ども、燕尾です。
大学院の修了が決定し、4月からは社会人……
働きたくないでござる!
笑
「皆にさよなら言わなくていいの?」
「うん、会うとわたしきっとまた泣いちゃうから」
「そう…」
「お母さんもここで大丈夫だよ」
「わかったわ――身体に気をつけるのよ、ことり」
「……――っ、うんっ、行ってきます」
そう言ってことりは進んでいく。
「頑張ってね、ことり」
私は遠ざかる娘の後姿を見送った。
――Honoka side――
私は行動のステージの真ん中に立っていた。
来るかどうかはわからない。でもきっと来てくれると感じていた。
私が来てからどれくらい経ったのかはわからない。ほんの数分だったのか、それとも数十分だったのかは把握できなかったけど、その時が来た。
静寂に包まれた行動の扉が静かに開かれる。
「ごめんね海未ちゃん。いきなり呼び出して」
「いえ…」
「ことりちゃんは?」
「…ことりは今日、日本を発つそうです」
「そっか…」
ちなみにゆうくんは今日学校にすら来ていなかった。絵里ちゃんから聞いた話によると、今日はアルバイトのヘルプをどうしてもいかないといけないとのことらしい。
「それで、どうしてここに?」
「うん、話したいことがあるの」
私は息を整える。
だけどいざこうして対面すると緊張した。だけど、
「私…私ね?」
私は勇気を持って口を開いた。
「ここでファーストライブやって海未ちゃんとことりちゃんと歌ったときに思った。もっと歌いたいって、スクールアイドルやりたいって」
「やめるって言ったけど、その気持ちは変わらなかった」
学校のためとか、ラブライブのためとかじゃなかったことに気付いた。
歌うのが好き、その気持ちは誰にも譲れなかった。
「だから、だからね――ごめんなさい!!」
そして私はギュッと手を握って頭を下げた。
その瞬間、海未ちゃんの空気が変わった気がした。
「これからもきっと迷惑掛けると思う。傷つけることもあると思う。夢中になって誰かが悩んでいるのに気付かなかったり、気合入り過ぎて空回りしちゃうかもしれない。だって私、不器用なんだもん!」
「穂乃果……」
「でも、追いかけていたいの! 我儘かもしれないけど、私、スクールアイドルが大好きなの!! だから……!!」
勢いで言って、それ以上何を言えばいいのかわからなくなった私は言葉に詰まってしまう。
言葉を探す私と続きを待つ海未ちゃんの間に沈黙が流れた。だが、
「――ぷっ」
「ぷ?」
「――く、ふふっ……!!」
身体を震わせ、笑うのを我慢しようとする海未ちゃん。いや、我慢できておらず、くすくすと笑い声が聞こえる。
「海未ちゃん、どうして笑うの!? 私、真剣なのに!!」
「ご、ごめんなさい…堪え切れなくてつい……」
堪え切れなくてというのはどういうことなのだろうか。
海未ちゃんは息を整えて、笑顔を浮かべる。
「はっきり言いますが――穂乃果には昔から迷惑掛けられっぱなしですよ?」
「ふぇ!?」
海未ちゃんが舞台に近づいてくる。
「ことりとはよく話してました。穂乃果と一緒に居るといつも大変なことになると」
初耳――っというか二人でそんなこと話していたの!?
「どんなに止めても、夢中になったらなにも聞こえてなくなって――スクールアイドルだってそうです。私は本気で嫌だったんですよ?」
「海未ちゃん…」
「どうにかやめようとしましたし、穂乃果を恨んだりもしました。気付いてました?」
「…ごめん」
謝ると海未ちゃんは、でしょうね、と息を吐いた。だけどそれは、咎めるようなもではなかった。
「でもそれ以上に、穂乃果はいつも連れて行ってくれるんですよ」
「連れて行く……?」
「私やことりでは勇気がなくて行けないような、凄い所に」
私は呆然とする。そんなことまったく聞いたこともなかったから。
「私が怒ったのはことりや遊弥の気持ちに気付かなかったからじゃなく、穂乃果が自分の気持ちに嘘をついていたのがわかったからです」
海未ちゃんは私の本当の気持ちをわかっていた。蓋をして仕舞ったことなんて最初から見破っていた。
「穂乃果に振り回されるのはもう慣れっこなんです。そんなことじゃ今さら怒りません。だからその代わりに連れて行ってください」
――私たちの知らない世界に
「それが穂乃果の凄いところなんです。私やことり、他のみんなもそう思っていますよ」
「海未、ちゃん……」
私は震えてしまう。
海未ちゃんが、そう思ってくれていたことに、駄目だって思っていたことを受け入れてくれていたことが嬉しくて。
そして海未ちゃんは壇上へと上がってくる。
「……全部、ここから始まったんです」
「…うん」
「だけど始めたのは私と穂乃果だけではありません。だから――」
海未ちゃんは私の背中をトン、と押した。
「さあ、ことりを迎えにいってください! あの子も待ってますよ!!」
「ええっ!? でもことりちゃんは…」
「あの子も同じです。引っ張ってもらいたいんです。ワガママ言ってほしいんです」
「ワガママ!?」
「ええ。有名なデザイナーに見込まれたのに残れなんて、そんなワガママをいえるのは、あなただけなんですから!」
「で、でも今からじゃ」
「大丈夫です。だから、早く!!」
「う、うん!!」
私は海未ちゃんに押されるがまま走り出した。
私は穂乃果を見送ったあとも、一人講堂に残っていた。
いや、残っているのは一人ではない。
「盗み聞きは、あまり感心しませんよ?」
そう言うとぞろぞろと人影が出てくる。
凛とにこ、花陽に真姫に希と絵里、μ'sのメンバー皆がやってきた。
「あはは、ごめんにゃ~」
「別にいいじゃない。私たちにも関係することなんだから」
後ろで腕を組みながら謝る凛に、詫びることもなく言うにこ。
「まあ、一番心配していたのはにこっちやったしね」
「そ、そんなことないわよ!! 勝手なこと言わないでちょうだい希!!」
「はいはい」
噛み付くにこを軽くあしらう希。
「海未ちゃん、穂乃果ちゃんは間に合うのかな?」
「ええ。大丈夫です」
質問する花陽に確信したように頷く私は絵里に目をやった。すると絵里も自信を持ったように頷いた。
「二人で何をしたの?」
それに気づいた真姫が私と絵里に疑念の目を向けてくる。
「ちょっとした嘘をついただけです」
「いつまでもこんな状態で良いわけないからね」
「なるほど、同感ね――」
私は全速力で駆ける。ことりちゃんを迎えに、そして私の気持ちを伝えるために。
校門まで差し掛かったそのとき、ものすごい音を上げてやってきたのは一台のバイク。
火花を上げて止まり、慌てたように降りて学校に入ろうとしたのは、
「ゆう、くん…?」
「……穂乃果?」
スーツ姿のゆうくんだった。
―― Yuya side ――
「坊主! 三番テーブル、五番テーブル、八番テーブルオーダー上がったぞ!!」
「はいよ。飲み物もうすぐできるから、一緒に持っていきます」
俺はトレンチに料理と飲み物を置いて一気に担ぎ上げ、配膳していく。
「次、二番と四番テーブル!!」
「了解」
すかさず、次のオーダーが出来上がる。配膳していく。
「一、六、九、十番テーブル上がり!!」
配膳――
「十一番から十五番まで!!」
――さすがに多すぎる!!
俺は内心で悲鳴をあげた。
「おかしい、おかしいぞ……! こんな賑わう店じゃないのに!!」
「おい。言っていいことと悪いことがあるだろ」
以前までは閑古鳥やカラスの鳴き声ぐらいしか聞こえなかったほど閑散としていたのに、徐々にお客さんが増え、今では二人ではギリギリ回るかどうかぐらいに賑わっている。
それはまだいい。繁盛するに越したことはないのだから。だけど――
「今さらだけど――何だこの格好は!?」
「本当に今さらだな」
マスターが冷静につっこむ。
今の俺は喫茶店では動き辛いスーツをその身に纏い、ネクタイを締め、白の手袋を嵌めている。いわゆる執事のような格好をしている。
「その格好は彩音からの指示でな。あいつ、俺にも知らせずこんなこと考えてやがった」
マスターは携帯の画面を見せてきた。
「これは…この店のSNSですか?」
「ああ。彩音がやり始めて宣伝として色々投稿しててな。その内容は俺もつい最近知ったんだが…」
若干言葉に詰まるマスター。その様子に俺はなんか予想できた。その予想が当たっていれば間違いなくろくでもないことだ。
「見せてください」
俺はマスターの手から携帯を奪ってSNSを確認する。そこには、
「……」
言葉が出てこなかった。
「お、俺は本当になにも知らなかったんだからな?」
ちょっと焦ったマスターの声が聞こえる。だが、俺はそれにすら反応することが出来なかった。
この店のSNSの投稿内容は店の情報がトップに固定されているのを除けばほぼ俺の写真だったのだ。
そして昨日の夜の投稿に、
突発的イベント! 明日限定! この子が執事としてあなたにご奉仕します♪
と、俺の写真と共に投稿されていた。
もちろん、俺はこのことを一切知らず、確認なんてまったくされていない。
「ちなみに俺が知ったのは今日朝飯食ってるときだ」
うん。まあそうだろうな。
「もし遊弥の坊主を今日引っ張ってこれなかったら、お仕置きするからって言ってあいつ大学行きやがった」
だから今日は何がなんでも午前中から店のほうに来いって言っていたのか。
「マスターだけの被害なら無視して置けばよかったです」
「おいこら」
いや、そうしたところで結局マスターと一緒にお仕置きされていただろう。あの人、なんだかんだで理不尽に容赦ないときあるし。
こんな無茶振りをした当の本人である彩音さんは大学で意地の悪戯が成功したような笑みを浮かべているんじゃないだろうか。
今度仕返ししたいところだが俺より頭廻るし、咲姉と繋がっている以上俺に勝ち目はない。
「すみませーん! 注文お願いしまーす!!」
どうしたものかと考えていると呼ぶ声が掛かる。
「おら、もうどうしようもないことなんだから無駄口叩いてないで、働け働け。まだピークは過ぎ去ってないぞ」
そう。もうここに来た時点で俺の負けが確定していた。ならマスターの言う通りいま俺がやるべきことは彩音さんに勝つ方法ではなく、この修羅場を乗り切ることだ。
「はい。ただ今伺います」
俺は気持ちを切り替えて労働に励むのだった。
「あ゛ーづがれ゛だ」
カウンター席に座る俺はだらしなく足を投げ出して天井を仰ぐ。
「おい、客が居なくなったからって気を緩めすぎだ」
「お客さんが来たらしっかりやりますよ」
「コーヒー飲むか?」
「いいんですか?」
「ああ。まあ、無茶言った侘びだと思っとけ」
そう言ってマスターはコーヒー豆を挽き始める。
「そういえば遊弥の坊主、お前これからどうするつもりだ?」
その最中に、マスターから質問が飛んできた。
「どうする、とは?」
「本当にここで働きはじめるつもりか?」
「それも悪くはないって思ってますけど?」
そう言うとマスターはあのなぁ、と大きくため息を吐いた。
「のらりくらりとするのが悪いとは言わんが――」
prrrrrrrr―――――!!
「ちっ、タイミングの悪い」
マスターのお小言を遮った固定電話にマスターが舌打ちする。
「はい。こちらsky cafe――って、彩音か。どうした?」
受話器を取ったマスター。どうやら電話の相手は彩音さんからみたいだ。
「あ? 遊弥の坊主? ああ、いるぞ。なに、さっさと代われ? わかったわかった」
鬱陶しそうに耳から受話器を離してそれを俺に渡そうとしてくる。
俺は受け取って電話に出る。
「はい、代わりました」
『遊弥くん。今うちにいるんだよね?』
「ええ。あんたの家で労働に勤しんでいますよ」
『ありゃりゃ。なんだか根に持っているような言い方。今度サービスしてあげるから、拗ねないで』
「それで、何の用です?」
『私は特に用はないんだけど、遊弥くんに連絡がつかないからって絵里ちゃんから連絡が来たの』
絵里から? 今日はちゃんと休むって言う話はしている。大分ごねられたが、何とか納得してもらったはずだ。
だが、次の彩音さんの言葉はまったく予想してないものだった。
『穂乃果ちゃん? って子にトラブルがあったらしくて、今すぐ来て欲しいって』
それを聞いた瞬間、俺の心臓が跳ねた。
「……何があったんです?」
努めて冷静に事情を聞く。
『詳しく聞けてないからわからない。でも絵里ちゃん凄く慌ててた。とにかく君に連絡して欲しいってだけ伝えて電話切られちゃったから』
「……っ」
それは一刻の猶予もないような、そんな事態に陥ってるということの裏付けだ。そのことに俺の不安が一気に肥大していく。
「すみません彩音さん。電話、切りますね」
『え? あっ、ちょっ、遊弥く――』
彩音さんの言葉を待たずに俺は通話を切り、更衣室として使っている部屋へと走る。そしてバッグの中に入っている携帯を確認した。
画面を開くと、不在着信がいくつも入っていた。
しかも絵里からだけじゃなく、海未からも数件入っていた。
俺はまず絵里にリコールする。
「……頼む。早く出てくれ……!」
だが、待てど暮らせどコール音が鳴り響くだけで、絵里は出ない。
なら海未は、と海未に電話する。しかし海未も同じく電話に出ない。
「くそっ! 何があったんだ!!」
ギュッと拳を握り締める。
トラブルが起きたのに、それ以外なにもわからないというのが一番の不安材料だ。
状況がまったくわからない。焦りしか募らない。
「どうする…どうしたらいいんだ……!?」
「落ち着け」
「あたっ」
軽い衝撃が後頭部を襲った。
「焦る気持ちはわからなくはないが、そんなんじゃなにも好転しないぞ」
「マスター…」
いつの間にか来ていたマスターが俺の頭をチョップしていた。後ろに来ていたことすらわからなかった。
「お前が部屋に駆け込んでからまた彩音から電話きて話を聞いた。とりあえず学校に行けってよ――ったく、人の話は最後まで聞いておけ」
「す、すみません……」
自分でも気付かないぐらい慌てていたのか、周りが見えていなかった。
「でも、学校に行けって言われてもここからだとかなり時間が……」
「安心しろ。いい物を貸してやる」
「いいもの?」
「とりあえず、ついて来い」
そう言われてマスターの後についていった所は――この家の車庫だった。
よっこいせ、とマスターはシャッターを上げる。その先にあったものは、シートを被せられた大きな塊。
マスターはシートをはがす。
シートに被せられていたのは400ccのバイクだった。
「これ……」
「お前確か去年二輪の免許とって乗っていたって言ってたよな? ならこれを使え。俺も普段から乗ってるから整備もしてある」
「ちょっと待ってください。免許は持ってるけど、400を運転したことほとんどないですよ」
俺が乗っていたのは250cc程度のものだ。感覚とか色々違うのに乗れるかどうかわからない。
「運転の仕方はなにも変わらんし、去年乗っているなら大丈夫だ。むしろ重たい分安定して走れる」
そういいながらマスターはエンジンをかける。
「座席下にはヘルメットがもう一つ入っている。もしも二人乗りすることになったときはそれを使え」
「どうしてそこまで…」
「あほ」
マスターは呆れたようにヘルメットを俺に渡してきた。
「遊弥の坊主は少し他人からどう見られているかぐらい知っておけ」
「えっ……」
「これでも俺は人を見る目はあるつもりだ。今年からの付き合いだが、お前の人となりは知ったつもりだし、信頼できると思っている」
「マスター……」
「それに、前後不覚になるぐらい大切なんだろ? なら後腐れしないようにやれることはやっておけ」
「……ありがとうございます」
「彩音からそうしてやれって言われたからな。これに逆らったら俺の今後がやばい」
「ははっ。マスターらしいです」
俺は笑いながらヘルメットを被り、バイクに跨る。
「うるさい。さっさといってこい」
「はい!」
そしてフルスロットルで喫茶店から飛び出していった。
「あいつ、見事に乗りこなしてるじゃねーか……」
バイクは予想以上に乗り心地が良かった。マスターの言う通り重量がある分、走りが安定していた。
飛ばせるところを飛ばし、最短距離で音ノ木坂学院へとつくことができた。
ヘルメットを外し、急いで中に入ろうとしたとき、俺は立ち止まってしまった。
目の前にはいるなんて思ってもいなかった人がいた。相手も、俺と出会うとは思っていなかったのか、目をパチクリとさせていた。
「ゆう、くん……?」
「……穂乃果?」
俺と穂乃果はお互い疑問を持ちながら立ち尽くしていた。
いかがでしたでしょうか?
働きに出るまでに、もう少し更新できたらいいなぁ