ども、燕尾です。
73話目です。
最近寒くなってきたので皆さん風邪には注意しましょう
――Yuya side――
「――以上でHRは終わりだ。じゃ、解散」
「遊弥」
いつものホームルームを終えて帰り支度を済ませると海未が席までやってくる。
「どうした、海未」
普通に返しただけなのに、海未はどういうわけか不安そうな瞳で俺に問いかけた。
「今日、来てくれますか……?」
来てくれるかどうか聞いているのはこの後部室で開かれる学校存続パーティーのことだろう。廃校を回避したことを祝ってのパーティーをしようとμ'sのグループLaneから連絡が来ていたのだが、俺は保留としていたのだ。
「ああ――だけど、参加は後のほうになる」
「そう、ですか……」
そんなしょんぼりされると罪悪感が凄い。だが、海未のその様子はそれだけじゃなかった。
「やはり…気まずいですよね……」
なんか変な勘違いしている海未。恐らくは学園祭の一連のことを気にしているのだろう。
あれに関しては俺は気にしていない。それを伝えてはいるのだが、にこや穂乃果を筆頭に皆どこかよそよそしくなっていた。
「そうじゃない。この後は山田先生に呼ばれてんだ。それと理事長とも話をしないといけないんだ」
「そうなんですか?」
「萩野の言っていることは間違っていないぞ園田」
すると俺と海未の間に急に山田先生が割り込んできた。
「お前たちの愛しの萩野は私が預かることになった」
「愛しっ…!?」
俺の肩に腕を回してしな垂れかかって来る山田先生。
ぐでーっと体重をかけてくる先生に少し俺は苛立つ。
「先生、背負い投げしますよ」
「おい萩野、少しは年上を敬え」
「重いと言わなかっただけマシだと思ってください。それとこの体勢、俺に負荷かかって辛いです」
「遠まわしに言ってるぞ。その単語は女性に対して禁句だからな?」
「わかりました、俺が悪かったですから関節極めないでください!」
イタイイタイイタイ。最近の女性は関節極めるのがブームなのか?
「そういうわけだ。悪いな園田」
「い、いえっ! そういう事情なら仕方ないですから。ただ、あまり遅くならないでくれると助かります」
「ああ。善処するよ」
「またな。海未」
そして俺は連行される罪人より酷い扱いで山田先生に連れられていった。
「理事長、萩野を連れてきました」
「どうぞ、入ってください」
失礼します、と一言断りを入れて理事長室に足を踏み入れる。
ここ最近、理事長と話をすることが多くなった気がする。
「こんにちは遊弥くん。変わりは?」
「ありません。いつも通り――ですけど、ここに来るときずっと山田先生に関節を極められました」
「おい、萩野ッ――!?」
「へぇ…そうなんですか? 山田先生?」
「それは、その……」
隣で冷や汗をダラダラたらして恨みがましく目を向けてくる山田先生。
「やだなぁ、ちょっとしたスキンシップって奴ですよ理事長」
「スキンシップで関節極められてたまるか」
「元はといえばお前が女性に対して重たいなんて言うからだろう!」
「だからといって肉体言語で返してきますか普通?」
「デリカシーのない奴はそれくらいが一番ちょうどいいんだよ!!」
「開き直らないでください」
ぎゃあぎゃあと言い合う俺と山田先生。
ここがどんな場所なのか、そして誰がここにいるのか完全に忘れていた。
「こほん」
「「あっ……」」
だから理事長が咳払いした瞬間俺たちは硬直した。
「生徒と教師が仲いいのはいいことですけど、ほどほどにしてくださいね?」
「はい…」
「すみません……」
なんとも言いがたい威圧感。顔は笑っているのに目が全然笑っていない。なるほど、ことりの元祖はこの人か。黒いオーラがかすかに広がっている。
「それで、俺をここに呼んだということは決まったんですか?」
雛さんは俺の問いかけに静かに頷いた。
「ええ。あなたの退学に関する正式な日にちが決まりました」
「……」
その話を知っているであろう山田先生は眉を顰めて黙っている。
「それは、いつ?」
「今月の末です」
「今月の末……随分と遅くないですか?」
手続きなんてそう時間は掛からない。なんだったら来週でもいいはずだ。
これには何か意図があるしか考えられない。
その理由を理事長は隠すことなく話した。
「今月は修学旅行やそのほか行事の事前準備でバタバタしてるの。だから此方が落ち着くまで待ってて欲しいの」
「……」
確かにこの時期は色々と行事が入っている。理事長だけじゃなく他の教員たちも大変な時期ではある。
「行事の事前準備、ですか」
「ええ」
理事長はすぐに頷いたがそれは建前なのだと俺はすぐに気づいた。まっすぐ見据える俺に一切のブレなく見返す理事長。
「……」
ちらりと瞳だけを移して山田先生を見ると彼女はうっすらと汗をかいている。
「……それなら仕方ないですね」
気づかない振りをしてそういう俺に対し気づかれないように極小さな安堵の息を洩らす山田先生。
「でも大丈夫だったんですか? 学院長たちは反対したでしょう?」
俺の退学が決まって喜んでいたところに水を差されたようなものだ。何か動きがあってもおかしくはない。だが、理事長曰くその心配は気鬱らしい。
「それは大丈夫よ。大人しくするように言っておいたから」
そう言いながらも小さく微笑む理事長。怖い。怖いわ。
「だからといって油断できないけどね。向こうも自分の望む結果が得られたから不満はあれどうるさく抵抗しなかったんでしょうし」
「そんなことしなくてもいいんですけどね。なにもしてないのにそこまで嫌われてることに今さらながら驚きですよ。過去に男絡みで何かあったんですかね?」
「そこまでは私にもわからないわ」
まあ、あの学院長のことなんてどうでもいい。興味もない。
「とりあえず、俺は今月末までというのはわかりました。このこと、爺さんには伝えてます?」
「厳さんには伝えているわ。その事で言伝ても貰ってるの」
「言伝て?」
俺の携帯に連絡すればいいのにどうして雛さん経由なんだ。あの爺さん。
「えっと、爺さんはなんて?」
「"遊弥のやりたいようにするように"と」
「また随分と適当な言葉なこった」
「遊弥くん。厳さんは――」
「皆まで言わなくて大丈夫です。ここで勘違いするほど恩知らずでもないですし、そんなこと言う人間なら最初から俺や愛華を保護しませんよ」
俺たちは自分の家族以上に鞍馬の家を知っている。
こっ恥ずかしいからこれ以上は言わせないでほしい。
「他に話はありますか?」
「いいえ、これで全部よ」
「それじゃあ残りの期間、よろしくお願いします」
一礼して俺は理事長室を後にするのだった。
「いいんですか理事長。あのままで」
「いいもなにも、私にはもうどうにもできませんから」
「そうですが…あいつは……」
「山田先生は納得できませんか?」
「当たり前でしょう。私だけじゃありません。共学に反対してない人は皆同じ気持ちですよ」
「ですが決定事項を一個人の為だけに上の人間が勝手に覆すことはできません。それをしてしまえば組織として成り立たなくなってしまいます」
「……」
「私的な立場で言えば遊弥くんには本当に申し訳ないと思ってるわ。高校という大切な時間を私たちの都合で振り回してるんですから。それでも、私たちは
「あの場で覆せなかった時点でもう後の祭り、というわけですか」
「そういうことね。だからこそ何とかしたかったのだけれど、流石に分が悪すぎたわ。女子校に男の子がいるのは誰の目から見てもおかしな話ですから。でも……」
「でも?」
「いつだって学校というのは生徒のためにあるものです。生徒たちが望むのであれば考え直さなければいけません」
「それは、もしかして」
「ええ、後は彼女たち次第。私たちができるのはその後処理ぐらいです」
「……私にできることがあれば微力ながら手伝います」
「ええ。お願いします――」
「大分時間経ったな……」
放課後になってからすぐに理事長室に向かったのだが、思いのほか時間が過ぎていた。
山田先生とのやり取りが余計だったか。うん、余計でしかなかったな。
とにかく早めに行かないとにこあたりに文句を言われそうだ。
アイドル研究部の部室に向かっていると部室があるほうから離れるように走る子が見えた。
「ことり――?」
ことりに似た誰かではなく間違いなくことりだ。だが、様子がおかしかった。
彼女は今にも泣き出しそうな顔で俺の横を通りすぎようとする。
「待て、ことり!」
「――っ! 放して!!」
ことりの手を掴むが、それを振り払おうとすることり。だが、そこは男女の差。俺の手が振り払われることはない。
「落ち着け。部室で何があったんだ」
「……」
逃げられないのがわかると次は黙秘に移ることり。
「……留学の件か?」
「っ!!」
しかし、言い当てるとことりはあからさまな顔をした。
わかってはいたがことりも腹芸は得意ではないみたいだ。それだけで大体わかった。
「するんだな。留学」
「……うん」
「それで穂乃果にだけは言わなかったんだな」
「それはっ……穂乃果ちゃんの気持ちに水を差せなくて……」
「……」
本当にそうだったのだろうか。
いや、あのときの穂乃果に言えなかったというのはわからなくはない。だが、それを考えても本当に留学を望んでいるのであれば例え水を差すことになっても言うべきだったと思う。
「ことり」
だからこれだけは聞かないといかない。
「ことりは本当に留学したかったのか?」
「……」
「ことりは――いや、実際には留学には魅力を感じていたと思う。だけどそれを今するのは違うって思ってたんじゃないのか?」
「わ、わたしは……」
「ことり。ことりは自分の気持ちで留学を決めたのか?」
「……」
俯くことりに俺はハッとする。
「いや、悪い。ことりが決めたことに俺が何言っても良くないな」
「……っ!!」
同じ間違いはしたくない。こんなのは結局俺のエゴでしかないのは分かったのだから。
俺が送るのはそんな言葉じゃない。
「頑張れよことり。その留学はいい経験になると思う」
「やめて……」
「俺は応援しか出来ないけど」
「やめてよ……」
「成長したことりの姿を見れるのを楽しみにしてる」
「――ッ!!!!」
その瞬間、乾いた音が響いた。
「……!?」
ことりが手を振り上げたのすら気づかなかった俺は頬を叩かれたことがわかっていなかった。
それに気づいたのはことりの振り切った手と彼女の瞳から流れる涙を見てからだった。
「ゆーくんだけは違うと思ってたのに……」
「……」
ことりの言葉に俺はなにも言えない。
「ゆーくんのばか!」
そんな短い言葉を残してことりは走り去っていく。
彼女の後ろ姿を俺は呆然と見つめる。
俺は、何を間違えたのだろうか。
穂乃果のときは自分のエゴを押し付けて彼女の意思を無視していた。
だから同じ過ちを犯さないように、気を付けたのに。
ことりの顔を見れば俺のしたことはまた間違いだったのだと嫌でも実感させられる。
やはり俺がいるのは良くないんだろう。
丁度いい。ことりが居なくなることを伝えたのだから俺も伝えよう。
俺はそう決意して部室へと向かう。
そして部室に入れば本来ならお祝いムードのはずが、真逆の通夜のような雰囲気だった。
「よう。わかってはいたが暗いな」
「ゆうくん…その顔……」
「さっきことりに叩かれた」
ことりが手を上げたということに皆が驚く。だが一人だけ、驚く以上に怒っていたのがいた。
「あなたはことりに何を言ったのです!?」
海未は剣幕な表情で俺に詰め寄る。
「変なことは言っていない。ことりの決めたことだから
それがどういう意味を含んでいるのかわかっている海未はさらに顔を歪ませる。
「どうして…どうしてそれを言ったんですっ……! ことりの気持ちに気付いてないあなたではないでしょう!? それに、あなただって……!!」
「俺はことりから本音なんて何一つ聞いていない。俺の推測でしかないこと言ったって意味ないだろ。自分の考えを押し付けて、相手のやろうとしたことに異を唱えて、俺は
人の気持ちを推し量って、勝手に決め付けて、押し付ける。それがどれだけ愚かだったのか俺は知った。
だから言ったのだ。ことりが決めたことなら、と。まあそれも間違いみたいだったようだが、もう何を言ってもしょうがない。
「ことりが留学のことを話したのならちょうどいい。俺からも話がある」
「話って、なんです……」
怒気をはらんだ声で返す海未。
「さっき理事長室で話したことだ」
「理事長室? 月一の報告はこの間したじゃない。あんた理事長と何を話したっていうのよ」
にこがそう問いかけるが、どういう話かわかった絵里と希が目を見開く。
そして俺はためらうこともなく、ただ事実を言った。
「俺は、この学校から出て行くことになった」
『……え?』
「だから俺は音乃木坂学院を出て行く――退学することになった。退学日は今月末だ」
それを言った瞬間、この世界から音が消えた気がした。
「ゆ、遊くん。その冗談は寒いにゃ…」
「冗談なんかじゃない。本当の話だ」
辛うじて返す凛に俺はきっぱり言い切る。
「ど、どうしてゆうやくんが退学するんですか…?」
戸惑ったまま花陽がその理由を聞いてくる。
「俺がこの学校に相応しくなくないからだ」
「意味わかんない。学生が学校通うのに資格なんてないじゃない」
残念ながら真姫。あるからそう言っているんだ。言い方を少し変えたほうがいいようだ。
「俺がこの学校にいる意味がなくなったんだよ。俺がどういう目的でこの学校に編入してきたのか忘れたのか?」
そこまで言えば皆気付くわけで、絵里と希を除く全員が驚きの表情で俺を見つめた。
「この学院が存続することが決まった以上、俺がここに居られるはずないだろ」
『……』
まったく気付いていなかったのか、皆呆然としている。
「で、でも! ゆうやくんこれからどうなっちゃうの!?」
一足先に現実に戻ってきた花陽が今後のことを聞いてくる。
「京都に戻る」
『!!!!』
「今すぐじゃないけどいずれはそうなる。爺さんからはやりたいようにしろって言われたから知り合いのカフェでバイトさせてもらうつもりだ」
『……』
反応は皆一様だった。だが――
「ゆうくんも……いなくなっちゃうの……?」
穂乃果だけは違った。
彼女はこの世の終わりのような、まるで世界に絶望するような顔をしていた。
「ゆうくんは、こうなることがわかってたの……?」
「……」
「ゆうくんは最初からこうなることがわかってて、私たちを手伝ってたの?」
「ああ。穂乃果たちの活動と俺の存在意義が正反対なんて
それを知っていてなお、俺は皆の活動を手伝った。
「どうして……どうしてッ!!」
それが穂乃果には理解できなかったのだろう。
「それがわかってて、どうして私たちのことを手伝ったのッ!?」
「――」
穂乃果は俺の胸ぐらを両手で掴み凄んだ。熱くなる穂乃果に対して、俺の心は逆に冷えていった。
「ふざけるなよ」
想像以上に底冷えした声に正面から受け止めた穂乃果はもちろん、皆が驚いていた。
「それを穂乃果が――お前が言うのか?」
「――っ!」
「やっぱりお前はなにも知らなかったんだな。いや、知ろうともしなかったんだろ」
ただひたすらに前を見続けること。それは裏を返せば周囲に目を向ける事が少ないということだ。
だからわからない。周りを見ることが、人に気を使うというのが少ないのだから。そしてそれは自分が熱中するほど顕著になっていった。
「だから俺のことも、ことりのことも気付かなかった。お前は目の前のことだけを見過ぎて他のことを蔑ろにしたんだ」
「わ、私は……」
「遊弥、知らなかったことに関しては私たちも同じですっ。穂乃果だけを責めるのは違います!」
海未が異を唱えるが、そういうことじゃない。
「……別に俺のことはどうでもいい。スクールアイドルを手伝ったのなんて結局は成り行きとただの俺の自己満足だったんだから。たが、ずっと一緒だったことりにまで最後まで気を使わせて、悩みの一つも打ち明けられないようになっていたのはなんだ?」
俺は荷物をまとめて部室のドアを開ける。
「お前の過剰な自信と、状況をわかろうとしないその無神経さが時に人を傷つけることをよく覚えておくんだな」
呆然と立ち尽くす穂乃果を尻目に俺はそのまま部室から出て行くのだった。
――Umi side――
私は遊弥が出て行ったドアを呆然と見つめる。
こうなるなんて思ってもいなかった。
元々、ことりの留学の話をしないといけなかったから空気を壊してしまうということは考えていた。だけど、遊弥のことはまったく予想もしていなかったことだった。
チラリと皆の様子を見る。だけど、それは言うまでもなく酷かった。
穂乃果は心此処に在らずといった放心状態。真姫とにこは事態についていけず戸惑っていて、花陽と凛にいたっては今にも泣き出しそうだった。
しかし絵里と希は比較的落ち着いていた。まるで事情を知っているかのような、こうなることがわかっていたような様子。だけど、この状況に気まずさを感じているようだった。
「絵里、希、あなたたちは知っていましたか? 遊弥のことを」
「ええ…遊弥くんのことは知ってたわ。だけど……」
絵里が横目で希に視線を移すと、希も戸惑いながらも頷いた。
「うちらもこんなタイミングで言うとは思ってなかったよ」
「そう、ですか……」
「今日は解散しましょう。パーティって言う雰囲気じゃないわ」
「ことりちゃんに遊弥くんに、みんな整理が必要だと思うんよ」
「……そうですね」
そして最悪な状況のまま、この日は解散となった。
いかがでしたでしょうか?
美味しいものが食べたいこの頃の燕尾でした。
ではまた次回に……