ラブライブ! ~one side memory~   作:燕尾

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どうも、燕尾です。
地震、停電…大変でしたね





自分のしたいこと

 

 

 

 

 

――Eri Side――

 

 

 

 

 

 

 

私はいま静かな廊下を静かに歩いている。

高坂さんたちに頼まれた次の日から私はμ'sの練習を見たのだが、彼女らの問題点はすぐに分かった。

それはダンスをやる上で重要である柔軟性だ。遊弥くんが考えたメニューのおかげで踊れる体力や芯はある程度出来ていたのだが、柔軟性は及第点には程遠かった。

恐らく、遊弥くんは体のことを考えて長いスパンで柔軟性を伸ばすつもりだったのだろう。しかし、教えて欲しいと頼まれて引き受けた以上、私は妥協させなかった。

 

「全員が開脚した後、お腹が地面につくように――」

 

私が許せるレベルまで全員が柔軟性を身につけることが出来ればダンスの練習に入る。そう彼女らに伝えた。

だが、それは絶対出来ないことだった。たった数日で達成させるには股関節の筋を切るぐらいのことをしなければいけないほどだ。私はそれをわかっていながら彼女たちに指示をした。オープンキャンパスまで柔軟をさせて、失敗させるつもりだった。

そしていずれ我慢の限界がきて私に文句を言いってくるのなら、そこで私は切り上げてやはりスクールアイドルはお遊びだとつきつけるつもりだった。しかし――

 

「ありがとうございます! また明日もよろしくお願いします!!」

 

「「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」」

 

一日経ち、二日経ち――三日経っても彼女たちは文句も言わず、音も上げず、ただ私が言ったとおり愚直に柔軟を続けていた。

四日目に入ったとき、尚も柔軟をする彼女たちに私は問いかけた。

 

「毎日同じことの繰り返しで、辛くないの? どうしてそこまで出来るの?」

 

私の質問にみんな戸惑っていたけれど、気持ちは一つだった。

 

「やりたいからです!」

 

皆の気持ちを代弁するように高坂さんが声を上げる。

 

「たしかに毎日辛いです。身体もあちこち痛いです。だけど、廃校の問題もどうにかしたいから、スクールアイドルもやりたいからやるんです! 私たちがそうしたいから、やりたいからやるんです! その気持ちは生徒会長にだって負けません!!」

 

その言葉を聞いて私は思い出す。鞍馬さんがいっていたことを。

 

 

――あれがしたい、こういうことをしたいという自分の意思、気持ち。そういう意思がない人間はいつだって虚ろなものじゃ。

 

 

――絵里ちゃん、君の望みはなんじゃ?

 

 

「――っ!」

 

鞍馬さんの言葉が、目の前の高坂さんの純粋で真摯な気持ちが、私を守っていた壁をいとも容易く壊していく。

 

「あっ、生徒会長!」

 

自分の中で音を立てて壊れていくものを感じた私はあの場にいるのが怖くなり、高坂さんの制止を振り切って、逃げた。

今まで我慢してきたことや、本当の気持ちが私の中で渦巻く。

違う、違うと何度言い聞かせてもそれは隠しようのない事実として私を襲う。

 

「私は――」

 

もう私は自分でどうすればいいのかわからない。でも諦めるわけにはいない。だけど私が何をしても、そのすべてが失敗する未来しか見えない。

 

「えりち」

 

そんな風に考え込んでいた私を引き上げるような声が後ろから聞こえた。

いままでどんなときも一緒にいてくれた高校でできたただ一人の親友。

 

「希……」

 

「うちな、ずっと思ってたんよ。えりちは、本当はなにがしたいんやろう、って」

 

「……」

 

「一緒にいるとわかるんよ。尤も、えりち自身はもう気付いている見たいやけど。だけど――せっかく気付けたのに、また蓋をするつもりなん?」

 

希の非難にも似た諭しに、私は我慢が出来ずに声をあげた。

 

「そうするしかないんだから仕方が無いじゃない!」

 

「えりち……」

 

「私だって、やりたいことだけをやれるならそうしたいわよ! でも私がそんなことするわけにもいかないでしょ!!」

 

「どうしてそう思うん、そんなんは生徒会長として義務感やろ! 生徒会長の前に、えりちだってこの学院の生徒や!!」

 

希の言っていることは正しい。だけどもう全部が遅い。私は、気付くのが遅すぎたのだ。

 

「もう後には引けないの! 私は私のやり方をするしかないのよ!!」

 

「えりち!!」

 

そうして、私は希からも逃げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えりち……」

 

私は走り去っていく親友の背をただ見ることしかできない。

私には意地っ張りな親友を正すことは出来なかった。

 

彼女を変えることが出来るのはあと一人だけ。

 

「ごめん、後は任せるしかないみたい――私の親友を助けてあげて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――??? Side――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院から抜け出した俺は音乃木坂学院へときていた。

探していた彼女は自分のクラス教室の自席に座りながら伏せている。

 

「私のやりたいこと……そんなのはもう分かっているの。でも今さら私がそんなこというのは卑怯でしょ…」

 

どうやらあと少しのようだ。本当に彼女はあの頃から変わっていなかった。

責任感が強くて意地っ張りで、だけどどこか抜けていてポンコツなときがあって――素直になれない女の子。

そんな彼女の手を引くのは自分だった。まあ彼女の知り合いが自分しかいなかったというのもあるけど。

だけど、それもこれで最後だ。彼女には心配してくれる親友が出来た。ともに立ち向かおうとする人たちが現れた――俺よりも、絵里の気持ちを汲むことができる人たちがいる。あと俺が出来るのは絵里を少しだけ素直にさせることだけだ。

 

 

「相変わらず変わってないんだな」

 

 

声をかけると、絵里はまるで幽霊を見たような表情をしていた。

 

「遊弥、くん……?」

 

「友達作りの相談は散々乗ってやったはずなんだが、数年経ってようやく出来たのは希先輩だけか?」

 

「――っ!! まさか……」

 

絵里も気付いたようだ。

 

「久しぶりだな――絵里」

 

俺はあえて久しぶりという言葉を選んだ。その意図は絵里にも伝わっていた。

 

「遊弥くん!!」

 

「うおっ!?」

松葉杖を突いているのにもかかわらず飛びついてきた絵里。俺はバランスを崩し、絵里を抱えたまま倒れる。

 

「遅い…遅いわよ……どれだけ私を待たせてたと思ってるの……!」

 

「悪い……」

 

だが、そんなこともお構いなしに涙を零しながら俺の胸を叩き、恨み言を言う絵里に俺は謝ることしかできなかった。言い訳も事情の説明も、今の絵里にすることじゃない。

 

「せっかくまた会えたと思ったのにあなたは全部忘れてて、あの子たちばかりに味方して、私のことはずっと放っていて、辛かった!」

 

「だけどもう全部思い出した」

 

「うん……」

 

「これからはちゃんと絵里の傍にいる」

 

「うん……」

 

「絵里が困っているなら助ける。だから教えてくれ――絵里の本当の気持ちを」

 

「わ、わたし…は……」

 

言葉に詰まりながらも絵里は口にする。自分の望みを。

 

「私は…スクールアイドルは全部素人で、ただの遊びだと、人を惹きつけることは出来ないって思ってた」

 

「ああ」

 

「遊びなんかで学院の名を背負って欲しくないって、ずっと思ってた。だけど……」

 

絵里は自嘲するような表情をする。

 

「私はどこかで嫉妬していたの。ただ直向に、自分たちのしたいことを自由にしている彼女たちに」

 

「ああ」

 

「それと同時にそんな彼女たちを私は羨ましいって思った。楽しそうにスクールアイドルをしている彼女たちを見て、私も一緒にやりたいって思い始めたの」

 

「だったらそう言えば良いじゃないか。私も仲間に入れて欲しいって」

 

「散々意地の悪いことした私が、そんなこといえると思う? 今さらそう言っても受け入れてもらうことなんて出来ないわ」

 

「まったく――本当に絵里は世話が焼けるな」

 

俺はため息を吐きながら絵里の頭を撫でて、立ち上がってのろのろと歩きいて、教室の戸を引き開ける。そこにはμ'sのメンバーと希先輩がいた。

 

「あなたたち、いつのまに!?」

 

困惑する絵里に対して、堂々としたように穂乃果が前に出る。そして穂乃果は絵里に手を差し伸べた。

 

「絵里先輩に提案があります」

 

穂乃果は生徒会長とは言わなかった。それは彼女たちの気持ちを表していた。

 

「一緒にスクールアイドルをしませんか?」

 

「……」

 

「私――いや、私たちは絵里先輩と一緒に歌ったり、踊ったりしたいです。ですから、μ'sに入ってください!」

 

「でも、私がアイドルなんておかしいでしょう?」

 

「そんなこと言ったらにこ先輩なんてどうなるんだ?」

 

「ちょっと遊弥! それどういう意味よ!?」

 

どういう意味も何も、そのままの意味だ。

 

「たしかに、にこ先輩でも出来ているんだから案外誰だっていけるものなのかも」

 

 

「真姫! さすがにそれは酷すぎるわよ!?」

 

にこ先輩弄りで空気が和む。だが、絵里だけは沈んだ顔のままだ。

 

「それでも、私は――」

 

「――絵里」

 

まだ足がすくんでいる彼女の名を呼んだ。

 

「遊弥くん……」

 

「俺がこれを絵里に聞くのは最後だ――絵里のしたいことは、一体なんだ?」

 

「……」

 

みんなを見渡す絵里。そこには嫌な顔なんて一つもなく、全員が笑顔を浮かべていた。

そしてついに、絵里は穂乃果の手を取った。

穂乃果は絵里を引っ張り上げ立ち上がらせる。そんな穂乃果を絵里は泣きそうになりながらもしっかりと笑みを浮かべていた。

絵里先輩の意思を確認した皆は歓喜する。

 

「これで八人目、だね!」

 

「そうだな、だが――」

 

この場に自分の意思を告げていない人があと一人いる。俺はその人に目を向けた。

 

「希先輩。先輩もいい加減、言うべきなんじゃないですか?」

 

「えっ? どういうことゆうくん?」

 

「μ'sっていうのは九人の女神たちの総称だ。穂乃果、この場には俺を除いて何人いる?」

 

「九人だけど……ってまさか!」

 

ああ、そのまさかだよ穂乃果。

全員の視線が希先輩へと向けられる。希先輩は苦笑いしながら頬を掻いた。

 

「あはは、やっぱり遊弥くんには気付かれてしまったんやな」

 

「まあ、今までの先輩の行動を考えたらそれしかないでしょう」

 

穂乃果たちの手助けと絵里の暴走をフォロー。必要以上にμ'sにかかわっていたのは希先輩だけ。それに、

 

「名前には名づけた本人の願望が混じるなんてことはよくあることだ」

 

「μ'sは九人になったとき未来が開ける――そういう意味をこめてμ'sにしたんや」

 

「それじゃあ、μ'sの名付け親って希先輩だったんですか!?」

 

「ま、そういうことになるな」

 

俺は一つ息を吐く。

 

「さて、散々人に素直じゃないって言うくらいだから、自分は素直なんですよね――希先輩?」

 

「もう、遊弥くんは意地悪や――」

 

こうして、最後の二人がμ'sに加わった。

 

あ、もちろん病院に戻ったら西木野先生や美姫さんを含めた病院関係者や爺さんなど、色々な人に怒られました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――こんにちわ! 私たちは音乃木坂学院のスクールアイドル、μ'sです!!」

 

オープンキャンパス当日。絵里と希先輩を加えた九人が、堂々とした面持ちで構えていた。

 

「私たちはこの音乃木坂学院のことが、大好きです!」

 

真ん中に立つ穂乃果が素直な言葉を中学生たちに送る。

 

「この学校だから、このメンバーと出会い、この九人が揃ったんだと思います。これからやる曲は私たちが九人になって初めて出来た曲です――私たちのスタートの曲です!」

 

穂乃果のその言葉に他の全員が一歩前に出て声をそろえる。

 

『聞いてください――』

 

 

――僕らのLIVE 君とのLIFE!

 

 

「……」

 

無事退院することが出来た俺は同じ場所で彼女たちのステージを見つめる。

楽しそうに踊る絵里を見て、俺は柄にも無く物思いにふけていた。

過去の記憶は戻った。穂乃果たちのことも、絵里のことも思い出した。それは嬉しいことだ。だが、

 

「――っ」

 

身体に痛みが奔る。これも記憶が戻ったせいだろう。

あの日の光景がよみがえる。階段から押したやつの顔も、そのときの痛みも、その全てが鮮明に映し出される。

 

「……」

 

「大丈夫ですか、お兄ちゃん?」

 

俺の隣でステージに夢中になっていたはずの亜里沙ちゃんが俺を突然気遣ってきた。

 

「ん、なにがだ?」

 

「その、遊弥さん。怖い顔してましたよ」

 

惚けて見せるも、どうやらばれていたらしい。

 

「まあ、ちょっと身体が強張ってな。一週間以上寝たきり生活を送ってたら元に戻すのにはそれ以上の時間が掛かるって実感したところだ」

 

「「……」」

 

本当のことを言っていたのだが、それが原因じゃないと悟っているのか、二人の心配そうな視線は戻らなかった。

俺は二人の目が怖くなって、それを誤魔化すようにステージに目を向ける。

楽しそうに踊る彼女らに、俺はまた別のことが頭を過ぎる。

このステージは成功するだろう。そして、周りの中学生の様子を見るとアンケートの結果も悪いものにはならない。

 

だが――そのとき俺はどうなるだろうか。

 

もともと、音乃木坂学院は女子校だ。男子学生の募集をせずとも女子校の存続が決まったとなれば、俺の存在は学院にとってマイナスにしかならない。

そうなれば、俺は――ここを去らなければならない。

別に穂乃果たちや絵里のように、この学院に思入れはない。いい学校ではあるが廃校するならそれも時代の流れだろう、そんな認識だ。それに俺は試験生なだけで正式な生徒ではない。必要無くなったのなら用済みだ。

 

「……やめだ、やめやめ」

 

だめだ、一度嫌なことを考えたらどんどん思考がマイナス方面へと走ってしまう。

そう頭を振っていると、両方の手が暖かく包み込まれた。

 

「亜里沙ちゃん、雪穂ちゃん……」

 

「お兄ちゃん、こっちです!」

 

「一緒に前に行きましょう、遊弥さん!」

 

俺は二人に手を引かれて最前面へと導かれる。

そこで俺の存在に気付いた九人の女神(少女)たちが堂々と俺に笑顔を送ってくる。

 

「お兄ちゃんが考えていることは分からないけど、きっと大丈夫です」

 

「遊弥さん、今はお姉ちゃんたちのステージを楽しみましょう!」

 

面食らっていた俺に二人が安心させるように言った。

 

「……そうだな」

 

少なくともこの場にいる皆は笑顔なのだ。それなのに俺ひとりが暗い顔をしてどうする。

皆の背中を押した俺が不安そうにして何になるんだ。

 

「亜里沙ちゃん、雪穂ちゃん」

 

「はい?」

 

「なんでしょうか?」

 

「――ありがとうな」

 

「「――はいっ!!」」

 

二人はきょとんとしていたが、すぐ笑顔になって頷いた。

この先どうなるかなんて誰にも分からない。なら、いまを精一杯楽しもう。

俺はこの瞬間を忘れないようにと、ステージを眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






いかがでしたでしょうか?
ではまた次回に
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