どもっす。燕尾っす。お久しぶりっす。
第五話っす。どうぞっす。
ホームルーム終了後、俺は三人の幼馴染に囲まれていた。
三人ともサプライズが気に入らなかったのかどこか不満そうなオーラを発している。そんなオーラが皆を俺から遠ざけていた。
「遊くん?」
「ゆーくん?」
「遊弥?」
穂乃果、ことり、海未はそれぞれ名前を呼ぶ。俺はそんな三人に笑顔で返した。
「久しぶりだな、元気してたか?」
「「「久しぶりじゃなああああああい!!!」」」
悪びれる様子のない俺を見た三人は口をそろえて怒鳴る。
こらこら、みんながびっくりしているじゃないの。そんな大声出すものじゃありませんよ。
「いつこっちに来てたの!?」
穂乃果が身を乗り出して問いかけてくる。
「二週間前だな」
「何で連絡くれなかったのですか!?」
次に海未が詰め寄ってくる。
「
「確かに連絡してくれたけど、Luneじゃ『一週間程度遊びに行くわ』って、ゆーくんいってたよね……」
あはは、と苦笑いすることり。
「ああ、すべてはこの日のため。驚かせてやろうと思った俺の粋な計らいだ!」
「本当に驚きましたよ……まさか共学化のテスト生として遊弥が音乃木坂学院に入ってくるなんて思いもしませんでしたから」
サムズアップする俺に海未は嘆息する。
共学化の話を聞かずに廃校の話しか聞いてない三人がこの反応をするのは当然といえば当然だよな。
「まあ、その点に関しては俺も海未と同じだよ。話を聞けば大分前から雛さん、爺さんに相談してたらしい」
「そういえばお母さん、前から出張、出張って言って家を空けることが多かったような……それってもしかして?」
ご明察だよことりさん。それは雛さんがわざわざ京都まできて相談してたんだよ。
「ごめんねゆーくん。お母さん迷惑掛けなかった?」
「気にすんなことり。うちの爺さんも頼られて喜んでるから」
あの可愛がりようはもはや生徒を通り越して娘として扱っているといっていても過言ではないほどだ。
「でもでも、遊くんがこの学校に入ったってことはこれから一緒に学校生活を送れるってことだよね?」
「ああ、そうだな」
「やったー! 遊くんと一緒にすごせるなんて夢のようだよ!」
ピョンピョンと跳ねながら喜ぶ穂乃果。その姿がなんとも可愛らしかった。
「小学校だけだよね、ゆーくんと学校が一緒なのも。それにあの頃は放課後にしかお喋りできなかったから」
「そうですね。こうして気にせず一緒いられるのは私も嬉しいです」
穂乃果と同じようにことりと海未も顔を綻ばせる。俺もつい、ふっ、と笑みがこぼれる。
三人とは長期休みに何度か顔を合わせていたが、最近はご無沙汰だった。
こうして改めてみると段々と大人びていっているのがわかる。身体つきも丸みを帯びて確実に女性らしいものになっていた。
――三人とも綺麗になったもんだなぁ。
「「「―――ッッッ!?!?!?」」」
前までは可愛さ十割って感じだったけど、今は可愛さ七割、綺麗さ三割っていうか。二十歳ぐらいになるとみんな美人になってそうだ――
「――って、どうした? 三人そろって顔真っ赤にして」
三人は茹蛸のように顔を赤らめて湯気を出していた。
不思議に思っていると背中に衝撃が奔る。
「無自覚なのですか、あなたは!? は、破廉恥です!!」
唐突に海未からのツッコミが入ったのだ。い、痛い……
「綺麗、可愛い、美人……えへ、えへへへへへ……」
「はわ、はわわ~~ッ!」
穂乃果はにへら、とだらしない笑顔を浮かべ、ことりは頬に両手を当てて慌てている。
「ほんと、どうしたんだ?」
「いや、あそこまでナチュラルに褒められたらそりゃ誰だってああなるでしょ」
「いやはや、まったくもってその通り」
「うんうん、見事な口説き文句だったよね~」
疑問に思っている俺に後ろから三人の声が聞こえる。
「えーっと、君たちは?」
「おっと、名前も言わずに失礼。私はヒデコ、遊弥君、でいいのかな?」
「わたしはフミコ」
「私はミカよ」
ショートヘアのヒデコ、ポニーテールのフミコ、おさげで小柄なミカがそれぞれいう。
三人合わせてヒフミだな。覚えやすい。それにこの三人はどこか穂乃果たちに通じるものを感じる。
「呼び方は呼びやすいようにしていいよ。もしかして三人は幼馴染か?」
「よくわかったね」
ヒデコが意外そうな顔をする。
ヒデコ、フミコ、ミカ――ヒフミたちは幼稚園からの付き合いらしい。
後から教えられることになるが、その仲良しさは穂乃果たちに負けず劣らず結構有名なのだという。
「遊くんはそういうの気づきやすいもんね。昔からそうだったよ」
「ええ、遊弥は物事に聡いですから」
「でも、理解が早すぎて大変だったときもあったよね」
「えっ、そんな大変なことあったか?」
「うん」「ええ」「まあ……」
問いかけると口をそろえて目を逸らす我が幼馴染たち。なにを思い出しているのかそれぞれ少し頬を紅く染めている。
特に思い当たることがない俺は首を捻るばかりだ。
「解せぬ……俺がなにをしたってんだ」
「まあ、ゆーくんはそのままでいいんじゃないかな」
不満げな視線を送る俺にことりが宥めてくる。
「こりゃあ、あれだね。先が大変だね、穂乃果ちゃんたち」
苦笑いして言うヒデコにフミコとミカも同意する。
この場に俺の味方は誰一人としていなかった。
「あー、やっと午前中の授業が終わったね~」
「お腹減っちゃった、早く食べよ食べよ」
昼休み、周りが机をくっつけいている中、俺は弁当を持って颯爽と教室の外へと出る。
周りの視線が自然と集まってくるのだ。いずれ慣れるかもしれないが、これではおちおち昼飯も食べられない。
前の学園ではくだらない視線だと思っていた。しかし、ここでの視線は種類が違ったのだ。
「どこかいい場所あるかね~」
どこか落ち着ける場所を探す。すると、
「ゆーうーくーん」
がらり、と勢いよく教室の扉が開けられ、俺を呼ぶ声が聞こえる。
「いーっしょにたーべよー」
惣菜、菓子パンを持って元気よく迫ってきたのは穂乃果。その後ろには弁当を持った海未とことりもいた。
まさか、俺のステルス機能が破られるとは。穂乃果たちよ、貴様らは一体何者だ。
「ん? ああ、いいぞ。ただ教室は勘弁な。あの視線はまだ慣れない」
そんな冗談はさておき、俺は要望を言った。
「それじゃあ、中庭に行こう! 私たちも一緒だから少しは大丈夫!」
なにが大丈夫なのかはわからないが、穂乃果に言われるがまま中庭へと向かう。
「へえ、結構広いな。それになかなか落ち着ける」
「こっちだよ!」
周りを見渡している俺の手を穂乃果が引いて案内する。
無意識でしているのは分かるがその柔らかい手に俺は少し緊張する。
「……」
「む~」
「――っ!?」
すると突然、後ろからもの凄い殺気を感じた。
発生源はおそらく海未とことり。振り返ったら殺られる、そう感じずにはいられなかった。
緊張の重ね塗りのような状況に精神が削られていく。
「ここだよ、風もよく通って気持ちがいいんだ!」
「そ、そうか」
なんの気なしに喋る穂乃果。そんな彼女に俺は
未だ海未とことりから不穏なオーラは消えていない。それどころか時間が経つに連れて増えているほどだ。
「穂乃果」
ドスの聞いた声で海未が声をかける。
「いつまで手をつないでいるのですか……?」
「えっ? あ……」
ようやく状況に気づく穂乃果。
「遊くんは、嫌だった?」
手を握ったまま、ほんのりと顔を紅くして上目遣いで穂乃果は俺を見つめてくる。
なにこの可愛い生き物。保護して一晩中可愛がりたいんだけど。
「いや、嫌ではないけど」
そんな不安げな顔されると嫌だったなんて答えられるわけがない。いや、拒絶することは絶対無いんだけどね。
そう答える俺に穂乃果は、パアァ、と表情を明るくさせる。
「遊弥、破廉恥です」
「ゆーくん、ことりのおやつにしちゃおうかなぁ~?」
それとは対称的に海未とことりの声のトーンが下がる。
怖い、怖いですよ二人とも。どうしたの? ドウシタノ!?
「ほ、ほら! 早く食べよう。昼休みだって長いわけじゃないんだし」
「あっ――」
パッと穂乃果の手を解いてベンチに座り、招く。
少し、残念そうに自分の手を見つめ、俺の隣に座る穂乃果。それに続いて海未とことりも腰を落ち着ける。
「「「「いただきます」」」」
揃って手を合わせそれぞれの昼食に箸をつける。
今日の弁当はソーセージ、卵焼き、アスパラのベーコンまき、きんぴらごぼう。そして白米。
いつもより遅い朝だったこともあり、あまり量は入っていない
「それにしても、廃校かー」
箸を何度か弁当と口を往復させた後、ポロッと穂乃果が洩らす。
「寂しくなりますね、学校がなくなるのは」
「もう今の一年生には後輩が出来ないってことだよね」
穂乃果の言葉に触発されたのか、海未やことりが沈んだ声で呟く。
「まあ、共学化も俺のレポートとアンケート次第だしな。このままだと共学化する前に廃校は確実だな」
「どうして、そういえるのですか?」
海未が問いかけてくる。俺がそう言ったのもわけがある。
単純な話、地元民の反応がよろしくなかったのだ。女子高に男子を入れるのに難色を示していた。だが、
「雛さんが言うには、強く反対していたのは親のほうだったんだよ」
「親? どういうこと、ゆーくん」
ことりも首を傾げ始める。
「そのまんまだよ、ことり。受験生たちは共学化にさほど抵抗は無かった。だけど、思い入れのあるOBや娘を持つ父親が強く反発したんだ」
「でも、実際学校で生活するのは生徒たちですよね?」
海未の言っていることは正しい。だけどそういう問題じゃないんだよ。
「海未、その生徒を通わせるのは誰だ?」
「あ……」
そのひとことで海未は理解したようだ。
「そ。俺たちが高校に通えるのは大体親がお金を出してくれるからだ。出す以上は自分たちが安心して任せられる場所に通わせたい、そう考えるだろ。個人的には親が子供の進路に口を出すのはどうかと思うけど」
海未が言ったとおり、通うのはあくまで子供なのだ。
心配だからというだけで選択肢を潰すのはよくないと思う。
「まあ良くも悪くも、決めるのは大人たちだからね。それにこの学院は国立だけど私立のような運営の仕方をしているから、雛さんも無視できない、ってことだ」
「それじゃあ、何も解決しないじゃん!」
「だから言ったろ。このままだと廃校は確実だって」
改めて俺が言うと、三人はため息をつく。
俺自身、どこかやるせない気持ちになるがこればっかりはどうしようもない。
気まずい雰囲気が流れる。ちょっと無責任なことを言ってしまったか、と少しばかり後悔が押し寄せてくる。
「ちょっといいかしら」
すると、しばらく続いた沈黙が破られた。声がしたのは後ろからだ。
振り向くとそこには絵里先輩とおっとりとした雰囲気の女性がいた
「絵里先輩、こんにちは」
「遊弥君、こんにちは。それと……あなたが南ことりさん?」
「は、はい……」
いきなり話を振られたことりは戸惑いながらも返事をする。そのとき、俺は小さな違和感を感じた。
「あなた、理事長の娘さんだったわよね?」
「そうですけど……」
「絵里先輩……?」
様子がおかしい。絵里先輩に余裕が見られない。もしかして――
「あなたは知らなかったの? 廃校について何か聞いたことはなかった?」
「はい、私も学校ではじめて知りました」
最初こそ緊張していたことりだが、しっかりとした口調で答える。
それを聞いた絵里先輩は、そう、とだけ呟く。
「聞きたいことはそれだけよ、ごめんなさいね」
そして回れ右をしてそのまま去ろうとする。
「あの! 本当に学校なくなるんですか!?」
絵里先輩の背中に投げかける穂乃果。先輩は立ち止まるも振り向くことなく、
「あなたたちには関係ないことよ」
冷ややかに一言言って今度こそ歩き去っていく。その際、絵里先輩の付き人と思われる人が人差し指を口に当て、俺にウインクした。
何も言うな、ってか……随分と勘のいい人みたいだ。
恐らく絵里先輩とは長い付き合いなのだろう。雰囲気的にもフォローとかが上手そうだ。
それを含めても絵里先輩、大丈夫なのだろうか? 無理しそうな気がするぞ。
「先輩は真面目すぎるな。まさかあそこまでとは」
「「「………」」」
はあ、とため息をつく俺にまたもや視線が集まる。
「ど、どうしたんだ、三人とも。」
「遊くん……いつの間に生徒会長と名前で呼ぶ仲になったのかな?」
穂乃果の無表情で低い声が俺を捕らえる。聞いたことも見たこともない彼女に震えが止まらない。
そして海未とことりがさっきとは打って変わって満面の笑みを浮べていた。
「これは一回――」
「聞いてみないといけないかなぁ……」
「おい、なにをするつもりだ。やめろ、やめて、やめてくださいお願いします」
迫ってくる三人に必死に懇願する。だが、抵抗も虚しく、
「さあ、覚悟してね。遊くん」
「遊弥。洗いざらい話してもらいますよ」
「ゆーくん、おやつの時間だよ♪」
校庭に悲痛な叫びが響くのだった。
いかがだったすか?
ただいまアドバイスを含め意見、感想を募集中っす。
今後ともよろしくっす。