どうも、燕尾です。
50話まできました!
「――くん――遊弥くん!」
「うわっ!?」
大きな声で呼ばれた俺は意識が覚醒する。
「遊弥くんったら、まだ生徒会のやることが残っているのに寝ちゃうなんて。疲れてるのかしら?」
少し呆れつつも優しい笑顔を浮かべいるのは一人の女子生徒。その子を見た俺は戸惑いを隠せなかった。
「絵里、先輩ですか…?」
「何を言っているの遊弥くん。そうに決まってるでしょう?」
「いや、そういわれても……俺の知ってる絵里先輩と少し違う――」
目の前にいる先輩は少し幼く見えた。それに着ている制服も音乃木坂学院のものとは違っている。
「絵里先輩――」
すると、絵里先輩は人差し指で俺の口を押さえる。
「もう、先輩じゃないでしょ。というか、どうしていまさら先輩呼びに戻すのかしら?」
しかも敬語だし、と絵里先輩が頬を膨らませる。
「え、だって――」
言い訳しようとしたところで俺は言葉を切る。
「いやごめん――絵里、なんか変な夢見てた」
「夢?」
「ああ――絵里と一緒の高校に通う夢」
「なにそれ、私の進学先は音乃木坂学院――女子校よ? そんなことあるわけないじゃない」
絵里は笑って否定する。
絵里は推薦で音乃木坂学院の進学が決まっている。彼女の言う通り音乃木坂学院は女子校だ。万が一、億が一でも俺が絵里と一緒に高校生活を送ることなんてありえない。なのに、
「だよねえ。でも妙にリアルだったというか、現実味を帯びてたというか……」
「遊弥くんの願望だったりして。女装趣味でもあるの?」
「そんなのあるわけないだろ!? ――でも、絵里と一緒の学校に通うのは楽しそうかも」
「――っ、もうっ! いきなりそんなこと言わないでよ!!」
「いや、だってこうして一緒にいるのが当たり前になってるから、いまさら別々の高校に通うなんてあまり考えられないんだよなぁ」
絵里と知り合ったのは中学入学した直後。それからというもの俺のそばには大体絵里がいた。
「そうね。私もお婆様の母校が音乃木坂学院じゃなかったら女子校じゃなかったでしょうし」
絵里は自分の祖母を尊敬していて、彼女と同じ道を辿ろうとしていた。そして絵里の祖母が通っていた高校が女子校の音乃木坂学院だった。
「遊弥くんと一緒の高校だったらどうなっていたのかしらね?」
「あまり変わってないと思うな。入学直後に絵里が強引に俺を生徒会に引き入れて、こうして喋りながら仕事して」
きっと今と代わり映えのない高校生活のはずだろう。穂乃果やことり、海未たちとスクールアイドル活動することなく、花陽に凛、真姫やにこ先輩と出会うこともなく――
「――っ!?」
今のはなんだ? まだ俺は寝ぼけているのだろうか?
「どうしたの遊弥くん?」
「いや、変な光景が浮かんだというか。幻覚が見えたというか……なにかがおかしいんだ」
「疲れているだけじゃないかしら?」
そうかもしれない。ここ最近は穂乃果や凛、にこ先輩だけじゃなくほかの人たちの勉強を見ていたのもあったから。
「――っ、また……」
「何も考えなくていいのよ遊弥くん。疲れたなら、私が癒してあげるから」
頭を抑えて目を瞑る俺を絵里は抱き寄せる。
よしよしと頭を撫で髪を
「絵里……?」
「何かしら?」
穏やかな笑みで聞き返してくる絵里。だが、その微笑みに対して俺の背筋に悪寒が奔る。
「絵里、なんだよな?」
「なんでまたそんなこというのよ。私、おかしいところでもある?」
何かが違う。それがなんなのかが皆目見当もつけられないが、それだけは感じられた。
「悪い絵里、どうやら疲れてるみたいだ。だから帰って休むことに――」
「――だめよ」
絵里から離れて生徒会室から出ようとした俺の手を絵里が掴む。その力は俺の知っている絵里の強さではなかった。
「ここから出るのは許さないわ、遊弥くん。貴方はここで私と過ごしていればいいの。これから、ずっと――」
「どういうことだ?」
「何も考えないで、ただここにいればいいのよ。ほら、私がずっと傍にいてあげるから、ね?」
誰もが見惚れる笑顔を向けてくる絵里。だが、それに対して俺の警戒心は上がるばかりだ。
「むぐっ!?」
そんな様子を察したのか絵里は引き寄せて俺をもう一度胸に抱きしめてくる。
絵里の身体の柔らかい感触や彼女から漂う甘い匂い。そんな香りに俺の思考がだんだんと鈍くなっていく。
「なんだ、これ…力が、抜ける……」
「このまま私に身を委ねて、一緒にいましょう。そうすれば辛いことも全部忘れられるから――」
「――辛いことも、全部……?」
「ええ、そうよ。遊弥くんが背負った全部から、貴方は解放されるの」
甘い言葉に俺は目を閉じて、そしてそのまま絵里の背中に手を回した。
俺の頭を優しく撫でる絵里。それがとても心地よくて、気持ちよくて、身を委ねてしまう。そのときだった。
――遊弥くん
「っ!!」
頭の中に響く別の声に意識が覚醒し始める。
――遊弥くん
「この声……」
どこかからか呼ばれる声。その声に俺は聞き覚えがあった。
責任感が強くて、一生懸命で、だけど不器用で、素直になれない女の子の声。
「そっか。そういうことか」
俺は抱きしめる絵里の肩を掴んで引き離した。そこで初めて絵里の顔をが歪んだ。
「遊弥くんっ……」
「絵里。俺は行くよ」
「駄目っ!」
引き留めようと俺の腕を掴む絵里。だが、さっきまでの力の強さは無かった。俺は簡単に絵里の手を引き剥がす。
「!?」
「もう無駄だ。俺はもう惑わされない」
「どうしてっ、ここにいれば良いじゃない!! ここにいればずっと幸せでいられるのよ!?」
「そういうわけにはいかない」
確かにここは辛いことも忘れられるだろう。絵里もいるし、何も辛いことはない。だが、
「辛いことから、背負ったものから、目を背けるわけには行かない」
俺はまっすぐと目の前にいる絵里を見る。
「待ってくれている人がいるし、謝らないといけない人もいる」
また心配をかけてしまっているのだろう。どう謝ったものだろうか、今から考えても大変だ。
「だから、俺は行かないといけないんだ」
「……向こうにいけば辛いだけよ」
「辛いのは慣れてる」
「また、傷つくかもしれないのよ?」
「もう今さらだ」
俺は絵里を背にして扉に手をかける。
「それじゃあ、行ってくるよ」
扉を開けて光の向こう側に行こうとする俺に一人残った絵里はただ、
「――いってらっしゃい。気をつけてね」
その一言だけ、残したのだった。
「――ん、う…ん……ここは……」
気がついた俺は、寝かされていた。
見慣れない天井。周りは白い壁に囲まれて、窓から見える景色は自分の家の窓からよりも高い位置でまったく別の風景だった。
「――っ」
起き上がろうとしたが身体の自由があまり利かない。それでも、何とかベッドから動こうとしたとき、ドアが開けられる音がした。
「遊弥、失礼します」
「ゆうくん、目を覚ましているかな」
「お医者さんはそろそろだって言っていたけど…」
聞こえてくるのは馴染みのある声。そしてカーテンが開けられ、俺と彼女たちは顔を合わせた。
「「「あっ……」」」
「……よっ。おはよう、で良いのか? この場合」
「「「……」」」
しばらくの間固まっていた三人だったが、自体を把握するや否や――
「ゆうくん!!」
「ゆーくん!!」
「遊弥!!」
あの日と同じように、飛びついてきた。
「はぁ、私達の苦労も知らず、とんだ寝ぼすけね。あんたは」
「少しは休みなさいって言ったことあるけど、今度は休みすぎね」
「本当に心配したのにゃ! 反省するにゃ!!」
穂乃果たちを宥めて、記憶が戻ったことを伝えて、受けた検査が終わった俺は穂乃果たちから連絡を受けてやってきたにこ先輩、真姫、凛から叱責を受けていた。
「でも、本当に大丈夫そうでよかったです」
「ありがとう、花陽。君は天使だ」
唯一気遣いの言葉を投げかけてくれる花陽に俺はそんなことを口に出す。
「そ、そそそそんな天使だなんて!? 大げさすぎですよぅ!」
そんなことは無いよ。大天使ハナヨエルだよ。
顔を真っ赤にして指をつんつんする花陽。その姿がすごい可愛かった。
「まるでにこたちが悪魔みたいな言い方ね。反省していないのかしら?」
「ちょうど動けないみたいだし、心配かけたお仕置きでもしたほうがいいみたいね?」
「ふしゃ~!!」
ごめんなさい。調子に乗りました。
「心配かけたのは悪かったよ。だけどこればかりはどうしようもない、仕方の無いことだと思ってくれると助かる」
このまま記憶を失い続けることも出来ないし、どこかで引き金を引かれてぶっ倒れていたのは確実だ。それが今回だっただけの話しだ。
四人は理解は出来るも納得は出来ないような表情をしていた。
「まあ、俺のことは脇に置いといて。いま皆がどんな状況なのか聞きたいんだが」
ある程度は穂乃果たちから聞いている。次のオープンキャンパスで学院の進退が決まるとか。
そう問いかけると、四人は少し気まずそうな顔をした。それを見た俺はある可能性に気付いて顔を青ざめる。
「えっと、もしかして、俺がテスト受けていないせいでラブライブのエントリーが無しになったとか?」
「それは無いわ。そこは理事長も考えてくれたし、あんたがどこから音乃木坂学院に編入してきたか知っているからこそ誰も反対できなかったわ」
「それでも追試を受けないといけないし、そこで赤点を取ったらエントリーは即刻取り消しにされれるけど、あなたなら大丈夫でしょう?」
「それじゃあ、誰か赤点取ったのか?」
「凛たちは全員赤点回避したからそれも大丈夫にゃ」
ならどうして、そんなためらった空気になっているのだろうか?
いや、みんなの顔を見ると言っても良いのか、みたいなような感じだ。
だが、そんな空気を破ったのは花陽だった。
「えっと…私たちいま、生徒会長さんにダンスを教わっているんです」
「絵里に?」
「……絵里?」
皆から目を向けられる。
しまった、思わず呼び捨てで言ってしまった。
「前まで先輩呼びだったのに…あんたたちそんな関係だったの?」
睨むにこ先輩に俺は首を横に振った。
「にこ先輩が言うような関係じゃないです――俺と絵里は中学からの友達で、彼女の要望で呼び捨てにしてたんです」
俺も最初こそは渋ったのだが、"友達はファーストネームで呼ぶものよ!"と、絵里が頑なに言うものだから呼び捨てになったのだ。
「……あの生徒会長、絶対そんな意味でいったわけじゃないでしょ」
「私もそう思うわ」
「遊先輩は鈍感だからなぁ~」
「なんだか、生徒会長さんが少し不憫に思います」
小さい声でひそひそと話す四人に俺は首を傾げる。
そんなことより話を戻そう。絵里に教わっている件についてだ。
「どうしてそんな話になったんだ?」
「生徒会長さん、昔にバレエをしていたらしくて。それでその動画を見た海未先輩が提案したんです」
ああ、そういえばそうだ。絵里は幼い頃バレエをしていたな。なるほど、今までの話はそう言うことか。
どんどん点の情報が線になっていく。
「私たちは反対したんだけどね、嫌な予感しかしなかったし」
「でも穂乃果先輩が上手くなりたいから上手い人に教わるのは別に普通じゃないかって、頼むだけ頼んだら――って今に至ってるんだー」
「でもにこ先輩の嫌な予感は当たってるわよ。あの人、教える気があるのかないのか、私たちに柔軟しかやらせないもの。180度開脚してお腹をベッタリくっつけないと次に進まない気だったわ」
「ちなみに聞くけど、オープンキャンパスはいつ?」
「再来週の日曜日、あと一週間半ぐらいね」
「絵里の指導が始まったのは?」
「三日前からにゃ」
真姫の言う通りに絵里が考えているなら流石に無理があるだろ。
本当に柔軟しかさせないつもりなんだな、絵里の奴。
「まったく、絵里は相変わらず素直じゃない」
「どういうことよ?」
「前のにこ先輩と同じですよ。いまの絵里は」
そういわれてにこ先輩は苦い顔をして、一年生たちは妙に納得した顔をしていた。
嫉妬や羨望から来る拒絶。自分の気持ちを抑えて、我慢して、やり場の無い気持ちを皆に当てる絵里。
「絵里はなまじ実力があるからにこ先輩より面倒くさいんだよ」
「でも、遊弥先輩の言う通りなら私たちはどうしたらいいんでしょうか?」
「何もしなくて良いよ」
「「「「ええっ!?」」」」
驚きの声を上げる四人。
「何もしないというより、絵里の指導を素直にやり続ければ良いよ」
「でもそれじゃあ間に合わなくなるわよ!?」
真姫の心配ももっともだが、その心配は要らない。
「大丈夫。どうせ明日あたりに絵里のほうから耐え切れなくなるさ。そのあとは――穂乃果がどうにかするだろう」
人の心に入り込む才能が誰よりもある穂乃果。彼女に任せれば何とかなる。
「…なんだか、生徒会長や穂乃果先輩のことよく分かってますね」
「まあ、穂乃果は幼馴染だったからもちろん、絵里とは中学からの付き合いだったから」
とはいってもさっきまで絵里のことを忘れていたからなんともいえないのだが、変わってないからそれなりに分かる。
「「「「……」」」」
「ど、どうした。なんで皆して睨んでくる?」
「別に、なんでもないわよ」
「なんかずるいにゃ」
「ふんっ……」
「……羨ましいです」
口それぞれに言ってくる四人に俺は首を傾げるばかりだった。
いかがでしたでしょうか?
まだまだ頑張ります!