ラブライブ! ~one side memory~   作:燕尾

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ども、燕尾っす。
ビールに合いそうな料理を募集中です。








面倒くさい人

 

 

 

 

 

夕日が落ちてきて、景色全体オレンジ色に染まっている中、別荘を出た俺たちは縦一列に並んで歩いていた。

 

「どういうつもり?」

 

そんな中、真姫が前を行く希に問いかける。

 

「真姫ちゃん面倒なタイプだなーって」

 

「あー、なんとなくわかるなぁ。確かに真姫は面倒くさいよな」

 

「なっ……」

 

同意する俺に真姫は驚きの顔をした。

だってそうだろ。わざわざつっけんどんな態度を取って、一歩どころか五歩ぐらい引き下がったような目で見ようとして、でもどこか羨ましいと感じている。それが面倒じゃないと思うのは余程鈍感な人間だけだ。

 

「なにが狙いなの」

 

「別に? 買い物の手伝いがてら散歩もしたいなーって。ほら、夕日が綺麗やん」

 

海の向こうにある夕日を眺める希の言い方は本当になんとも思っていないようで、本心を言っているように聞こえるが、実際のところは違うように俺には見えた。

 

「――皆と仲良くしたいのに、なかなか素直になることができない」

 

静かに歩みを進めていれば小さく囁かれた希の声もよく通った。

 

「なかなか大変やな?」

 

「わ、私は別に、普通にしているだけで――」

 

「そうそう、そうやって。自分にも他人にも嘘をついているところ。素直になれない証拠や」

 

そう言う希に真姫は確信を突かれたかのように言葉に詰まった。

 

「――っ、ていうか、どうして私に絡むの!?」

 

声を荒げる真姫。しかしそれは何とか反論しようとした捻り出した様に聞こえる。

そう思っていても俺は口には出さなかった。決してさっき睨まれた真姫からの報復が怖いわけではない。本当だぞ?

 

「ほっとけないのよ。あなたに似た子を私はよく知っているから」

 

いつもとはかけ離れた口調で答える希。そんな希に俺はつい口を出してしまう。

 

「シリアスっぽいこと言っているが、それってようはじぶん――」

 

その瞬間、前に居た希が消えた。それと同時に俺の胸元に、誰かの何かが添えられているのに気が付いた。

 

「ふふふ、遊弥くん?」

 

そして背後から聞こえてくる妖しい声。

 

「の、希さん…」

 

青ざめた顔で震える声を出す俺。後にいる希はとてつもなく笑顔だ。

 

「人がせっかく真面目な空気を出しているのに、どうしてそう雰囲気を壊すようなことを言うのかな…?」

 

「そう言うってことは希も実は図――うあぁ?!」

 

最後まで言い切ることもなく、俺は奇声を上げてしまった。

 

「空気読めない子にはお仕置きが必要やね。見せたるよ、今まで誰にもしたことのないワシワシ――ワシワシMAX ENDを」

 

「――」

 

夕日が照らすオレンジ色の海に俺の叫び声が響く。

 

「うっ、あ…あぁ……」

 

「……馬鹿じゃないの」

 

身体を痙攣させる俺に真姫の呆れた声は耳には届かなかった。

そんな俺を放置して二人は話を進めていた。

 

「まぁ、少しは無茶するのもいいんやない? 遊弥くん()みたいに。真姫ちゃんがいま言った"馬鹿"になるのも時には必要やで」

 

「……」

 

チラリと俺に視線をやってから歩みを進める希。それに対して真姫はなにも言わず、後を付いていくのだった。

 

――あの、俺を置いていかないでくれ。

 

 

 

 

何とか希と真姫に合流して買い物を終えたおれはすぐにキッチンに向かった。

 

「さて、それじゃあ早速作るとするか」

 

エプロンをつけて腕をまくり、俺は気合を入れる。

目の前には並べられた十人分の夕飯の材料。これだけあるとさすがに圧巻だった。

 

「ゆーくん、やっぱりわたしも手伝うよ? もともとはわたしが夕食の当番だし」

 

やんわりと手伝いを名乗り出てくれることり。

 

「気にするな。俺が言い出したことだし、皆でリビングでくつろいでいてくれ」

 

包丁を構えるとライトの光が反射して輝き、俺の姿が映し出される。

さすが西木野家。別荘でも調理器具の手入れは行き届いているようだ。

 

「んじゃ――いっちょやりますか」

 

俺は食材を手に取り、料理を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Honoka side――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

過去の話の後、夕飯作りを名乗り出たゆうくん。私たちは彼の手作りというのに惹かれてお願いした。

 

「「「「……」」」」

 

それでも何か手伝えることはないかと思い、私、ことりちゃん、真姫ちゃん、にこちゃんがキッチンへと足を運んだけど、料理を始めたゆうくんの姿に圧倒されていた。

目にも留まらない速さでの包丁捌き、効率よく洗練された動き、ゆうくんの作業に無駄と言う言葉はどこにもなかった。

 

「~~♪」

 

だというのに、当のゆうくんは鼻歌交じりに楽しそうに料理している。

 

「さて、こっちはしばらく煮込むとして――次はサラダでも作りますかね」

 

軽快な音がキッチンの中で鳴り響く。

 

「ゆうくん、料理上手だね」

 

「ん? ああ、生きるために必要なスキルだしな。まあそれだけじゃなくて、色々と思いついたりとかして色々なもの作るうちになんか楽しくなってな。今や趣味のようなものだ」

 

最初こそは必要だと思ってやっていたみたいだったけど、それでどんどん好きになっていたようだ。

すごいなぁ。私はそんなに料理しないし、上手じゃないからちょっと憧れる。それに料理する姿を初めて見るけど、チラリと見える横顔がやっぱりかっこいい。

こんな旦那さんがいたらそれこそお嫁さんは形無しだよね。

 

「「やっぱりもっと頑張らないと駄目かなぁ……」」

 

するとことりちゃんと声が重なった。どうやらことりちゃんも同じことを考えていたようだ。

 

「確かに、頑張らないといけないわね」

 

すると急に真姫ちゃんも同意し始めた。

 

「「えっ!?」」

 

真姫ちゃんがそんなこというなんて思ってもいなかった私とことりちゃんは驚きの声を上げる。

まさか真姫ちゃんもゆうくんのこと――!?

 

「何をそんなに驚いているのよ。こんな姿を見せられたら私だって女として少し落ち込むわ」

 

真姫ちゃんの話に私とことりちゃんはほっと胸を撫で下ろす。

 

「ことり、そこのバックの中にあるもの一式取り出してくれ」

 

「ふぇ!? こ、これ?」

 

「そうそれ。入ってるもの全部テーブルに並べてくれ」

 

「う、うん。わかった」

 

「あ、私も手伝うよことりちゃん」

 

ゆうくんの指示にしたがってゆうくんが持ってきたバックの中を見る。

バックの中には小瓶が沢山入っていた。

 

「ゆうくん、これってなに?」

 

私は小瓶を一つ掲げる。瓶の中には粉末状の何か入っている。他の瓶も同じく。調味料としては種類が多すぎるくらいだ。

 

「それはクミンだな」

 

「クミン?」

 

「スパイスの一つよ。ことりが持っているのはシナモンね」

 

にこちゃんはゆうくんが持ってきた小瓶を興味深そうに見ながら簡単に説明してくれた。

 

「正解」

 

「にこちゃんよく知ってるね?」

 

料理できないって言ってたのに。

 

「……まあ、知っていただけよ。それより遊弥、あんたずいぶんと本格的ね」

 

「本格的? にこちゃんはゆーくんが作るものが分かるの?」

 

「人参、玉ねぎ、じゃがいも、肉にこのスパイスだったら作るものなんて一つじゃない」

 

そこまで言われて私たちも気づいた。

 

「そっか、カレーだ!」

 

「あ~!」

 

「というか本気で気づいていなかったの?」

 

「あはは…」

 

声をあげる私とことりちゃんににこちゃんの呆れた視線が向けられる。

 

「私、スパイスから作るカレーって初めて食べるかも」

 

「わたしも。カレー屋さんとか行かないもんね」

 

「それならよかったよ。まあ、スパイスの配合は人それぞれ、千差万別。作り手によって味は変わる。それにスパイスから作るカレーは色々な効果がある」

 

「色々な効果?」

 

「ああ。消化促進、代謝の向上、疲労回復に――美容効果とか」

 

ゆうくんの言葉に私たち四人はピクリと身体が反応した。

ゆうくんによるとインドの人が美肌なのはスパイスのカレーを毎日食べているおかげだとか。

 

「そこで四人に簡単な質問いくつかするぞ。これからスパイスを混ぜていくけど、何を重点にしたい?」

 

「「「「美容効果!!!!」」」」

 

「はいよ」

 

即答する私たちにゆうくんは笑いながら作る手を速めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Yuya side――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おぉ~!!』

 

配膳の最中、皆は感嘆の声を漏らす。

作ったのはスパイスから作ったカレーとサラダ。それと焼きナスのバルサミコ酢和えだ。そんな大したものは作ってないのだが、喜んでもらえているのならそれで良い。

 

「花陽はどうして茶碗にご飯なの?」

 

「気にしないでください」

 

花陽の隣に座る絵里が花陽の目の前に置かれた山盛りの白米に目を点にさせている。

 

「心が真っ白なかよちんは白いご飯が大好きなのにゃ!」

 

そう言われると汚してみたくもなるのが人というもの。あの白米と一緒に花陽も汚して――ハッ! 殺気!?

 

「ゆーくん、おいたはいけないよ?」

 

「遊弥、園田流奥義を喰らいたくないなら今すぐその雑念を捨てることです」

 

「えっちぃのは駄目だよ、ゆうくん……」

 

「はい」

 

何で俺の思考が読まれたとか思い浮かぶがそんなことはどうでも良く、俺はただただひれ伏した。

そんなどうでも良いやり取りを交えながら配膳も終わらせて、皆で手を合わせた。

 

『いただきまーす!!』

 

皆でいただきますの挨拶をしてから、俺たちはそれぞれ夕食にありつく。

どれも好評だったようで、皆美味しいといってくれている。嬉しいことだ。

 

「ゆうくん、料理上手だったよね」

 

「あれぐらい慣れれば誰だってできる」

 

「いや、あれだけ効率良くできるのはそうそういないわよ。毎日やってる私だって無理よ」

 

「あれ? にこちゃん料理できないって言ってたような……?」

 

ことりの指摘ににこがうっ、と言葉に詰まる。そんなにこに更に真姫が追い討ちをかけた。

 

「言ってたわよー? いつもシェフが作ってくれるって」

 

「うぐぐ……」

 

そんなこと言ってたのか。見栄張って自分でボロだすあたり、とっさに出た言葉だったのだろうが……

 

「にこ、スプーンより重たいもの持てない~」

 

「……流石にそれは無理があるんじゃ?」

 

「というか今日バッグ持って来てたよな」

 

「うるさいわよ穂乃果、遊弥! 今の時代、アイドルは料理の一つや二つできて当然なのよ!!」

 

「開き直った!?」

 

「ま、できて損は無いものだから好きにさせればいいだろう」

 

「そんな悟っているような視線を向けるのやめなさいよ!!」

 

うがーっ、と声を上げるにこに俺は小さく笑う。

小さい頃の俺はこんな時間を過ごせるだなんて思いもしなかっただろう。

過去の話を聞いた皆からしたら俺の行動はやっぱり自己犠牲だと言われた。だがこの光景のために、こうして笑いあえる未来のために頑張っていたと考えられればあの時の俺は少しは救われる。そう本心から思っている。

 

「遊弥、どうしたのですか?」

 

隣に座っていた海未が物思いに更けていた俺を不思議そうに見る。

 

「ん? ああ。久しぶりに昔の話しをしたからか、少し感傷に浸っていただけだ」

 

「そう、ですか…」

 

海未はそれ以上は問いかけてこなかった。気を使ってくれたのだろう。そんな海未に悪いことじゃないとだけ言っておく。

 

「さて。おかわりは沢山あるからな、いっぱい食べてくれ! ちなみに皆が食べているそのカレーは穂乃果、ことり、真姫、にこの要望から美容効果の高いスパイスを中心に作っているぞ?」

 

そう言うと知っている四人以外は一瞬目を見開き、全員勢いよくカレーを食べ進める。

こうして賑やかな食事は進んでいくのだった。

 

 

 







いかがでしたでしょうか、感想、評価募集中です
では、また次回。




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