きゃっほーい、燕尾です。
最近眠れなくてつらいです。夜勤バイトやめようかな……
「ん、んん~」
やるべき事務作業を終えた俺は伸びをする。事務作業は身体が凝るのが難点だ。
最後の確認を終えた絵里先輩は書類を俺に返す。
「お疲れ様、遊弥君。今日はありがとう、帰っても大丈夫よ」
「絵里先輩はどうするんですか?」
「わたしはもう少し残るわ、まだやる事もあるから……」
そういって絵里先輩は椅子に座り直し、書類とにらめっこし始める。ちなみに希先輩はバイトがあるとかで先に帰っていた。
何かを考えながら紙に書いていく絵里先輩。それは受験に追い詰められた学生のような鬼気迫る様子だった。
「絵里先輩」
「なにかしら?」
「あまり根を詰めてもよくないですよ」
「……大丈夫よ」
返す絵里先輩はこちらを見ない。そんな彼女に俺はどうしたものかと息を吐く。ちらりと横を見るとそこにはゴミ箱いっぱいの紙くず。今日一日で思いついて没にした企画だろう。俺にはこれ以上何か思いつくとは到底思えなかった。
――しょうがない。
「絵里先輩、今日は終わりにしましょう」
「そういうわけにはいかないわ。今は一分一秒も惜しいの」
まあ、そういうだろうな。だけど先輩、これで俺が引き下がると思ったら大間違いですよ。
「そういえば俺にも用事が会ったんでした」
「そう、なら早く――」
「ああ! でも、この用事は協力してくれる人が必要なのをすっかり忘れてた! 誰か手伝ってくれる人はいないかなー……チラリ」
俺の視線から気まずそうに目を逸らす絵里先輩。俺はさらに畳み掛ける。
「今日中の用事なんだけどこの時間じゃ誰も時間が合いそうにもないなー。ああ、困ったなー」
わざとらしく言う俺に絵里先輩はプルプルと肩を振るわせ、紙を握り締めている。
「でも本当に誰もいないなら、しょうがないけど一人でやるしかないかー。日を跨いじゃうけどそこはしょうがないなー」
「ああ、もう! わかった、わかったわよ! わたしでよければ手伝うわよ!!」
我慢の限界がきたのか絵里先輩はバンッ、と机をたたきながら叫ぶ。
「ほんとですか!? ありがとうございますー! いやー、助かります」
あっはっは、と笑う俺にジト目を向ける絵里先輩。嘘か本当かわかっていない真面目な先輩には、こういうやり方が一番手っ取り早いのだ。
「それじゃあ、お願いしますね。絵里先輩」
「はぁ、それで? 用事って言うのはいったいなんなの?」
深い溜息を吐き変える準備をしながら呆れたように問いかけてくる。だが、俺は笑みを崩さず、
「それは着いてから説明しますよ。さあ、いきましょうか、絵里先輩」
絵里先輩と一緒に学校を後にするのだった。
「遊弥君、ここは?」
「ここは俺が見つけた穴場スポットですよ」
絵里先輩を伴って来たのは街の路地の一角にひっそりと佇む喫茶店。学校が始まる前に街を散策して見つけた店だ。
「マスター、彩音さん。いますか?」
"open"の札がぶら下がっているドアを開ける。閑散としてる中、カウンターに一人の中年の男性がこちらを見る。
「いらっしゃい、遊弥の坊主。彩音は今日は遅いぞ。ん? そっちの嬢ちゃんは初めて見る子だな。彼女か?」
「カノ――!?」
彼女という単語に絵里先輩は顔を紅くしてあわあわと慌てだしてしまう。
慌てる絵里先輩可愛いなぁ~(関西風)
「あはは、そうだと嬉しいんですけど、お
「なんだ、つまらない反応だな。そんなべっぴんさん連れて歩いているんだから遊弥も慌ててくれると思ったのに」
「俺を慌てさせたかったらドッキリの一つでも仕掛けることですねマスター。それも大掛かりなもので」
こりゃ敵わんな、と豪快に笑うマスター。
「おっと、そっちの嬢ちゃんが置いてきぼりだった。俺は
「あ、綾瀬絵里です。その、よろしくお願いします」
「そんな畏まらなくていいぞ絵里ちゃん。自分の家だと思って寛いでくれ」
マスターのフランクさに若干押され気味の絵里先輩。まあ、最初に戸惑うのは仕方がないと思う。
「マスター、あっちの席借りますね。絵里先輩、コーヒー大丈夫ですか?」
「え、ええ。大丈夫よ」
「それじゃあ、マスター。ブレンド二つでお願いします」
あいよ、とすぐにコーヒーを入れる準備をするマスター。その間に席に着く。
「ほれ、ブレンドとサービスのチョコティラミスだ」
「ありがとうございます」
「気にすんな、ゆっくりしていけよー」
そういってマスターはカウンターに引っ込んで。
俺と絵里先輩はお互いコーヒーに口をつける。
「お、美味しい……! こんなに美味しいコーヒー初めてだわ……!」
絵里先輩は感嘆の声を上げていた。俺も始めて飲んだときは同じ反応だったし。
話によればマスターは海外で修行積んで数年前にこの店を開業させたらしい。
コーヒーを入れる腕は確かで、コーヒー以外にも料理の腕もそん所そこらの料理人よりあると思う。こんなに出来るのに何で店が
お互い一息ついて、気分を落ち着ける。すると絵里先輩が本題を思い出したといわんばかりの表情で問いかけてきた。
「そういえば結局ここに来てすることって結局なんなの?」
「あー、それはですね、ここで誰かと一緒にコーヒーを飲むことだったんですよ」
コーヒーに舌鼓を打ちながら俺は答える。しかし、当然ながら絵里先輩は不満顔になった。
「遊弥君。わたし言ったわよね? 一分一秒でも惜しいって。あなたのおふざけに付き合ってこんなところでゆっくりなんてしてる場合じゃないの」
絵里先輩の口調がきつくなってくる。それほど真剣なのだろう。
だけど絵里先輩、これは重要なことなんですよ?
「いえ、おふざけじゃないですよ。先日ここに来たときにマスターとその娘さん――彩音さんって言うんですけど約束したんですよ。今度来るときは必ず誰かを連れてくるって、ねえ、マスター?」
俺はマスターに顔を向ける。客が俺と絵里先輩しかいない店の中で普通に話せば当然同じ空間にいるマスターにも話が聞こえるわけで。
本当なんですか、と懐疑的な視線を送る絵里先輩に対してマスターは首肯した。
「ああ、遊弥の言ってることは本当だぞ、絵里ちゃん。うちも客がぜんぜん来なくてよ。誰でもいいから今度連れて来いって言ったんだよ」
マスターの言葉に何一つ嘘はないと感じた絵里先輩は渋々引き下がる。しかしまだ納得がいかないようだった。
「それでも、今日、わたしを誘わなくてもいいじゃない。後日別な子でも――」
まだわからないのか、絵里先輩。今の自分が。
「今の絵里先輩じゃ、何も思いつきませんよ」
俺の一言に先輩は目を見張る。俺も自分で驚くぐらい冷えた声だった。しかし、もう言わないという選択肢はない。
「たとえ何か思いついたとしても、廃校を撤回させることなんて出来ません」
「そ、そんなの、考えないとわからないことじゃない……! だからこうして――」
「ええ、考えなければ何も生まれません。それはそうです――ですけどはっきり言いましょう、絵里先輩がいまやっているのはどこか薄っぺらい」
廃校を阻止したい、その想いは本物だろう。でもこの二日間、生徒会で絵里先輩を見ていたらその想いの出所と感情が穂乃果たちとはまったく違う。
「あ、あなたに……なにがわかるのよ……っ!」
「俺は絵里先輩のことはまだ何も知りません。でも――」
わなわなと声を震わせ、静かな怒りをぶつけてくる絵里先輩。俺はひるむことなく真正面から絵里先輩を見つめる。
「――本当に何かを成し遂げたいなら、一度整理することです。ほら、こういう甘いものでも食べてコーヒーを飲んで、気持ちを落ち着かせながら。そうすれば今より前進できますよ」
絵里先輩からの反論が何も来ない。ここらが潮時だろう。
「それじゃあ、俺はこれで失礼します。代金は俺が払っておくので」
そういって俺は席を立ち会計に向かう。絵里先輩は手をギュッと握り締めて俯いていたままだった。
「いいのか、あんなこと言って? まるで別れたカップルのような雰囲気だぞ、絵里ちゃん」
マスターが冗談交じりに心配そうに言ってくる。俺も苦笑いしながらお金を置く。
「まあ、ちょっと言い過ぎた気はしますが……マスター、会計これでお願いします」
「――ん?」
支払いの代金を見たマスターはレジと代金を交互に見たがすぐに対応してくれた。
「ああ、ちょうどだな。まいどあり」
「また来ます」
こうして俺は絵里先輩のほうを一切向かずに店を出たのだった。
はい、いかがでしたでしょうか第九話?
おかしいところや気になることがあればぜひ教えてくだしゃい。
ではでは~