ラブライブ! ~one side memory~   作:燕尾

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ども、燕尾です
いやぁ、会社員って辛いですねぇw

今回は遊弥君が帰省します。







帰省

 

 

 

「戻るのは半年ぐらいぶりか」

 

高速に移動する風景を見ながら移動すること約三時間。俺は京都の地に降り立った。

 

「愛華は元気にしてるかな」

 

俺は大切な義妹のことを考え小さく呟く。近況報告をよく話す咲姉からは、

 

「大丈夫、愛華は今日も元気だよ」

 

と言われているが、やはり気になってしまう。

 

最近はちょっと残念な方に振り切ってしまっている愛華だが、大切な義妹には変わりない。気になってしまうのは当然のことだった。

新幹線からバスを乗り継ぎ、四人で暮らしていた場所へと向かう。

 

「半年しか離れてなかったのに、懐かしさを感じるな」

 

家の目の前までやってきた俺は小さく微笑む。以前まではこの場所に居たというのに、おかしな感覚だ。

こんなところで突っ立っていてもただの不審者なので、持ってきたここの家の鍵で扉を開く。

 

「ただい――」

 

ただいま、と言おうとしたその瞬間――ガシャン、と何かが割れる音が聞こえた。

 

「……にい、さま……?」

 

目の前にはピタリと止まり、俺の姿を見て目を見開いている最愛の義妹の姿。

俺は呆けている愛華に微笑んだ。

 

「ただいま――こうして顔を合わせるのは久しぶりだな、愛華」

 

「あ…あぁ……!!」

 

理解が追いついて反応を見せる愛華だが、どういうわけか声を漏らしながら涙を流していた。

 

「おいおい…何で泣くんだよ……」

 

「だって…だって……!」

 

「まったく……ほら」

 

両手を伸ばして、受け止める体勢をとる。

 

「兄様――!!」

 

すると愛華は我慢をやめるように、猛スピードで俺に飛びついてきた。

 

「ごふっ!?」

 

その勢いは予想以上に凄く、俺は体の空気を吐き出してしまう。

 

「兄様っ、兄様っ、兄様――!!」

 

だがそんな俺の状態もわかっていない愛華は、胸元で顔をすりすりとさせている。

 

「私…私……ずっと寂しかった…! 兄様が居なくなってずっと、寂しかった……!!」

 

「……悪かったよ。なにも言わず(・・・・・・)に向こうに行ったのは」

 

「嘘つき…嘘つきぃ……! ずっと一緒だって、言ってくれたのに……!」

 

「……それは」

 

「私たちは二人で一つだって言ってたのに……っ!」

 

そう言う愛華に俺はなにも言えずに頭を撫でることしかできない。

昔約束したことを愛華はずっと覚えていた。

俺だって忘れたことはない。あの頃に愛華と交わしたものを忘れるわけがない。

だが成長するにつれて、もうそろそろ大丈夫だろうと思っていた。

お互い昔のことに折り合いがつけられて、それぞれの道を歩んでいくのだと。

 

たとえそうだとしても家族としての繋がりは消えないのだから、と。だけど、

 

「…うぅ、ぐすっ……」

 

ぐずりながらぎゅうっと抱きつく愛華は割り切ることがまだできないのだろう。

 

「お兄ちゃん…私のことを置いていかないで…一人にしないで……っ!」

 

まるで懇願するかのようにしがみ付いて離れない愛華。

 

「……ごめんな、愛華」

 

俺はそんな彼女に謝ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、この状況だと」

 

「ああ…」

 

俺の膝元ですうすうと寝息を立たせている愛華を撫でる俺をニヤニヤした目で見ている咲姉。

 

「泣き疲れちゃったのかな? ふふ、小さい子供みたい。起こさなくていいの?」

 

「さすがに起こしてまで離れろなんていえないだろ…」

 

「まあそうだよねぇ。こんな安心しきったようにしているんだもの」

 

つんつん、と愛華の頬を突く咲姉。すると愛華は嫌がるように俺の体のほうに寄った。

 

「およよ、嫌われちゃった…」

 

悲しんでいるフリをする咲姉に俺は小さく笑い、愛華の髪を梳いてやる。

すると愛華の表情は気持ちよさそうな物に変わった。

 

「寝てるときでも、遊ちゃんの感覚は分るんだねぇ」

 

いや、咲姉のは寝てるときにいされたら誰でも嫌がるだろ。

 

「遊ちゃんも、なんだかんだ言ってもこうしてくっついてくれる愛華が好きなんでしょ?」

 

「何でそうなるんだ?」

 

「じゃあ、嫌いなの?」

 

「あのな、くっついてくれる愛華が好きとか、それ、俺がそういう気持ちでいるわけじゃないことは分って言ってるよな」

 

意地の悪いことを言ってくる咲姉に俺はため息をついてしまう。

 

「なら遊ちゃんは愛華のことどう思っているのかな?」

 

今さらどうしてそんなことを聞いてくるのか、まったく分らない。でも、答えないといけないのだろう。

 

「愛華のことは愛してるよ」

 

「わぁお、臆面もなく言ったね」

 

そんな驚くことでもないのは咲姉だって分っているだろうに、どうしてそんなはじめて聞いたような反応をするのか。

 

「当たり前だろ。そうじゃなかったここまで一緒になんて居なかった。家族愛、何て言葉(もの)ですら収まらないよ。愛華に対する気持ちは」

 

俺の命そのものと言っても過言ではない。それほど大切な人。

 

「なら、受け入れてあげれば良いじゃない」

 

「それとこれとはまた違うだろ」

 

愛華の気持ちが分らないわけじゃない。だけどこいつはまだ周りを、世界を知らなさ過ぎるんだ。俺しか居ない、そう思ってしまってる。

そういう風にしてしまったのは俺の責任だ。だけど、だからといって俺が全て受け入れたら、愛華の為にもならない。

なぜなら、それは一種の依存だからだ。

 

「でも前にも言ったけど、少しは愛華の気持ちも汲んであげないと。この子の気持ちが依存だけじゃないことぐらい遊ちゃんだって分からないわけじゃないでしょ」

 

咲姉の言う通り、分からないわけはない。

それでも、そこに依存が存在しているのであればそれは決して良いことではない。

依存を妥協して一緒に居たとしても必ず破綻する。

 

それにこの先どうなるかなんて誰にも分らない。なら俺とじゃない、他の誰かと生きていけるようになることに越したことはない。

 

「強情だね。もっと簡単に考えれば良いのに」

 

「頼むからそういうことは言わないでくれ。言っただろ、愛華は――」

 

「そうだね、今のは意地悪すぎたね」

 

俺の言葉を遮って、咲姉は俺の頭を抱き寄せる。

 

「咲姉……?」

 

「でもね、遊ちゃん。全部を一人で抱え込まなくても良いんだよ」

 

咲姉の優しい声が入る。それは昔に俺を救ってくれた声。

 

「遊ちゃんが愛華を大切に思っているのはよく知ってる。でもそれは私やお父さんだって同じ。思い続けた時間は違うけど、この子を思う底は一緒だよ」

 

咲姉の話を否定するつもりは毛頭ない。咲姉や爺さんがしてくれたことや言ってくれたことは今でもはっきり覚えている。見ず知らずの俺らと二人はずっと向き合ってきた。

二人が居なかったら俺はもちろん、愛華もどこかで野たれ死んでいたかもしれない。

 

「それにね、愛華だけじゃないんだよ? 私たちが思っているのは。愛華もそうだろうね?」

 

「――ああ。今ならその意味がよく分かるよ……」

 

それは雛さんや穂乃果たちに言われたこととまったく一緒なのだから。

気持ちは一方通行ではない。思い、思われて、人は生きている。

皆がそう気付かせてくれた。俺だけじゃないのだと。

咲姉も、爺さんも、守らなければと考えていた愛華も皆、俺のことを思ってくれていたのだ。それを俺は知った。

 

だからこそ――

 

「咲姉――ありがとう」

 

俺は咲姉の背中に手を回した。

 

「――っ!?」

 

「それと、ごめん。今の今まで、咲姉と爺さんの思いを無碍にして」

 

「……」

 

無言になる咲姉。だけど、俺の背に回した腕と握る手の強さが増す。

 

「…いいんだよ…遊ちゃんはずっと、ずっと頑張ってきたんだから……私たちのことは気にしなくても……」

 

そしてしばらくしてから聞こえてきたのは喉が震えたような声。顔は見えないが、小さな水滴が、俺の肩に落ちてくる。

 

「……でも、やっぱり嬉しい、かな……」

 

ずっと――引き取ってからずっと、俺のことを見てくれていたんだな……自分の人生だってあるのに、こんな見ず知らずだった人間を。

 

「……この半年間、いろんなことがあったよ。そういうことも含めてたくさん話をしよう」

 

「うん…うん……っ」

 

俺と咲姉はしばらくの間、抱きしめあうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぅ……」

 

「なぁ、愛華?」

 

「兄様は黙ってください」

 

そう言われて黙る他ない俺は頭を掻いた。

愛華は俺の腕を取りながら、俺を脇に置いて眼前を睨み続ける。

 

「これは私たちの戦いなのです」

 

「ふふ…」

 

そんな愛華に相対するのは言わずもがな、咲姉だ。咲姉はさっきの涙はどこへやら、不適な笑みを浮かべて愛華を見る。

 

「咲姉さま、兄様に抱き付くのは私に対する宣戦布告だと捉えてよろしいでしょうか?」

 

「やだなぁ、いつものスキンシップだよん? それに遊ちゃんは愛華だけの物じゃないんだから」

 

咲姉も咲姉でいつもの受け流すような笑みの裏で、どこか愛華を牽制しているような気を含ませている。空気が異様に重いのだ。

 

「それに遊ちゃんと約束してるし」

 

俺の記憶にないことを言う咲姉。

なにか咲姉と約束したか……?

 

「何を約束したっていうんですか?」

 

「ふふふ、それは愛華には教えられないことかなー?」

 

怪しい笑みを浮かべる咲姉に、愛華の矛先が俺の方に向いた。

 

「に、にににに兄様! 咲姉様と何を、いえ、ナニ(・・)を約束したのですか!?」

 

「落ち着け! ガクガク揺らすな!? 俺は別になにも約束してない!」

 

「遊ちゃん、覚えてくれてないの…? あの時に受け入れてくれたのに……」

 

「う、受け入れた……!? 兄様ッ!!」

 

「だぁ! 変な言い回ししないで、いつの話か言ってくれ!!」

 

愛華は涙目になりながら俺を肩を思い切り揺らし、咲姉はそんな俺をからかうように笑いながら見ている。

それに咲姉は教えるつもりもなく、俺が思い出すのを待つばかり。

もう滅茶苦茶すぎる。誰か、助けてくれ――

 

「――帰って早々、騒がしいのぉ」

 

嗄れた声でも今の俺にはそれが救いの声となった。

 

「何をしとるんじゃお主らは」

 

この家の主は呆れたように俺たちを見る。

 

「あ、お父さん。お帰り」

 

「お帰りなさい、おじいさま」

 

「うむ、ただいま」

 

二人の出迎えの言葉に爺さんは満足そうにうなずいた。

そして、

 

「久しぶりじゃな、遊弥」

 

「……ああ、ただいま。爺さん」

 

「うむ、お帰り」

 

半年振りに、家族全員が揃った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Eri side――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学期間休日初日。私たちは午前から練習をしていた。

しかし、

 

 

 

『……』

 

 

 

なんとも言えない空気が私たちの間に漂う。その原因は言わなくても分かっていた。

 

「…遊弥くんがいないだけでここまでなるとは」

 

私は苦笑いしながらそう言った。

 

「こういうことは何度かあったじゃない」

 

彼にだって用事の一つや二つぐらいあるし、練習に顔を出せない日だって何度もあった。でもそのときはここまで練習に影響なんて出なかった。どうして今さらこんなことになってるのだろうか。

 

「いやー……ほら、今まではゆうくんが練習にいなくても近くにいたのが分かってたから」

 

「こう、今は遠くにいるんだなぁって思っちゃったら…」

 

「なんだか、ポッカリ穴が空いてしまったようで」

 

穂乃果、ことり、海未が苦笑いしながら言う。

他の皆も同じなのだろう。顔を向けると同じように苦笑いしながら顔をそらした。

 

私ははぁ、と溜め息を吐いた。

改めて、彼の存在が私たちにとって重要なんだと気づかされる。

これで、退学になって京都に戻っていたらどうなっていたんだろう。考えるだけでも恐ろしい。

 

「……遊弥くんが帰ってくるまで、大丈夫かしら。ちょっと不安になってきた」

 

「まぁ、なんとかなるんじゃ、ないかなぁ……?」

 

珍しく自信のない言い方をする希に、私はさらに不安になるのだった。

 

 

 

 

 






いかがでしたでしょうか?
ではまた次回に



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