ラブライブ! ~one side memory~   作:燕尾

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どうも、燕尾です
続きです。







遊弥の過去話2

 

 

 

「そして、気を失った俺が目を覚ますとそこは病院だった」

 

「うちの病院ね」

 

「ああ。俺を運んだのは後に家族になる義姉と義父の鞍馬咲夜と鞍馬巌だ」

 

倒れて気を失った俺を愛華が必死に呼びかけていたところに姉が通りかかり、俺たちを保護したのだ。

 

「そこからはあまりよく覚えていない。爺さんと少し話したぐらいしか」

 

それにその内容も覚えていない。返事とも取れない言葉を返すだけの人形のようなものになっていたから。

 

「どうしてなの? 今までのことははっきりと覚えているのに」

 

絵里にそう問いかけられて俺は苦笑いする。

 

「はっきり言うとそのときの俺は愛華に関することしか覚えていないんだよ。覚える必要がなかったというか、なんというか」

 

「……要するにシスコンだったのね」

 

「……遊くん、シスコンだにゃ」

 

「遊弥くんはシスコンやったんやなぁ」

 

「だぁ! うるさいうるさい!! そうだよ、シスコンだよ!! 共に生きていく同士だったんだから大切に思うのは当たり前だろう!!」

 

半目のにこ、かわいそうなものを見るような凛、ニヤニヤとしている希に俺はうがーっと噛み付く。

 

「いいなぁ、愛華ちゃん……ゆうくんに大切に想われてて」

 

「それに比べて私たちは」

 

「縁を切られましたからね……」

 

それについては悪かったよ。だからそんな表情をするなよ。今になってまた当時の罪悪感が復活するだろ。

 

「はぁ……とにかく、俺が病院に運ばれてからその先のことは真姫のほうが良く知ってるだろ」

 

「ええ。そうね…私が挨拶したのに返事もしない、入院してからは何度も抜け出そうとしたり暴れたりで手をつけられなかった大問題児だったわね」

 

……そんなことしていたのか俺は。改めて聞くと自分に引くな、おい。

 

「まあそれからは真姫の話から推測すると、俺が病院で暴れている間に愛華が今までのこと全部話して俺たちの状況を知った爺さんが引き取ったんだ」

 

まあ、あの二人に心を許せるまで俺も愛華も一年くらいの時間を要したが。それに特に俺は酷かった。何もかもが敵だと思っていたんだから。

 

「そこからは俺も愛華もホームレスから脱して、鞍馬の家族になって、歪んだ性格も改善されて、ことりの母親――雛さんと爺さんが教え子と恩師の関係もあって穂乃果たちとの縁が戻った。ここまでが小学生の話だ」

 

色々と整理して話したつもりなんだけど意外と長くなってしまった。まあ、16年間生きてきた中で濃い時間だったんだろうな。いろんな意味で。

 

「そんなことがあったのね……」

 

「ああ…絵里と出会ったときは爺さんに矯正された後だったからな。びっくりしたか?」

 

「とっても。そんなことがあったなんて知らなかった。それなのに……」

 

「ストップだ絵里」

 

悲痛な顔をする絵里に俺はすぐに遮った。

 

「それは絵里が責任を感じることじゃない。編入前に会った時に言っただろ?」

 

「ええ…でも……」

 

だが、それでも責任を感じているような表情をする絵里。やはり気持ちはそうはいかないようだ。

 

「そういえば絵里と遊弥は中学で知り合ったんですよね?」

 

「ああ。入学してからすぐのことだったんだが、前も見えていないのにフラフラと危ない足取りで物を運んでいる上級生がいてな」

 

「その言い方に悪意を感じるわ」

 

「事実だろ――ま、今ので分かる通りそれが絵里だった」

 

危なっかしくて見ていられなかった俺は忠告も含め正面から絵里が持っていた荷物を奪った。

 

「最初は絵里がすごい警戒してな。こっちは爺さんに叩き込まれた親切心でやったのに」

 

「仕方ないじゃない。そういうのが初めてだったんだもの」

 

当時の絵里の状況を知っている今ならそれもしょうがないと思う。

 

「絵里はボッチだったからなぁ」

 

「ちょっと、そんな言い方しないでよ!?」

 

でも事実だろ。その原因の一端は自分にもあるってわかってるはずだ。

 

「好奇心の目を嫌っていくうちに誰とも話さなくなってたんだろ?」

 

絵里はロシア人の祖母を持つクォーターだ。そんな絵里は思春期真っ只中のガキどもには注目の対象だった。

気持ちはわからん訳じゃないけどな。普通に友達になろうとした女の子までそっけない態度を取るのはどうかと思う。

 

「ゆーくんが言えた立場じゃないよね……」

 

「そんなの百も承知だから言わなかったに決まってるだろことり。にしても、絵里はいい感じに俺の古傷を抉りまくってくれたけどな」

 

人の振り見て我が振り直せ――ちょっと違うが、当時の俺はそんなことを思ったものだ。

 

「それで、ゆうくんはどうして中学でも苛められていたの?」

 

話の本筋を戻すように穂乃果が問いかけてきた。

 

「率直に言うと嫉妬だ。絵里と一緒にいた俺へのな」

 

「嫉妬、ですか……?」

 

「絵里が友達がいなかったのはなにもそっけない態度だけじゃない、一種の憧れとかあったからだ。ほら、絵里は周りから見れば美人の分類だろ?」

 

「び、びじっ……!?」

 

「「「……」」」

 

絵里が一瞬で顔を紅くして幼馴染たちが俺に不服の視線を送ってくる。が、俺は気付かなかった。

 

「だから影で男女共にものすごい人気があったんだ。なんだかファンクラブまで出来てたらしい」

 

「そこまでだったん?」

 

「さすがのにこでも引くわね。アイドルだったら嬉しいことでしょうけど」

 

そのときの絵里はスクールアイドルとかはしていないからな。迷惑でしかない存在だ。

 

「そんな絵里の近くに男の俺がいるようになった。後はもう分かるだろ?」

 

嫉妬した連中が俺を呼び出して、これまた色々された。ほとんど反撃しないで好きなようにさせていたが。

 

「だが、あまりにも反応しない俺に対して苛立ちが募ったのかどんどんエスカレートしていった。まあ、所詮は中学生の力って感じだったけど」

 

「そういえるのはあんただけよ、遊弥……」

 

「まだ感覚が鈍っていたんですね……」

 

呆れているにこと悲壮感漂わせる花陽。

 

「穂乃果たちと違うのは絵里に知られないように隠し続けながら関わっていたことだ。穂乃果たち、愛華、鞍馬の次に気のいい関係が作れたのが絵里だったんだ」

 

互いに踏み込みすぎず、かといって遠慮し過ぎない。そんな関係が俺と絵里の間で出来ていた。家族や穂乃果たち以外で気を許せることが出来た人だった。

 

「さっきも言ったが所詮は中学生。俺からしたらやることなすこと幼稚だし非力だ。だから絵里が卒業していなくなるまで耐えることは造作もなかった」

 

しかし一つ大きな誤算があった。可能性すら考えていなかったこと、それは――

 

「卒業した後にも奴らは手を出してきたんだ」

 

絵里がいなくなればファンクラブも、嫉妬する奴もいなくなる。そう思っていて実際にそうだったのが大半だったのだが、俺に対する嫉妬は一部の人間の中で嫌悪に代わっていたのだ。

 

「絵里がいなくなってからすぐのこと、決定的なことが起きた。昼休みのときに誰かが俺を階段から突き飛ばしたんだ」

 

受身を取れなかった俺は階段から転げ落ちた。

 

「そして目を覚ました俺は自分の名前以外忘れていた。自分がされたことも、過去のことも、穂乃果たちのことも、絵里と過ごした時間も…なにもかも……」

 

俺の全てが抜け落ちたのだ。俺が俺であるためのものが忘却の彼方へと飛んでいった。

 

「ただ幸運なことに、そのときの俺には支えてくれる人がいた。助けてくれる人たちがいた」

 

爺さんや咲姉、愛華は自分の仕事や学校があるのに俺の記憶の手がかりとなりそうな話や物を毎日持ってきたり、穂乃果や海未、ことりは自分たちの受験勉強もある大変な時期なのにわざわざ俺のところに来てくれたりしてくれた。

それだけじゃない。クラスで多少なりと友好関係を築けた人たちも色々と協力してくれた。そのことについては感謝するばかりだ。

 

「これが身体の傷の理由。俺がいままで歩んできた人生だ」

 

『……』

 

皆は言葉が出ないようだった。あまり黙られるのも嫌なんだが、皆からしたら言い出し辛い話なのも分からなくはないから俺も少し困る。

 

「ゆうくんは」

 

数分の沈黙の後、最初に口を開いたのは穂乃果だった。

 

「ゆうくんはいまどう思っているの?」

 

「それは何に対してだ? 両親のことか? 暴力を振るってきた連中か? それとも――穂乃果たちや絵里に対してのことか?」

 

最後の言葉に穂乃果、海未、ことり、絵里はビクリとする。まるで何かを怖がっているように。

 

「私たちのことを含めて全部、かな。どんな言葉でも私たちは受け入れるから、正直に言ってほしいな」

 

だが、穂乃果がそういうと他の三人も意を決したように俺をまっすぐ見つめる。周りも心なしかどこか緊張した面持ちをしていた。

俺の一言でこれからの関係性が変わる、そんな風に感じているのだろう。だから俺はできる限りやわらかい雰囲気で言った。

 

「そう張り詰めた空気を出さなくてもいい。過去のことに関して四人のせいだと思ったり恨んだりしたことは一度たりともない」

 

「「「「えっ……?」」」」

 

「どうしてそんな意外そうな顔をするんだ、特に絵里」

 

絵里には編入前に言ったはずなのに、どうしてそんなに怯えていたんだか。

 

「だってそれは記憶が全部戻る前のことだったから…いま改めて考えたとき、どう考えているなんて分からなかったもの」

 

言いたいことは分からなくはないが、それにしてもなぁ……

 

「穂乃果たちも、なんで俺が穂乃果たちを恨むかもしれないって発想に至るんだ」

 

「だって、ゆーくんの状況をまったく知らなかったから…」

 

「私たちだってあのときに気づいていれば、もっと遊弥は早くに救われたはずです……」

 

ことりと海未の言い方には後悔の色が滲んでいた。穂乃果も口にはしないみたいだが、思いは二人と同じようだった。

 

「お前らなぁ……」

 

俺はほとほと呆れてため息しか出なかった。

 

「あの時こうしていれば、なんて今さらどうしようもないことで後悔したり俺に罪悪感を感じたりするのはやめろ」

 

「でも……」

 

「デモもストライキもないんだよ穂乃果。穂乃果や海未、ことりに絵里が知らなかったのも、そういう風に俺が考えて実行したんだ」

 

だから責任は全部俺自身にある。俺が背負っていかないといけないことなのだ。

 

「昔の行動の結果や責任は俺だけのものだ。誰にも渡さない。四人が責任の片割れを担おうなんて俺は許さない。罪悪感なんて以ての外。それだけは忘れるな」

 

そういうと四人はどこか悲しそうな顔をする。だが、言っておかないといけない。穂乃果たちはそれでもと踏み込んでこようとするから。

 

「ちょっと遊弥、あんたね。少しは――」

 

「にこっち、ストップや」

 

外野からにこが物申そうとしたところを希が止める。

 

「希、どうして止めるのよ!」

 

「にこっち」

 

ただにこの名前を言うだけの希。だが、その雰囲気はいつものものとは違うくらい真面目で何らかの説得力があった。そんな希に押されたのかにこは不満そうにしても引き下がる。

 

「ありがとな。希」

 

「礼はいらないで。どちらかというと、うちもにこっちと同じ気持ちやから」

 

そう少し俺に鋭い視線を向けてくる希。

俺はため息しか出なかった。本当に優しすぎだ。むしろ本来なら俺は穂乃果たちに責められるべき立場にいるというのに。

 

「まったく……恨むどころかむしろ感謝しているんだぞ? 俺は」

 

『えっ…?』

 

次は全員が呆気に取られていた。だから何でそんな反応になるんだよ。

 

「だって、わたしたちゆー君に何もしてあげられてないよ」

 

「言っただろ。あのときの俺は穂乃果たちとの関わりが支えだった。それに記憶を取り戻すためにわざわざ遠いところまで来てくれただろ」

 

それを何もしていないというのなら、一体何をすればいいのやら。

 

「絵里には前言ったとおりだ。中学の頃、絵里と過ごしたなんでもないように見える日々は当時の俺には新鮮で楽しいものだった」

 

それは絵里が無理やり生徒会に引っ張っていなかったらなかった話だ。

 

「だから感謝しているんだ。まあ、今だから言えることではあるんだけどな」

 

昔の俺は絶対に認めようとしなかったし、まず気づきもしなかったことだろう。

 

「あとは両親や暴力を振るってきたやつらについてだが、もう過去の話だ。いまになってそいつらを探し出して仕返しをしようとかどうにかしてやろうなんてことは微塵も思ってもいないし」

 

そんなことをしてもどうしようもないことなのはわかりきっているし、傷が治るわけでもなし。この先の人生でそいつらと関わることはまずないだろうから特に気にもしていない。

 

「それに色々あったが今はこうして普通に生活している。昔取り損ねたものを、取り零していたことを得ることが出来ているんだ。だからそう悲観はしていない」

 

過去にばかり囚われて、身動きできなくなるようなことはしない。これからは先へと進んでいくだけだ。

 

「さて、他になにか聞きたいことあるか?」

 

そう問いかけると皆は無言で首を振った。

 

「せっかくの合宿なのに暗い話して悪かったな」

 

「ううん、私たちが聞きたいって言ったんだからゆうくんが気にすることじゃないよ」

 

そう言ってもらえるのは幸いだ。

 

「それじゃあ時間も時間だから夜ご飯の準備をしようか。お詫びといっちゃなんだが、今日は俺が作るよ」

 

俺は一区切りつけるように手を打つ。

 

「えっ! いいの、ゆうくん!?」

 

「ゆーくんの手作り!?」

 

「本当ですか!?」

 

その瞬間、幼馴染たちが身を乗り出し、

 

「遊くんの手作り、興味あるにゃ~!」

 

「とっても楽しみです」

 

「……なんでもいいわ」

 

一年生たちは興味があるように、

 

「遊弥くんの、手作り……」

 

「ふふ、期待してるで」

 

「変なもの作らないでよ?」

 

三年生たちは期待するような目でそう言った。

 

「……」

 

なんだかハードルがすごい上がっているような気がする。俺が作ろうとしているのはただのカレーなんだけどなぁ。

 

「でも確か…買い出しにいかないといけなかったような……」

 

ことりの言葉に真姫が立ち上がった。

 

「なら、私がいってくるわ。店の場所知ってるのは私だけだもの」

 

「じゃあ、わたしも――」

 

「一人で十分よ」

 

最後まで言わせない真姫。どうしてそこでお願いできないのだろうか。

 

「真姫ちゃん。うちも行くわ」

 

そんな真姫の様子を見てか、希が流れを無視して立候補する。

 

「買い物がてら、この周辺を散歩してみたいし」

 

それらしい理由をつける希に真姫は怪訝そうな顔をしてる。すると希は俺に目配せをしてきた。

はいはい、と言わんばかりに俺も立ち上がる。

 

「俺も行く。というか俺がいかなかったらなに買うもの分からんだろ」

 

「そんなの、メモでもなんでも渡してくれれば――」

 

「どちらにせよ10人分の食料を持つ人員は必要だろ――ほらほら、いくぞいくぞー?」

 

「ちょっ、わかったから押さないでよ!」

 

俺と希は有無を言わさず、真姫を押して買い出しへと出るのだった。

 

 

 

 







いかがでしたでしょうか?
ではではまた次回に
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