ども、燕尾です。
74話目ですかね。息抜き投稿です。
――Honoka side――
「……」
暗い部屋の中、私は膝を抱えていた。
どうやって自分の家に帰ってきたのかすら覚えていない。
思い出すのはことりちゃんとゆうくんの言葉ばかり。
――穂乃果ちゃんライブやるのに夢中で、ラブライブに夢中で、だからライブが終わったら言おうと思ってた。相談に乗ってもらおうって思ってた。でもあんな事になって……
私は全然気付いていなかった。
――聞いて欲しかったよ、穂乃果ちゃんには! 一番に相談したかった! だって穂乃果ちゃんは初めてできた友達だよ!! ずっとそばにいた友達だよ!?
夢中になりすぎてことりちゃんのこと、いやことりちゃんだけじゃない、皆を見てなかった。
――それをお前が言うのか、穂乃果。
ゆうくんからあんな冷たい目を向けられたのも小学生以来だ。
――やっぱりお前は知らなかったんだな。いや、知ろうともしなかったんだろ。
そういうゆうくんに私はなにも言い返せなかった。
――お前は皆を蔑ろにしたんだ。
そんなことないなんて言えなかった。まさしくことりちゃんを蔑ろにしていた私が言えるわけもなかった。
――お前の過剰な自信と、周りを見ないその無神経さが時に人を傷つけることをよく覚えておけ。
傷つけてしまった。ことりちゃんだけじゃなく、ゆうくんも。
携帯を握り締める。画面にはことりちゃんやゆうくんに送ったメールが映し出されている。だけど、
「今さら謝ったって、もう……」
謝ったところでもう遅い。大事な人たちが、いなくなる。私のせいで。
私は虚ろに顔を上げる。
暗い部屋で唯一の光源のパソコンからはA-RISEのPVが流れている。
「凄いなぁ……」
キレのあるダンス。綺麗な歌声。
きっと彼女たちは私には考えもつかないような努力をずっとしてきたのだろう。彼女たちひとりひとりが完成されている。
いや、これでもまだ彼女たちは満足していないのだろう。もっと上へと、高みを目指し、努力していくはずだ。
「追いつけないよ…こんなの……」
思いつきで始めた私なんかには、無理な話だったんだ。
彼女たちの努力に追いつけるなんて思ったことが間違いだった。
「私、なにやってたんだろ……」
私の呟きは、誰にも聞こえることなく虚空に消えた。
――次の日。
「穂乃果ー、起きてる?」
「……うん。起きてるー」
まったく、とヒデコちゃんが呆れたような声を出す。
「今日はことりちゃんや遊弥くんと一緒じゃないの?」
ことりちゃんとゆうくんの名前を出してくるフミカちゃん。なにも事情を知らないのはわかっている。だけどことりちゃんやゆうくんの名前が私の心に深く突き刺さる。
「今朝園田さんから聞いたよ。ことりちゃん、留学するんだって?」
「寂しくなるね」
「……うん」
私は力ない返事しかできなかった。もうなにも考えたくなかった。しかし、
「穂乃果ー!」
そんな私の元にやってきたのは絵里ちゃんだった。彼女は手でこっちに来てと指示する。
無視するわけにもいかず、私は絵里ちゃんの元にいく。
「これからのことでちょっと話があるの」
そういった絵里ちゃんは屋上へと向かい私も絵里ちゃんの後についていく。
屋上にはことりちゃんとゆうくん以外の皆が揃っていた。
「……ライブ?」
その言葉を聞いたとき、私の表情は曇った。
「そう、皆で話したの。ことりがいなくなる前に全員でライブをしようって」
「来たらことりちゃんにも言うつもりよ」
「思いっきり賑やかのにして、門出を祝うにゃ――あいた」
そういう凛ちゃんの頭をにこちゃんが叩く。
「はしゃぎすぎないの!」
「何するの!?」
「手加減はしてるわよ」
「シャー!」
凛ちゃんとにこちゃんのやり取りに皆は笑っているけど、私はそんな気にはなれなかった。
「……まだ、落ち込んでいるのですか?」
そんな私の様子に気付いた海未ちゃんが問いかけてくる。
「明るくいきましょう。これが九人でできる最後のライブなんだから」
絵里ちゃんの言う通り、これが全員でできる最後のライブになる。凛ちゃんの言う通り、ことりちゃんの門出を祝うライブにもなる。
だけど――
「そんな資格、私にはない」
呟く程度の言葉だったけど、やけに大きく響いた。
「私がもう少し周りを見ていれば、こんなことにはならなかった」
ことりちゃんも、ゆうくんも、皆も傷つけることなんてなかった。
「そ、そんなに自分を責めなくても……」
「私が勝手なことしなければこんなことにはならなかった!」
花陽ちゃんの言葉を遮って私は叫んだ。
「あんたねぇ!」
「そうやって全部を自分のせいにするのは傲慢よ」
「でも!」
「それをここで言って何になるの? なにも始まらないし、誰もいい思いなんてしない」
そういう絵里ちゃんに私はなにもいえない。
「それにラブライブだって次があるわ」
「そうよ。落ち込んでる暇なんてないんだから」
ラブライブ、か……
「ラブライブに出て、何の意味があるの?」
その一言に、皆は固まった。だけど私は止まらない。
「もう、学校の存続は決まったんだよ。私たちの目的はもう終わったのに出る意味なんてない」
「穂乃果ちゃん……?」
「それに無理だよ。いくら練習したって、A-RISEのようになんてなれない」
「あんた…それ本気で言ってるの……そうだったら許さないわよ」
「……」
「許さないっていってるでしょう!!」
「だめ!!」
無言を肯定と受け取ったにこちゃんが今にも掴みかかってこようとする。だけど、それを真姫ちゃんが止めた。
「あんたが本気だったから私はμ'sに入ったのよ! 本気でアイドルをやっているから、このグループにかけようって思ったのよ!! それなのに、こんなことで諦めてどうするのよ!? そんなことで心が折れてるの!?」
にこちゃんにはわからない。全部を台無しにして、大切な人たちを傷つけてしまった人がどんな気持ちなのか。
ことりちゃんが望んでいたことに、言われてからようやく気づいた。そして気付いたときにはもう何もかもが遅かった。それがどれだけ私を絶望させたか。
ゆうくんの気持ちを蔑ろにした。今まで差し伸べてくれた手を払いのけて、あまつさえ踏みにじってしまった。それがどれだけ私に重くのしかかったか。
――こんな私が、
「それじゃあ、穂乃果はどうしたらいいと思っているの? いえ、穂乃果はどうしたいの?」
「……」
「答えて、穂乃果」
最初に言ったとおり、私には資格がない。傷つけた私がのうのうとアイドルなんてできるはずもない。
――だから
「辞めます」
私は決定的な言葉を口にした。
『――!?』
「私、スクールアイドルを辞めます」
驚く皆に同じことをもう一度告げて、私は屋上を後にしようとする。
なにも言わない皆に目も暮れず、私は扉に手を掛ける。そのとき、誰かが私の腕を引っ張った。
そして次の瞬間、横から強い衝撃が走り、乾いた音が鳴り響いた。
ひりひりする頬に私は叩かれたのだと始めて認識する。
「あなたがそんな人だとは思いませんでした……」
底冷えた海未ちゃんの声が耳に入る。
「穂乃果」
海未ちゃんは振り切った手を震わせて、今にも泣き出しそうなのを我慢しながら私を睨んで、
「あなたは最低です!」
言ったことのないであろう言葉を海未ちゃんは私に叩き付けるのだった。
息抜きでちょっとシリアスな話をあげるんじゃなかった……w
ではまた次回に(・ω・)ノシ