ラブライブ! ~one side memory~   作:燕尾

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ども、燕尾です。
65話目です。





分岐路

 

 

 

 

 

俺は天井をぼんやりと眺めながら考えていた。

考えるのはさっきまで電話で話していたことりのことだ。

 

「海外留学、か……」

 

ことりの話を要約すると、先月合宿が終わってから数日後のこと。海外の服飾関係の学校から留学のオファーが届いたらしい。

しかも今月内に返事を求め、ことりが頷いた場合、来月に来いという話だった。

 

「……」

 

相手も残酷なことをするもんだ。ことりを知っているということはスクールアイドルグループμ'sの活動をサイトで見ていることに他ならない。

活動理念など知らないまでもスクールアイドルをやっている人間にとって最も精力的になり重要な時期ぐらいは大人であれば気づくはず。

だというのにそれを無視しての海外留学のオファー。流石に空気読めてないにもほどがありすぎる。

だが、それはこっちの都合。スクールアイドルなんてものがない向こうには全く関係ないこと。

ことりが行くことを選択すればμ'sを抜けることになる。当然、ラブライブの本選も出ることはない。

今となっては自分ひとりだけの問題じゃない。ことりもそうだと感じているはずだ。そうでなければことりが俺に相談しなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゆーくんは…どうしたらいいと思う……?』

 

ことりからの問いかけ。その声は不安が(にじ)み出ていた。

しかし、その問いに俺が答えるわけにはいかない。アイドル活動しているのも留学の誘いが来ているのもことりなのだ。

 

「……"行くべき"、"行かないべき"なんて俺には答えられない。その話は雛さんにも言われたんじゃないか?」

 

おそらく俺に相談する前に、同じような質問を雛さんにもしているはず。そして普通に考えれば雛さんも俺と同じ答えを伝えているはずだ。

その考えが正しいと言うようにことりは小さな声でうん、と答えた。

それでも俺に電話してきたということはどうしたらいいのか答えがでず、せめてもの方針や考え方を知りたいのだろう。そのことりの気持ちも当然分かる。

 

「まず最初に――ことりはどうしたいんだ?」

 

とにもかくにも選べないというのはわかった。でもことりの考えを聞かない限りどうしようもない。

 

『わたしは……』

 

そう言ってから数分間、たっぷり時間を要した。

 

『こんな機会ないかもしれないって思うと、行ったほうがいいのかなって』

 

でも、とことりは続ける。

 

『ラブライブが目に見えて穂乃果ちゃんが、皆が張り切っているのに、留学するなんて、言えないよ…』

 

まったく答えになっていない、俺は心のなかでため息を吐いた。

 

「ことり。厳しいようなこと言うかもしれないが、二つに一つだ」

 

留学を蹴ってスクールアイドルを続けるか、スクールアイドルを辞めて留学するか。

 

「ことりがこの先、服飾で食って生きていきたいと言うんだったら留学はまたとないチャンスだ。いまのうちからトップレベルの場所で技術や考え方を学べると言うのは今後ことりの人生にプラスになってアドバンテージになるって考えてる。一方でμ'sは高校限りのアイドル活動。本物のアイドル、いわば芸能界を目指す意思がないのなら高校の部活と一緒だ」

 

「うん…」

 

「逆に、留学を蹴っても問題はないって考える。大学や短大、専門学校に行けば留学制度だってあるところはある。いま蹴ったらこの先絶対に留学できないとか、その道が全部閉ざされることなんてないわけだからな。皆と残りの高校生活を過ごしたり、スクールアイドルの活動は今しかできないことなんだ。だからそれを大切にしたいと言うのなら文句をいわれる筋合いもないってもんだ」

 

「うん…」

 

「俺が考えられるのはこのぐらいだな」

 

結局はことりがどちらを優先してどうしたいかだ。俺がこうしたほうがいい、ああしたほうがいいなんて言えない。ことりの人生に責任が持てないのだから。

 

『……ゆーくんは』

 

「ん?」

 

『ゆーくんは私が留学するって決めたらどう思う…?』

 

相槌だけを打っていたことりはようやく言葉を紡ぐ。それはさっきとは違う俺に対する問いかけ。しかし、本質的には似ている。だからそれに対する答えはすぐに出た。

 

「今まで見たいに顔を合わせられなくなるんだから、寂しくはなるな。だが、この先ずっと会えないわけじゃない」

 

現在はSNSやLaneのトークアプリ、ビデオ通話など通信手段が普及されているのだ。

 

「遠い場所だからって縁が切れることはない。俺たちがそうだったようにな。だからことりが本当に行きたいと望んで旅立つなら俺は背中を押すよ」

 

『そっか……』

 

ことりが発した短い一言は言葉上では納得しているように聞こえるが、どこか"そういうことではない"というニュアンスを感じられた。それがなんなのか俺はすぐに分かった。だが、俺はことりが本当に望んでいる言葉を言うことはできない。

 

「まだ返事の期限はあるんだろう? なら精一杯悩むといい。どっちを選んでも後悔するんだったら、本当にやりたいことを選んで後悔したほうがいいだろ」

 

『後悔するのは前提なんだね』

 

もちろん後悔しないのであればそれに越したことはない。

しかし後悔のない選択なんてできないのだ。悩んで、悩んだ末に選んだことにあのときこうしておけばよかった、ああしておけばよかった、とどこかしらで思ってしまうことがほとんどだ。

 

「未来のことなんて蓋を開けてみなければわからないんだ。それにどの選択が正解かなんて個人の主観でしかない。だからこそ自分の気持ちを一番に考えていいって、俺は思う」

 

『なんか…年季のある先生みたいだね。ゆーくん』

 

苦笑いしたような声色。だが、ある程度は気が晴れたというような感じだった。

 

「失敬な――まあ、あれこれ言ったけど、まずは自分の気持ちを紐解いてみろ。理由付けはそれからだ」

 

『うん、ありがとゆーくん…ごめんね、体調が悪いのに』

 

「気にするな。まだ休む必要はあるが調子はいいほうに向かっている。また悩むようなことがあればいつでも言ってくれ」

 

お互いにそれじゃあ、と交わして電話を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ことりはどうするんだろうな」

 

俺はごろんと寝返りを打ちながらことりのことを考える。

ラブライブ(μ's)自分の夢(留学)か――ことりは今、1つの分岐路の上に立っている。

ことり自身、こんなに早く選択を迫られるとは思っていなかっただろう。

だから俺に相談してきた。それなのに、

 

「俺も大概酷いやつだ」

 

そんな自嘲的な言葉が俺の口から漏れた。

どちらも大切だから、やりたいことだからこそことりは選べずに悩んでいた。そんなことはことりから話を聞いたときにはもう分かっていた。

そして彼女がどうしたいか、ことりが望んでいることも本当は気付いていた。だが、俺は口にしなかった。

ことりに自分で決めてもらいたかったから。そんな物分りのいいことを言って誰もが考えられることしかアドバイスしなかった。

 

だけど、

 

だけど本当は、

 

「後悔のない選択なんて、できないんだよ。ことり……」

 

そんな俺の呟きは、暗闇に溶けていくのだった。

 

 

 






どうでしたか?
ではまた。


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