どうも、燕尾です。
第四十九話目ですね。
――Honoka Side――
練習せずに勉強だけをし続けて一週間。期末試験が始まり、すべての結果が返ってきた。
私はすべてのテストの結果を見て息を吐く。
そして結果を報告しにアイドル研究部へと赴いた。
部室にはすでに皆が来ていた。どうやら私が最後だったようだ。皆の視線が私に集中する。
「どうだった?」
真姫ちゃんが腕組をしながら問いかけてくる。
「今日で全教科が返ってきましたよね?」
「穂乃果ちゃん…!」
私は頷く。だけど、結果を知りたいのは私も同じだ。凛ちゃんとにこ先輩はどうだったんだろう?
「凛はセーフだったよ!」
「あんた、私たちの努力を水の泡にするんじゃないでしょうね!?」
どうやら、二人とも赤点は回避できたみたい。私はそのことに安堵するが当然皆は私の結果が気になって仕方がないようだ。
どうなの、と前のめりになっている皆に私は苦手科目の数学の解答用紙を取り出す。
「うん……もうちょっといい点だとよかったんだけど――」
赤点は30点以下からなんだけど結果は――53点。私は笑顔でピースした。
皆も私の結果を見て表情が晴れる。努力が実を結んだ瞬間だった。
「これで、ゆうくんもきっと喜んでくれるよね」
「ええ、そうですね」
いまだに目を覚まさないゆうくんは、入院という形で学校を欠席している。
私たちは真姫ちゃんのお父さんやゆうくんの見舞いに来ていた鞍馬さんと話しをして二人の言葉を信じてゆうくんのことを任せた。
ゆうくんのことが心配じゃないわけではないけれど、以前にこ先輩が言っていたとおり、私たちが立ち止まることをゆうくんは望まないだろう。だから、私たちは自分たちのやるべきことを全力でやろうと話し合って決めた。
「これでラブライブエントリーの条件は満たしたね! 早速練習しよう!!」
「穂乃果ちゃん! その前にお母さんに報告しに行かなくちゃ!」
そうだった、これから出場目指してエントリーすることを理事長に話しにいかないといけない。
練習の準備は一年生とにこ先輩に任せて、私とことりちゃん、海未ちゃんで理事長室まで急いだ。
「……あれ? どうしたんだろう?」
理事長室の扉をノックするも取り込み中なのか、反応がない。
私は少しためらいつつも気付かれないように静かに扉を開けて、中の様子を確認した。すると中から大きな声が聞こえた。
「そんな!? どういうことですか、ちゃんと説明してください!!」
剣幕な様子で理事長に迫っているのは生徒会長だった。
「ちゃんと説明するもなにも、いま言ったことがすべてです」
対する理事長は淡々といいながらもどこか申し訳なさそうにしていた。
「ごめんなさい。でも、これは決定事項なの」
嫌な予感がする。そして私のそういう予感は大抵外れたことがない。
理事長は決定的な一言を言った。
「音乃木坂学院は来年より生徒募集を止め――廃校とします」
――Eri Side――
私はまた、遊弥くんの病室へと来ていた。
鞍馬さんと話をしてから一週間――毎日欠かさず見舞いに来ているが遊弥くんが目を覚ますことはなく、ただ時間だけが過ぎていっている。
「いつになったら目を覚ましてくれるのよ…ばか……」
遊弥くんが悪いわけではないのに目の前の少年にかける言葉は八つ当たりにも等しいものだった。
「この前理事長から言われたわ。音乃木坂が廃校になるって」
こんなに早く決定するとは思っていなかった。
「あなたがわざわざ京都からきてくれたって言うのにね……でも、まだ望みはある」
そう、理事長の話によると廃校が本当に決まるのは二週間後のオープンキャンパスで見学してくれた中学生たちのアンケートが悪い場合だ。だから、まだ挽回のチャンスは残っている。
だけど――
――くだらないな
――そんなくだらないようなことを言う絵里先輩が廃校をどうにかするなんて到底無理だ
――理事長が認めないのもよく分かる絵里先輩がなにをしたって学院の評判が上がらないことは分かりきっているからだ
あの時の遊弥くんの言葉がちらつく。
「くだらなくなんてない…重要なことじゃない。私一人程度納得させられないような人たちが、人を魅了させるなんて出来ない」
――自分の実力に固執して、人の努力に目を向けない
「結果がすべてじゃない。いくら努力しても、頑張っても、結果がなければ意味がないじゃない」
――たかが知れている思いなんて知る必要もない
「私のこと全部忘れているのに、なにが分かるっていうのよ」
遊弥くんに言われた言葉が頭から離れない。いくら強がっても、否定しようとも、まるで耳元で囁かれているようにずっと脳内に響いてくる。
私は振り払うように頭を横に振る。違う、違うと呟きながら。
――絵里ちゃんの望みは一体なんじゃ?
すると今度は病院帰りに鞍馬さんに聞かれた問いが頭をよぎる。あの時の答えもいまだ出せないでいた。
「私は――」
いや、本当は気付いている。だけど、それを口にすることは絶対に許されない。許してはいけない。一度口にしてしまえば、今までの決意や自分を信じてしてきたことがいとも容易く崩れ去ってしまう。
――絵里ちゃんはまだ高校生じゃ。責任や小難しい問題なぞ放って好きなことをしてくれるのがワシらの願いじゃよ
「――っ、だめっ……!」
一度優しい言葉を自分の中で受け入れてしまえば、もうそこからはズルズルと甘えてしまう。
確かに私はまだ高校生だ。しかし私は一生徒じゃない、学院の全生徒を代表する生徒会長。だからこそ律さなければいけない。甘えるわけにはいかない。
「帰ったらまたいろいろと考えないと……」
私はぐちゃぐちゃになった思考を押入れに無理やりしまうように切り替える。
理事長に廃校するという話を聞いてから生徒会での活動を強引に認めさせた。
私たちのオープンキャンパス方針は生徒会で学院の伝統や魅力を洗い出して、それをPRすることになったのだが、状況は芳しくなかった。
役員の子たちはどこか納得していなくて、読み聞かせた妹の亜里沙やその友達たちも、どこか退屈そうにしていた。
「もう時間はない…頑張らなくちゃ……」
私は最後に彼の頭を撫でる。まるで誓いを立てるように。
「それじゃあ遊弥くん。また――」
荷物をまとめて立ち上がり、別れの挨拶をして病室から出る。
看護婦さんたちに挨拶して病院から外へと出ると私を待ち構えた人たちがいた。
「――やっぱりここにいたんですね、生徒会長」
「……あなたたち」
立ち塞がるようにいるのはスクールアイドルをしている二年生の高坂さん、園田さん、そして南さんだ。
「一体なんの用かしら」
「生徒会長、あなたにお願いがあって探していました」
「お願い?」
聞き返す私に高坂さんは頷き、一歩前に出る。
そして高坂さんは私が思いもしていなかったことを口にした。
「私たちに――ダンスを教えてください!!」
――Honoka Side――
生徒会長にダンスを頼みに行く前――
オープンキャンパスのアンケート次第で廃校が決定するといわれてから、私たちはよりいっそう練習に集中するようになった。
いままでがふざけていたとか、緩くやっていたとか、そういうことじゃないけれど、時間も後の機会もないと分かれば自然と皆の力の入り具合も良い意味で変わっていた。
だけど――
「――駄目です。まだタイミングがずれたり、立ち位置が甘いです。これでは、全然……」
通し練習を何度も何度もやっても満足がいかない海未ちゃん。そして私はそう言う海未ちゃんの様子がおかしいことに気がつく。
確かにタイミングのズレの直しや細かい調整が必要だというのは大切だけど、海未ちゃんのそれは誰から見ても過剰に反応しているように思った。
その様子に我慢の限界がきたのか、声を上げたのは真姫ちゃんだった。
「一体、何が気に入らないのよ。はっきり言って!」
「……感動できないんです、今のままでは」
真姫ちゃんに対して海未ちゃんは少し影を落としながらもそう言った。
「海未ちゃん…」
それから私とことりちゃんは、少し早かったが練習を切り上げて、海未ちゃんに事情を尋ねることにした。
海未ちゃんは戸惑いながらもポツリポツリと話してくれた。
生徒会長がバレエ経験者で、かなりの実力者だったこと。希先輩からその動画を見せてもらったとき、自分たちがいかに甘かったかを実感したことを。
「生徒会長さんが……」
「そうだったんだ…」
私やことりちゃんは動画を見たわけじゃないけれど、海未ちゃんが言うならそうなのだろうと思った。
「生徒会長の姿を見たとき、私も思ってしまったんです。確かにお遊びだといわれても仕方ない、と」
「感動…感動かぁ……」
多くの人に見てもらいたい、という気持ちはある。そして見てくれたその人たちを楽しませれられたら良いなと思って日々の練習もしている。だけど見ていない、道行く人一人欠かさず全員が私たちのことを認めてもらおうとか、そんなことは思っていなかった。それはその人の好みや興味の問題もあるからだ。
「人を魅せられるようなダンスや歌……」
でも、スクールアイドルに興味がなかった人を惹き付けさせることが出来るようになれば、もっと楽しくなるだろうし、それはとってもいいことだ。
海未ちゃんが言っているのはそういうことなんだろう。
「海未ちゃんはどうしたらいいと思う?」
「私は、生徒会長に教わるのが一番良いと思います」
「ええっ!? 生徒会長に!?」
ことりちゃんは驚いていたけど、海未ちゃんの話を聞いて私もそう思った。
「だよねぇ。私もそう思うけど、ことりちゃんは?」
「わたしは…確かに、生徒会長さんに教わればもっと上手くなれると思うけど、でも……」
ことりちゃんの不安も分かる。今までの私たちへの生徒会長の態度や言動は決して良いものじゃなかったから。だけど、上手くなれるならそれはいいことだし。
「んー、とりあえず皆にも聞いてみよっか?」
私は通話アプリを起動して、皆に事情を話して意見を取る。
「「「「ええっ! 生徒会長にっ!?」」」」
最初の反応はことりちゃんと一緒だった。
「ええ。生徒会長のバレエを見て思ったんです。私たちはまだまだと」
「様子がおかしいと思っていたけど、あんたそんなこと考えていたのね」
納得するにこ先輩だけど、その口調はどこか厳しかった。
「でも生徒会長、私たちのこと……」
「嫌ってるよね、絶対!」
「つーか、嫉妬しているのよ嫉妬」
花陽ちゃん、凛ちゃん、にこ先輩が言うことは分からなくはない。生徒会長の言葉の節々にはそういう感情があったということも。
「私もそう思っていました。ですが、私たちを素人だといえるほどの実力があったことは確かです」
「そんなにすごいんだ…」
ことりちゃんが呟く。
どうしようか、という空気をばっさり切ったのは今まで黙っていた真姫ちゃんだった。
「私は反対、潰されかねないわ」
「そうね。三年生はにこがいれば十分だし」
「私も、ちょっと怖い…です……」
「凛も楽しいのがいいなぁ」
「そうですよね……」
真姫ちゃんに同調して不安や意見を言う他の人に、海未ちゃんは迷ったように頷く。
――こういうとき、ゆうくんが居たらなんて言ってくれるだろうか。
私は考える。彼だったら、なんて言うだろうか。迷っている私に、あの人はどんな言葉をかけてくれるだろうか、と。
想像する。いつも支えてくれているゆうくんの、言葉――
――穂乃果はどうしたい?
――ああそっか。そうだよね、ゆうくん。こういうときはゆうくんは何も言わないよね。
いつも私の望みを聞いてくれて、そしてその願いに沿うように頑張ってくれる。
私は改めて幼馴染の偉大さに気付きながら、口に出す。私がしたいことを。
「――私はいいと思うけどなぁ?」
『ええっ!?』
「なに言ってんのよあんた!?」
「だって、ダンスが上手い人が近くにいて、もっと上手くなりたいから教わりたいって話でしょ? だったら私はそうしたいな!」
「穂乃果ちゃん…」
「頼むだけ頼んでみようよ、それで駄目だったらまた考えれば良いし!」
「……どうなっても知らないわよ?」
こうして、私たちは生徒会長――絵里先輩に頼むことを決めた。
「穂乃果、ことり」
電話を切ったところで、海未ちゃんがもう一つ話があるといった。
「どうしたの、海未ちゃん?」
「話って、皆には言えないこと?」
「その判断も兼ねての話です。遊弥と生徒会長のことについてです――」
「そういうことね……まあ私と遊弥くんのことはいつかは気付かれると思っていたし、園田さんはあのときに知られてしまったもの。そう遠くないうちにこうなることは予想していたわ」
ただダンスを教えて欲しいと言われたのは予想していなかったけど、と会長は付け加える。
「生徒会長が私たちやA-RISE、スクールアイドル全般を素人だというのはよく分かります。それはあなたの踊る姿を見て私もそう思いました」
悔しそうだが、前を向いている海未ちゃん。
「だからこそわたしたちは生徒会長さんに教わりたいって、思います」
覚悟を決めてしっかりと心を持ったことりちゃん。
「私たち、もっと上手くなりたいんです。生徒会長がいうような人を惹きつけられるような、そんなダンスを踊りたいんです! ですから――お願いします! 私たちに、ダンスを教えてください!!」
お願いします、と私たち三人は頭を下げる。
「……」
無言の時間は一分ぐらいだっただろうか。
だけどその少しの静寂が一時間以上の長い時間に感じる。そして、
「――わかったわ」
「っ、本当ですか!」
私たちは揃って生徒会長を見上げる。
「あなたたちの活動は理解できないけれど、人気があるのは事実みたいだし」
厳しい表情だが、そういった生徒会長に私たちはほんの少しは認められたんじゃないだろうかと内心喜ぶ。
「ただし、やるからには私が認める水準までやってもらうわよ、いいわね!」
「「「はいっ!!」」」
私たちは顔を見合わせて、同時に頷く。
「これで良かったのかしら、遊弥くん……」
このとき生徒会長がゆうくんの病室を見上げて呟いたことに、私たちは気付かなかった。
いかがでしたでしょうか?
ではまた次回に。