明けました、おめでとうございます。どうもお久しぶりです燕尾でございます。
今年も一年よろしゅうお願いします。
では ラブライブone side memory 第四十話目です。
「少しは落ち着いたかしら、ミナリンちゃん?」
「はい、すみません……」
目元をこすりながら謝るわたしに店長はわたしの口元を指で押さえた。
「謝る必要はないわ。大事な店員のメンタルケアは店長の仕事よ」
店長は優しい笑みを向けてくる。
「今日はもうあがっちゃいなさい。そんな顔で人前には出られないでしょう?」
「え、でも…」
まだ二時間ぐらいシフトが残っているのに、さすがにそんなことはできない。
「いいから。今日はあまり客も来ていないしなにより――彼、気になるんでしょう? バイト代はシフト通りに支払うから大丈夫よ」
「いえ、そういうことじゃないんですけど……」
むしろシフトの時間出ていないのに貰うのことに気が引けてしまう。だけど店長は強引にわたしを押していった。
「どんなことでも、とにかくミナリンちゃんは少しわがままを覚えたほうが良いのよ。だからもう今日は着替えてきなさい。他の子には私から言っておくから」
ほらほら、と背中を押されて更衣室へと押し込まれる。
「いいミナリンちゃん――しっかりするのよ?」
そして、店長はそのままばたん、と扉を閉めて厨房へと戻っていった。
「どうしよう……」
どうすることもできなかったわたしは小さく呟いた。
でもこうなった以上は仕方がないと、わたしは自分に言い聞かせる。
むしろここで厨房になんて戻ろうものならかえってそのことを怒られそうな、店長の気迫はそのくらいの勢いがあった。
わたしはメイド服を脱いで、クローゼットの中にある私服に着替える。
それから邪魔にならない厨房の奥からもう一度ゆーくんと少女の様子を観察する。二人は楽しそうに談笑していた。
「ゆーくん、楽しそう……」
純粋な彼の笑顔。ここ最近、わたしや穂乃果ちゃん海未ちゃんが見ていなかった顔だ。
思えばこの数日、ずっとスクールアイドルのことでいっぱいになって、ゆーくんもわたしたちもああやってゆっくり過ごすことができてなかった気がする。
だからといって、スクールアイドルの活動に不満なんてまったくない。真面目に考えたり、わたしたちをサポートしてくれるゆーくんと過ごす時間はこれはこれでいいものだ。
要するに、何が一番問題なのかと考えたら、あそこでゆーくんと一緒にいるのが自分じゃないことだった。
――もういっそのこと、あそこに割り込んでこようかな?
さっきは強引に押し切ったけど、ゆーくんのことだからもうわたしだってわかっているはず。なら、ここで私が開き直ってあそこにいっても問題ないのではないか。しかし、
「でも、もし彼女さんだったりしたら……」
そんな考えが頭をよぎる。こっちにゆーくんが戻ってきてから二ヶ月余り。わたしたちも毎日彼と一緒に過ごしたわけじゃない。となればプライベートでそういう関係の子ができてもおかしくはない。
「本当にどうしよう……」
わたしは迷う。いまこうしているように影から観察するか、あそこに割り込んでいくか――
「――そうだ!」
そうやって考えているうちに一つの妙案が浮かんだ。そして、わたしは再び更衣室へと戻る。そして、もう一度メイド服を身にまとって店長のところに戻る。
「店長!」
「わっ……どうしたの、ミナリンちゃん。またメイド服なんか着なおして?」
「店長、お願いがあります――」
――Yuya side――
「ふぅ、おいしかったわね」
口元を上品に拭くつばさ。
俺も結局一口のみならず、半分ぐらい食べることになった――つばさに食べさせてもらう形で。
おかげで周りからの視線が突き刺さるのなんの。一口もらうだけでも恥ずかしかったというのに、あれじゃあ、公開処刑みたいなものだ。しかもつばさはというと、視線に目も暮れず、俺の反応を見ては自分も楽しそうに食べるし。
以前ことりとケーキバイキングで食べさせあったことはあったけど、女の子はああいうこと気にしないのだろうか? 自分だけ意識しているのも悔しいから平然を装っていたけど
、あれは間接キスを何度も繰り返しているようなものだ。
「遊弥はどうだった? おいしかったかしら?」
「……まあ、美味しかった」
そんな俺の気も知れず、パンケーキの感想を求めてくるつばさに俺はため息交じりで頷いた。
味だけの話になると、こういう店って完成品を仕入れて盛り付けするだけかと思っていたがちゃんと手作りしていたようで、パンもふわっとしていて、クリームの甘さもフルーツとの相性を考えられていて美味しかった。
「ふふふ。遊弥がいてくれて助かったわ。私一人じゃ食べ切れなかったもの」
この笑顔、絶対嘘だ。ちょっと前に知り合ったばかりだけどそれだけはわかる。つばさは最初から俺に食べさせる気満々だったのだろう。
まあ、別にそこまできつかったわけではないから問題ないが、さっきからつばさに引っ掻き回されてばかりだ。
それにことりのことも気になる。あれから一度もホールに出てきていないのに、少し嫌な予感がする。さすがにあれで誤魔化し切ったとはことりも思っていないだろうし。
「ふぅ――」
やることがあるとはいえ、久々に一人で羽を伸ばせると思ったらとんだことになった。思わず疲れたような息が出る。
「えーっと、ちょっと、やりすぎちゃったかしら? ごめんなさい、こういうの久々だったから」
そんな俺の表情を見て何かを感じ取ったつばさは、声のトーンを落として言った。それに対し、俺は首を横に振る。
「このくらい別にいいさ、それに――つばさも久しぶりのオフで羽を伸ばしたかったんだろ? つばさが望むなら相手ぐらいする」
「――っ!」
つばさは驚いているが、そんなに難しいことじゃない。
「様子を見ていたらわかる。アイドルショップで会ったとき結構疲れていた顔していたからな」
あのときは瞬時に人前を意識して姿勢を整えていたが、言葉の節々から疲れが滲み出ていた。こうしてゆっくり過ごしたり、気分転換できることがなかったのだろう。
「まあ、俺につばさの相手が務まっているとは思ってないけど」
相手は芸能関係者。こんな一般人の俺と一緒にいてもつまらないものだとは思う。だが、つばさはそうは思っていなかったようだ。
「……そんなことない。すごく、楽しいわ」
そういうつばさの顔は赤かった。どうやら、素直に言葉にするのが恥ずかしかったようだ。
「それなら、振り回される甲斐もあったというもんだ」
小さく笑う俺につばさはキッ、と鋭い目を向けてくる。
「遊弥の癖に生意気よ」
「そういえるほどまだお互いのことよく知らないだろ。さっき店で出会ったばかりだし」
「そういうことじゃないわよ!」
「あっはっはっはっは、わかってる」
笑顔でそういう俺につばさはからかわれていたことに気づいて、頭の頂点まで顔を赤くする。
「~~~~っ! 遊弥、そこになおりなさい!!」
「なおれって……武士じゃないんだから」
恥ずかしさがマッハでピーク値に達して思考回路がおかしくなっているつばさ。
「うるさいうるさいうるさーい! いいからそこになおりなさい!!」
「あっはっはっはっは、だが断る」
「くぅ……この私が、こんな男に…この私が!」
悔しそうに歯噛みするつばさ。
「少し落ち着け。他の客に迷惑だから」
「誰のせいだと思っているのよ!」
「もちろん俺だ」
「わかっているじゃない!」
うがー、と噛み付いてくるつばさ。だけどそろそろまずい。
「悪かったって。ほら、いい加減にしないと悪目立ち――」
「失礼します。ご主人様、お嬢様。恐れながら他のご主人様たちに怒られてしまいますので」
そう割って入ってきたのは笑顔のことりだった。
「「すみません……」」
俺とつばさはそろって謝る。周りを見ると他の客たちからの視線も厳しくなっていた。主な感情はイチャイチャしやがって、というものだろうが、さすがにこれは俺らが悪い。
「……」
「? なにかしら?」
「いえ、なんでもありませんお嬢様。ご主人様、一つ質問があります」
周りから注目されているなか、ことりが笑顔で言う。
「あ、ああ……なんだ?」
なにをいわれるか、わからない俺は身構える。するとことりはとんでもないことを口にし始めた。
「わたしというものがありながら、そちらのお嬢様とはお付き合いされているのですか」
「……は?」
俺たちだけじゃない、周りの空気も凍った。
これにはつばさも訳がわからないというような顔をしていた。戸惑っている俺にことりは更なる追い討ちをかけてきた。
「わたしに色々教えてくれていたのに、他の子にも手を出していたんですか?」
「ちょ――」
ことりの爆弾発言に周りがざわめきだす。
俺たちのミナリンスキーに、とか、あの男殺す、とか、色々聞こえてくる。さらには周辺にいたスタッフも下衆を見るような目で俺を睨んでいる。
「おい、ほんとうになに言っているんだ!?」
「手取り足取り、二ヶ月ぐらいかけてわたしの体にじっくり教え込んだのはご主人様じゃないですか。それを忘れるだなんて、ひどいです……」
確かにゆっくり覚えさせてたな、体幹や体力づくりのトレーニング!! ファーストライブやこれからのために!!
「もうわたしたちはご主人様なしじゃやっていけませんのに、ほかのお嬢様に現を抜かされていただなんて……」
「そんな誤解を招くような言い方をするな!! 俺は――」
弁明の言葉を遮るように周囲の客席からガタガタと音が上がる。そして会計を済ませ、殺気立った目をした男たちが俺を囲む。
「お兄さーん、少し外で俺たちとお話しようぜ」
「そうそう、聞きたいことたーっぷりあるから」
俺は両手を上げる。もう何を言ってもどうにもなるまい。
「……ミナリンスキーさん、お会計は」
「1660円です♪」
「お釣りはそこの人に渡しておいてくれ――つばさ、次に向かう場所は覚えているか?」
「え、ええ……」
「まだついて来るというならそこで落ち合おう」
それじゃ、といって俺は半ば連行されるように男たちに連れて行かれた。そして、外に出た瞬間――
「せい!」
俺は俺の腕を掴んでいる男たちのバランスを崩して逃げ出す。
「さらば!!」
『殺せェェェェ!!!!』
「絶対に、捕まってたまるかああああ!!」
命をかけた鬼ごっこが始まるのだった。
――Kotori side――
「それで――」
目の前の少女がわたしを見ていった。サングラスの奥で細められた彼女の瞳はわたしを射抜くようだった。
「わざわざ遊弥を払ってまで私に何を聞きたいのかしら。ミナリンスキーさん」
普通の口調なのだけれど、わたしは彼女から言い知れぬ威圧を感じる。だけど、わたしは怯まなかった。
「ゆーくん――遊弥くんとはどこで知り合ったんですか?」
「それをあなたに教える気は私にはないわ」
一刀両断。彼女はわたしの問いを即座に切って捨てる。本当に教えてくれる気持ちが彼女からは伝わってこなかった。
そういう気はしていた。所詮はただの他人同士、答えてくれる人もいれば答えてくれない人もいる。
しかし――ここは答えてもらおう。
「教えてください――"A-RISE"の綺羅つばささん」
わたしは笑顔を浮かべて言葉の刃をつばささんの首元に突きつける。その瞬間、彼女の顔つきが変わった。それを見逃すほどわたしは鈍感じゃない。
「当たっていたみたいですね」
「……いつから気づいていたのかしら」
「いまです。サングラスをかけているので遠目からはわかりませんでしたけど。それに今のは半分鎌かけみたいなものです」
してやられた、というような顔をするつばささん。
「なかなか怖いわね、ミナリンスキーさん。うちのあんじゅより黒いわ」
何が黒いのかはこの際聞かないで置く。どうせいいことではないのはわかっているから。
「教えてください、遊弥くんとはどこで知り合いましたか?」
わたしはもう一度問いかける。ここで自分の正体が知られるのを気にしないのであればわたしも引き下がるしかない。だけど、彼女自身騒ぎになるのを嫌っているはず。
つばささんは降参とばかりに息を吐いた。
「ついさっき、アイドルショップよ。私が落とした財布を拾ってくれたの。そのあと少し話したんだけど、遊弥が気づいた様子なかったしスクールアイドルについて知りたいって言っていたから、教えるついでにデートしていたのよ」
デート、というのは少しの意趣返しだろう。ゆーくんの今日の目的はにこ先輩の課題の消化だ。それがわかればデートという単語に動揺することもない。
わたしは安堵する。これ以上ライバルが増えるのはわたしも幼馴染たちも容認できない。ただでさえ生徒会長さんや穂乃果ちゃん、海未ちゃんたちも強敵だというのに、そこにスクールアイドルのトップが加わるのは辛すぎる。
「よかった……」
「安心しているところ悪いのだけど、私、遊弥のこと好きよ?」
わたしの様子を見たつばささんが冗談みたいなことを言い出した。
「…………えっ?」
冗談だよ…ね? だってさっき出会ったばかりって言っていたし、友達としてということだよね?
「残念ながらそうじゃないわ、恋愛的な意味でよ」
つばささんは顔を赤らめて彼が逃げた先を見つめていた。
「一目惚れというのかしら、遊弥のこと気に入っちゃった。出来ればお付き合いしたいわね」
呆けているわたしを余所につばささんは言う。その顔はまさしく恋をする女の子の顔だ。
「ええええええ――――!?」
わけのわからない展開に私はただただ大きな声を上げるだけだった。
いかがでしたでしょうか?
次回投稿は来月中旬に出来たらいいなと思います。
卒論完成するかなぁ……