ラブライブ! ~one side memory~   作:燕尾

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どもー、燕尾です。
お久しゅうございます。

個人ルート入っていきます。





カポーンって音、懐かしいよね

 

 

 

 

 

下山して、海未たちと別れ別荘に戻ってきた俺は当初割り当てられた一室のベッドに寝転がる。

 

「ふぁー…さすがに疲れた」

 

バイクに乗ってここまで長距離運転して、全力で森林を走って川にダイブして、いろいろと歩き回って山登りして――ちょっとどころかかなりハードな一日だった。

 

「これで、ちゃんと完成できるといいが」

 

プレッシャーでスランプに陥った三人のため、今まで三人に任せきりだった今の状況を変えようと3人1組で取り組み始めたが、この試みがどう転ぶかはまったくもってわからない。

 

「まあ、大丈夫だろ。皆なら……」

 

瞼が重くなってきた。このベッドの気持ちよさが睡魔をもたらしているようだ。

 

「あー…風呂とか入らないと…このまま……寝るのは……」

 

そう口にはするも、体は動かざること山の如し。

 

「……」

 

そしてそのまま俺は眠りへと落ちてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付けば、俺はまたいつぞやの廊下に立っていた。

 

 

 

「自分の体質だから仕方がないが、俺はあと何回これを見るのだろうか」

 

呆れた声の先には以前にも見た光景。

一人の少年が複数人の男女から暴力を受けていた。

 

 

――どうしてお前なんかが……!!

 

 

――あんたなんか相応しくないのに!!

 

 

憎々しげに罵声を浴びせ、暴力を浴びせる中学生たち。

あそこにいる中学の頃の俺が傷つけば、ここにいる俺も傷を負う。それは以前と同じだった。

しかし前と比べると、明らかにエスカレートしていた。

 

 

――この糞野郎がッ!

 

 

――もう二度と、学校に来れなくしてやる!!

 

 

「…っ、くっ……」

 

ふくらはぎを刺されたのか俺の足は力が抜け、膝をついてしまう。

まだ感情のコントロールができない子供というのは、物事の善悪も分からない。

 

人を刺すという行為が、その痛みが、どれほどのものか分かっていない。

自分が正しいのだと、目の前にいる俺が悪なのだと疑うことのない瞳に、俺は溜息をつく。

 

「あの時の俺はどうしたんだっけな……」

 

ボロボロの俺を見つめる。

あの頃の俺はポケットから消毒液と止血用の布を取り出し、止血するように足を縛り、何もないように立った。

 

ああ、そうだ。何事もないように自分で手当てして、教室に戻ったんだっけ。

 

その時の俺をいたぶっていたやつらの驚く顔を思い出す。

 

「アホ面晒して、気分が悪いって言って保健室に行っていたな」

 

はは、と思い出し笑いしていると、目の前が暗くなり意識が引き上げられる。

どうやら、目が覚めるようだ。

 

 

――それにしても、どうして俺はこんな夢を見ているのだろうか。

 

 

前までは悪夢だと思っていた。昔の記憶なんてロクなものじゃなかったから。

 

だが最近は違うのではないかと思い始めた。

まるで追体験をさせるかのような夢に何か意味があるかもしれない、とそう思い始めてきたのだ。

 

 

「まあ、いつかはわかるか」

 

 

夢を見ることを意識してやめることなんてできない。

抵抗できないのなら仕方がないのだ。

 

俺はそこで考えるのをやめ、身を任せた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うへぇ」

 

目を覚まし、嫌な感触を感じた俺は声を漏らす。

ベッタリと張り付く服。染みが付いた掛け布団。あの夢のせいで汗を掻いていたみたいだ。

 

「時間は……22時前か。この時間なら皆もう寝る準備してるだろうし、風呂入りにいくか」

 

俺はいそいそと着替えとかの準備をして、風呂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Eri side――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

私は便器から立ち上がり、身だしなみを整えてトイレを後にする。

 

「……テントを張ったところが別荘の近くで良かった」

 

別荘の中を歩きながら小さく呟いた。

 

テントを張ってそこで過ごすのはよかったのだが、当然ながら別荘にしかトイレがないため、用を足すのに暗い外を歩くことになった。

暗いところが得意ではない私にはかなりの勇気を持った行動だ。

 

まあ勇気もなにも、なによりこの歳になっての粗相が一番まずい。

にこにでも着いてきて貰えばよかったのだが、寝ているところを起こすのも申し訳なかったし、暗いのが苦手ということを知られるのはと意地を張ってしまったのだ。

その意地の代償がまたあの暗いところを歩いてテントへと戻ることなのだけれど。

 

はあ、と疲れた息を吐いた私は足を止めた。それから扉に目を向ける。

 

「お風呂……」

 

脱衣所の前で止まってしばし考える。さっきも真姫たちと入ったけれど、別荘のお風呂とだけあって気持ちがよかった。できるならもう一度入りたいという思いが出てくる。

私は周りを見渡して、誰もいないことを確認する。

 

「――いいわよね?」

 

変な決意をした私は脱衣所に入る。

 

「~♪」

 

鼻歌交じりに服を脱ぎ、長い髪を纏めてタオルを持ち、浴場の扉を開いた。

かけ湯を浴びて身体を綺麗にし、湯船へと向かった。

 

そしてそのまま入ろうと、足を入れたそのとき――

 

「――えっ!? なに!?」

 

得体の知れない感触と共に水面から大きな水泡が出始めた。

 

「なに!? なんなのっ!?」

 

蠢くそれに、恐怖を感じながらも足を退かして距離を取る。

その瞬間打ち付けるような大きな水音と共に大きなひとつの影が現れた。

 

「――ぶはっ!! げほっ、げほっ!! 死ぬわっ!!」

 

咳き込みながら叫ぶその声は間違いようもなく男の人の声。この別荘にいる男の人は一人しかいない。

 

「……ゆ、遊弥…くん……?」

 

「絵、里……」

 

隠すことなく、生まれたままの姿で立ち尽くしているお互いの姿を見合うこと数秒。

先に我に返ったのは私だった。

 

「あっ、あっ……!!」

 

「落ち着け絵里! まずは深呼吸、深呼吸して落ち着くんだ!!」

 

顔をそらしながらも必死で説得する遊弥くん。

だけどこのとき既に私は手元にあった桶を思いきり振りかぶっていた。

 

「いやぁーーーーー!!!!」

 

「ぎゃぁあああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――Yuya side――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カポーン――

 

 

 

 

「その…わ、悪かった……」

 

「いいえ…先に入ってたのは遊弥くんだし、気付かなかった私が悪いわ」

 

顔から滴る水を二人して小タオルで拭う。

 

 

「「……」」

 

 

カポーン――パート2

 

パート2ってなんだよ。効果音にパートも何もあるかい。

そんな当否をしながらも、俺は首を横に振った。

 

「いや、誰かが来た時点で声を掛ければよかったんだよ。そうしたら入ってくることはなかっただろ?」

 

「この時間に誰かが来るなんて思いもしなかったのでしょう? なら驚いてまともなことができなくなってもおかしくはないわ」

 

「いやいや…」

 

「いえ、私が…」

 

お互いに非を受けようとしている俺たち。そんな状況がなんだかおかしくて、俺たちは同時に笑い出してしまった。

 

「ふふ。それじゃあ、おあいこってことで」

 

「そうだな。そうしてくれると助かる」

 

背中越しに柔らかい雰囲気が伝わってくる。

 

「――それにしても、この時間にお風呂に入ってるなんて思わなかったわ」

 

「ちょっと疲れていたみたいでな。帰ってきてすぐに寝ちゃってたんだよ」

 

「皆のところに行ってたから。私たちと穂乃果たちのところはまだ近かったと思うけど、海未たちは山に向かってものね」

 

疲れた理由はそれだけじゃないけれど。

 

「でも本当にそれだけ?」

 

すると、絵里が見透かしたように言葉をつづけた。

 

「……っ、どうしたいきなり」

 

「いま、一瞬詰まったわね。それに、体の緊張が伝わってきてるわよ」

 

なん、だと……あのぽんこつだった絵里が他人の小さな機敏に気付くだと!?

 

「よくわからないけど、なんかいま小馬鹿にしたのもわかったわ」

 

不機嫌が伝わってきた。

 

「それと、誤魔化そうとしてもダメよ」

 

背中に絵里の体温を感じる。

 

「もしかして、昔の夢でも見た?」

 

どうして、そう思ったのかはわからない。だが、核心をついた絵里に俺は嘘をつかなかった。

 

「――そうだな。中学のころの夢を見たよ」

 

「!」

 

「なんか追体験させるような夢だったよ」

 

「それって……」

 

内容を言わなくても絵里は気づいたようだ。

 

「なかなか刺激だったよ」

 

あれだけ熱いパッションをぶつけていた連中はそういない。

その情熱をもっと別のものに向ければよかったのにとは思うけど。

 

「大丈夫…いえ、大丈夫なはずないわよね――」

 

ザバァ、という音とともに、絵里が立ち上がった気配がした。

その直後、柔らかい感触が背中から全身を包んだ。

 

「おいっ、絵里!?」

 

焦り、離れようとする俺を決して放さないというように絵里の力が強まる。

 

「傷つかない人なんていない。暴力を受けて、酷いこと言われて平気な人なんていないのよ。慣れたっていくら言っても、身体の、心の痛みは必ずある」

 

「……」

 

「そしてその痛みは、ずっと遊弥くんを苦しめてる」

 

「大げさだ。別に俺は何とも――」

 

「嘘よ」

 

「即答したな」

 

「そうじゃなければ、文化祭前に体調を崩すこともなかったはずよ」

 

「……」

 

二度目の閉口。まさかそんなことまで覚えているなんて思ってなかった。

 

「よく思い返したらという話よ。タイミング的にそうとしか考えられないもの」

 

記憶を取り戻してから、自分の昔話をした直後に体調を崩せばそう思うのも不思議ではないか。

 

「ねぇ、遊弥くん――私じゃ頼りないかしら?」

 

俺の頬に絵里の手が触れる。

 

「私はあなたを支えたい。今まで知らずにいたから、これからはちゃんと遊弥くんを知って、ちゃんと――」

 

「合宿の時に言っただろ。これは俺の結果だ。その結果の責任を担おうなんて許さない」

 

「それでも」

 

絵里の手が、俺の顔を絵里のほうへと向ける。

水が滴り、少し紅潮した絵里の顔。彼女のスカイブルーの瞳に俺は顔が赤くなる。

 

「それでも、よ。遊弥くんが今も過去に苦しんでいる。なら少しでも、私はあなたのためにできることをしたい。おこがましいかもしれないけれど、あなたの助けに慣れればって思うの」

 

「……っ、なんでそこまで」

 

「それが私の意志だから。遊弥くんはわからないかもしれないけれど、あなたが私にしてくれたことは私にとって特別だったの」

 

俺にとっては本当に大したことはしていない。だけどそれは絵里からしたら大きなことだった。とらえ方のことまで、強要などできない。

 

「はぁ……本当に絵里は変わった」

 

「そうでしょう?」

 

「わがままに手を付けられなくなった」

 

「ふふ。皆のおかげよ」

 

俺の言葉にも笑顔で返すだけの余裕を見せる絵里。中学までは俺のほうが余裕あったというのに、いつの間にか追いつかれて――いや追い越されいるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きにしてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、これが俺の精一杯の答えだ。

 

 

 

 

 

「――っ!! ええ! ありがとう、遊弥くん!!」

 

なんで絵里がお礼を言うんだか。

 

はあ、と顔を背けて心の中で溜息をつく。

 

でも、不思議と嫌という気は起きなかった。

 

 

 

 







いかがでしたでしょうか?
ではまた次回に




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