どもー燕尾です。
ハタラケルヨロコビ
ハタラケルヨロコビ
ハタラケルヨロコビ
ハタラケルヨロコビ
…………
ごほん、失礼。
では93話目です。
「どうしてこうなった」
どうしてこうなった!? と書類に埋もれていた俺はもう一度叫ぶ。
「遊弥、口より手を――動かしてますね」
「ものすごい勢いで書類を片付けてるね、ゆーくん」
「ゆうくん、すごい!」
「おい穂乃馬鹿、感心しとる場合か。お前が一番率先してやらんといかんことやろうがい」
「穂乃馬鹿!?」
「そして相変わらず荒れてますね」
「なんかちょっと違うけど昔のゆーくんを思い出すよ」
「おら、さっさと書類を片付けろ、
「わかったよ…」
穂乃果は不貞腐れながら、書類とにらめっこし始める。
こんな状況になったのはついこの間。穂乃果、海未、ことり――そして俺が生徒会に入ってからだった。
どうして俺たちが生徒会に入ったかというと、それは2週間前に遡る。
「生徒会長!? 私が!?」
2学期が始まってから2週間ほどたったほどたったある日のこと。昼休みに訪ねてきた絵里と希に生徒会の話を持ち出されたのだ。
「ええ。次の生徒会長はあなたにやってもらいたいって思ってるわ、穂乃果」
「どうして私にそんな話が?」
「穂乃果はこの学院の生徒会メンバーがどう決まっているか分かるかしら?」
問いかける絵里に穂乃果は首を横に振る。
「音ノ木坂の生徒会のメンバーは代々、誰かを推薦して決まっているの」
ちゃんと本人の意思を尊重してるけど、と絵里は付け足す。
「珍しいな。推薦で決まるなんて」
「もちろん、自分の意思でやりたいと言う人が出てきたりして候補者が複数人になれば、選挙とかになるわ。でもほら――」
「進んでやりたい、って言う人はそういないよな」
「そういうことね」
苦笑いする絵里。だが、俺はそれはそれで良いとは思う。
生徒会のメンバーになっているということは教師などの信頼も少なからずあるということだ。
そんな人間から推薦された人間ならば問題ないと考えられるし、手間も掛からない。合理的ではある。
「穂乃果ならこの学院を良い方向に、なにより、楽しく導いてくれると思ってるの」
「絵里ちゃん……」
「だから穂乃果、私はあなたを次の生徒会長に推薦するわ」
そう言われた穂乃果は一瞬目を伏せ考えるも、次の瞬間には決意したような笑みを浮かべる。
「うん。生徒会長、やってみるよ!」
「ありがとう。穂乃果ならそう言ってくれると思ったわ。私たちもサポートするから、よろしくね」
「うん!」
差し出された絵里の手を穂乃果は笑顔で取る。
それを見た俺はちらり、ともう一人の生徒会役員に目を向ける。
「ちなみに希。希は誰を推薦するのか決まってるのか?」
「うん、決まってるで」
「この流れからすると海未かことりか?」
「遊弥くん」
「は?」
考えてもいない、選択肢にすら入るはずのない名前に俺は思考が停止する。
「うちはきみを生徒会副会長として推薦するで」
「はあああああ――――――!?」
俺は生徒会長を持ち掛けられた穂乃果より大きな声で叫んだ。
「ちょっと待て、何で俺が!?」
「うちもえりちと同じ理由。まあ今回ばかりは流石に異例だから、理事長と問題ないかの話しはしたけどね」
「……ちなみに、聞きたくはないんだけど、理事長はなんて?」
「問題ないって言ってたよ?」
「雛さんんんん――――!!」
「遊弥、地が出てますよ」
そりゃそうなるわ! 問題ありありだろ、いくらなんでも!!
「はぁ、はぁ――俺、絵里たちには最初言ったよな? 生徒会に入らない理由。てか雛さんも理解していたはずなんだけど?」
「その問題よりもやっぱり男の子視点での学院を知りたいからでしょう。今回は女子校として存続したけど、また共学の話が上がらない訳じゃないから今後のために、って理事長も話していたわ」
「男視点であれば今まで通りでも――」
「前と今はあなたの状況も違うじゃない。あなたはもう試験生じゃなくて音ノ木坂の正式な生徒。だから遊弥くんの言う問題はないのよ?」
「むしろ話を聞く限り理事長は遊弥くんの生徒会入りは推進してる様だった。きみはそれを、断れるん?」
「ぐ、ぐぅぅぅぅ……」
「ぐうの音しか出てないね、ゆーくん」
そりゃそうだ。半ば人質を捕ったようなやり方に文句の一つもないわけがない。
「てか、らしくない強引な手を使ってくるとは……ほんとなんのつもりだ」
「まあこれは私と希の想像だけど、理事長は心配してたんじゃないかしら?」
「心配…ですか……?」
「正式な生徒になったとはいえ、遊弥くんのことを認めてない人はやっぱりまだいるわ。その人たちがどんなことをするか、分からないから」
「だから生徒会副会長になって、そこから実績を積み重ねていけば、きっと文句を言う人もいなくなるんじゃないかって思ってたんやない?」
「……別に、そんな心配は要らないってのに」
「遊弥、それは――」
「皆まで言わんでいいよ、海未。ちゃんと理解してるから」
本当にあの人は、もう。
俺は溜め息を思い切り吐いた。
「わかった…わかったよ――生徒会副会長、任されました」
ということを経て生徒会長に穂乃果、副会長に俺、そして書記と会計にことりと海未の新生徒会が発足された。
そこまではよかったのだが…
「穂乃果ぁ!! ここ間違ってるぞ!!」
「わああああ! ごめんなさいー!」
穂乃果が怯えながら書類の訂正を始め、海未とことりが苦笑いしているなか、こんこん、と扉が叩かれた。
「みんな、お疲れ様。調子は――あまりよくなさそうね、特に遊弥くんが」
「遊弥くんの叫び声が、廊下にまで響いてたで? あと遊弥くん、顔がすごいことになっとるで?」
これまた苦笑いしてやってきた絵里と希を俺は睨んだ。
「おいポンコツと占い詐欺師。貴様らどこまで仕事を溜め込んでいやがった?」
「エリーチカすら付かなくなってる!?」
「うちは詐欺師じゃないよ!?」
「遊弥、少し落ち着いてください。お茶でも飲みましょう?」
「ほら、休憩したら私たちも手伝うから。ねっ? 頑張ろう?」
「うぅ…二人が心のオアシスだ……」
「……むぅ」
「なんで海未とことりと、私たちに扱いの差があるのよ」
不満そうにしてる穂乃果と絵里を無視して、俺は淹れてもらったお茶を啜る。
「今の遊弥は少し不安定なんですよ」
「わたしたちにも、こうなることがあるの。まあ、本気で言っているわけじゃないのはわかってるから、あまり気にしてないんだけど」
「それにしても口が悪すぎると思うよ……遊弥くんに一体何があったん?」
「それは…」
ちらりと見てくる海未に俺は溶けたように伏せながらぷらぷらと手を振った。
「その、教師たちからの仕事の無茶振りが、来ているんです」
「無茶振り?」
「ええ。それも遊弥本人を通さず、私たちに頼むという形で」
「わかった、反対派の教師やね?」
「うん。最初は私たちも生徒会の仕事だと思って引き受けてたんだけど…」
「頼んでくる内容に違和感がありまして、遊弥に確認してもらったんです。そしたら…」
「あり得んことに教師の仕事まで押し付けてきやがってた」
授業の資料に、学校事務の書類作業。挙句の果ては他校との会議の資料まで。
本来生徒に任せることのない仕事まで押し付けてきたのだ。
お茶を飲んである程度気力が戻った俺は顔を上げる。
「海未とことりはすぐに違和感に気付いて断ってくれたから少しで済んだんだが…」
俺は穂乃果に目を向けた。
「そこにいる
「あ、あはは……ごめんなさい……」
がっくりと肩を落とす穂乃果。少しは反省しているみたいで何よりだ。
「えっと、じゃあ、うちらが溜め込んでたっていうのは」
「絵里たちが残した仕事なんてほとんど無い。ただの八つ当たりと難癖だ」
「八つ当たりにしてもひどすぎるわよ!?」
「俺もそう思う」
「しかも自覚あったんやね……」
「悪い」
そう言って俺は目頭を押さえる。
ここ数日家に帰っても書類を片付けてるせいでまともに休めてない。
「一度引き受けたとはいえ、生徒会の範疇を越えてるならそのまま返せばいいじゃない」
「普通ならなぁ。でも俺の場合、仕事を返す事実だけを広められて、"なにもしない生徒会"ていうレッテルを張られるだけなんだよ。出来なかった場合もそう」
彼女たちはあの手この手で俺の評価を貶めようと日々努力しているのだ。
そんなことするくらいならもっと建設的なことをしたらいいと思うのだが。
まあ、俺だってあの時全員に受け入れられたなんて思っちゃいないから、今さらなにも思わないけれど。
「結局は、今後のためにもやっとかないといけないんだよ。今の俺は隙を見せたらすぐ後ろから刺される状態だから」
「さっきまで隙だらけだったじゃない」
「絵里たちの前なら別にいいだろ? 今さら取り繕ったって、意味ないし」
「それもそうだけれど……」
「それにな? 俺だってただやって返してる訳じゃない」
「どういうことなん?」
問いかけてくる希に俺は口を三日月のように曲げた。
「教師たちに成果物を上げるときには理事長を必ず経由させてる」
『……』
一瞬にして凍りつく空気。だが俺は気にせず笑顔を浮かべ続けた。
「ふふふ。この前雛さんの許可をもらって理事長室にひょっこり隠れて見たけど、雛さんに問い詰められている時の教師の顔はよかったなぁ。顔を真っ青にして、しどろもどろになって」
「えっ? ゆ、ゆうくん…?」
「そして自分の手元にきた成果物は問題となるところが一つももなく、むしろ自分がやるより良いものがくるという悔しさで歪む顔」
「ゆーくん、少し落ち着こう? 顔が怖いよ…?」
「雛さんから"普段あなたは授業以外に何をしているのですか"と問われたときの顔ったら、もう」
隠れてるの忘れて大爆笑しそうになったよね。
「今俺たちに自分の仕事を押し付けた教師たちはいつ自分の番が来るかと哀れな子羊のように震えているだろうよ」
くつくつ、と
「かつてないほどの悪い笑みを浮かべてますね」
「相当据えかねてたんやな、遊弥くん」
「でもこの様子だと心配は必要なさそうね。自業自得なのだけれどなんだか教師に少し同情してしまうわ」
「あの時(講堂で)言っただろ? 犯罪や学院生活に支障が出るようなことをした場合、それ相応の対応をすることになるって。本来教師にしか出来ないはずの業務を学生に押し付けたんだ。これで間違っていたり、完成できなかったら巡り巡って生徒みんなの不利益になる――つまり、支障が出るだろ? だからそれ相応の対応をしただけだ」
「物は言いようですね」
呆れた視線が向けられるけど、咳払いして話を切り替える。
「まあ荒むことはあるが、絵里の言った通り俺の心配いらないからさ――」
俺は時計をちらりと確認して、皆に向き直る。
「――そろそろ練習だろ? 行ってきなよ」
「その、ゆうくんは――?」
「悪いが流石にまだ掛かる。今週いっぱいは無理だな」
「なら私たちも手伝うわ。みんなでやれば早いでしょう?」
「それも無理。言っただろ? 本来は教師にしか出来ない物だって。こう言ったら悪いがみんなには荷が重すぎる」
「それを遊弥くんがやってるのも本来はおかしいはずなんやけど?」
「正論だけど、さっきも言った通り俺の状況も状況だから」
「ですが…」
「大丈夫だ。ちゃんと海未たちが出来そうなものを中からピックアップしてやってもらってるから、十分助かってるよ」
「それでも、ゆーくんの負担が大きすぎるよ」
食い下がってまでそう言ってくれるのは嬉しいけどこればかりは仕方がない。
それにこれらさえ終われば、教師たちからの押し付けは来なくなるだろう。理事長からキツイお灸を据えられた人たちの様子を見ればもうその気も起きないはずだ。
次の行動には注意しないといけないが、しばらくは安心できる日々がくる。
「ほら、ここで押し問答しても時間が過ぎるだけだから。早く行った。他のみんなも待ってるだろ?」
「……うん。わかったよ」
納得は出来ないけど理解はしてくれたようで、穂乃果たちは不満にしながらも屋上へ向かっていった。
俺はそんな彼女たちを苦笑いしながら見送って、書類を手に取る。
「さて、俺もさっさと片付けないとな――」
心配してくれてる穂乃果たちのためにも、俺はさっき以上に集中して書類を整理していくのだった。
いかがでしたでしょうか?
今回のタイトルを"新生徒会の一存"としようとしたのを何とか踏みとどまりました
燕尾がお送りいたしました。
ではまた次回に!