ラブライブ! ~one side memory~   作:燕尾

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どうも、燕尾です
59話です。






遊弥の過去話

海で長話をするのもアレなので、俺たちは着替えた後コテージに集まっていた。

皆が集まったのを確認した俺は口を開く。

 

「さっきも言ったが、俺は実の両親から虐待を受けていた」

 

虐待、その言葉に信じられないと衝撃を受けていた。

 

「元々、物心付いたときから両親は俺に冷たくて、死なない程度の必要最低限のことしかしてくれない人間でね。そのときは暴力とかはない、いわゆるネグレクト状態だった」

 

もしかしたら望まずに作られた子供だったのかもしれない。だが、それは両親にしかわからないことであり、その辺の経緯や理由は今はどうでもいい。

 

「暴力が始まったきっかけは単純に精神的に追い詰められたからだと俺は思っている。母親は俺が生まれてから姑からいびられ続けていたみたいだし、父親はなんとか齧りついていた会社が潰れて職を失った」

 

それまで生きるためだと頑張っていたみたいだが、元が消えればどうしようもない。

 

「収入が絶たれたことでこの先生きていくことへの不安を抱え、両親の親から責められる日々が続いた二人は徐々に追い詰められて、それを紛らわせるために俺に矛先を向けた。それが小学校に入学して少し後の事だ」

 

あのときの二人の顔をはっきり覚えている。憎悪にまみれた、醜悪な顔。

 

「殴る、蹴るは当たり前。酷いときだとカッターや包丁で切りつけられたこともあった。それを治すとか言って傷口を焼かれたこともある」

 

そのうちの傷もいくつかは身体に残っている。

 

「まあ、そんな生活が始まってから一年が経ったとき、穂乃果と海未とことりの三人と出会った」

 

「小学校二年生のときですね」

 

「公園で一人でいるゆーくんを穂乃果ちゃんが見つけて連れてきたんだよね」

 

「うん。でもあのときのゆうくんは身奇麗だったような……あっ、そっか……」

 

穂乃果は自分の中で疑問が湧き上がったようだが、俺の身体を見てすぐに納得した。

 

「穂乃果の想像通りだ。バレるとまずいと分かっていた両親は顔とか腕とか見える場所にはしなかったんだ」

 

まあ、顔とかビンタとかはされていたけど、それでも顔に傷跡が残るようなことをされなかったのは今思えば幸いだった。

 

「それに気づかれないために普通に服とかはちゃんされていたんだ」

 

後は俺に絶対に告げ口をするなといえば隠蔽完了だ。

 

「実際に言われた言葉はそんな生易しいものじゃなかったけどな。でも、幼い俺でも他の人に知られたらどうなるかぐらいは想像できた。だから正直言うとお構いなしに寄ってきた穂乃果たちは悩みの種だった」

 

学校でも、放課後でも、どこにいても見つけて構ってくる穂乃果たちに辟易していた俺。

 

「でもそれは同時に嬉しかったことでもあったんだ」

 

「そうなのだったのですか?」

 

そんな実感はなかったという海未に、俺は苦笑いで頷いた。

 

「ああ。そっけない態度でいても穂乃果たちといたあの時間は俺にとっては唯一両親のことが薄らいだ時間だった」

 

だから俺も距離は遠く保ちつつも穂乃果たちとは離れられなかった。

 

「そしてそれを支えにして親の暴力にも耐えてきたんだ」

 

今、我慢できれば明日また穂乃果たちに会える。鬱陶しそうにしかできなくても言葉をかわせられる、と。そんな気持ちを抱いて毎日を過ごした。

だが、それも突然に終わりを告げた。

 

「両親は返すあても仕事もないくせに各方面から金を借りていたらしくてな。膨大な借金を俺に押し付けて消えたんだ」

 

いわゆる蒸発ってやつだ。

俺に押し付けられた借金の額は1500万。当然俺に返すことなんて出来ない。

 

「穂乃果たちと知り合ってからまた一年ぐらい経って、俺は帰る場所を失った」

 

心のよりどころなどの精神的なものではなく借金を返すための差し押さえなどで家そのものが無くなったのだ。

 

「そこからはホームレス生活だ。まあそうなることを事前に悟っていた俺は差し押さえられる前に家にあった食料や使える道具、服をありったけまとめて別の場所に移していたんだけどな」

 

両親がまだいるときに昼夜問わず怖いお兄さんたちやスーツを着た仕事人が何度もたずねて金の話をしているところを聞いたおかげでもある。

 

「幸い、目の前に川がある高架下に誰かが使っていたホームがそのまま使われてたからそこを本拠地にして色々な場所をローテーションしながら過ごしてた」

 

「どうしてそこに留まらなかったの?」

 

「見つかったら殺されてたからだよ」

 

俺は首をかしげる絵里にすぐにそう言った。

 

「借金取りの中にはいわゆる臓器売買を生業としてる人間がいた。そいつらに見つかったら取られるだけ取られてあとはポイ捨てだ」

 

「自分の子供を、売ったっていうの……」

 

そういうことだ、と頷く。

 

「そういうお話って、ドラマや小説だけの話だと思ってました……」

 

「花陽、人間堕ちるところまで堕ちれば知らない世界が広がっているんだよ…可能性は無限大さ。ふふふ」

 

「良いことのように言ってるけど、全然共感できないわよ。あと笑うな」

 

にこからのジト目が突き刺さる。ごもっともだが、いま思い出せばよく生きていられたなと少し笑えてしまう。

 

「話を戻すが、俺は転々としながら生活していた」

 

食料が尽きたあとは生えてる食べられそうな草を取ったり、川から魚を取ったり、時には色々なところゴミを漁ったりした。

 

「ちょっと待って遊弥くん。学校はどないしたん? 遊弥くんの様子を見たら先生とか不思議に思わなかったん?」

 

「両親は自分の足掛かりをつかせないために最低限の小学校の費用を全部先払いしていたんだ」

 

消えることへの罪悪感とかではない。あくまでも自分達のためだった。

 

「二人が居なくなった後も俺は話すことはしなかったし――いや、出来なかったって言った方がいいか。だから川や公園で身体洗ったり服洗ったりして身なりはそれなりにしてバレないようにして必死に隠し続けた」

 

あの頃は誰かに相談したらどこかで聞いて報復されると思ってたから。

 

「まあ、それでも学校側も気付いてはいたと思うけど見て見ぬ振りだった。先払いするのだっておかしな話だからな。だけど両親に迫られて面倒事は御免だと思ったんじゃないか?」

 

小学校の頃先生から話しかけられたことと言えば事務的なことばかりだった。

ともあれ誰にも言うこともなく、気づかれることもなく俺はただ生きた。だが、そんな生活が半年も過ぎようとしたところで俺にある転機が訪れた。

 

「ある日の夕方、本拠地にしていた川沿いで、俺は愛華と出会ったんだ」

 

今でもそのときの事は明白に思い出せる。

死んだような目をして、ただボーッとして遠くを見つめる少女の姿。

そんな愛華を見て俺は直感的に気づいた。この子も帰る場所がないんだと。

 

「愛華は事故で両親を失って、引き取るはずの親戚が保険金を受け取ってから失踪したんだ。家とかの金になるものは全部引き払ってその金を受け取った後にな」

 

そのときの俺も愛華の話はよく理解できなかった。愛華自身も親戚が居なくなったことや家がなくなったことしか理解していなかった。

でもこの子は俺と同じだというのだけは理解できた。それは愛華も同じだった。

一緒に生きていこうって伸ばして手を泣きながら取った愛華を俺は忘れない。

 

「それからは愛華と出会って二人で生きていくことになったんだが、身寄りもない、金も無い子供が生きるためには形振りなんて構ってられなかった」

 

一人だったらその辺の草や川辺の魚を取れば何とか生きてはいける。しかし二人になり、年下の小さい女の子に食わせるとなればそうもいかない。

 

「それこそ人には言えないことも沢山してきた」

 

「それって…」

 

俺の言葉に想像がついた穂乃果は血の気が引いていた。

 

「ああ。穂乃果が想像しているとおりだ。俺は一線を越えたんだ」

 

決して愛華にはやらせなかったが、そのときの俺たちが、いや愛華を生きさせるにはそれしか方法は無かった。

 

「もちろん、全部が全部上手くいったわけじゃない。捕まって、寄ってたかって大人に私刑(リンチ)されたことも何度もある」

 

「じゃあ遊弥のその傷は両親からだけではなくて……」

 

「そのときについたものもある――むしろ両親につけられたものより多い気がする。当たり前だけど容赦がなかったよ」

 

だがそのときもやっぱり顔だけは傷つけられなかった。殴られたりはしたが。

そしてそのときにつけられた傷を治す金も物もなく服を包帯代わりにして巻きつけて自然治癒に任せた結果、いろいろな跡が残った。

 

「傷の割合としては親が三、私刑で五、残り二割だな」

 

「ちょっと待って。残りの二割って、まさか…」

 

話をしたことのある絵里は察しが付いたみたいだ。

 

「絵里は少し知っていると思うが中学校でつけられたものが一割と――小学校で一割だ」

 

要するに、虐めだ。俺は愛華と出会った直後からと中学校で絵里と知り合ってから虐められていたのだ。

 

「――っ!!」

 

「それって…」

 

「まさか……」

 

三人(幼馴染たち)は悟ったようだ。

 

愛華と生活を始めてから一ヶ月くらい経ったある日、俺の学年で噂が出回った。"小学校への費用を払っていない奴が学校に来ている"と。

 

「俺の状況が漏れたんだ。親も家も金もなにもない人間だとクラスの連中が言いだした」

 

それからだ。俺への嫌がらせが始まったのは。

 

「なにも知らない子供は残酷だ。異質なものや気に入らないものを排除するために意味の分からない正義を振り回して、自分を正当化して、何の躊躇いも無く人を傷つける」

 

だけどそれを批難することは俺には出来なかった。既に一線を越えた俺が正しいことなんて言える訳が無かった。

 

「だから俺はずっと受け入れた。クラスメイトたちの暴言も暴力も何もかも。これは俺への罰なんだと、生きるために色々とした俺が負うべきものなんだと言って」

 

奴らが満足するまで俺が我慢したらいいだけのこと。そんなのは今までと何ら変わりはなかった。むしろ大人より力が弱い子供の攻撃なんてどうということはなかった。

 

「だけど――俺が受けるべきそれが穂乃果たちに向かったんだ」

 

ある日、いつものように呼び出されて俺が校舎裏に行った時に見たものは数人の男子や女子に囲まれて涙を流しながらも抗議していた穂乃果たちの姿だった。

 

「――ゆうくんはそんなんじゃないもん!!」

 

「なにも知らないのにゆーくんのことを悪く言わないで!!」

 

「ゆ、遊弥は……優しい人です……!」

 

何を言われたのかは具体的にはわからなかったが、俺の悪口を聞いた穂乃果たちが怒って言い返していたら校舎裏へと連れて行かれた、というところだろう。

穂乃果立ちが言い合う姿を見た俺は呆然と立ち尽くしていた。どうしてとか、なんで穂乃果たちがという疑問がずっと頭の中で渦巻いた。

そして一人の男子が穂乃果に手を出したところで俺の感情は静かに爆発することになる。

そこからは男女性別関係なく地面に這いつかせた。

 

「あのときの遊弥はまさに鬼でしたね」

 

「鬼とは失敬な」

 

「ばったばったなぎ倒していたもんね、ゆーくん」

 

事実が事実だから俺はなにもいえなかった。ごほんと咳払いして俺は話を戻す。

 

「そんなことがあって穂乃果たちから悪ガキ達を追っ払った。ただ結局――その後に俺は三人を傷つけたんだ」

 

「あんたは、三人に何をしたのよ」

 

「追い払った後、俺は理由も言わずに、もう関わるなって言って穂乃果たちと関係を絶ったんだ」

 

「「「……」」」

 

三人が目を伏せる。まるであのときのように悲しい表情をして。

 

「穂乃果たちが言われてたことは本当のことだった。それなのに俺はそいつらに手を出したんだ」

 

「でもそれは穂乃果たちに手を出したその子たちが悪いだけでしょう。どうして縁を切る必要があったの?」

 

「考えてみろ、穂乃果たちを助けたんだ。完全に仲間だと思われてもおかしくはないだろ?」

 

「なるほどね」

 

そう言う俺に真姫は納得顔で頷いた。

 

「この先も手を出さない可能性はない。そういうことね?」

 

「正解」

 

俺が受けるべき理不尽な敵意この先も穂乃果たちに向けられたら? 俺を庇ったがために標的(ターゲット)が三人に移っていたら?

そう考えれば考えるほど、俺は認めるわけにはいかなかった。

だから断ち切った。こいつらは関係ない、どうでもいい赤の他人だと。そしてその後の穂乃果たちへの態度や彼女たちの俺に対する様子を見られた後は順調だった。

 

「そのおかげもあってかそれ以降は穂乃果たちが巻き込まれることは一切無かった。反対に仕返しといわんばかりに俺への当たりが強まったが」

 

それでもやっぱり小学生の力ではどうということもなかった。

 

「それは感覚がおかしくなったって言うんじゃないかなぁ…」

 

「またズバリと言うなぁ、花陽」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「いいんだ、その通りだから。俺は穂乃果たちとの繋がりを切ったあと今の義父に拾われるまで、感覚も含めて色々とおかしくなっていた」

 

愛華と生きていくために。ただそれだけのために俺は思考するのをやめた。

 

「するといつからか罪悪感も愛華以外に対する感情も、何もかもが消えていたんだ」

 

小学校の子供たちや街の大人たちから受ける暴行の痛みも鈍っていた。されるがままにされ、相手が満足するまで声も上げずにただじっとしていた。

 

「穂乃果たちと縁を切って愛華と生活を続けて一年が経ったある日。私刑の傷が深かくて川の土手で倒れていたところをついに愛華に見られてしまったんだ」

 

「むしろよく一年も隠し続けられたわね」

 

「いや、実際には隠し続けられてなんかいなかった。日によっては気を失って帰ってくるのが遅くなったりしていたから愛華は疑問に思ったり薄々感じ取っていたりとしていた。でもあいつは俺のなんでもないという言葉や言いつけを守って詮索はしなかったんだ。だけどあいつは俺の様子を見て限界だと思ったんだろうな。後をついてきて見てしまったんだ。俺がやっていたことを」

 

俺の脳裏にそのときの光景が浮かび上がる。

 

 

――お兄ちゃん!

 

――愛華…?

 

――お兄ちゃん、死なないで! わたしを、一人にしないでっ!!

 

――ああ、分かってる。愛華を一人なんかにはしない。二人で生きるって…約束…したからな……

 

――目を閉じないで! しっかりわたしの声を聞いて!!

 

必死に呼びかける愛華。それにちゃんと答える俺だったが言葉とは裏腹に身体はまったく言うことを聞かなかった。

 

――大丈夫、少し休むだけだ。帰ったらご飯にしよう…今日はたくさんもらえたから……

 

そう言って泣きじゃくる愛華に抱えられたまま俺は気を失ったんだ。

 

 





長くなるので一旦切りました。
ではまた次回に――


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