ラブライブ! ~one side memory~   作:燕尾

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どうも、燕尾です。
久しぶりの更新です。






深い眠り

 

 

――Umi Side――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遊弥……」

 

静かな息を立てて遊弥は眠っていた。

遊弥が気を失った後、私はお父様に連絡をして来てもらった。武道やスクールアイドルの活動でトレーニングしているとはいえ、男の人を運ぶのは無理があったからだ。

普段から遊弥のことを毛嫌いしているお父様でも、事態だけにしっかりと対応してくれた。

 

「海未さん。遊弥さんの様子はどうですか?」

 

お母様も家に運んでからこうして何度か様子を見に来てくれている。

 

「さっきまでは苦しそうな息遣いだったのですが、今は落ち着いています。ですが――」

 

「目を覚ます様子はない――そうですね?」

 

私は頷く。

苦しそうにしても、穏やかになっても、遊弥が目覚める様子が一向になかった。

遊弥のこの様態に私は一つ心当たりがあった。

それは中学三年生の夏、受験真っ只中の私たちに遊弥のお父様――鞍馬巌さんが連絡してきたときのこと――

 

 

穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ことりちゃん。ワシたちのところに来て欲しい――

 

 

ことりの母親経由に突然のことに呼び出し戸惑うも、遊弥が大変なことになったと聞いた私たちは迷うことなく遊弥の元へ行った。

そして着いた私たちは病院に連れられ、嫌な予感をしながらも事情を聞いた。

 

 

――遊弥が記憶をなくしてしまった。

 

 

病室に入る前にそれを聞いた私たちは動揺を隠せなかった。

どうして、なぜ、という言葉を投げかけるも、鞍馬さんは答えることはなかった。

とにかく会ってほしい、と頭を下げる鞍馬さんに私たちは遊弥と対面することを決めた。

 

 

「――遊弥。調子のほうはどうじゃ?」

 

「あ、鞍馬さん。変わりありませんよ」

 

「記憶のほうはどうじゃ? 何か思い出しそうなことはあるかの?」

 

「……すみません、そちらの方はさっぱり」

 

「いや、気にするでない。仕方の無いことじゃ」

 

 

引き取られて数年一緒に過ごしたとは思えないほどの他人行儀な話し方。鞍馬さんが私たちを呼び出してまで嘘をつくとは微塵も思っていなかったが、このやり取りを聞いた私たちは、初めて遊弥が記憶を失ったことが本当だと認識した。

 

「今日はな、お主に(ゆかり)のある者を連れてきたんじゃ。少し会ってみんか?」

 

「縁のある人、ですか」

 

「少しでも切っ掛けがあればと思ってな。もちろん病院の許可は取ってある。後はお主が会ってみたいと思うかどうかじゃ」

 

「……そうですね。会ってみます」

 

そうして、鞍馬さんに私たちは呼ばれた。

病室のベッドに座る遊弥は頭や腕に包帯が巻かれ、動くだけでも一苦労するような、痛々しい姿だった。

 

「左から、園田海未ちゃん、高坂穂乃果ちゃん、南ことりちゃんじゃ」

 

私たちを紹介する鞍馬さんに続いて、私たちは自己紹介をする。

 

「海未です。お久しぶりです、遊弥。あなたには海未って呼ばれてました」

 

「穂乃果だよ。ゆうくん、ひさしぶり。遊くんには穂乃果って呼ばれてたよ」

 

「ことりです。久しぶりだね、ゆーくん。あなたにはことりって呼ばれてたよ」

 

「三人はお主の小学生の頃の友達じゃ」

 

「……こんな形ですみません。萩野遊弥です」

 

「どうじゃ、何か思い出せそうか?」

 

「穂乃果、海未、ことり…そうですね……なにか、懐かしくて……」

 

小さく私たちの名を呟いた遊弥は頭を抑え、息を荒げ始めたのだ。頭が痛い、と。

そして暴れそうになった遊弥は控えていた医師や看護婦たちに抑えられ、鎮静剤を打たれそうになる前にぱたりと気を失った。

思い出そうとした情報の量の多さに脳が耐えられなかったらしい。

それから数日間、毎日お見舞いに行ったが、遊弥が目を覚ますことは一度もなかった。

このまま遊弥が目覚めるまで待ち続けたいと思っていたが、いつまでも居られるわけではない。最初にあった日から遊弥と一言も話すことなく、私たちの帰る日は近づいていった

だが、帰る前日――

 

 

「よう、久しぶりだな――穂乃果、海未、ことり」

 

 

病室に見舞いに来た私たちは目を見張った。

医師と話していた遊弥が私たちを見るや、穏やかな笑みを浮かべて挨拶してきたのだ。

 

「ゆう、くん……?」

 

「どうした、穂乃果?」

 

「本当に遊弥、なのですか…?」

 

「じゃなかったら海未にはどう見えるんだ?」

 

「ゆーくん、記憶、もどったの…?」

 

「ああ。とはいってもまだ全部じゃないけどな。少なくとも小学生の頃までは思い出してる」

 

その言葉に、私たちの体が震えた。

 

「爺さんから聞いたよ。悪かったな、忙しい時期なのにこっちに来てくれて――」

 

 

「ゆうくん!!」

 

「遊弥!!」

 

「ゆーくん!!」

 

 

「――うおっ!?」

 

 

私たちは恥も外聞も捨てて、遊弥に抱きついた。

 

「よがっだ、本当によかっだよ゛ぉ~!」

 

「本当に…心配したんですから……!!」

 

「ゆーくん、よかったよぉ~!」

 

「わかった、心配かけたのはわかったから、離れてくれ! 怪我が痛い痛い痛い!!」

 

 

 

 

 

――あの時の遊弥も数日間、一度も目を覚ますことなく眠り続けていた。

 

「ということは、目を覚ましたとき、遊弥さんの記憶が戻っている可能性があるわけですね」

 

「はい。どの程度思い出すかはわかりませんがその可能性は高いと思います」

 

「ですが、素人判断は良くありません。明日海人さんと病院に連れて行きます」

 

「お願いします、お母様。私は穂乃果とことりに連絡して、ことりのお母様に鞍馬さんへの連絡を頼みます」

 

「ええ、そちらは海未さんに任せます。とりあえず、居間へ行きましょうか」

 

「いえ、もしかしたら遊弥が目覚めるかもしれないのでここに居ます」

 

断りを入れると、私の意図を読み取ったかのようにお母様は微笑んだ。

 

「わかりました――どうせでしたら今日は彼の隣で寝ますか?」

 

「お、お母様っ!」

 

からかうように言うお母様に私は顔を紅くする。

 

「なにぃ! 海未と小僧が同衾だと!? そ、そんなのは絶対許さん! 許さんぞぉ!! おのれ小僧、(たばか)ったな!!」

 

どこで聞いていたのか、バタバタとお父様が模擬刀を取ってやってくる。

 

「お、お父様!?」

 

「今すぐ小僧の首を取ってやる! そこに直れ小僧!!」

 

「落ち着いてくださいお父様! 謀るも何も遊弥は眠っているんですよ!?」

 

「止めてくれるな海未! 俺はこの小僧を――」

 

「海人さん? 遊弥さんになにをなさるつもりですか?」

 

お母様の一言に、お父様がピタリと止まる。

 

「な、那美……」

 

笑顔のお母様とは対象に、顔を真っ青にするお父様。

 

「――少しお話しましょうか」

 

そしてお母様に引きづられるようにお父様は襖の奥へ消えていった。

私はちらりと遊弥を見る。

こんなに騒いでいたのに、起きる気配がまるでない。

私は深く息を吐いて携帯を取り出し、穂乃果とことりに連絡を入れる。

 

 

 

 

 

海未

穂乃果、ことり。起きていますか?

 

 

幸いなことにすぐに二人の既読がついた。

 

 

ことり

どうしたの、海未ちゃん?

 

 

穂乃果

こんな時間まで起きているなんて、一体どうしたの?

 

 

海未

緊急事態です。遊弥が倒れました。

 

 

穂乃果・ことり

えっ!?

 

 

海未

いま私の家で眠っています。ですが一向に目覚める気配がありません。

 

 

穂乃果

それって――

 

 

ことり

あのときと同じ……?

 

 

海未

その可能性が高いです。明日お父様とお母様が遊弥を病院に連れて行きます。

ことり、お母様に頼んで鞍馬さんに連絡を入れてもらえますか?

 

 

ことり

うん、わかった。今すぐお母さんに連絡する!

 

 

穂乃果

ゆうくんのことお願いね、海未ちゃん

 

 

海未

はい、詳しいことはまた明日説明します

 

 

「はぁ…あなたは、いつも私たちに心配をかけますね」

 

話しかけても返事が返ってくることは当然ない。

こんなに近くにいるのに声が聞けないというのは寂しく感じる。

 

「あなたがいないと私たちは、μ'sとはいえないんですよ。だから――早く起きてくださいね」

 

私は眠り続ける遊弥の手を握るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さん、少し飲みすぎじゃないの?」

 

鞍馬家――バイトから帰ってきた晩御飯を食べている咲夜は父親を窘める。しかし、この家の主は、そんなのどこ吹く風だった。

 

「いいじゃろ咲夜、遊弥の禁酒令でずっと飲めなかったんじゃ。解禁された今日ぐらい多めに飲ませておくれ」

 

そう言ってお猪口の中を煽るのは教育界の重鎮である鞍馬巌。だが、そんな重役も家では公務の教育者ではなく一人の父親である。

 

「外で買うこともできたのに、なんだかんだ言って律儀に守ってたよね」

 

「そりゃあ破ったら――咲夜、お主遊弥に言うじゃろ?」

 

「もちろん♪」

 

誰もが惚れそうな笑みで頷く咲夜に巌は本当に買わなくてよかったと心から思う。

 

「兄様。兄様……会いたいよぉ、兄様ぁ」

 

晩酌する二人の隣で溶けるように伏しているのは、鞍馬家の末っ子愛華だ。兄の遊弥がいなくなってから数ヶ月あまり、ずっとこの様子である。

 

「愛華も、いつまでその調子でいるのさ。もう随分と時間経っているのに」

 

「だって、兄様成分がまったく足りないだもん。足りないどころか枯渇寸前だよ!」

 

兄様成分ってなに、と咲夜はいいかけるも地雷臭がするのでスルーする。

 

「はあ…兄様。カムバックトゥミー!!」

 

「うるさいよ」

 

立ち上がって叫ぶ愛華に注意するもまったく聞いてない。

 

 

――prrrrrr、prrrrrr

 

 

ため息を吐く咲夜の耳に一つの電子音が聞こえる。発生源は、父親の携帯。

 

「お父さん、携帯鳴ってるよ。相手は――雛さんからだ」

 

巌は咲夜から携帯を受け取り、通話ボタンを押す。

 

「もしもし、雛か。どうしたんじゃこんな時間に」

 

『巌さん、大変です!』

 

開口一番、雛の慌てた声が耳に入る。

 

「少し落ち着きなさい。慌てていたら整理もつかんじゃろうて」

 

雛を宥めるも、彼女の慌てようからあまり良くないことが起きたのは間違いないだろう。

受け答えする巌の顔は先ほどまで酒に酔っていた老人のようなものではなく、引き締まった教育者そのものだった。

 

「それで、何があったんじゃ?」

 

雛も巌のおかげで少しの落ち着きを取り戻したのか、息を整えて、静かに告げた。

 

『遊弥くんが、倒れました』

 

「なんじゃと、遊弥が倒れた?」

 

「えっ……!?」

 

「兄様が、倒れた……?」

 

弟、また兄が倒れたという言葉に咲夜は驚愕して立ち上がり、愛華は呆然としている。

だが巌は冷静さを欠くことなく、事情を聞く。

 

「それで、遊弥の状況はどうなっているんじゃ?」

 

『はい、いま那美の家――園田家に運ばれて眠っています。ですが目を覚ます様子はない、と……』

 

「目を覚まさない、か……」

 

遊弥の様態を聞いた巌は一つ心当たりがあった。

 

「――もしかしたらあのときと同じかもしれん」

 

『あのとき……一昨年の夏ですか?』

 

どうやら雛も思い出したようだ。

 

「雛よ。ワシはいますぐには遊弥の元に行けん。遊弥のことお願いしてもよいか?」

 

『もちろんです。とりあえず明日、那美と海人さんが西木野総合病院に連れて行くそうです』

 

「あいわかった。面倒をかけるがよろしく頼む」

 

そうして巌は通話を切る。

 

「お父さん、遊くんが倒れたってどういうこと!?」

 

切った瞬間、咲夜が問い詰める。だが、巌は落ち着いていた。

 

「とりあえず今の時点では大事じゃないようじゃ」

 

そう結論付ける父親に、咲夜は異を唱える。

 

「倒れて目を覚まさないって、大事じゃないわけ――」

 

「落ち着きなさい、咲夜。遊弥が倒れた原因は記憶が蘇ってきたからじゃ」

 

「記憶……あっ…」

 

説明を聞いた咲夜は落ち着きを取り戻す。

 

「恐らく何か思い出すようなことがあったのじゃろう。それが何かはわからんがひとまず命に関わることはないということだと、ワシは思ってる」

 

「そう、だね…そっか。とりあえずはよかったよ」

 

安心する咲夜。だが、もう一人はそうはいかなかった。

 

「だから愛華も安心せい」

 

巌がそう語りかけるも、愛華は反応しない。

 

「愛華?」

 

咲夜が肩に手をかけたとき、彼女の異変に気づく。

 

「お兄ちゃん…お兄ちゃんが倒れた……いや、いやぁ……!」

 

頭を抱え、青ざめた顔でガタガタと震える愛華。

 

「愛華!」

 

「愛華、落ち着くんじゃ!」

 

「お兄ちゃん、わたしをひとりにしないで…お兄ちゃん、お兄ちゃん……!!」

 

頭を掻き毟る愛華の腕を拘束する。

 

「お兄ちゃん…お兄ちゃんどこ……どこにいるの…?」

 

虚ろな目で問いかける愛華。

 

「お兄ちゃん、ここにいないの。どうして? お兄ちゃんはどこに行ったの?」

 

「大丈夫よ、お兄ちゃんはすぐに帰ってくるわ。だからお姉ちゃんと一緒に待ちましょう?」

 

咲夜は安心させるように撫でる。

 

「いま会いたいの。お兄ちゃん、おにいちゃあん…っふぇ、ふぐ……」

 

「ほら、泣かないの。いい子にするようにお兄ちゃんに言われてたでしょう? ちゃんと待てない子の元にお兄ちゃんは帰ってこないわよ?」

 

咄嗟に出るでまかせ。しかし遊弥がいない以上、こう言うしかない。

本当なら遊弥の声を聞かせるのが一番確実なのだが、いまはそれも叶わない。これは一種の賭けだった。

 

「いい子にしたら、お兄ちゃん来てくれる?」

 

「もちろん。だから今日はもう寝ましょう? お姉ちゃんが一緒に寝てあげる」

 

「……うん」

 

どうやら賭けには勝ったようだ。静かに頷く愛華に咲夜も巌も安堵する。

 

「それじゃあお父さん。私たちは部屋に行くからね」

 

「ああ。咲夜、愛華。お休み」

 

「おやすみ、お父さん」

 

「……おやすみなさい」

 

咲夜と愛華は手をつなぎながら居間から部屋に行く。一人になった巌は残った酒を煽り、その熱さに息を吐く。

 

「兄妹揃って手の掛かるやつらじゃ…」

 

愚痴のようにこぼれた言葉だが、巌は決して面倒だとは感じてない。そうじゃなければあのとき引き取るなんて口にはしなかっただろう。

 

「さて、これから忙しくなるの…今日の酒はこれぐらいにしておくか――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 






いかがでしたでしょうか?
ではまた次回更新に

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