ラブライブ! ~one side memory~   作:燕尾

6 / 102
スクールアイドルだよ!

 

 

 

放課後、絵里先輩に呼ばれた俺は生徒会室まで足を運んでいた。昼休みが終わる頃に放課後来てほしい、と携帯電話に連絡があったのだ。ちなみに穂乃果からも、廃校を防ぐための作戦会議に参加してほしいと頼まれたが、絵里先輩の連絡が早かったので断った。そのせいで教室から出るとき三人から睨まれることになったが。

 

「絵里先輩、萩野です」

 

「入ってきて良いわよ」

 

失礼します、と言い入った室内には絵里先輩と昼間に会った先輩の二人しかいなかった。

 

「ごめんなさいね、こんなところに呼び出して」

 

「絵里先輩のためならたとえ火の中水の中、お呼びとあらば即参上! がモットーですので気にしないでください」

 

「もう、変なこといわないでちょうだいッ! でも、それはそれでちょっと嬉しいというかなんというか……」

 

軽いおふざけですよ、絵里先輩。そんな顔を真っ赤にして怒らなくてもいいじゃないですか。まあ、別に嘘ではないのだが。

 

「ふふ、なかなか面白い子やな?」

 

昼間、絵里先輩の付き人だったおっとりとした先輩が俺を見ながら口を開く。

 

「昼間はどうも。萩野遊弥です。よろしくお願いします」

 

「えりちと同じ三年の東條希や、よろしくな」

 

なぜ関西弁? しかも似非(えせ)のほうだし。

 

「関西に住んでいたことあってな、そこで過ごすうちにこれに落ちついたんやよ」

 

しかもナチュラルに人の心読んでるし。読心術の持ち主か。

 

「読心術やないで、スピリチュアルパワーや」

 

あ、なんかこれ喋らなくて楽でいいや。東條先輩、あなたと喋るときこれでいいですか?

 

「人で遊ばんといて!? それとうちのことは希でええよ」

 

「すみません、希先輩。つい楽しくなってしまって」

 

もう、と苦笑いする希先輩。掴みはオッケーだろう。まあ、打ち解けられたみたいでよかったよかった。

 

「それで、俺を呼び出した理由はなんですか?」

 

「それはえりちがな――って、えりち? おーい、えりちー?」

 

「――はっ!? ごめんなさい、ちょっとぼーとしてたわ。それでどうしたの、希、遊弥君?」

 

いやいや、絵里先輩。あなたが俺に用があるからここに来たんですよ? まさか忘れましたか? 俺もしかしなくても無駄足でしたか?

 

希先輩も呆れたように息を吐く。

 

「いや、えりちが遊弥君を呼んだやん。何で呼び出したのか教えないと」

 

「え、あ、そ、そうだったわね。遊弥君、突然で悪いのだけれど――」

 

――生徒会役員になってほしいの。

 

言葉短く伝えてくる絵里先輩。先ほどとは打って変わって顔は真面目そのものだった。

 

「……本当に突然ですね。転入早々、生徒会役員に誘われるなんて思いもしませんでした」

 

実際のところ、生徒会室に来てほしいと言われた瞬間、予感はしていた。だからこれの要望に対する答えも決まっている。

 

「お誘いは嬉しいです。でもすみません、俺は生徒会役員にはなれません」

 

「どうしてなのか理由を聞いてもいいかしら?」

 

口調こそ冷静を装っているものの、顔では不満さを隠しきれていない絵里先輩。

 

まあ、こんなすぐに拒否されたら普通は気を悪くするよな。でもこればっかりは仕方がない。

 

「それは俺が試験生だからですよ、そしてこの学校では俺の存在を快く思っていない人がそれなりにいます。絵里先輩もわかるはずです」

 

「――ッ!」

 

「……」

 

俺が言うと、絵里先輩は苦虫を噛み潰したような顔になり、希先輩も目を伏せた。

 

今日一日だけでも十分わかった。好奇心の目が圧倒的ではあったもののその中に嫌悪の視線が入り混じっていることが。

 

学院長がそうであったように生徒の中でも認めたくない人はいるのだ。女子高が共学する可能性について。

 

おそらく先輩方のクラスで文句を言っていた人もいたはずだ。まして本人が居ないならなおさらだろう。

 

「だから俺が生徒会役員になるのは無理なんです。でも――」

 

でも? と、沈んだ様子で聞き返してくる絵里先輩。俺はそんな先輩に笑顔で返した。

 

「役員じゃなくても、絵里先輩の知り合い――友人として、いくらでも手伝えますよ」

 

「あ……」

 

思いもよらない言葉だったのか呆然とする絵里先輩。

 

「……ふふ、やっぱりな」

 

すると希先輩は安心したように微笑んだ。

 

というか、やっぱりってなんですかやっぱりって。またスピリチュアルパワーですか。

 

「そう、スピリチュアルパワーや!」

 

「もうビックリ通り越してちょっと怖いですよ希先輩」

 

「遊弥君? 女の子に怖いは失礼やと思うんやけど」

 

「し、失礼しました……」

 

ニコォ、と(ゆが)んだ笑顔を見せる希先輩に俺は顔が引きつる。

 

怖い、怖いってば。その笑顔は恐怖でしかないですよ希先輩。

 

「ぷっ、ふふふ……」

 

絵里先輩は漏れたような笑い声を出す。それはさっきまでの気持ちが少しまぎれたようだった。

 

「そうね、ほんと、その通りだわ。確かに形にこだわる必要はないものね。友達が手伝ってくれるのは何もおかしなことじゃないわ」

 

自分に言い聞かせるように、確認させるように呟く絵里先輩。表情も段々と明るくなっている。そして、

 

――ありがとう、遊弥君

 

俺をしっかりと見つめ、そういった。

 

柔らかい表情を浮べる絵里先輩に、俺は思わず見惚れてしまう。

 

「あらためて、これからよろしくね、遊弥君」

 

「は、はい。必要なときはいつでも呼んでください。絵里先輩のためならっていうのは嘘じゃありませんから」

 

「――ッ!! な、な……」

 

柔らかい表情から一変、真っ赤になりうつむく絵里先輩。

 

そんなに嫌だったのだろうか、でも嘘じゃないしなぁ。

 

「あー、これはあれやな、えりちも大変やろうな」

 

昼休みのヒフミトリオ同様、呆れたように希先輩が息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、絵里先輩。また」

 

「ええ、また明日」

 

別れの言葉を交わし、それぞれの帰路へと歩き始める。

 

あのあと、書類整理と廃校についての相談を受けた。なんでも生徒会は廃校を阻止するために独自(当然許可はもらいにいくみたいだが)に活動するとのことだった。

 

それに面だってどんなことをするといいのか、というのが絵里先輩の相談だった。

 

「生徒が集まりそうな企画、それか音乃木坂学院の魅力を作る、か……」

 

一応先輩が考えていた案をいくつか聞かせてもらった。が、正直言っては悪いけど効果はまったくないと思う。むしろそれで生徒が集まるなら廃校ということにはならないだろう、そんな案だった。

 

だからと言って、何もしないという選択肢はない。しかし、音乃木坂学院に興味を持ち、入学したいという気持ちにさせる、そんな企画は早々生まれない。今は考えることが必要なのだ。

 

従来のやり方では到底無理だろう。奇抜で誰も思いつかないような、そんな――

 

prrrrrrrrrrrrrr―――――!!

 

「ん、誰からだ?」

 

唐突に鳴り響いた携帯を手に持ちディスプレイを見ると、そこには穂乃果の文字。

 

嫌な予感がした。なんか碌でもないことが起きるような。

 

だが、このまま無視をするのも悪いし、何より鳴り止まない。ここは出るのが一番だった。

 

「もしもし――」

 

『遅いよ遊くん!! なにしてたの!?』

 

いきなりの大声で耳がキーンとなる。思わず携帯を耳から離した。

 

まったくこいつは、少しは考えることをしないのか?

 

「うるさいぞ、穂乃馬鹿(ほのばか)

 

『ちょ、名前とくっつけないでよぉ!!』

 

「それでなんのようだ、馬鹿」

 

『せめて名前とくっつけて!?』

 

どっちだよ。まあ、おふざけはこのくらいにしておくか。

 

「穂乃果のせいで話が()れたな。で、結局どうしたんだ?」

 

『逸らしたのは明らかに遊くんだよね……まあ、いっか。遊くん、今、時間ある?』

 

「帰って夕飯の支度を――」

 

『今から穂乃果の家に来て! 大事な話があるから!!』

 

それだけを言って穂乃果は電話を切ってしまう。

 

「……しないといけないんだけど」

 

ツー、ツー、と繋がってもいない電話口に愚痴(ぐち)るように呟く。

 

こうなっては行かなかった方が後々めんどくさくなってしまう。

 

深いため息を吐きながらも、進路を穂乃果の家へと変えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

向かい始めてから十数分後、俺は穂乃果の家についた。

 

"穂むら"と描かれた暖簾をくぐると一人の少女が出迎えてくれた。

 

「いらっしゃいませ」

 

赤さが混じった茶色い髪にくりんとした丸い瞳。同年代の子より少し大人びているだろうがまだまだ幼さが残っていた。

 

懐かしさに浸るのもほどほどにして、話しかける。

 

「こんにちは、高坂穂乃果さんいる?」

 

自分の正体がばれないように言うと少女は目を鋭くして警戒し始めた。

 

「あの、どちら様ですか?」

 

うん。かなり久しぶりだもんな、覚えていないのも無理はない。でもちょっと悲しいよ。だがそれより、

 

「う~」

 

「ぷっ……」

 

小動物のように威嚇する少女に俺は思わず笑う。すると彼女は本気で怒ってしまった。

 

「なにがおかしいんですか!! あなたは誰ですか、警察呼びますよ!?」

 

「いや、頑張って威嚇(いかく)してる雪穂ちゃんが可愛くてつい、ね」

 

その言葉に少女の顔が怒りから戸惑いへと変わった。

 

「な、何で私の名前を……? ん? なんかどこかで見たことあるような……?」

 

つま先から頭までじっくり俺を観察した少女は気づいたようだ。

 

見開いた目には少しの涙が溜まり、震えた唇が動く。

 

「まさか……ゆ、ゆうや、さん……? 遊弥さんですか……?」

 

「正解。久しぶり、雪穂ちゃ――って、うおっ!?」

 

言い切る前に雪穂ちゃんが抱きついてくる。勢いがあったせいか、少しバランスを崩したが何とか持ち堪えた。

 

「お久しぶりです。もう会えないかと思った」

 

「ふふ、甘えん坊なのは変わってなかったか。昔みたいに"遊お兄ちゃん"って呼んでもいいんだぞ?」

 

「も、もう今は言いません!!」

 

顔を紅くして叫ぶ雪穂ちゃん。

 

知り合った当初は警戒心の強い子猫のようだったが、打ち解けてからは穂乃果よりも俺に懐いて、「お兄ちゃん、お兄ちゃん」といつも後ろをついて来る様になっていたのだ。

 

昔の呼び名で呼ばれないのは一抹(いちまつ)の寂しさを感じる。だが、その成長に嬉しく思ってもいた。

 

未だに抱きついている雪穂ちゃんの頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。

 

しばらく為すがされるままの彼女だったが、突然何かに気づいたように俺の身体を押しのけた。

 

「そ、そういえば! お姉ちゃんに用があるんでしたよね!?」

 

「あ、ああ。穂乃果に呼ばれてな」

 

「ちょっと待っててください――お姉ちゃーん! 遊弥さんが来たよー!!」

 

雪穂ちゃんが言い切った瞬間、バンッ、とドアの開く音がする。そして、ものすごい勢いでこちらへと向かってくる。

 

「遊くん、おっそーい! 来るのをすごく待ってたんだよ!!」

 

いやいや、穂乃果さんや。連絡受けてから最速で来たんですよ? その言い分はいくらなんでも酷いんじゃありませんか?

 

たかが十数分程度だったはずなのに穂乃果は少しご機嫌斜めだ。永遠の時でも過ごしたのだろうか。

 

「もう、お姉ちゃん。せっかく遊弥さんが来てくれたのにそういう言い方しないの! それにお姉ちゃんが呼んだんでしょ? 待つのは当然だよ」

 

穂乃果を(たしな)める雪穂ちゃん。

 

彼女の小言に穂乃果は耳を塞いで聞こえない振りをする。おまえは小学生か……

 

「あー、聞こえない聞こえなーい!! 行こう、遊くん!」

 

「あっ」

 

「ちょ、おい、穂乃果!? 雪穂ちゃん、またあとで!」

 

強引に手を引かれる形で穂乃果の部屋まで連れて行かれる。

 

穂乃果はあとで雪穂ちゃんからの説教が確定だろう。あの子、こめかみに青筋立てていたからなぁ。

 

「ようこそ、穂乃果の部屋へ!! さあ、座って座って!」

 

促されるまま俺は腰を落ち着ける。

 

階段を上がり、案内された穂乃果の部屋は良くも悪くも普通の部屋だった。

 

本棚には少女漫画と少年漫画が半々ぐらいで収納されており、ぬいぐるみが部屋を埋め尽くしているわけでもなくタンスの上に慎ましく置かれているだけだ。

 

配色もオレンジが多めと、穂乃果のイメージにぴったりの部屋だ。

 

「あんまりジロジロ見ないでよぉ」

 

「ああ、悪いな。女の子の部屋に入ったことが無くてな」

 

そう言う俺に穂乃果は、えっ? と意外そうな顔をした。

 

「入ったことないの? 一度も?」

 

正確に言えば、咲姉と愛華の部屋には何度も入ったことがあるのだが、あの二人はいろんな意味で普通の部屋ではないのでカウントしていない。思い出すだけでも恐ろしい。

 

若干身震いする俺にあはは、と苦笑いを浮べる穂乃果。

 

「そっか……女の子の部屋は私が始めてなんだ。そうなんだ……」

 

そして何か小さく嬉しそうに呟いた。あまりにも小さすぎたため俺にはなんて言っているのかがわからなかった。

 

「まあそれはさて置き、俺を呼び出してなんのようだ? 随分と慌てていたみたいだけど」

 

「あ、うん。えっとね――」

 

穂乃果は佇まいを直す。よほど重要なことなのか想像以上にに真剣な表情だ。

 

「実は、思いついたんだよ」

 

「思いついた? なにを?」

 

「廃校を阻止するためのアイデアだよ!!」

 

は? と、間の抜けた声がもれてしまう。俺は穂乃果の言っていることが一瞬理解できなかった。だがすぐに思考回路が正常になる。

 

「廃校を阻止するためのか。並大抵のことじゃ変えられないぞ?」

 

こんな言い方はあれだが、一個人が出来ることなんてほとんどない。それは穂乃果もわかっているはずだ。だが、この自信の在り様は本当に出来るかもしれないと彼女が思っているということ。

 

「それで、一体なにをするんだ?」

 

「それはね――」

 

俺が問いかけると、穂乃果は一呼吸置いた後興奮したように言った。

 

「――スクールアイドルだよ!!」

 

 






お疲れ様です。燕尾です。

いかがでしたでしょうか?

次回更新もがんばりたいと思っています(思っているだけ)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。