どうも、燕尾です
お久しぶりです。
「ゆうくん、ゆうくん! はいこれ!」
穂乃果が自分が掛けていたサングラスを俺にかけてくる。散々な目に遭わされた俺はもはや抵抗することなく、穂乃果だけではなく他の人たちの荷物も預かる。
「私たち、店の中見てくる!」
「ああ、行ってらっしゃい……」
ベンチにぐったりしながらも軽く手を振る。
「大丈夫?」
「ええ。何とか…」
隣に腰掛けて覗き込んでくる希先輩。
「それにしても遊弥くん、分かってはいたけど皆から随分と慕われてんやな?」
「これが慕われているように見えているなら、眼科を勧めますよ」
おや、辛辣。と、希先輩はおどける。
「――なにか心配事でもあるん?」
すると希先輩は唐突にそんなことを言い始めた。
「どうしてそう思うんすか?」
「カードがうちにそう告げているんやよ」
そういいながらタロットカードを出す希先輩。示されているのは死神の正位置。
「相変わらずカードですか」
「相変わらずとは随分な言い方やん――でも、間違ってないんやない?」
死神の正位置は完全な終わりや別れ、死を意味している。
本当に、この人はカードを通せばなんでもお見通しなのだろう。俺がこの人を上回ることはあるのだろうか?
「うちが分かるのは予感だけ。君みたいに何でも先を見通せているわけではないよ」
そうやって俺の内を読んでいる限り、俺はこの人には勝てないだろう。俺は一つ息を吐いた。
「……俺にとっての
「っ!」
さすが希先輩だ。これだけで理解してくれたのだから。
「皆には内緒ですよ。もとより、それを承知で今までやってきていたんですから」
「そんなことって……!」
「希先輩も気付いていますよね? 最近教師だけじゃなく生徒の俺を見る目がどんなものか」
「でも、それは!」
「ええ、一部です。ですが
絵里や希先輩は最初の頃から俺をよく思わない人間を目にしているはずだからそのことはよく分かっているだろう。おそらく、生徒会にまで話をしに来た人間もいるはずだ。
「そもそも俺は音乃木坂学院の異分子ですから。そんなイレギュラーを排除しようとするのは至極当然ともいえますね」
「それは勝手すぎるやん! 自分たちの都合で呼び寄せておいてそんな!!」
「それが普通なんですよ、いまの世の中は。どれだけ理不尽と叫ぼうが、どれだけ正しい理論を言おうが、一個人が組織の決定を覆すことは出来ない」
いまの社会のあり方という今さらの事実に、希先輩は言葉が出ないようだった。
「まぁ、なるようになりますよ。いままでそうでしたから――ほら、希先輩も店を見てきたらどうですか?」
話は終わり、というように立ち上がる。そのとき――
「困るんです、今すぐ無くしてください!!」
おや、随分と聞きなれた声が聞こえてきたぞ?
希先輩と顔を見合わせて声がしたほうへと向かう。するとそこには
「私の生写真がここに売られているって聞いて…アレは駄目なんです!!」
あー、災難だな。ことりも。まさかこんなところでエンカウントするとは思ってもいなかっただろう。
「ことりちゃん?」
「――ぴぃ!?」
同じようにことりの声に気付いた穂乃果や海未、そのほかのメンバーたちが集まってくる。驚きで固まっていることりに皆の視線が集中した。
「…ことり、何をしているのですか?」
海未が問いかけると、ことりはおもむろにポケットからあるものを出した。
「コトリ、ホワット? ドゥナタデスカ!?」
空のトイカプセルを両目に装備しながら外国人風を装うことり。いや、ことりさん?そんなのに騙されるのは――
「はっ! 外国人!?」
いたな、
「ことりちゃん、だよね?」
「チガイマァス!」
穂乃果の確認をことりは即座に否定する。それからぎこちない足取りで歩き、そして――
「――さらばっ!!」
『ああっ!?』
ことりが逃げ出した。
すかさず後を追う穂乃果と海未。
「仕方が無いな――絵里。皆をここに連れて待っててくれ」
俺は絵里にことりが働いているメイド喫茶の住所を送った。
「それはいいけど、あなたはどうするの?」
「ちょっとことりを捕まえてくる。たぶん穂乃果と海未は撒かれるだろうから」
ことりのことだからいつか見つかったときの逃走用ルートを確保しているに違いないし。
「うちもついていってもええかな?」
「それはいいですけど、かなりキツイ道を通りますよ?」
「そこは、ほら――」
「ちょっ、希! こんな大勢の前でなにしているのよ!?」
俺の首に手を回してきた希先輩に絵里が叫ぶ。だが、そんな絵里の言葉を聴かずに希先輩は妖しい笑みを浮かべる。
「遊弥くんが優しくエスコートしてな?」
ギュッと、希先輩は手を固く結ぶ。どうやら放す気はさらさらないようだ。俺はため息をつきながら希先輩を抱える。
「ちょっと、遊弥くん!!」
「悪いけど絵里。皆をよろしく」
「もぉ!!」
俺は絵里の叫び声を背中に浴びながら駆け出す。
「――それで、どういうことですかこれは」
「遊弥くんともっとお話がしたかった…じゃ、いかん? それに遊弥くんうちの身体を堪能しているんだからええやん」
「う゛っ……」
希先輩が首に手を回して抱きついているこの格好では、当然ながら彼女の豊満なお胸様が身体に当たっているのだ。
「せっかく意識しないようにしていたのに……」
「うちじゃ魅力ないかな?」
「あるから困っているんですよ。少しは自分が美人だってこと自覚してください」
「そ、そう……ありがとな?」
少し言葉に詰まり、顔を紅くする希先輩。
自分で確認しておきながら照れないでくださいよ、まったく。
「――言っておきますけど、さっきの話は他言無用ですよ。希先輩は口が堅いほうですし、唐突な行動を起こさないと信じているから喋ったんですから」
「このことは皆が気付くまで言わへんよ。でも……」
そこで希先輩は言葉を区切る。そして普段の軽い空気から一変させる。
「覚えておいて。遊弥くんが私たちに味方してくれたように、私たちもあなたの味方だから――あなたは一人じゃない。私たちが、ついているから」
普段の話し口調がなくなるほど、真面目に諭してくる希先輩。
「……ええ。そうですね。覚えておきます」
そんな彼女に俺は口角を少し上げて、頷いた。
「――脱出用ルート決めておいてよかった」
それから、安堵しながら駆けることりを見つけるのにはそんなに時間は掛からなかった。
「ここまできたら、安心――」
そして、立ち止まり息を整えながら安心していることりに俺は声をかける。
「残念だけど、もう話した方が手っ取り早いぞ?」
「ぴぃ!? ゆ、ゆーくんと希先輩!? というかどうして希先輩をお姫様抱っこしているの!?」
「まあ、穂乃果と海未を撒いてくると思ったからな。それに、希先輩のことは希先輩に聞いてくれ」
「でも、どうしてここが……」
ことりの疑問はもっともだ。どうして、俺がことりの場所に先回りできたかというと、
――ことりちゃんはここに現れるで
優秀な
これもカードが告げていたのだろうか。だとしたら万能すぎるな、これ。
そしてその優秀なガイドというと、
「はぁっ、はぁ、はぁ……」
俺の腕の中で、息を荒げていた。
「その、大丈夫ですか……?」
あまりの息の荒さに俺は冷や汗をたらして問いかける。
「これが、大丈夫そうに見えるなら、眼科を勧めるわ……!」
するとさっき言ったことを返された。
どうして希先輩が息切れしているかといえば、
――ええっ、遊弥くん! どこ行くん!?
――どこって、先輩が言った場所に向かうだけですけど?
――でもここ行き止まりやし、この先あっても塀とかしかないで?
――喋っていると舌噛みますよ?
――ちょっと待って! 本当に待って!! もっと普通の別の道を……きゃあああああ――――!?
目的地まで、塀やら壁やら飛び越え走り越えたりしたからだ。相当心臓に悪かったらしく、終始希先輩は悲鳴を上げていた。
希先輩が悲鳴を上げるところなんて見たことなかったので少し新鮮だった。
「これ…ヘタな絶叫マシンより怖かったわ……ああ、地面って素晴らしいものやったんやな……」
希先輩を降ろすとトントン、と足で地面を踏みしめる。
そんな大げさな、というと希先輩は腕を構えた。それはいつも彼女たちにやっているワシワシの構え。
「遊弥くん、それ以上言うとワシワシMAX ENDするで……?」
「ごめんなさい」
ENDとかなにそれ怖すぎる。しかも希先輩は満面の笑みを浮かべているけど、怒りで眉が少し上がっているのもより一層俺の恐怖を煽った。
そして、希先輩は俺からことりにターゲットに変えてワシワシの構えを取った。
「ことりちゃんも、これ以上逃げたらそのふくよかな胸をワシワシするよ……!!」
「ひぃ!? なんか理不尽だけど、ごめんなさい!!」
もはや八つ当たりに近い形でとばっちりを受けそうになることりには本当に申し訳ないと思った。
『ええっ!?』
所変わってメイド喫茶。そこでことりから事情を聞いた穂乃果たちは驚きの声を上げた。
「こ、ことり先輩がこのアキバで伝説のメイド――ミナリンスキーさんだったんですか!?」
「……そうです」
花陽の確認に、普段のことりから聞かないような小さな声で彼女は肯定した。
「というか、皆気付いていなかったのか?」
「遊弥は気付いていたのですか?」
「まあ最初にアイドル研究部に行ったときに色紙の説明するにこ先輩に動揺していたし、そこで少しカマかけたら明らかに過剰に反応していたし」
「あのときから気付いてたの、ゆーくん!?」
そりゃあれだけ分かりやすくしていたら誰だって気付くわ。
「それに、にこ先輩からアキバ調査に行けって言われてこのメイド喫茶に入ったときにいたしな」
「ゆうくん、ことりちゃん! だったらなんで最初から教えてくれなかったのさ!?」
問い詰める穂乃果にうっ、と言葉に詰まることり。
「いや、ことりも知られたくなさそうにしてたからわざわざ俺が言うのもおかしな――」
「――言ってくれれば遊びに行ってジュースとかご馳走になってたのに!!」
俺はずるりとずっこける。
「って、そこ!?」
思わず花陽がつっこんでしまうほど、穂乃果の怒るポイントがずれていた。
「じゃあ、この写真は?」
絵里が飾られていたことりの写真を指差す。
「店内のイベントで歌わされて……撮影、禁止だったのに」
なるほど。写真には笑顔で写っているが、ことりも本意ではなかったようだ。
「でもどうしてメイド喫茶でアルバイトを?」
「それは……ちょうど三人でμ'sを始めた頃に街でスカウトされて…最初は断ったんだけど、その……制服がかわいくてつい……」
可愛い服が好きなことりらしい理由だ。
「それに、穂乃果ちゃんや海未ちゃんと違って何もないから…そんな自分を少しでも変えたくて……」
「何もない?」
首を傾げる穂乃果にことりは困ったように笑う。
「穂乃果ちゃんみたいに皆を引っ張っていけないし、海未ちゃんみたいにしっかりもしてない…」
「そんなことない! 歌も踊りもことりちゃんだって上手だよ!」
「衣装だってことりが作ってくれているじゃないですか」
「少なくとも、二年生の中では一番まともね。一番頭おかしいのは遊弥先輩だけど」
「真姫さんや、それは言う必要あったのかね? あったのかね?」
でもまあ、俺もそんなことはないと思う。だがことりがそういうのなら自分の中で思うところがあるのだろう。
「私はただ、二人についていってるだけだから……」
ことりの憂いの瞳から、俺はある程度理解した。
「ことり――」
「なにかな、ゆーくん?」
俺は出かけてた言葉を引っ込める。
これは彼女自身の問題。ことりが自分で納得するような答えを導き出さなければいけないことだ。そこに他人の言葉は必要ない。
「いや、なんでもない」
全てではないが、ことりが自分の気持ちを打ち明けてくれたのだ。なら、彼女が満足するまで待っていよう。そこで助けを求められたらその手を取ろう。
俺たちは飲み物だけ頼んでから少し喋ってメイド喫茶を出るのだった。
帰り、穂乃果と海未ともそれぞれ別れ、家の方向が一緒の絵里と肩を並べて帰る。
「遊弥くん。ことりのことどう思う?」
すると絵里がそんなことを言い始めた。
「どう思うも何も、こればかりはことりが自分でどうにかするしかないだろ」
「それはそうだけど、そうじゃなくて。遊弥くんはことりが何もないと思ってるの?」
「そんなことは微塵も思ってない。考えても見てみろ、ことりがいないときの穂乃果と海未を」
収拾がつかない上に人を巻き込んでくるんだぞ? 厄介なことこの上ない。
「穂乃果がいて、ことりがいて、海未がいて……三人が揃っているからこそバランスがとれてるんだ。ことりは二人の隣を十分歩いている」
「でもことりは自分ではそう思っていないのよね……」
こういうのは自分だと気づけないものだからな、仕方がないことだ。
「……ねえ、遊弥くん。なにか良い方法はないかしら? ことりが自信持てるような、そんな方法」
「悩める後輩のためか? 絵里も随分と丸くなったな。この前までとは大違いだ」
「それは言わないで! 悪かったと思ってるわよ!!」
冗談だという俺にいじわると睨みを利かせる絵里。しかし、そんな視線なんて俺にとってはどこ吹く風だ。
「そういえば、オープンキャンパスから一週間ぐらい経ったな?」
「そうだけど、いきなりなに?」
「そろそろ次のことを考えた方がいいと思わないか? 例えば――ライブについて、とか」
「そうね、確かにそっちも考えて置かないといけないわね」
「今までは学院内でしかライブしてこなかったから、次は学院外でやるのも良いかもな?」
「学院じゃない場所でライブ…あっ……」
わざとらしく言う俺に絵里はハッとした表情になる。
「そうね! 学院の外でライブよ!」
大きな声を出したなと思えば、絵里は俺の手を掴んでくる。
「そうと決まれば早速計画を立てましょう! 遊弥くん、あなたも手伝いなさい!!」
「えっ、俺これから夜飯の支度しないと……」
「そんなの明日でもいいでしょう? そんなことより今はライブよ!」
よくないぞ。そんなことでもなく俺にとっては死活問題だ。
だが俺の手はギュッと絵里に掴まれたままで、俺はそのまま絵里に連れていかれる。
「おい、どこへつれていくつもりだ!?」
「私の家に決まってるじゃない?」
いや、なんでそんなこともわからないの? みたいな顔されても困る。
「ほら、善は急げよ!」
「おい、ちょっと待てェ! なんだ、絵里も
「ふふ、なんのことかわからないわ!」
前で俺を引っ張っていく絵里。ちらりと見えたその表情は楽しげで前間での仏頂面が嘘のようになくなっている。声もどこかやる気に溢れていた。
「――絵里」
「なに、遊弥くん?」
名前を呼ぶ声に足を止めてこちらを向く。
「良かったな」
たった一つだけの言葉。だがそれを聞いた絵里は、
「――ええ、ありがとう」
誰もが見惚れるような笑みを浮かべて再び俺の手を引くのだった。
いかがでしたでしょうか?
デハまた次回に