ども燕尾です。
後数話、とかいいながら全然終わらないことに、ビックリしています。
――Honoka side――
「――皆さんこんにちは。萩野遊弥です」
私は壇上に立ち、話し始めるゆうくんを見守る。
「この格好に驚いている人が殆どでしょう。それについては後で説明します。まずは俺の意思について、話をしたいと思います」
ここからは、ゆうくんが自分でどうにかするしかない。私たちにできることはない。
ゆうくんのことだからきっと大丈夫だとは思う。だけど少し不安があるのも事実。
私はチラリと別のほうを見る。そこには忌々しげに、ゆうくんを見ているめる女性――この学院の学院長だ。
話ではゆうくんを閉じ込めたのは学院長の指示。学院長がこの後どういうことをしてくるのかわからない。
「ゆうくん。頑張って…」
本当は辛いはずなのに、自信を持ってあの場に居るゆうくんに小さくエールを送る。
「ただそれを話すには、少し俺の経緯を話さないといけません。長くなって退屈だと思うだろうけど、少しお付き合いお願いします」
そしてゆうくんは語り始める。
「俺は今まで家族以外の殆どに関心がなかった」
さっきまでの口調を崩し、まるで素の自分を出すように。
「この学院に来る前まで居た九重学園では学園理事の息子、教育界の重要な人物の息子という目で見られて、近寄ってくるのは利を得ようと企む人か、やっかみや嫉妬で陰で悪口や危害を加える人ばかりだった」
もちろんそんな人間ばかりではない。友好的な人間だって少なからずいた、とゆうくんは話す。
「まあ、そんなこともあって学校というものにさほど興味はなかった。将来や直近の進路のための手段の場、ただ勉強してただ卒業する。そんな程度だった」
ゆうくんにとって、学校とはそれだけの場所。特に意味はなかった。
「この学院に来たのだって俺の
それはゆうくんの本音。だけど、ゆうくんは気付いているだろうか。自分のお
いや、きっとゆうくんの事だからもう気付いているんだろうなぁ。
「俺は共学の為に試験生として与えられた役割をやるだけだと、そう思ってた。だから共学の必要がなくなったのなら試験生の俺は要らないと、そう考えていた」
署名活動の前まで本当にそういう風に考えていたとゆうくんは告白する。
「でも、今は違う――この学院で再会した友人に、新しく出会った人。その人たちとたくさん笑って、ときにはぶつかったりもしながらこの学院で過ごして……俺のために署名活動をするといってくれたときに、沢山の人が受け入れてくれていたとわかったときに、おれはようやく自分の気持ちに気付けたんだ」
そう言って微笑むゆうくんは皆を見渡す。
「俺はみんなと一緒に居たい。みんなと一緒の時間を過ごしていきたい」
以前までの状況と自分の気持ちで挟まれていたゆうくんとは違う。自分の気持ちに素直になった、心からの声。
「俺がこの学院にいることを快く思わない人たちがいるのもわかってる。俺が残るのは邪な気持ちからだと考えている人がいることも。そう思われても仕方がないって思う。男子生徒が女子校で過ごし続けるなんて、俺自身聞いたこともない」
ゆうくんが言っていることは世間一般からしたら、とんでもないことなのだろう。でも、それでも彼はそれを望んでいると、口にする。
「だけど、いま言ったことに嘘偽りはない。みんなと一緒に、この学院で卒業したいって思ってる」
ゆうくんの本心の言葉に私を含め、皆が聞き入っている。そして、
「俺は暖かくて、たくさんの笑顔があるこの学院が――好きだから」
とても穏やかで、慈愛に満ちたその顔に、皆が見惚れた。
「それがいま俺が思っていること。俺の気持ちです――」
しん、と静まる体育館。誰もがゆうくんに釘付けになっていた。
だけどそれも束の間、
パチ――
最初誰がやったのかはわからない。
パチパチパチ――
パチパチパチパチ――
でもそれは確かに広がって、
『――――――――!!!!』
――遊弥くーん!
――一緒に卒業しよ、遊弥くん!!
――付き合って、遊弥くーん!!
あちらこちらから、ゆうくんを歓迎するような声が聞こえる。
ちょっと待って! 聞き捨てならない声が聞こえたんだけど!!
「ゆーくん! わたしと付き合って」
「いいえ遊弥! 私と付き合ってください!!」
ちょっ! ゆうくんに聞こえないからって、どさくさにまぎれてなに言ってるのことりちゃん海未ちゃん!!
「もぅ……本当に、ゆうくんってば、本当に仕方がないんだから……」
私はため息を吐いて、苦笑いしてゆうくんを眺めるのだった――
――Yuya side――
「――ありがとうございます」
拍手が静まり、一礼する。皆の殆どからは笑顔の返しが来ている。
だが皆には悪いけれど、俺からしたらここからが本題だ。
さっき言ったことは残りたいがために喋ったわけではない。この学院を好きになったことに、ここで過ごしたいという話に俺の気持ちに嘘はない。
だけどこれは本来することのなかった話だ。まあ後腐れのないようにするために必要だった、とプラスに捉えればいいだけの話だが、これが俺を陥れるために仕組まれたということだと考えれば話は別。
それと雛さん曰く、今までのことを含めて一度分らせないといけない。度が過ぎる行為は身を滅ぼすということを教えないといけない――とのことだ。
ここから先は完全に俺と雛さんだけで考えたことを実行する。
「俺の意思が生徒や教員の多くの人に伝わって安心しています。だけど――当然、今の俺の話を聞いても受け入れられないという方もいるでしょう」
話の行き先が変わったことに、生徒たちはちょっとした戸惑いを見せる。
「この後の判断はこの学院の教師たちに委ねられます。もし仮に俺がこの学院で過ごすことが許されたとしても、その人たちは無理をしないでください」
それはμ'sの皆も同じだ。このことは彼女たちにも報せてなかったから、皆は驚きと不安の表情を出していた。俺はそんな皆に大丈夫というように頷く。
「どんな罵詈雑言でも俺は受け入れます。かまわず正面からでもどこからでもぶつかって来て下さい」
ただ言葉でぶつけてくるのであれば可愛いもの。今さらそんなことでは堪えられないわけはない。だが、
「ものには限度と言うものがあります。陰口や面と向かった悪口なら受け入れますが――」
そういいながら俺は巻いていた包帯を取る。圧迫されていたところが緩み、血がまた流れ始める。
ぱさり、と落ちる包帯と俺の状態に、この体育館にいる皆の息を呑む音が聞こえた。
「こんな流血沙汰になることや監禁、あとは学院運営としてやってはいけないことをされてしまうと、さすがに黙っているわけにはいきません。それ相応の対応をすることになります」
俺の言い方にこの場の誰もが理解したようだ。音乃木坂学院の誰かが、俺を監禁して怪我を負わせたということを。
「じゃあ、みんなとしては誰がやったのかが気になるところだと思います。それについてはもう既に判明し、それを裏付ける証拠も揃えています。ここで晒し上げるようなことはしませんが、心当たりのある人は――」
もう逃げられないぞと、その意味を込めて俺は言う。
「きちんと責任を取ってくれることを願います」
その一言に体育館は緊張した静寂に包まれた。人によっては青ざめ、俺に恐怖しているようにも見受けられる。
だが、俺の言っていることは普通のことだ。
こんなことで恐がられても困るんだけどなぁ…これじゃあまるで俺が皆を脅して居るような感じじゃないか。
「――素敵な意思表明をありがとう、遊弥くん」
そこで話を引き継いだのは雛さん。彼女も壇上へと上がって俺の隣に立ち、マイクを取る。
「さて…いま遊弥くんが話してくれた通り、彼に対して行われた行為についての処遇は私と遊弥くん、それからもちろん、警察との相談によって決められます。これはもう学院内で収まる話ではありませんので」
この学院のトップが出てきたことでより一層の重みが増す。
「いくら遊弥くんを受け入れられなかったとしても、人として、やってはいけないことをした人がこの学院内に確かにいます。私はそれが残念でなりません」
そして、一瞬にして雛さんの空気が変わった。
「人としてやってはいけないこと、なんていってますが分りますか? これは犯罪なんです」
隣にいる雛さんから静かな怒りを感じる。
まあ当然といえば当然だ。
「遊弥くんが言った通り、もう名前も割れています。証拠も揃っています。逃げられる、なんて甘い考えは捨てなさい」
今の雛さんはまるで獲物をじわじわと隅っこに追い詰める猟師のようだ。
つくづく、この人がそばにいてくれてよかったと思う。
「以上話は終わりです」
もう誰も反応する気力がないといった様子。そんな皆を見渡して、雛さんは微笑んだ。
「ふふふ…この学院で、こんなことしたこを後悔することね」
「なにもトドメを刺さなくても…」
Sっ気をまた出した雛さんに、俺はため息を吐いたのだった。
フラフラしながら廊下を歩く。
「あー…血を流しすぎた」
長時間血を流してたからさすがに辛い。目の前が眩んでしまう。
「ゆうくん!」
バランスを崩した瞬間、両サイドから支えられる。
チラリと見ると穂乃果と海未が俺の腕を自分の方に回していた。その後ろには皆が揃っていた。
「……おつかれ、みんな」
「おつかれ、じゃないわ! 何しているのよ!!」
「頼む、声を抑えてくれ」
真姫が焦ったように怒鳴る。その声が頭に響いて俺はくらっとしてしまう。
「あっ…ご、ごめんなさい……」
「それでも真姫の言う通りよ遊弥くん。こんなに無茶して」
「まあ、それは自覚してる。でも――」
「でももなにもないよ、ゆーくん」
「……はい。すいませんでした」
ことりに窘められた俺は速攻で謝る。
「お母さんもお母さんだよ…ゆーくんにこんなことさせるなんて……!」
「遊弥くんのことだから、無理を押し通したんやろうけど」
憤慨することりに希のフォローが入る。だけどそれは俺のフォローではなく、理事長のフォローだ。解せぬ。
雛さんがお願いしてきた可能性だってあるのに。
「それはないと思うよ。理事長はそんな判断する人やないから」
「あっさり俺の心の声を読むな、希」
久しぶりのスピリチュアルパワーを使わなくてもいいから。
『……』
ジトー、と俺を睨むみんな。俺は目を逸らすことしかできない。俺の言葉次第ではこの後さらに大変な目に遭うのは分った。
間違えのないように、俺は考え抜いた結論としては――
「この後ちゃんと病院に行くから、許してくれると助かります」
「だめ」
「今すぐいかないなら許しません」
速攻で却下された。
「まだやらないといけないことがあるんだけど……」
「ゆうくん」
「ごめんなさい」
またも速攻で謝る俺。しかし穂乃果はそうじゃないと、首を横に振った。
「ゆうくんは一人でなんでもやろうとするけど、私たちってそんなに信用ないのかな……? 」
そう言う穂乃果はどこか悲しそうにしていた。
「ゆうくんから見た私たちって、そんなに頼りない……?」
「そんなこと――」
「じゃあ何で頼ってくれないの? どうしてそんなに一人で抱え込もうとするの?」
言葉が出てこない。
穂乃果たちを決して信用してないわけではない。信頼もしている。だが、穂乃果の言う通り、俺は彼女たちを頼ったことがあっただろうか?
考えても出てこない。それも当たり前のことだった。なんせ頼ったことがないのだから。
「もっと私たちを頼ってよ。ゆうくんからしたらできることは少ないけど、それでも私たちは、ゆうくんが大変なら手伝助けしたいって思ってるんだよ」
素直にそう言ってくれるのは嬉しい。が、俺は悩んでしまう。
これから俺がやろうとしていることは穂乃果たちからすると、あまりやって欲しいことではないと思われていることなのだから。
それに人の負の部分をあまり理解していない彼女たちでは、丸め込まれる可能性が高い。
「穂乃果たちの気持ちは嬉しく思う。だけど――」
「だけど――?」
「これから俺がすることが、この学院からの排除だとしてもみんなは手伝いたいって思うか?」
『……っ!!』
「は、排除って……」
「さっきも体育館で言ったが、この一件の責任を取らせるってことだ。理事長も言ったけど警察も絡んでくるし、関係のない爺さんまで巻き込んだりしてきた相手に俺は慈悲なんて掛けない」
そうなれば当然この学院にはいられない。雛さんがどんな判断を下すかは分らないけど、あの人もそこに関しては妥協しないだろう。
「それでも、頼って欲しいって言えるか? 穂乃果たちにその覚悟があるか?」
戸惑う穂乃果たち。それはそうだ。誰かを陥れることを皆が良しとするわけがない。
どんな人でも受け入れようとする彼女たちと俺では、根本的に考え方が違うのだ。
「そういうことだ。だからもう少しだけ、待ってくれ」
穂乃果と海未を振りほどいて、俺は一人進もうとする。しかし、
「待って!」
くい、と袖を引っ張られ、止められる。
引き止めた穂乃果は悩んだ様子を見せたけれどそれも束の間、一変して意を決したような表情をする。そして、
「その役目は、私たちがやるよ」
はっきりと穂乃果は、そう口にした。
「私たちがその人とお話しする。だからゆうくんは病院に行って」
「……本当にそれでいいのか?」
「うん。ゆうくんと一緒に居るために、私たちも知らない振りはできないから」
一歩も引かなさそうな穂乃果。
いや穂乃果だけじゃない。皆も同じような感じだ。ここで俺が何を言っても皆は変わりそうもないな。
「――わかった。皆に任せる」
……どうしてこうなったの
こんなはずじゃなかった。
本当なら今はあの男はこの場にいなかったはずだ。そして生徒たちから批難され、この学院からいなくなることが決まっていたはずだ。
それなのに、どうして真逆のことが起きているのだろうか。どうしてここの生徒たちはあの男を受け入れている?
そしてどうしてこんなにも追い詰められている?
その答えは簡単だ。全部あの男――萩野遊弥が全部狂わせている。
いや、萩野遊弥だけじゃない。校則を利用してあの署名活動を考えたμ'sのように、あの理事長のように、あんな男にかまけた連中のせいでこんなことになっている。
私は唇をかみ締める。
男なんて害でしかない。男がいるだけで品位も価値もなにもかもが下がるというのに。
認めない…認めない……認めてなるものか。
今度この学院の大掃除をしなければならない。あの男も、あの男に組する者も、全部排除しなければならない。
大丈夫。落ち着けばやりようなんていくらでもある。
今まででも理事長たちは私には気づいていない。私の足跡は全て消しているのだから当然だ。それに実行したのはあの使えない女子生徒やろくでもないゴロツキたち。私に辿り着けるはずがない。
今回は失敗したけど、今度こそは、必ず――
「次なんてありません。学院長」
後ろからの声に私は驚き振り向く。
そこには、九人の女子生徒たちがいた。
――Honoka side――
「あなたたち……」
学院長は驚きともいえない、なんともいいがたい表情で私たちに反応する。
「学院長。もう終わりです」
「何の話ですか?」
そういう私に彼女は本当に分からないというような顔をする。だけど私は続ける。
「どんなにゆうくんのことが嫌いでも、ゆうくんがこの学院からいなくなることはもうありません」
「……」
「
「ええ。彼の意思表明は素晴らしいものでした」
「思ってもいないことをよく言うわ」
にこちゃんがぐさりと棘のある言葉を刺す。
だがそれでも学院長の反応は薄い。いや、薄いというより、反応してボロを出すのを防ごうとしているように見える。
ゆうくんの言った通りだった。
学院長はずっと自分に繋がらないように徹してきた。どんな嫌味とか言っても反応はしない。恐らくすっ呆け続けるだろうな。
だからそんな相手にはこっちが自信を持った状態で相手するんだ。そして証拠を出したときの反応と、相手の喋った言葉を絶対見逃さないこと。
完璧に隠せる人間なんて殆どいない。
動かない事実は私たちが持っているのだから、相手のペースに飲み込まれなければ大丈夫。
ゆうくんの言葉を信じ、自分を信じて、私は口を開く。
「学院長。さっき理事長が言っていたとおり、もう逃げられません」
「……あなたたち、自分たちの言っていることが分かっているの?」
「はい」
私は間髪いれずに頷く。
「あなたがゆうくんを拐って、秋葉原の廃墟の地下に閉じ込めた」
そしてはっきり言う私に学院長は少し苛立ちを見せる。
犯人扱いされれば誰でもそうはなるけど、私たちから見ればそれはただのお芝居にしかならない。
「ゆうくんを眠らせた女子生徒が教えてくれました。あなたに指示された、って」
「そんな指示、私はしたことないわ」
そう主張する学院長だが、私は止まることなく突きつける。
「それとゆうくんを見張っていた人たち。この人たちも女性に指示されたやったといっていました」
「いい加減にしなさい。私はそんな指示を出した覚えも、彼を見張っていた男たちなんて知りません」
「自分はまったく関係ないと言うんですか?」
「だからそう言っているでしょう。犯人を捕まえたいのは理解するけれど、程々にしなさい」
「じゃあ、名前が出たのはこの人たちのデタラメだということですか? デタラメで学院長の名前を出したと?」
「私を貶めたい人間がいるのでしょうね。いい迷惑よ」
あくまでも自分は関係ないと言い張る学院長。
素直に認めてくれれば
私は絵里ちゃんに目配せをする。
絵里ちゃんは頷き、学院長の前に出る。
「学院長。あなたは関係ないとおっしゃってますが、これはどう説明するつもりですか?」
そう言ってポケットから取り出すのは1つの機械――ボイスレコーダーだ。
絵里ちゃんはレコーダーの再生ボタンを押す。
『――あなたたち二人には、あることをしてもらいます』
レコーダーから聞こえたのは学院長の声だった。
『あること、ですか……?』
『一体なんでしょうか?』
その後に続いて聞こえてくるのは件の女子生徒二人の声。
ゆうくんを薬で眠らせた子たちだ。
『簡単なことです。それは――萩野遊弥の消息を絶たせること。あなた方には萩野遊弥の意識を奪ってもらいます』
『『――ッ!?』』
『人員や物の手配は此方で済ませています。あなたたちはそれをやればよいだけ』
『ですが……』
『何か異論があるのですか?』
『もう一度と機会を望み、必ず達成させると言ったのはあなた方です』
『それはっ…』
『どんなことをしてでも、と言いましたよね? なら私の言ったことぐらいできるはずです。その言葉は嘘だったのですか?』
『違い、ます……』
『なら、お願いしますね?』
『『は、はい……』』
『これで、ようやく居なくなる。忌まわしい男が、この学院から、やっと――』
そこで絵里ちゃんは再生を止める。そして学院長に見えるように画面を向ける。
「見えますか? これは一昨日に録音されたもの――つまりは時間帯が一致しているということです」
「こんな話、私は知らない…なんですかそれは……!!」
ようやく、学院長に焦りの表情が見えた。
「萩野遊弥かあなたたちが、私を陥れるために作った音声でしょう……!!」
「お言葉ですが学院長。私たちにそんな時間がなかったことぐらいわかっていますよね? それに、ボイスレコーダは録音だけのもの。記録日時の変更はできません」
絵里ちゃんは学院長を追い詰めていく。
「ふざけないで! 私はそんな指示をしていない! これ以上罪を着せようというのならあなたたちもただじゃすまないわよ!!」
冷静さを失いつつある学院長は声を上げる。脅しのつもりだろうけど、私たちは動じない。
「まだ認めないですか……ならことり、お願い」
「うん」
絵里ちゃんの指示でことりちゃんは電話をかける。
「もしもし――はい。はい、ビデオ通話をお願いします」
切り替わったことを確認したことりちゃんは画面を向ける。
「っ、あなたは……っ!!」
『こんにちは、音ノ木坂の学院長さん』
画面の向こうに居るつばささんに驚く学院長。さすがの学院長も、今話題のA-RISEについては知っていたらしい。
だけど学院長はつばささんに驚いているのではく、そこに映っている男の人に驚いているようにも見える。
「どうしてあなたが……!?」
『私のことはどうでもいいです。さて、早速本題に生かせてもらいますが、ここにいる男の人たちに見覚えがありますよね?』
カメラで男の人たちを写すつばささん。
「し、知りません…そんな男たちなんて……」
だけど学院長は首を横に振る。
『まあ貴女に聞いても、そう答えると思っていました』
つばささんは軽いため息を吐いた。
『これから男の人たちに問いかけてみるけど、私が聞いたところで仕込まれているなんて思われるでしょうから――別な人に聞いてもらうことにします』
はじめてください、と言う声を聞いて現れたのは――警察官。
『もうお分かりですよね? 私が今いるのは警察署です』
ゆうくんが事前に交することを頼んでいたらしい。私たちも聞いたときには、まさか裏でつばささんとそんなことを考えていただなんて思ってもいなかったから驚いたけど。
『彼らは遊弥の拉致監禁、そして傷害の罪で逮捕されています。これから行われるのは彼らの取調べ。マジックミラーで仕切られているので彼ら側からは私たちは見えてません。そして彼ら自身――私たちがいるという事も知らない。それを理解した上で、この映像を見てください』
つばささんは自分から彼らを中心に映す。
『これから取調べを始めます。初めに言っておきますが、嘘をつけば後々不利になるのはあなたですから、正直に話すことをお勧めします』
『……』
男の人はがっくりうな垂れて、もはや抵抗する気も起きていないような状態だ。
『まず、被害者との面識は?』
『……ない』
『ではどうしてその子を監禁したのですか?』
『数日そいつを閉じ込めて外に出さなければ、金がもらえるって言われたんだ』
『依頼された、そういうことですか?』
こくりと頷く男の人。
『誰に依頼されたのか、分りますか?』
『……スーツを着た女。学生服を着た女子二人連れてやってきてたから、どこかの学校の教師だと思う……閉じ込めた奴は乙坂亜季って言ってたけど、俺はその女の名前までは知らない』
『ならその女性の顔は覚えてますか?』
『……覚えてる』
『では調べがつき次第後日その女性の所についてきてもらいます。いいですか?』
『はい……』
『じゃあ次はあの子の怪我についてだけど――』
必要な証言を見せられたと判断したつばささんはレンズを自分に向ける。
『――ってことらしいわ。あっさり吐いてくれたわね』
「……」
学院長の顔がどんどん青ざめていく。
『まだこの段階じゃ学院長さんが指示したかどうかはわからないけれど、まったくの無実だといえるのなら、調べには応じられますよね?』
「わ、私に、そんな時間は……」
『自分の学院の生徒が事件に巻き込まれたというのに、解決に協力しないのかしら? それは教育者としてどうなんですか?』
「そ、それは……」
『まあいいわ。他所の学校の事情に細かく口出すのはよくないですし――それじゃあ私はやることやったから、あとは頑張ってね』
「はい。ありがとうござます、つばささん」
そう言ってことりちゃんは通話を切った。
「…これでもまだ認めないつもりですか」
「わ、私じゃない可能性だってあるでしょう! 貴女たちも綺羅つばさも、警察も、全員が口合わせしたらできるわ!!」
絵里ちゃんが確認を取るけど、この期に及んでも学院長は否定する。
警察に口合わせしてもらっているというのはかなり苦しい言い訳だと思うけど。
だけど、もうそれも終わり。言い逃れのできないミスを、この人はしてしまったのだから。
「確かに学院長の言う通り、口合わせと言う可能性はゼロではありません。ですが私たちはこの映像を見せる前の会話で、あの男の人たちが言っていた人が学院長だって確信しました」
「ど、どうしてそういえるのよ……!?」
「学院長――あなたはどうしてこの映像を見せる前に、遊弥を見張っていた人が男の人たちだって分ったのですか?」
「あ――」
呆けた声が聞こえる。
「私たちは一言も男性の方だなんていっていませんよ?」
「あ…ああ……」
学院長は絶望したような表情で呻く。
「それに、理事長がこの件に対して解決を図るといっていますから、最初から協力を拒否することはできません」
「ああぁ……!」
「さて、まだ反論がありますか?」
海未ちゃんの問いかけに彼女は崩れ落ちる。
「学院長。私たちの大切な人を傷つけたことをちゃんと償ってもらいます」
私の言葉が、彼女に届いたのかは分らない。
だけど、ようやく、これでゆうくんを取り巻く問題が片付いたのだった。
いかがでしたでしょうか?
今回は分けず1万字も書いていたことに驚きです。
ではでは、また次回に