ども、燕尾です。
84話目です。
――Yuya side――
「はぁ…はぁ……やっぱり駄目か……」
俺は大の字になって寝転がる。
閉じ込められてからひたすら扉を蹴り続けたのだが、結局は歪むだけにとどまり、壊して出られることはなかった。
「今何時だ……?」
地下の閉鎖空間に閉じ込められていて日の光が入らないから、時間間隔が全くない。
何時間経ったのか、今が昼なのか夕方なのか、はたまた夜なのか、全然わからない。
だが、それはすぐに解消した。
「――おい」
外から掛けられる声、それは最初に話した男のものだ。
「おー、そろそろ出してくれるのか?」
「まだその指示は来ていない。いま来たのは、差し入れのためだ」
「ってことは、今は夜なのか?」
「……上の穴から投げ入れる。その中に飲食料が入ってるから食べておけ」
無視してそのまま要件だけ言う男。その直後上から袋に詰められたものが落ちてきた。俺はそれを地面に叩きつけられないように、両手で受け止める。
俺の疑問には答えないってか。本当に最小限の情報しか与えないようだ。
しかし、見張りの男はそのつもりでも確かな情報はいくつか得られた。
「上に穴があったのか」
「自分の身が大切なら変な気は起こさないことだ」
「いらない親切なご忠告どうもありがとさん」
「……可愛くない奴」
男は階段を上がっていき、次第にその足音が遠ざかっていく。
さて、男が居なくなったところで得られたことをまとめてみよう。
まず一つとして、男が階段を上がっていくといったということはここはどこかの地下に位置している。
それから今のやり取りから最低限生きるための物は保障されているようだ。殺そうと思って監禁しているわけではないということだ。
ならば時間が経ったら出すというのも幾ばくか真実味がある。
だが、その後のことを考えているのなら、解放された後も用心しなければならないだろう。口封じにどんなことをしてくるかわからないし。
まあ、音坂亜季なら知らぬ存ぜぬを通して、今いる男や女子生徒をトカゲの尻尾のように切り捨て可能性もある。
また食料を渡されてはじめて気付いたのが、このドアのかなり上の位置、四メートルぐらい上だろうか、一辺80センチぐらいの正方形の穴がある。これは食料の受け渡しもそうだが、地下の部屋だということも考えれば空気の通り道にもなっているのだろう。
あとは今は夜だと考えたほうがいいだろう。基本的に食料品の支給は朝と夜に行われやすい。
「一人暮らしが仇になったなぁ」
これで爺さんや咲姉、愛華と住んでいたなら即座に捜索されていた。
それと比べて穂乃果たちや学校が異変に気付いて探し始めるのは早くても明日以降になる。その間に音坂亜季が何かしないわけがない。
「さて、どうしたものか……」
俺は上を見上げる。
ドアの上には八十センチ四方の穴。そこをくぐれば出られるのだが、残念ながら高さがありすぎる。
「いや、壁キックと垂直のぼりでいけるか……?」
頑張れば行けなくもないような高さ。男の要らない忠告を無視すれば自力で脱出できるかもしれない。
後で試してみよう、でもその前に――
くきゅるるるるる――――
「さすがに腹減った…」
朝以降なにも食べてなかったしなぁ。
俺は袋から食料を取り出して腹を満たすのだった。
――Honoka side――
ゆうくんの行方がわからなくなってから次の朝がやってきた。
次の日がやってきたが、未だにゆうくんからの連絡はなかった。考えたくはないけど、やっぱりそういうことなのだろう。
「どこにいるのかな、ゆーくん」
「無事でいると良いんだけど…」
「遊弥なら並大抵のことなら無事なはずですが……」
海未ちゃんが言う通り、ちょっとやそっとでゆうくんをどうにかしようなんてできない。でも、こうして音信不通になって行方もわからなくなっているというのが事実だ。
私たちは今はただ彼の無事を願うことしかできない。
「とりあえず、先生の話を聞きましょう。それからじゃないと方針も立ちません」
「そうだね。先生が何か手がかりを見つけてるかもしれないし」
「もし先生も手がかりが見つからなかったら昨日穂乃果ちゃんが言った通り、わたしたちも探すしかないね」
私たちが動くのはこの後だ。まずは先生を待たないといけない。
「お前ら、席に着け」
いつものホームルームをやる時間に、先生が教室にやってくる。だけどその表情は、なんというか、いつもと違っていた。
それからいつもの連絡事項で、驚くべきことが伝えられた。
「今日の六時間目、授業を変更して全校集会を開くことになった」
授業を変更しての全校集会にクラスがざわつく。それは廃校を伝えられたとき以来のことだったからだ。
ざわめくクラスの人たちとは対照的に、私たちはあまりのタイミングが良さに嫌な予感がした。
そしてそれは見事に的中することになる。
「内容は薄々気付いているやつらもいるとは思うが、萩野のことだ。あいつがこの学院に残るか残らないか、そのことについてのあらためた話だ」
私たちは冷や汗をたらす。
「署名の提出は昨日生徒会長の絢瀬から受け取った。全校生徒の三分の二以上集まっていたことは教員もきちんと確認した」
「それなら、私たちの意思は伝わったということじゃないんですか?」
ヒデコちゃんが手を上げてそういった。だが、先生は首を横に振った。
「確かに署名は集まった。だが三分の二以上集まったとはいえ一部の生徒は声を上げて反対しているし、教員側も賛成と反対で意見が半分に割れている」
「署名活動ってそういうものじゃありませんか? 切り捨て、といったら言葉は悪いですけど、少数派の声を全部聞いたらどうしようもないですよね?」
「個人的にはそうだとは思う。だが、学院としては一部の生徒に我慢を強いるというのは認められない。そしてなにより――私たちは萩野自身の言葉を何一つ聞いていない、あいつが残りたいという意思を皆が聞いてそれを認めたのか、高坂たちμ'sの功績から署名したのか、全部曖昧だ。そういう結論になったんだ」
私たちは絶句する。
あのとき認めてくれたのは後だったけど、それでもちゃんと言葉で聞いた。ゆうくんが心から否定していたらいくら私たちでもこの活動はできなかった。
屋上でゆうくんが認めてくれたからこそ、私たちは署名活動をやった。ゆうくんが音ノ木坂学院にいたいと言ってくれたから私たちは行動した。
なのに、そんなことがまかり通るのか。そんなことが認められるなら、私たちがやったことは一体何のためのだったというのか。
沸々と良い知れぬよくない感情が湧き上がってくる。それは海未ちゃんやことりちゃんも同じようで、静かに怒りの感情を発していた。
「山田先生」
立って底冷えた声を出した海未ちゃんにクラスの雰囲気が一瞬にしてしん、とした。
「……なんだ園田?」
先生は冷や汗をたらしながら、海未ちゃんに応える。
「遊弥についての改めての全校集会を開くことは理解しました。具体的には何をするつもりですか?」
「……あいつ自身の意思を表明してもらう。そういう時間をとることになった」
伝えられた内容に、海未ちゃんは歯噛みした。今にも大きな声を上げそうな雰囲気だ。
だけど海未ちゃんは一度深呼吸をして、わかりました、とだけ言って席に着く。
「先生。ゆうくんは今どこにいるんですか?」
「いま萩野は理事長と全校集会について話をしている。今日教室に来れるのはそれが終わった後――放課後以降だ」
それが嘘だということは事情を知っている私たちはすぐにわかった。
たぶん他のみんなにゆうくんが失踪したということを悟らせないようにしているのだろう。
「他に質問のある奴はいるか? ないなら、これでホームルームを終わりとする――それから高坂、園田、南はこの後昨日と同じ場所に来い」
そう言って先生は教室から出て行く。
私たちは顔を合わせて頷き、昨日の空き教室へと向かう。
「来たか」
「先生っ――」
入ってきた先生は詰め寄ろうとした私たちを制止する。
「お前らの良い言いたいことはわかってる」
先生は悔しそうな表情をしてそう言う。そして、
「本当にすまない。私たちの力が足りないばかりに、こんなことになってしまった」
私たちに向かって頭を下げた。
意表を突かれた私たちは戸惑ってしまう。
「さっきの話は全部あの女――乙坂学院長をはじめとした萩野をこの学院に残したくない連中の計らいだ」
先生の話によるとことりちゃんのお母さん、この学院の理事長が居ない間に学院長と一部の教員、つまりはゆうくんがこの学校にいることに反対の教員たちが勝手に決めたことらしい。
本来ならそんなことが許されないのだけど、理事長が居ないとなれば、この学院の決定権は学院長にある。そういう仕組みだからこそ、こんな暴挙に出たのだ。
「どうにかならないんですか!?」
「決まったことを今から変えるのは正直言って理事長でも無理だ。唯一の解決策は、萩野をその場に引っ張り出すしかない」
「先生。ゆーくんがどこにいったかは……」
「直接的な情報は得られなかった。だが――」
その瞬間、教室のドアがノックされる。
「来たか。入ってくれ」
「失礼します」
「絵里ちゃん!?」
先生の言葉が聞こえたのか、入ってきたのは絵里ちゃん。そして女子生徒二人と一番後ろの希ちゃんの四人。
「絵里、希。そちらの二人は……?」
海未ちゃんは絵里ちゃんと希ちゃんの間にいる二人を問う。胸元のリボンが緑色だから三年生というのはわかる。だけどそれだけでどうしてここに連れてきたのかはわからなかった。
「遊弥くんの失踪に関わった子達よ」
「今日の朝、学校に来たうちらに教えてくれたんよ――昨日体調が悪いのを装って、介抱する遊弥くんの隙を見て薬を吸わせて眠らせて、男の人に渡したって」
「「……」」
希ちゃんの説明にうな垂れる二人は、その瞳に小さく涙を貯めていた。
「どうしてそんなことを……」
私たちが問いかけるも、小さな嗚咽を漏らす彼女たちは答えない。そんな彼女たちの説明を絵里ちゃんがする。
「この子たちは遊弥くんがこの学校にいるのに反対していた子たちで、学院長の指示に従ってやったそうよ」
「ごめ、んなさい……」
「本当に、ごめん、なさい……」
ようやく出てきたのは詰まった謝罪の言葉。だけど、
「あなたたち、自分がやったことをわかっているのですか……!?」
海未ちゃんが静かな怒りを爆発させる。
「あなたたちがやったことは、犯罪です! 遊弥をどんなに嫌ったとしていても、罪を犯すことがいけないことだと、そんなこともわからなかったのですかっ!!!」
「すみませんっ…すみませんっ……!!」
「本当にごめんなさいっ!!」
「遊弥の優しさに漬け込んで、あまつさえその優しさを踏み躙るなんて、言語道断ですッッ!!!!」
至極全うな海未ちゃんの叱責に二人は大粒の涙を流しながら頭を下げる。
「海未。気持ちはわかるけど、その辺にして」
「ですが、絵里ッ!!」
宥める絵里ちゃんに、海未ちゃんが食って掛かる。
「今ここに彼女たちを連れてきたのは、責めるためじゃない。遊弥くんの手がかりを話してもらうためよ。だから今は抑えてちょうだい」
「ふぅ…ふぅ……っ!!」
絵里ちゃんの言葉に海未ちゃんは大きな呼吸を何度も繰り返す。怒りを抑えようとしているのだろう。だけどそれだけじゃなかった。
「どうして…どうしてなのですか……!!」
「海未ちゃん……」
海未ちゃんは瞳に涙を溜めて、どうして、と悔しそうに言う。
そんな彼女に感化され、ことりちゃんや私も涙が出そうになる。
だけど――
「海未ちゃん」
私は出てきそうな涙を抑えて、海未ちゃんの手を握った。
「穂乃果……」
涙に濡れる海未ちゃんに私は頑張って優しく微笑む。
「私たちは私たちのやらなきゃいけないことをやらなきゃ」
本当はこんなことになってしまったことへの悔しい気持ちや、彼女たちに対する怒りの気持ちもある。
だけどそれを全部ひっくるめて、今はやるべきことをしないといけない。
「まずは二人の話を聞いて、ゆうくんを見つけなきゃ、だよ」
ゆうくんを見つけて、学校につれてくること。それが私たちのやるべきことだ。
「……そうですね」
大きく息を吐いて、海未ちゃんは落ち着きを取り戻し始める。
「すみません、少し取り乱してしまいました」
海未ちゃんは涙を拭って二人に向き直る。
「…あなた方の処遇は私が決めることではありません。遊弥が決めることになるでしょう。あなた方は遊弥の言葉をありのまま受け入れてください。それだけです」
「は、はい……」
「わかりました……」
女子生徒たちは頷く。
「それじゃあ教えてもらおうか。少しでもあいつに繋がるように、詳しくな――」
「それじゃあ、今から遊弥くんの捜索を始めるわ」
三年生の二人の女子生徒から話を聞いた私たちμ'sは、学校を抜けて街に集まっていた。
時間は午前9時30分。六時間目の時間まで約5時間。それまでに私たちはゆうくんを見つけ出さないといけない。
「証言によると遊弥くんはここで眠らされて男の人に連れて行かれたそうよ。それから目立たないためにそのまま担いで連れて行ったらしいから、車を使われた可能性は低いわ」
「ならゆうやくんはこの付近にいるはず、そういうことだね」
「その可能性が高いわ」
花陽ちゃんの確認に絵里ちゃんは頷いた。
「ただ単独での捜索は何かあったときのリスクが高いから、彼の捜索は三人一組でチーム分けは三年生を筆頭にするわ」
それは先生にも言われたこと。必ず複数人で探し、こまめに連絡を取り合うこと。であれば、三人一組が一番良いと絵里ちゃんは判断した。
「それでチーム編成についてだけど、まずは私、穂乃果、花陽の三人でひとつ」
「よろしくね、絵里ちゃん、花陽ちゃん!」
「はい!」
「次に、希、ことり、凛」
「よろしくな、二人とも」
「ゆうくんを絶対見つけるにゃ!」
「よろしくね、希ちゃん、凛ちゃん」
「最後ににこ、海未、真姫」
「任せなさい」
「遊弥を必ず見つけ出して見せます」
「よろしく」
バランスよくチーム分けが行われたところで、絵里ちゃんから注意事項が伝えらえる。
「どんなときでも一人で勝手な行動はしないこと、必ず三人で行動することが鉄則よ。それとチームの連絡と先生への連絡は定期的に行うわ。基本的には三年生は先生への連絡を、一、二年生は他2チームへの連絡をお願い。後はそのときに応じて連絡を取り合いましょう」
絵里ちゃんの指示に、私たちはいろんなく頷く。
「それじゃあ、必ず遊弥くんを見つけるわよ!!」
『おー!!』
そして私たちはそれぞれゆうくんの捜索に乗り出すのだった。
いかがでしたでしょうか?
できれば今日の夜か明日にまた更新したいなと思います。