐいぐい押す矢澤先輩。

 

「ちょっ、矢澤先輩!?」

 

「にこよ! ほら遊弥、アンタもやるのよ!」

 

「勘弁してください、にこ先輩!」

 

「アンタもアイドル研究部の部員なんでしょ、なら当然よ!」

 

その声色はどこか楽しそうで、ようやく自分に正直になれていたような気がした。

 

 

ちなみに、

 

 

「にっこにっこにー!!」

 

 

『…………』

 

諦めて、にっこにっこにー、と全力でポーズを決めると穂乃果たちはもちろん、やらせたにこ先輩にまで思い切り引かれた俺は――

 

「……ぐすん、もう今日は帰る。かえって縄を用意しよう」

 

『ああ!? ごめんなさ――い!!!!』

 

涙を流し、しばらくの間いじけるのだった。

 

 

 






いかがでしたでしょう?
また次回にお会いしましょう!



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