どうも、燕尾です。
お久しぶりです。
――Umi side――
文化祭が終わった翌週。結論を出した私たちは話をすることを含めて穂乃果の見舞いに行くことにした。
アイドル研究部全員で行こうと話をしていたのだが、遊弥は用事があると言って先に帰ってしまった。
遊弥にも私たちの結論を伝えた。
すると彼は一言だけ、そうか、とだけ言うだけだった。
見かけはまったくそんなことないのだが、遊弥は以前のことなどまったくなかったかのように振舞うようになった。私たちが遊弥とどう話をしていいのかわからなくなっているのを察してそうしているように見えるがそうではない。確信はないが断言できる。
今の遊弥は何を考えているのかまったく分からない。何を思って私たちといるのか、見えてこない。
この感じがなんだか気持ちが悪かった。胸の奥がなんだかざわざわして、嫌な予感が過ぎる。
遊弥がまた昔のように急に私たちの前からいなくなりそうで、それが私は不安で仕方がない。
「海未、ストップストップ!」
「え? あ……」
そんなことを考えていたせいか、穂乃果の家の前を通り過ぎようとしていたようで絵里に止められる。
「海未ちゃん、どうしたの?」
「い、いえ、少し考え事を……」
「考え事は仕方がないけど、外歩くときは気をつけんといかんよ?」
「ええ。そうですね」
希の注意を素直に受けて、私たちは引き戸を引く。
「あ、あら、いらっしゃい」
穂むらの暖簾をくぐると、新作の試食をしていた穂乃果のお母様――秋穂さんがで迎え入れてくれた。
「秋穂さん、穂乃果の調子は」
「一昨日まで熱は出てたけど、今朝になったらすっかり下がって元気になったわ」
秋穂さんの話に私たちは一安心する。
「あの子も退屈しているみたいから、少し上がっていって」
そういう秋穂さんに通されて私たちは穂乃果の部屋に向かう。
長居するつもりはなかったし、さすがに全員で行くのは迷惑なので、真姫たち一年生は待ってもらうことになった。
「穂乃果、入りますよ」
「あっ、海未ちゃんことりちゃん、それに皆も」
「よかった。起きられるようになったんだ」
「うん! 風邪だからプリン三個食べて良いって」
嬉しそうに言う穂乃果。穂乃果らしいといえば穂乃果らしいのだが、
「心配して損したわ」
「お母さんの言う通りやね」
そういうにこの気持ちに私は少し同調する。希もどこか苦笑い気味だ。
「それで、足はどうなの?」
「ん、ああ…少し挫いただけで、腫れが引いたら大丈夫だって言われたよ」
包帯を巻かれた足を見せる穂乃果。
痛々しそうに見えるが、本当に軽く挫いたぐらいで大したことないらしい。
「それより、ごめんね皆。私のせいで…せっかく最高のライブになりそうだったのに」
穂乃果の一言に、私たちも少しも眉を顰めた。
「穂乃果のせいじゃないわ。私たちのせいよ」
穂乃果の責任というのは否定できない。だけど、それを言うなら穂乃果のことを気付かなかった私たちもにも責任はある。
いうならこの場にいる全員が悪いのだ。穂乃果だけの責任ではない。
「でも」
「穂乃果、これ」
そういう穂乃果に絵里はあるものを差し出した。
「CD?」
「真姫がリラックスできる曲を作ってくれたの。今はそれ聞いてゆっくり休んで」
わぁ、と目を輝かせた穂乃果は急に立ち上がり部屋の窓を開ける。
「真姫ちゃん、ありがとー!!」
「ちょ、穂乃果! なにやってんの!?」
「あんた風邪引いてるのよ!!」
とんでもないことをしでかす穂乃果を絵里とにこの二人が引っ張り戻し、ことりが窓を閉める。
「ごほっ、ごほっ!」
「ほら、病み上がりなんだから無理しないで」
私はちーんと鼻をかむ穂乃果にブランケットを被せる。穂乃果はごめんごめん、と暢気に笑いながら謝る。
「明日から学校に行けると思う。だからさ――」
穂乃果は基本的にポジティブだ。そして彼女は私たちや自分の置かれている状況を知らない。
「もう一度ライブできないかなって」
だからこそ穂乃果はそれを言った。
「ほら、ラブライブ出場グループ決定までまだあるでしょ? なんていうかその、埋め合わせっていうか、なんかできないかなって」
穂乃果の言い分は最初遊弥に言われたときに私たちも一度は考えたことだ。
だけど――
「穂乃果」
空気が沈んでいくのが感じられる中、絵里が口を開いた。
「ラブライブには――出場しません」
「え……」
呆ける穂乃果に絵里は続ける。
理事長に言われたこと、遊弥に言われたことを。絵里は掻い摘んで話した。
「だからラブライブのランキングにμ'sの名前はもう無いわ」
「そんな…」
「私たちがいけなかったんです。穂乃果に無理をさせたから」
予想以上に落ち込む穂乃果に私はそういったが、穂乃果は力なく首を横に振った。
「ううん、違う。私が調子に乗ったから」
「穂乃果ちゃん……」
「誰が悪いなんていっても栓無いこと、あれは私たち全員の責任よ。体調管理を怠って無理をした穂乃果も悪いけど、それに気付かなかった私たちも悪い」
「違う、違うの…本当に私が……」
「えりちの言う通りや。自分だけを責めたらあかんよ、穂乃果ちゃん。今回のことは皆が反省することや」
それでも自分を責めようとする穂乃果を希が止める。だけど、
「違うんだよ!!」
穂乃果の大きな声に私たちは驚き止まる。
「違うの…私のことに気付いていた人が、ちゃんといたんだよ……」
「それって――」
「それなのに…私は…」
うな垂れながら言う穂乃果に私たちはその気付いていた人が誰なのかすぐにわかった。
「遊弥となにがあったんですか」
そう問いかけるとしばらく口を閉ざしていたが、穂乃果はポツリポツリと語り始めた。
遊弥が復帰してからの練習に不満に思っていたこと。前日、雨が降っていたのに走りに行って、それを止めようとした遊弥に言ったこと。
そして当日、遊弥にだけは風邪を引いていたことが知られていたこと。
「ゆうくんは大切なことをちゃんとわかってた。なのに私はそれをちゃんと聞かないで酷いこと言ったんだ。私がしっかりゆうくんの言うことを聞いていればこんなことにならなかった」
後悔している穂乃果に私は開いた口が塞がらなかった。そんなことがあったことすら知らなかった。
「穂乃果」
なんて声を掛ければいいか悩んでいたところで絵里が穂乃果の肩を掴んだ。
「遊弥くんが気付いたとしていても変わらないわ。今回は皆が反省することよ。いえ、遊弥くん以外の皆が反省することね」
絵里は存外に私たちに気を使わないようにと言っている。穂乃果と遊弥の間であったことは私たちとはまた別なのだからと。
「だから自分を責めないの。後悔し続けてて、自分を責め続けるぐらいなら――そうね、今度遊弥くんにちゃんと謝ること」
「絵里ちゃん……」
「いい?」
「うん…」
半ば強引という形だが、頷く穂乃果。
「とりあえず、穂乃果ちゃんも整理したほうがよさそうやしうちらも長居してもいかんから、そろそろお暇しよか」
そう言って、私たちは穂乃果の家を後にするのだった。
――Honoka side――
私はパソコンをじっと見つめる。
ラブライブのランキングサイト。絵里ちゃんの言う通り、そこには前まであったμ'sの名前は無かった。
スクロールしても私たちのグループ名は見つからないから順位が急落したわけでもない。本当にラブライブの出場をやめたのだ。
絵里ちゃんが嘘を言ったとは思っていなかった。だけど、嘘であって欲しいという藁にも縋るような気持ちが、未練が残っていたのだろう。諦めが悪いとも言える。
しかし、目の前にあるのが現実だ。
「……やっぱり、駄目だよ…絵里ちゃん……」
どうしても後悔してしまう。
最高のライブにするはずだったのに。そのために私は頑張ってきたのに、私自身が最悪なものにしてしまった。全部台無しにしてしまったという念が消えない。
「ゆうくん……」
私はずっと、ちゃんと私を見てくれていた人の名前を呟く。彼はいつだって私たちのためを思って行動してくれていた。それを私は、差し伸べられた彼の手を振り払って、酷いこと言って、自分勝手なことをした。その結果がこれなのだ。全部ゆうくんの言う通りだった。周りが全然見えていなかった。
「う…く……」
目の前が霞み、滲んでいく。
ここまできたのに、私の手で壊してしまった。
私はそこからこみ上げてくるものを押し込もうとする。
「ぐっ…うぅ……」
泣いちゃ駄目、そんな資格なんて私には無い。
必死に我慢する。だけどそれに反して雫は頬を伝う。
「うう…あぁ……」
溢れる涙はしばらく止まらなかった。
――Eri side――
「おはよう、希、にこ」
「おはよう、えりち」
「おはよう」
ある日の朝、私はいつものように希とにこの二人と合流する。
「それでさ~」
「そういえば――」
「へぇ、そうなんやね」
他愛ない会話をしながら学校へと向かう私たち。
学園祭が終わってから数日が経ち、いつもの日常へと戻りつつあった。
学校へ行って授業を受け、友達と談笑しながら過ごし、そして放課後は部活動。
ラブライブの出場を辞退したとはいえ練習は欠かしていないし、アイドル活動も続けている。
私たちは普通の学生の日常を過ごしていた。
ただ、いくつか気になることが増えた。
「あれ、あの前に居るのって穂乃果ちゃんとことりちゃんやない?」
そのうちの一つが目の前にいた。
「本当ね。だけど――」
私たちは彼女たちの様子にため息を吐く。
穂乃果はフェンスに張られているラブライブ本選出場を決めたA-RISEのポスターを考え込んだように見つめ続け、ことりはそんな穂乃果に何かを言おうとしながらも言えないでいる。
「相変わらずやね」
希が見たままのことを言った。
「学校に復帰してからずっとあんな感じじゃない」
にこも呆れたように言う。
二人の言う通り、穂乃果は復帰してからずっとあんな感じだった。ラブライブのことを引き摺っているのだ。
「――希!」
そんな穂乃果に目を細めながらにこが希に目配せをする。
「任せといて!」
「ほどほどにしなさいね」
手をわきわきしながら穂乃果の元へと駆け寄る希。このあと穂乃果がどうなるかが簡単に予想できた私はちょっと釘を刺しながら後に続く。
「わー!!!!」
「希ちゃん!?」
「ぼんやりしてると次はアグレッシブなのいくで?」
「い、いえ…! け、結構です……!!」
穂乃果は顔をひきつかせながら首を横に振る。
「あんたも諦め悪いわね。いつまでそのポスター見ているのよ」
そう言うにこも最初こそは結構落ち込んでいたがいまはもう気持ちの切り替えができていた。
「うん、わかってはいるんだけど……」
「けど?」
「けど……」
穂乃果の様子に"わかっていない"と判断を下したにこはため息を吐いて、
「希!!」
希に指示する。
「いひひひひひひ」
「わー!? 結構ですぅ!!」
妖しい笑いを上げる希に穂乃果は自分の身体を守るように抱きしめる。
「そうやって元気にしていれば、みんな気にしないわよ」
「絵里ちゃん……」
「それとも、皆に気をつけかって欲しい?」
私は少し意地の悪い言い方をする。
「そういうわけじゃ、ないけど……」
穂乃果自身逃がした魚は大きいと感じているというか、どうも煮え切らない返事だ。
私だって最初は穂乃果と同じように思っていた。だけど今は本当に過ぎたことだ。後悔しても眺めていても私たちがラブライブに出場することは絶対無い。それにスクールアイドルの活動は何もラブライブだけではない。ならできることをしていったほうがいいと思うようになったのだ。
「あんた、今日から練習に復帰するんでしょ。そんなテンションで来られたら、迷惑なんだけど?」
こういうときのにこは下手に取り繕わず、きちんと自分の本心を言ってくれている。
「……そうだね。いつまでも気にしてちゃ駄目だよね」
それを感じ取れるからこそ穂乃果も元気を出すように頷いた。
「そうよ。それにラブライブも目標だったけど私たちの目的は――」
私は階段の先にある学校を見つめる。
音乃木坂学院の存続。それを成し遂げるために私たちは頑張っているのだ。
「――この学校を存続させること、でしょ?」
穂乃果も、スクールアイドルを始めたきっかけを思い出しているのだろう。音乃木坂学院をじっと見つめ頷く。
「穂乃果ー!」
そこに穂乃果の同級生――いつもライブの手伝いをしてくれているミカさんが声を掛けてくる。
「昨日メールしたノートはー?」
「うん! いま渡すー!!」
どうやら休んでいたときのノートを借りていたようだ。
「それじゃあ絵里ちゃん、希ちゃん、にこちゃん、ありがと! ことりちゃん、いこ!!」
「う、うん…!」
ミカさんたちの元に行く穂乃果とその後を追うことりを私たちは見守る。
「あの様子なら、大丈夫そうやね」
「まったく、世話が焼けるんだから」
「後輩の面倒を見るのも先輩の勤め。普段にこは先輩らしいことできていないんだからこういうときに見せていかないと、ね?」
「ぬぁんでよ! ちゃんと先輩してるでしょうが!」
「私たちも行きましょうか」
「せやね」
話を聞きなさいよ! と叫ぶにこを尻目に、私たちも学校へと向かうのだった。
――Yuya side――
「失礼します」
放課後。俺は理事長室へと呼ばれていた。
そこには理事長である雛さんはもちろん、学院長の乙坂亜季までいた。
「わざわざ来てもらって悪いわね」
「いえ、大丈夫です。それでこの学校のトップ2までそろって俺に用件とは?」
聞かなくてもわかるのだが、建前上言っておく。
「口を慎みなさい。萩野遊弥」
俺の言い方が気に食わなかったのか学院長が注意してきた。
「いえ、今まで
「……」
無言で俺を睨む学院長。おお、怖い怖い。なかなかの迫力だ。
理事長は俺を止めるように呼び出した理由を口にする。
「あなたに来てもらったのはこれが理由よ」
理事長から渡されたのは中学生の進路資料。だがこの前に見たものとは違い、より詳しく書かれていた。
「ああ。なるほど」
パラパラと読み進めていく間に理事長の説明が入る。
「学園祭後の中学生アンケートの結果と進路情報よ。嬉しいことに音乃木坂学院に進学したいという子達が増えたわ」
「ふむ、この分なら大丈夫そうですね。
「ええ、彼女たちには感謝してもしきれないわ」
読みながら言う俺に頷く理事長。
そして理事長は誰もが望んでいた、決定的な言葉を発する。
「この結果を受け、我が音乃木坂学院は来年度入学者の受付をすることにしました」
――ただし、女子生徒のみです
女子校としての存続の宣言。ならば当然、次に来るのは、
「それに伴い共学化を中止し、萩野遊弥くん――あなたを退学とします」
改めて言われるまでもない、わかりきっていた話。
別に残念とは思わない。女子校として存続するのであれば男の俺は邪魔でしかない。
「わかりました」
だからなんら感情のない言葉で返す。
「正式な退学の日はいつですか?」
「それは追って連絡することになります。だけれど――あなたは本当にそれでいいの?」
以前にも言われたこと。理事長――雛さんは今も俺のことを心配してくれているのだ。
「あなたが望むのなら、卒業までこの学院に――」
「理事長」
理事長の話を遮ったのは学院長だった。
「彼の退学はもう決まったことです。理事長とはいえ覆すことは許されません」
「……」
学院長に言われ、なにもいえなくなる理事長。
やはり職員たちの間では俺が居る意味はないと判断しているのが多いのだろう。
「あなたには申し訳なく思います」
そんなことひとかけらも思ってないくせによく言う。
「ですがあなたはもうこの学院には居られないのです。ご理解ください」
――歓喜
学院長の瞳には歓喜の感情が映っている。
ポーカーフェイスもここまで来ると少し尊敬してしまうわ。
「話は以上です。戻って結構です」
「失礼します。理事長」
追い返すように言い放つ学院長を無視して俺は理事長室を後にするのだった。
いかがでしたでしょう?
亀更新ですがお付き合いありがとうおございます。