どうも、燕尾です。
第六十九話目です。この後バイトです。
文化祭が終わり休日が明けた翌週。
集まっていた皆の雰囲気は暗かった。
部室には海未、ことり、真姫、花陽、凛、希、にこ、絵里、そして俺の九人。
ただ一人――穂乃果だけがいない状態だ。だが、俺は話を始める。
「さて、今日皆に集まってもらったのは他でもない。これからのことについてだ」
重苦しい中、俺は言葉を発する。
「単刀直入に言うとラブライブは辞退したほうが良いというのが俺の考えだ」
『……』
皆は無言だったが色々な反応だった。
仕方がないと思っているもの、納得できないもの、残念だと思うもの。
その反応を受けても俺と絵里の考えは変わらなかった。
「文化祭の一件で、
俺は理事長に言われたことを思い出す。
昼休み、俺と絵里は理事長室に呼ばれていた。
こんこん、とノックをすると奥の方からどうぞという声を聞こえてから俺たちは部屋の中に入る。
「「失礼します」」
「昼休みにごめんなさいね、二人とも。午後は会議があって時間が取れなくて」
「いえ、大丈夫です」
「絵里と同じく問題ありません」
「そう言ってもらえると助かるわ。あまり時間を取らせるのもあなたたちも困るだろうし、早速本題に入らせてもらうわね」
そういった理事長の空気が一瞬にして変わった。
「先日の文化祭の事についてよ」
そのこと場に俺も絵里もやはりかと思いつつも理事長の話を聞く。
「文化祭で行ったライブ。決して良い結果ではありませんでしたね」
文化祭で行った屋上ライブ。理事長の言う通り、結果は良くなかった。
それはお客が居ないとかダンスや歌が酷かっただとか、そういう単純なものではない。
最後までできなかったのだ――穂乃果が倒れるというトラブルが起きて。
「体調管理の甘さに仲間一人の調子を誰一人として分からなかったという状況把握不足。そしてそんななか雨の中でのライブ決行して起きたアクシデント。判断力がなさ過ぎると言わざるを得ません」
「「……」」
「いえ、判断力がないというより異状というべきですね。誰もがまともな判断ができない状況までいってしまった」
その指摘にぐうの音も出ない。
俺たちは立ち止まるという選択肢なんてはなから存在しなかった。目標のために突き進むのが正解なんだと言って振り返ることをしなかった。
「――無理をしすぎたのではありませんか?」
理事長の言葉が突き刺さる。
「こんな結果を招くために、アイドル活動をやってきたのですか」
「それは……」
絵里が反論しそうになったところで俺は彼女を手で制す。
「理事長の仰るとおり、言い訳のしようがありません」
理事長は目標のために頑張ってきた彼女たちを責めているわけではない。ただ、目標に辿り着くためという感情を優先しすぎて考えるべきことを考えていなかったのではないか、そういうことを言っているのだ。
「今回起きた事態の責任は俺にあります」
「遊弥くん!?」
驚きの眼差しを向ける絵里を置いて俺は続ける。
「俺は穂乃果の状態を知っていました。当然こうなる可能性も理解していました。それでも止めなかった」
知っていて俺は穂乃果を止めなかった。皆に話さなかった。彼女のライブに掛ける想いを優先した。
「感情に呑まれて、判断を見誤った」
体調管理や状況把握においても俺がしっかりと舵を取らないといけなかった。彼女たち(μ's)をサポートしていた者として。
「なので、責任は全て俺にあります」
「違います! 気付かなかった私たちだって責任はあります!!」
「絵里……」
「今回のことは遊弥くん一人のことじゃないっ。
怒り、迫ってくる絵里に俺は仰け反りながらもなにも言えなかった。
「絢瀬さん、少し落ち着きなさい」
「……っ、すみません」
理事長の一言で我に返った絵里は少し顔を赤くして俯く。
「まあ、責任とかそんなことはどうでもいいのよ。高校生が取る責任なんてありはしないのだから」
あっけからんとして理事長はそんなことを吐く。
確かに理事長の言う通り、俺たちが責任どうとか言ってもそもそも取れるものがない。そういうことより重要なことは他にもある。
「それより、今後はどうするつもり?」
「今後については話し合おうと思っています。アイドル活動をやっていく上の方針や――ラブライブに出場するかどうかも含めて」
一回見直さなければならない。そうでなければまた同じことが繰り返されるだけだ。
「俺たちは一度立ち止まる必要がある――そう思います」
「そう…確かにそうしたほうがいいわね。アイドル活動をする意味を見つめ直すこと、いいですね?」
「はい――」
「――というのが顛末だ」
「私たちは、全部において急ぎすぎたんじゃないかって思うの」
「理事長の言う通り、気付かないうちに無茶をしすぎたんだ。俺たちは」
俺と絵里の話に皆は一言も言葉を発せなかった。
「で、でも! だからといってどうして辞退までするのよ!」
しかし、そこで声を上げたのはにこだった。
「そんなことは次から気をつければいいことでしょう!?」
にこのラブライブへの想いは下手したら穂乃果よりも強い。なにせこの中でスクールアイドルというものに時間を注いできたのはにこなのだから。だが、
「それが慢心なんだよ」
「どういうことよ」
「にこ、お前は穂乃果が当日風邪引いていたことに気付いていたか?」
「それは…気付いていなかったわ……」
正直に言うにこはしゅんとする。
別にそれを俺が今さら責めるわけじゃない。しかし、
「理事長には言われたよ、異状だってな。穂乃果の体調のことすら誰一人として気付きもしない、いや、分かっていたとしても"止める"という普通の判断すらできていなかったことを」
それなのに「次から気をつけます」と言って誰が信じようか。
「今このまままたラブライブを目指しても同じことが繰り返されるだけだ。ラブライブに囚われ過ぎてまた失敗する」
俺たちはずっと走り続けていた。走り過ぎたと思ってしまうほどに。その冷却期間が一度俺たちには必要なのだ。
「でも…」
だが、にこは納得しない。彼女が引かない、いや引けない理由もある程度察している。
「悪いとは思っている――特に三年生たちには」
「っ、それがわかっててなんで辞退するって結論が出るのよ!」
「にこっち、少し落ち着き」
「落ち着いていられるわけないでしょ! やっとここまできたっていうのに!!」
それがにこの本音。
にこたち三年生にとっては今回開催されるラブライブが最初で最後になるだろう。だから諦めたくない、諦めきれない。そんな気持ちが滲み出ていた。
「同じことが繰り返されるなんて分からないでしょう!? あんただって未来が見えるわけじゃないでしょう!?」
「……そうだな」
「確かに失敗したけれど、それはこれから挽回したらいい話じゃない! たった一度の失敗で諦めるほうがどうかしているわよ!!」
にこの言っていることもわかる。失敗の挽回する方法なんていくらでも考えられる。
だがそれは彼女たちの中で不和を生んでしまう。穂乃果の一件でそれが分かっていた。
「なんと言おうと、俺の意見は変わらない。一度考える時間を持ったほうがいい」
「どうしてあんたはそう淡々と言えるのよ…!」
真っ向から対立する俺ににこは苛立ちを隠さない。
そしてそれはついに爆発する。
「ステージにも立ったことすらないあんたに! そんなこと言われたくない!」
「……」
「だから少し落ち着き、にこっち。声荒げても何にもならんよ」
希の制止を振ってにこは続ける。
「ずっと見ていただけのあんたには関係ないんでしょう! だから簡単にそう言えるんでしょう!?」
「にこっち、遊弥くんだって簡単に言っているわけじゃない。遊弥くんもちゃんと考えた上でそう言っているんや」
希がそういうもにこは聞く耳も持たない。
「あんたに、あんたなんかに――」
「にこっち、やめるんや!」
「――あんたなんかに私たちの気持ちなんてわからないのよ!!」
「にこッ!!」
「っ!」
絵里の大きな一声でにこはようやく止まる。
「言いすぎよ、にこ」
「――ごめん、つい……」
咎める絵里ににこはバツが悪そうな顔をして俯く。
「いや、別にいいんだ。絵里」
「別にいいって、いいわけないでしょう」
「いいんだよ、絵里」
そう言う俺に絵里は驚いた顔をした。
いや、絵里だけじゃない。他のみんなも驚いていた。
「あくまで俺の意見だから、どうするかは皆で決めろ。話は以上だ」
そう言って俺は荷物をまとめる。
「待って、遊弥くん!」
「遊弥、待ってください!!」
「俺は出て行く。後は皆で話し合ってくれ」
止めてくる絵里と海未に俺は淡々と告げて、俺は部室から出るのだった。
――Eri side――
「遊弥くん!」
私はにこたちを希に任せて、部室を出て行った遊弥くんを追いかける。
「遊弥、待ってください!!」
気がかりだといってといって着いて来た海未が遊弥くんの手を掴み引き止める。
「どうした、二人とも」
「どうしたって言うのはこっちの台詞よ。今の遊弥くんなんか変よ」
「なにがあったのですか、遊弥」
「なにもない。俺が居ると邪魔でしかなさそうだったから。席を外しただけだ」
「嘘」
私はバッサリと遊弥くんの言葉を切り捨てた。なぜなら、
「だったら、どうしてそんな傷ついたような顔しているのよ」
「どんな顔だそれは…」
「今にも泣きそうな顔よ」
「わからん」
遊弥くんは自覚がないのか、困ったようにしている。
「にこのことは本当に気にしていない。諦められないから出た言葉だってわかってる」
「遊弥…」
「にこが言ったことは――俺と皆の立場が違うのは事実だ」
「そんなこと」
ない、と言いたかったけど遊弥くんがすぐに遮った。
「そんなことあるんだよ。俺は皆のようにステージには立たないし表舞台には出ないから、だからそういう答えが出た。俺はラブライブに対して執着がないんだよ。にこの言ったことは間違ってない」
遊弥くんは吐き捨てるように言ってから雨降る空を仰いでポツリと洩らした。
「そろそろいなくなるべきだろうな、俺は」
「っ、どうしてそうなるんですか!?」
小さい一言を聞き取った海未が遊弥に詰め寄る。
「もう俺がいなくても、皆で決めてやっていける。そんなところに俺がいたら余計な不和しか生まれないだろ」
「意見の食い違いはよくあることよ。今回だって遊弥くんが間違っているわけじゃないじゃない」
少なくとも私もラブライブに関しては考えるべきだと思ってた。話の結果で辞退ということになってもそれは私たちが招いたことだからある程度の納得はできた。だから遊弥くんが悪いという話ではない。
「そうだとしてもそうじゃなくても、この先俺がいるのはマイナスにしかならない」
「どうしてよ、誰もそんなこと――」
私の言葉を遮って遊弥くんは首を横に振った。
「言わなくても、結果がそうだった」
「遊弥くん……」
「遊弥……」
「俺のして来たことは結局独り善がりだった。自分がいいと思っていたから押し付けてただけだった。手伝っていたなんて聞こえのいい言葉で皆や自分を誤魔化してたんだよ」
苦笑いしてながら言う遊弥くんに私たちは言葉をかけることができなかった。
「だから俺の言ったことは気にしなくて良い。皆が望むようにやればいいんだ」
まるでもう自分には関係ないというような言い方。
「俺が関わるのはこれで最後だ」
「っ、それってどういう――」
「じゃあな」
そう言って海未の手を放し、遊弥くんは去っていくのだった。
いかがでしたでしょうか?
ではまた会いましょう、またね!!